「マ~~マママ! 帰ったぜカイドウ! 迎えのケーキを用意しなァ~!!」

 "母(マム)"の帰還は例の如く突然だった。
 鏡面世界に突如現れる巨体。
 天を衝く、という表現を地で行くサイズ感はしかし対面している相手が相手だからか不思議と違和感なく風景の中に溶け込んでいた。
 ライダーが帰ってきた衝撃に震撼する子供達のことなど一顧だにせず、彼女が上機嫌に笑い掛けた相手は自身と同格の巨体を持つ鬼。
 異界は異界でも、鏡の世界ではなく鬼ヶ島を本拠地とする客人にして同盟相手。
 四皇――百獣のカイドウ。同じく四皇の肩書きを持つ女傑"ビッグ・マム"シャーロット・リンリンが恐るべき同盟を結んだ相手である。

「なんで客のおれがお前を饗さなきゃならねェんだ、つまみが欲しいならガキ共を呼べよ。
 それより手下を連れ帰ってくるんじゃなかったのか。何だって手ぶらで帰ってきやがった」
「色々あってねェ……。その上、連中は一足先にこっちに戻ったらしくてな。
 奴さんの報告は聞きたいが、何を置いてもお前に聞かせてェ話があってね!」
「つまり無駄足だったってことか」

 ぐびぐびと酒を飲み干しながら言う、カイドウ
 その視線がリンリンの傷付いた拳へと向かう。
 四皇の覇気は絶大だ。
 そして見聞色の覇気にも精通しているカイドウは、鏡の中に居ながらも現実世界で放たれた彼女の覇気を知覚出来ていた。
 だからこそ彼は既に知っている。シャーロット・リンリンが出向いた先で、予期せぬ小競り合いに見舞われたことを。
 その上で改めてリンリンの拳から血が滲んでいる様を見ると、そこにあるごく小さな傷の持つ意味合いも大きく変わる。

「お前の拠点を街ごとブッ飛ばした野郎と、偶然出くわしたよ」
「あァ……成程な。何処の誰に傷負わされてきたんだと思ったが、あの野郎だったか」
「死に体も同然にボロボロだったがね。しかし――ハ~ハハハ! 生意気なほどの腕っ節だったよ。
 あれならお前が苦戦するのも頷ける! ロジャーや白ひげの野郎を思い出す、懐かしい強さだった!!」
「ボロボロ? あの"鋼翼"がか。お礼参りもまだだってのに、何処の誰にやられたってんだ……あのバカ野郎は」

 今は亡き新宿区でカイドウが相見えた"鋼翼"、ベルゼバブ
 個人としての武力ならば最強と称された彼をして殺し切れなかった、頭抜けた暴威を秘めた強者だった。
 にも関わらずリンリンに拠れば、その彼が死に体同然の無様を晒していたという。
 これはカイドウにとって少なからず驚きで、そして不愉快な事柄だった。
 皮下医院の倒壊に、鬼ヶ島そのものへのダメージ。あれだけ痛手を与えてくれた相手なのだ、ケジメは自分の手で付けたかった。

 しかしそれにしても不可解。一体この世界の何処に――あの鋼翼を地に叩き落とせるような強者が隠れ潜んでいたというのか。
 カイドウの疑問に対する答えは、苦汁を舐めさせられたというのに何処か上機嫌なリンリンが伝えた。

「"ガキども"さ。お前も当然知ってんだろう?」
「……、……」

 四皇ビッグ・マム/シャーロット・リンリンの小指を奪い、愛剣を砕いた連合。
 そして今回、カイドウをして同格の強者と認める他なかった鋼翼のベルゼバブさえもが"ガキども"にしてやられたのだという。
 酒臭い呼気を吐き出しながら、カイドウは嘆息した。
 因果と因縁。どうやらそれは、一度死んだ程度で簡単に振り切れるものではないらしい。

「"新時代"か」
「あァそうさ。おれ達の一番嫌いな言葉だよ」
「昔を思い出した、ってツラだなリンリン。
 お前は老いた。夢見がちなガキどもほど鬱陶しいものはねェと、そう考えるもんだと思ってたがな」

 恐るべき海賊同盟は、過去にも一度世を震撼させている。
 極東の閉鎖国家ワノ国。ひとつなぎの大秘宝を手に入れるべく、いよいよ大海原へ漕ぎ出そうというその間近。
 結成された四皇同士の同盟。龍王カイドウと女帝リンリンの結託という"災害"。
 しかし彼らの野望は打ち砕かれた。奇しくもそれは超新星――旧時代の終わりを標榜する若き海賊達の手によって行われた、下剋上であった。
 そして今。界聖杯という異界の地においてまたしても、海の皇帝達はルーキーの台頭に遭遇している。

「折角の二度目の生なんだ。おまけに"あの頃"のように、こっちの血を沸き立たせるような強ェ奴も居る。
 しばらくぶりに挑む側に戻ってみるのも、悪くねェかと思ってね……」
「挑む側、か」

 脳裏に過ぎるのは、月下の決戦だった。
 神々しい"白"に染まり、不敵な笑みを湛えて現れたその男。
 積み上げた無念と鬱屈の全てを解き放つかのような、異質の強さに。
 カイドウは全力で挑み――そして敗北して、地へと沈んだ。

「ロックスのやり直しをしてェんなら好きにしろ。ただ、おれは乗らねェ」
「あ!? カイドウテメェ、生意気だねェ! おれを袖にするってのかい!?」
「お前ほど血気盛んじゃねェんだよこっちは。それに、おれには何十年か越しの"悲願"もある」

 あの敗北に悔いはない。
 やり直そうとも、思わない。
 そしてだからこそカイドウは、この世界で自分達を脅かすという"超新星(ガキども)"のことを危険視するつもりはなかった。

「ウォロロロロ……あんなメチャクチャなガキどもが、そうそう現れて堪るかってんだ」

 ビッグ・マムは超新星の眩しい闇に触れ、この地で荒れ狂う鋼翼の強さを知った。
 だから玉座にふんぞり返るのは止めにして、初心を取り戻して挑む側へと戻った。
 しかしカイドウは違う。彼はそれでも王として、古い時代の玉座に座って酒を呑むのだ。
 新時代を作ると嘯くだけなら、誰でも出来る。
 本当にそれを成せる星が、真新しく眩しいだけのそいつらの中に一体どれほどあるだろうか。

 本物を知っているからこそ疑う。
 疑うからこそ、彼は挑まない。
 これまで通り――誰も彼もにとっての巨大な壁、障害物としてその行く末を阻み続ける。
 それが、伝説の時代を知るもう一人の老君が選んだ姿であった。

「兎に角まずは霊地を獲るぞ。峰津院のガキにも、例の鋼翼野郎にも、誰に喧嘩を売ったのか教えてやらなきゃ示しがつかねェ」
「マ~マママ! 勿論おれだってそのつもりさ!
 争奪戦には"連合"も出てくるだろうからね……派手な戦争にしようじゃねェか、後に草の根一本残さないような!!」

 東京に安息の時は、やはりと言うべきか訪れない。
 霊地争奪戦を皮切りに戦局は大きく動き、また多くの命が犠牲になる。
 街一つが地図から消えるような激闘だって、第二があったのだから第三も当然有るだろう。
 大海賊時代、彼らが君臨していた時代の影を倍算したような破局が、泰平の世を食い潰していく。

「……ところで沙都子と、リンボの糞坊主はどうしたんだい?」
「リンボは一足先に霊地の奪取に向けて動かした。
 奴の計画にも興味はあるが、今はそれよりも霊地の方が優先度が上だ」

 アルターエゴ・リンボ。あの陰陽師のことを、カイドウは率直に言って信用していなかった。
 だが、その実力については別だ。プロデューサーのサーヴァントに対する援護役として派遣した戦場でも、きちんと戦果を持ち帰ってきた。
 策謀が回せてなおかつ腕も立つとなれば、これほど便利な小間使い役もない。
 目先の問題である霊地の争奪戦においても、持ち前の悪辣さを活かして混沌を生み出してくれるかもしれない。
 逆に、此処でボロを出したならその時は処分するまでだ。
 彼の生殺与奪は常に、カイドウとリンリンの手に握られている。

「ハ~ハハハ違いない! じゃあ沙都子のガキも、それにくっついていったのかい」
「あいつはウチで捕らえた捕虜に面会中だ。知り合いなんだとよ、さっき言ってただろ」

 一方で。
 彼のマスターである北条沙都子はと言えば、カイドウの部下である大看板を監視役に鬼ヶ島へ入城していた。
 交渉を謳い乗り込んできたところを返り討ちにして捕らえたという、マスターの少女。
 古手梨花との面会がその目的だ。彼女について語る時の沙都子の目を、カイドウは覚えている。
 喜悦と執着が入り混じった、淀んだ瞳。
 ああいう目をした人間を、何度か見たことがある。
 その共通点は――救いようがないほどろくでもない、ということだった。


【中央区・某タワーマンション(グラス・チルドレン拠点)・鏡面世界内/二日目・早朝】
【ライダー(カイドウ)@ONE PIECE】
[状態]:健康、首筋に切り傷
[装備]:金棒
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:『戦争』に勝利し、世界樹を頂く。
0:あの日の悔恨に"決着"を。
1:峰津院の霊地(東京タワーとスカイツリー地下)を強奪ないし破壊する。
2:組んでしまった物は仕方ない。だけど本当に話聞けよババア!! あと人の真名をバラすな馬鹿!
3:鬼ヶ島の顕現に向けて動く。
4:『鬼ヶ島』の浮上が可能になるまでは基本は籠城、気まぐれに暴れる。
5:リップは面白い。優秀な戦力を得られて上機嫌。てめェ戻って来なかったらブチ殺すからな
6:リンボには警戒。部下として働くならいいが、不穏な兆候があれば奴だけでも殺す。
7:アーチャー(ガンヴォルト)に高評価。自分の部下にしたい。
8:峰津院大和は大物だ。性格さえ従順ならな……
9:ランサー(ベルゼバブ)テメェ覚えてろよ
10:"ガキども"? ……下らねェ
[備考]
※鬼ヶ島の6割が崩壊しました。復興に時間が掛かるかもしれません

【ライダー(シャーロット・リンリン)@ONE PIECE】
[状態]:高揚、疲労(小)、右手小指切断、両拳の裂傷と出血(小)
[装備]:ゼウス、プロメテウス@ONE PIECE
[道具]:なし
[所持金]:無し
[思考・状況]
基本方針:邪魔なマスターとサーヴァント共を片づけて、聖杯を獲る。
0:挑んでやるさ―――どこまでも!
1:プロデューサーからの報告を聞く。ガムテが何やら揉めている気配もあるが……とりあえずは前者優先。
2:北条沙都子! ムカつくガキだねェ〜!
3:敵連合は必ず潰す。蜘蛛達との全面戦争。
4:ガキ共はビッグマムに挑んだ事を必ず後悔させる。
5:北条沙都子プロデューサーは傘下として扱う。逃げようとすれば容赦はしない。
6:ナポレオンの代わりを探さないとだねェ…面倒臭ェな!
[備考]
※ナポレオン@ONE PIECEは破壊されました。


◆◆◆


「牢屋まで付いてくるおつもりですの?」
「煩わしいと思うならば、総督の信用を勝ち取れなかった自分の無能を恨むことだな」

 所は変わって、鬼ヶ島。
 界聖杯内界とは明確に隔絶された異界、常時展開型の固有結界。
 その大地を踏み締め歩く北条沙都子の隣には、カイドウが擁する百獣海賊団の中でも不動の二番手。
 カイドウの右腕である大看板"火災のキング"が見張り役として常に侍っている。
 彼の言葉の通り、カイドウは沙都子のことを買ってはいても信用はしていなかった。
 とはいえこればかりは彼女自身に問題があったというよりかは、概ね彼女の連れている"彼"の方に問題があった結果なのだが……それはさておき。

「……まあ、構いませんわ。でもキングさん、一つだけお伺いさせていただいてもよろしいかしら」

 この"キング"と呼ばれた男は、三騎士サーヴァントの平均値をすら大きく超えるステータスを有していた。
 間違いなく強い。少なくとも、サーヴァントが宝具で呼び出せる使い魔同然の手下が持っていていい強さでないのは確かだ。
 正面戦闘に限るならばリンボですら分が悪いだろう。このレベルが最低でも後二人居るというのは、本来なら気分を暗澹とさせる事実の筈。
 しかし今の沙都子には、そんな些末なことは気にならなかった。
 今、彼女の胸中にあるのは。文字通り自分の全てを懸けてでも捕まえておきたい、無二の親友のことのみだった。

「なんだ」
「あの子は――梨花は、ずいぶん痛め付けられた上で捕まえられたと聞いてますわ。
 誰がそれをしたのか、差し支えなければ私に教えていただけませんこと?」
「総督のマスターだ。復讐をするつもりなら止めておけ」

 明かす意味は、本来ならばない。
 "疫害"ならばいざ知らず、無駄を排した鉄仮面の彼が無駄な嗜虐趣味に走ることはあり得ない。
 にも関わらず答える必要性のない質問にわざわざ"答えて"やったのは、ひとえに見極めのためだった。
 もしも逆上や、総督のマスター……皮下真への怒りを露わにするようであれば独断で然るべき処置を行う。
 最低でも両腕を切り落として、総督カイドウに逆らえない状態にして万一の謀反を防ぐ。
 そのつもりで敢えてくれてやった"答え"。しかし沙都子はそれを受けて、怒るでもなく殺意を剥き出すでもなく。

「あら、そうでしたの。今度お会いしたら……お礼を言っておかないといけませんわね」

 ただ――笑った。
 それはキングにとっても予想外の反応。
 竹馬の友を囚われの身に落とされた挙句、瀕死の重傷まで負わされて。
 その上で怒るのではなく妖しげな笑みを浮かべるというのは、全く以て理解不能のリアクションだったから。

「梨花がもし殺されてしまっていたなら、流石に少し動揺したでしょうけど。
 梨花が生きているのでしたら、あの子を傷付け追い詰めてくれたことにはむしろ感謝しかありませんわ。
 世界の垣根を越えて再び巡り合えたんですもの。少しは――火が点いていてくれないと。私も張り合いがありませんから」

 陶然とした様子でそう語る沙都子の異様さは、まさしく魔性の類のそれだった。
 火災のキングは人の狂気を知っている。人は目的のためなら何処まででも非道に走れる生き物であると、知っている。
 だが彼は、沙都子が有する類の狂気。狂おしいほどに熟れて腐った"愛"の狂気と対面したことはなかった。
 過酷極まりない大海賊時代を数十年と歩んできた大看板が、一瞬とはいえ背筋に寒気を覚えた。
 それも致し方ないことだ。彼が今前にしている"魔女"は――百年を歩む、そういう存在なのだから。

「ああ……本当に。本当に――楽しみで仕方ありませんわ、梨花……!」

 まるで世界に自分一人しか居ないかのように、心の中に留めず声に出して再会を喜ぶ沙都子。
 キングはもう何も言わなかった。世の中には話しても無駄な存在が居ると、彼は知っていたから。
 彼の中で、北条沙都子という人間の分類は他でもない主君カイドウの腐れ縁……"ビッグ・マム"と非常に近い位置で落ち着いた。

 理解不能。
 理解を示すだけ徒労に終わる、そもそもからして会話や意思疎通が成り立たない手合い。
 そう看做すに足るだけの異常性を、古手梨花との再会を目前にした北条沙都子は確かに秘めていた。
 故に火災のキングは彼女を警戒対象という認識はそのままで、そういう存在として知略の外に追いやる。
 何かあれば首を刎ねる。それ以外は相手にしない、する意味がない。
 彼女の視界の中には自分もカイドウも、ともすれば従僕であるリンボすら存在しない。

 ――古手梨花。彼女以外の存在はものみな全て、沙都子にとっては何ら価値のない塵芥であるのだから。
 元居た雛見沢の住民ならばいざ知らず。この世界で初めて出会った相手など、それが誰であろうと。
 北条沙都子という絶対の魔女の心を動かすことなど、不可能なのであった。


◆◆◆


「……、……っ」

 目を開けた途端に、古手梨花を襲ったのは全身の鈍痛だった。
 牢屋の硬い床に転がされていたのもあるし、失血と疲労による不定愁訴も酷い。
 最悪の気分での起床。どれくらいの時間眠りこけていたのかすら、この囚われの身では分からない。
 見れば梨花の傍らには、どこか申し訳なそうな顔をしておずおずと彼女の顔を覗き込むアイの姿があった。
 どうやらアイが、梨花の身体を揺すり起こしたらしい。

「ごめんなさい、起こしちゃって……。でも、すぐに伝えなきゃってアイさん思って……」
「大丈夫よ、……少しだけど休めたから。それより――伝えなきゃいけないことっていうのは何?」

 アイは葉桜により、超人集う夜桜家に仕えるべく改良された犬種・"大神犬"の因子を複合されている。
 彼女の頭に生えた犬耳や、臀部から垂れる尻尾がその証拠だ。
 そんな彼女の五感……特に嗅覚と聴覚は人間のそれとは比べ物にならないほど高い。
 故にこそアイは梨花の身に迫る危険を察知し。それを彼女に伝えるべく、眠っていた彼女を揺り起こしたのだった。

「此処にね、誰か向かってきてるの。一人は知ってる匂いだけど……もう一人は、知らない匂い」
「その知ってる匂いっていうのは……皮下? それとも、リップ?」
「ううん。総督さんのとこの……"キング"って呼ばれてた、怖いひと」

 こうなってくると、どうにも不明な状況だった。
 皮下かリップが護衛役を連れてやってくるというのなら分かる。
 だがそうではなく、アイをして匂いに心当たりのない人間。
 そんな相手が何故、こんな囚われの小娘のところを訪ねてくるのか。

「……教えてくれてありがとう、アイ。私のことはいいから貴女はどうか逃げて、見つからない場所に隠れていて」
「うん、分かった……でも――梨花は、一人でだいじょうぶ……?」
「心配要らないわ。私のことをこんなにすぐ殺すつもりなら、わざわざこうやって捕らえておく必要はないでしょう?」

 恐らく、"キング"の役目は護衛ではなく監視だろうと梨花はそう踏む。
 一人で好き勝手に動かせては何をするか分からない、あちら側としても油断のならない相手。
 であれば一先ず、自分を殺す目的でやって来る訳ではないと見ていいだろう。
 来訪者が皮下であったならアイに頑張って貰うしか活路はなかったが、これならまだ事態は"最悪"ではない。
 キングが居る以上リップ相手にやったような交渉は無理だろうが……それでも、何か得られるものはあるかもしれない。

 ――それに。
 古手梨花の頭の中にはもう一つ、可能性が浮かんでいた。
 脳内に甦るのは皮下の言葉。彼が何気なく零した、"同盟相手"の名前。
 自分が下手を打って囚われの身に堕ちたことが、もしも"彼女"の耳にも届いていたならば。

「……臨むところよ」

 走り去っていくアイの足音を聞きながら。
 彼女の無事を心から祈りながら……梨花は小さく呟いていた。
 そう、臨むところだ。あっちから会いに来てくれるというのなら、これ以上の僥倖はない。

 終わった筈の惨劇。再始動した昭和58年のループ。
 文字通り死ぬ思いで見つけ出したかつての定石(ルール)を完全に無視した"新たな惨劇"は、百年の魔女を名乗った梨花の心を激しく摩耗させた。
 そしてとうとう心が限界を間近に感じ、膝を屈しかけたあの日の教室で。
 親友であり、家族も同然だった筈の"彼女"が――古手梨花に銃口を向けた。
 問わねばならない、彼女の真意を。
 確かめねばならない、彼女の真実を。
 知らねばならない……彼女の願いを。


 牢屋の扉が開く。
 現れたのは、天を衝くような鉄仮面の大男と。
 見慣れた金髪、見慣れた私服。口元から八重歯を覗かせて微笑む、"彼女"。
 その眼球を染める紅は紛れもなく、あの日の教室で見たのと同じもので。
 故に古手梨花は改めて確信した。
 分かってはいたけれど信じたくなかった事実。それと、明確に対面を果たす。


「ごきげんよう、梨花。念願の都会での生活、楽しんでまして?」
「おかげさまでね。そういうあんたの方こそ、ずいぶん物騒な仲間が出来たみたいじゃない――沙都子」


 片や奇跡の魔女。そうなり得た存在。
 一パーセントの可能性を無限回の試行錯誤で掴み取る、運命の虜囚。

 片や絶対の魔女。そうなることを選んだ存在。
 奇跡の起こる余地を無慈悲に奪い、ゼロへと擦り減らす、運命そのもの。
 深く暗い情念を寄る辺に魔女へと染まり、雛見沢村の惨劇をその筆先で新たに描き繰り返し続ける"神"。
 沙都子は懐から銃を取り出すと、梨花の知るのと全く同じ顔で彼女に向けた。

 梨花が最後に見た沙都子の目、表情、そして――殺意。
 妖しく微笑みながら引き金に指を掛ける、かつての親友。

「私の"仲間"は、今も昔も貴女達だけですわよ? 貴女とは違って、私は雛見沢のことが大好きですから」

 梨花は沙都子を睨み、視線を反らさない。
 直視する、この真実を。北条沙都子こそが、二度目のループの主犯。
 救われた筈の雛見沢に絶対の意思を以って惨劇を起こし続ける、業の根源なのだと。

 引き金に、力が籠もる。
 それでも梨花は、怯まない。
 沙都子も、力を緩めない。
 張り詰めた空気の中で――

「止めておけ」

 響いたのは、梨花でも沙都子でもない声だった。
 火災のキング。梨花は先程、キングは恐らく監視役だろうと推測していたが、実際それは当たっていた。

「こいつは今のところおれ達の捕虜だ。総督はお前に"面会"は許したが、"処刑"は許していない」
「分かってますわ、そんなこと。ちょっとした冗談ですわよ」

 堅物は困りますわね、と溜め息をつき銃を収める沙都子。
 とはいえ実際、仮にこの場に彼が居らずとも撃ちはしなかったろう。
 何故ならば――

「こんな辺鄙な場所で、せっかくの梨花を台無しにしてしまうなんて……勿体なすぎますもの」

 北条沙都子は、古手梨花という一個人に深く深く執着している。
 屈折は歪曲に変わり、そしていつしか殺意に変わった。
 そんな彼女にとって、この地で梨花と再会出来たことは紛れもなく僥倖だった。
 梨花が沙都子との再会を"臨むところ"だとして歓迎した以上に、沙都子は梨花が自分と同じ世界に流れ着いていたことを祝福している。
 そしてなればこそ――その得難い幸運を、身動きの出来ないところを一方的に撃ち殺すような粗雑な手段で消費してしまいたくはなかった。

 銃を収めた沙都子に、梨花は。
 眉を顰めて目を尖らせて、静かに口を開いた。

「……何が、気に入らなかったの?」

 面と向かって対面するまでは、沙都子が全ての黒幕でない可能性も考えていた。
 沙都子はあくまで実行犯、もしくは単なる末端の使い走りで。
 裏に彼女を操っている真の黒幕が存在するのかもしれないと、そうも思っていた。
 かつて百年に渡り梨花の未来を阻み続けた鷹野三四が、その実もっと巨大な陰謀に操られている"駒"でしかなかったように。
 沙都子も誰かに操られている被害者なのではないかと……疑っていた。親友を疑いたくない、そんな気持ちもそこには多分に含まれていただろうが。

 しかしその可能性は、こうして実際に彼女と対面してみて――消えた。
 浮かべる笑み、放たれる言葉、滲む好意と殺意。
 そこには確かな、彼女自身の意志が誘蛾灯のように妖しく煌めいていたから。

「あんたが――あの学園に馴染めていないことは分かってた。
 そんなあんたを救い切れなかったのは……無理矢理にでも手を引っ張って、立ち直らせてあげられなかったのは私の責任。
 あんたがあの頃の雛見沢に戻って、また楽しく過ごしたいと考えたって決して責められない。でも……!」

 間違いない。再びの惨劇のループを支配し、古手梨花(わたし)を殺し続けていたのは……沙都子だ。
 沙都子が考え、沙都子が自らの意思で私を殺していたんだと。
 そう理解した梨花の口からは堰を切ったように言葉が溢れてくる。
 沙都子と過ごしたかけがえのない時間、そして追い詰められた彼女を助けられなかった後悔。

 それを沙都子は、微笑んだまま聴いていた。
 その"らしくない"笑顔に、記憶の中のそれとは違う笑顔に歯を噛み締めて――梨花は吠えた。

「そこに惨劇は必要なかったでしょう!?
 どうして雛見沢での生活を……仲間(みんな)のことが大好きだったあんたが、あんな酷い世界を作ったのよ!?」
「どうして、って」

 古手梨花の物語は――昭和58年の雛見沢を巡る物語は、ハッピーエンドで幕を下ろした。
 梨花の死を望む陰謀は頓挫し、仲間達は誰一人として狂気に陥ることはなく。
 沙都子を長きに渡って苛み続けた病は消え、そして梨花は外の世界を望み、自らの意思で歩み出した。

 ……だが。
 梨花に付き合って彼女の望む未来に旅立った沙都子は、新たな暮らしに適応出来なかった。
 奪われていく時間、溜まっていく心労、すれ違いにより大きくなっていく互いの溝。
 その末に何らかのきっかけで力を手に入れた沙都子が、幸せだったあの頃に戻りたいと考えた。
 それだけならば、梨花は沙都子を責められなかったかもしれない。
 しかし分からないのは、何故そこに惨劇が必要だったのかということだった。
 梨花の詰問に対し沙都子は、何を当たり前のことを――とでもいうように肩を竦めて、答える。


「だって梨花は――やり直したところで、また外に行きたがるでしょう?」


 ――それは、あまりにも単純な理由だった。
 硬直する梨花に、沙都子は続ける。

「分かっているんですのよ、何度も試しましたもの。
 梨花の邪魔をしたこともありましたし、我儘を言ってみたこともありましたわ。
 けれど全部駄目でした。私も面食らってしまいましてよ、梨花がまさか此処まで強情な人間だとは思いませんでしたから」
「……そんな」
「ですから、アプローチの仕方を変えようと思いましたの。
 あれこれ努力して諦めさせるのが無理なら、貴女自身に諦めて貰えばいい。ふふっ、我ながら名案だと思いませんこと?」
「そんなことの、ために――」

 沙都子にとって一番大切な存在。
 それは、文字通り寝食を共にしながら生きてきた梨花だった。
 北条沙都子古手梨花と離れることに耐えられない。
 けれど、自分を歪めてまであの学園で生きることも耐えられない。
 ひどく幼稚で身勝手な動機。しかし彼女にとっては、他のどんな大義にも勝る立派な"理由"だった。

「そんなことのために、あんたは……!」
「あら。幸せな世界を目指して繰り返すことの、一体何がいけないんですの?」

 大好きな梨花と、ずっと一緒に雛見沢で暮らしたい。
 それが、新たな運命を手繰る魔女の原点。
 惨劇を道具として梨花の心を折り、彼女が外の世界を諦めた理想のカケラを実現させる。
 それが、哀れな黒猫を囚え続ける魔女の結論。

「梨花(あなた)もやっていたことではありませんの。
 簡単に世界を諦めて、投げ出して、次に期待するわとふて腐れて」
「……ッ」
「ああ、別に責めたい訳ではありませんのよ?
 貴女も大変でしたわよね、梨花。貴女の旅はエウアさん――私に力を授けてくれた方を通じて、見せていただきましたわ」

 古手梨花の歩んだ百年を、北条沙都子は既に鑑賞し終えている。
 彼女が如何にしてハッピーエンドに辿り着き、惨劇から解放された祭囃しを聴くまでの旅路を。
 そしてその上で。彼女の苦しみの全てを見た上で――梨花を囚えるための材料にした。

「感謝しますわ、梨花。貴女が諦めないでいてくれたから、私は今こうして生きていられる」

 梨花の心は、その意思は沙都子の予想を越えて固かった。
 だから、沙都子が自ら惨劇を引き起こさなければならなくなってしまった。
 そしてそこまでしても、簡単には折れてくれない。
 手強い相手だ。しかし、沙都子は諦めない。
 理想の世界をこの手に掴むまで――決して。

「貴女が、どんな過酷な運命にも挫けずにあがいてもがいて"奇跡"を掴んだように。
 私も、梨花がどれだけ強情に運命に逆らおうとも、諦めることなく貴女を"絶対"に囚え続けますわ」
「……それが――貴女の願い、なのね。沙都子」
「ええ、いかにもそうですわ。界聖杯を手に入れたなら、私は聖杯の力を私の理想を叶えるために使いますわよ。
 元は聖杯が手に入ろうが入るまいが、生きて雛見沢に帰れるならどちらでもいいと考えていたのですけれど」

 貴女も此処に居るのでしたら、私だけ帰っても意味がありませんものね。
 沙都子はそう言って、うっとりとした笑みを浮かべた。

 梨花の居ない世界には、興味がない。
 彼女の存在が明らかになった以上、ただ元の世界に帰ればいいという訳ではなくなった。
 元の世界に帰ってエウアの力を使い"次の"雛見沢に行ったとして、そこに今まで通り梨花が存在するかどうかはギャンブルだ。
 そんなリスクを背負いたくはない。それよりかは、より確実に。聖杯の力を使って梨花と理想の世界を生きる道を選んだ方が利口だと、そう考えた。

 諸々の種や動機を明かしたのもそのためだ。
 もはやゲーム盤はジャンルごと移り変わった。
 この世界で雌雄を決する上で、大仰なトリックもロジックも必要ない。

「させないわ」

 目の前で告げられた、野望。
 それに対し梨花は、しかし毅然とそう言った。
 自分の親友が、自分のせいでこうまで歪んでしまったことに動揺がない訳じゃない。
 だが、それでも。いや、だからこそか。
 梨花は沙都子の向ける妖しい殺意に怯むことなく、嗤う彼女を睨み返した。

「あんたの思い通りにはならないし、させない。
 あんたの理想の世界なんて真っ平御免よ。
 私の人生は私のもの。私は……私の行きたいところに行って、見たいものを見るの」
「傷つきますわね。貴女にとって私達"仲間"と過ごした時間は、捨て去りたい過去でしかないんですの?」
「本当にそうだったなら……百年も往生際悪く殺され続けたりなんかしないわよ」

 沙都子に譲歩する選択肢はなかった。
 確かに外の世界を諦め、彼女の理想に媚びる姿勢を示していれば。
 もしかしたら、彼女を皮下らの陣営から引き剥がすことも可能だったかもしれない。
 だがそれをしてはならないと思った。それをしたら、何かが決定的な終わりを迎えてしまうという確信があった。

「私が目指すのは、界聖杯からの脱出。もうどう抜け出すのか、まで決まっているわ」
「それはそれは。ずいぶん良い出会いに恵まれたのですわね、流石は梨花ですわ」
「――私は……あんたを倒すわ、沙都子。
 あんたを引っ叩いてぶちのめして、その思い上がった根性を叩き直してあげる」

 ぴく、と沙都子の眉が動く。
 そこで初めて梨花は笑みを浮かべた。
 笑うような気分では全くなかったけれど、此処は笑うべき場面だと思ったから。
 そうした方が相手は嫌だろうと、目の前の彼女と部活で争っていた時のような思考回路でそう導き出して、笑った。

「首根っこ引っ掴んででも雛見沢に連れて帰ってやるから、今度はあんたがちゃんと考えて選びなさい。
 付いてくるんなら歓迎するわ。今度は頭の悪いあんたが落ちこぼれないように、全力注いで勉強教えてあげる。
 邪魔したって私は諦めない。あんたが一人で諦めるなら、私はそれを尊重する」
「……そう。決意はご立派ですけれど、その考えの浅さには溜め息が出ますわね」

 一度は収めた拳銃を、もう一度梨花に向け直す。
 傍らのキングが目を細めたのが分かったが、知ったことではない。
 その上で沙都子も笑みを浮かべ直した。凶暴な、引き裂くような笑みを浮かべて、言う。

「まさか――私に勝てるとお思いで?」

 配下は残忍なる陰陽師、辺獄の名を冠したアルターエゴ。
 背後には語るだけでも背筋の凍る恐るべき"皇帝"、そして彼の采配に従う万もの軍勢。
 おまけに皇帝同士は引かれ合い、話の通じない狂気に満ちた女帝と心の壊れた子供達までもが沙都子と同陣営に身を置いている。
 圧倒的な戦力と暴力。それが、北条沙都子の味方として今もこの世界で脈を打ち続けているのだ。

「勝つわ。必ず、あんたに勝ってみせる。
 天狗みたいに伸びきったその鼻っ柱をへし折ってあげるから、覚悟しておくことね」
「……上等ですわ、梨花。趣向はいつも通りで構いませんこと? 敗者には――」
「ええ。負けた部員には――」

 戦意と殺意が、交錯する。
 彼女達は雛見沢分校部活メンバー、世界が変わろうと主義主張が変わろうとその一点だけは決して変わらない。
 梨花は言わずもがな、沙都子も当然のようにそうであった。
 ならばその先の言葉は必要ない。部活メンバーが二人揃って勝負をするなら――後に待つものは決まっている。

「……ありがとうございました、キングさん。もう結構ですわ」

 沙都子はくるりと踵を返して、監視役の大看板にそう言った。
 これ以上は何を話しても蛇足になる。沙都子としては、梨花が思いの外強く食い付いてきてくれただけで充分に満足だった。
 今回の梨花は強いかもしれないと思ってはいた。しかしこうまで期待通りだと、思わず笑みが浮かんでしまうというものだ。
 面白い。これほど勇ましく宣戦布告をしてくれた梨花をへし折れたなら……さぞかしこの先に待つ雛見沢での暮らしは楽しく、満足感に満ち溢れたものになるだろう。

 へし折ってやる、必ず。
 踏み躙ってやる、何度でも。
 そして私は願いを叶える。――貴女が何処にも行かない、理想の世界を作り上げてみせる。

「ああ、最後に一つだけ。
 梨花? 貴女は先ほど、この世界から脱出してみせるのだと言っていましたけど」
「……ええ、そうよ。それが何?」
「奇遇ですわね。私のサーヴァントがついさっき、貴女と同じ志を持っている方々を襲撃し。
 その上で――マスター一人とサーヴァント一体がお亡くなりになったそうですわよ?」
「……、……!」

 振り向きはしない。
 振り向けばさぞかし愛しい顔が見られるのだろうと思ったけれど、理性で自制した。
 何度でも叩きのめしてやろう。何度でも、大切な人間を奪ってやろう。
 その心が折れるまで。そして、この手に聖杯が収まるまで。
 何度でも――何度でも。"絶対"に、私の意志は貴女を逃さない。

「精々頑張ってくださいな、頑固者の梨花」

 沙都子は去り際に嘲笑を浴びせて、八重歯を覗かせながら次の計画を練り始めた。
 脳の回転の速さとその冴え具合は、もはやこれまでの比ではない。
 何しろ梨花と対面出来た上に。お互いに宣戦布告をし合えたのだ。
 であれば――手を抜くなど。なあなあな気持ちで臨むなど許される訳がない。
 全力で叩き潰す、その為に。絶対の魔女は、彼方の勝利を目指して此処に新たな一歩を踏み出した。

【二日目・早朝/異空間・鬼ヶ島】

北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:健康、高揚
[令呪]:残り3画
[装備]:トカレフ@現実
[道具]:トカレフの予備弾薬、地獄への回数券
[所持金]:十数万円(極道の屋敷を襲撃した際に奪ったもの)
[思考・状況]
基本方針:理想のカケラに辿り着くため界聖杯を手に入れる。
0:さて。それでは、改めて私達の勝負を始めましょうか。
1:脱出の道は潰えた。願うのは聖杯の獲得による、梨花への完全勝利のみ。
2:割れた子供達(グラス・チルドレン)に潜り込み利用する。皮下達との折り合いは適度に付けたい。
3:ライダー(カイドウ)を打倒する手段を探し、いざという時確実に排除できる体制を整えたい
4:ずる賢い蜘蛛。厄介ですけど、所詮虫は虫。ですわよ?
5:ガムテに対しての対抗策も考えたい。

古手梨花@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労及び失血(大)、右腕に不治(アンリペア)、決意
[令呪]:全損
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円程度
[思考・状況]
基本方針:生還を目指す。もし無ければ…
0:セイバー達が助けに来るまで時間を稼ぐ。
1:沙都子を完膚なきまでに負かして連れ帰る。
2:白瀬咲耶との最後の約束を果たす。
3:ライダー(アシュレイ・ホライゾン)達と組む。
4:咲耶を襲ったかもしれない主従を警戒、もし好戦的な相手なら打倒しておきたい。
5:櫻木真乃とアーチャーについては保留。現状では同盟を組むことはできない。
6:戦う事を、恐れはしないわ。


◆◆◆


「……なあ、今の聞いてた? 最近のガキ、怖くね?」
「いつの時代もこんなもんだろ。覚悟するのにも歪むのにも、歳は関係ねえんだよ」

 皮下医院"元"院長、皮下真は慎重な男である。
 北条沙都子が進言した古手梨花への面会。
 そこに百獣海賊団の大看板・火災のキングを監視役として遣わすに当たって。
 彼は、キングに小型の隠しカメラを持たせていた。それを通じてリアルタイムで皮下は彼女達の再会を鑑賞しており、その一部始終を最初から最後まで見届けた上での感想が今しがたの台詞なのであった。
 引くわ~、とでも言わんばかりの顔でそう漏らした皮下に。
 彼の傍らで同じく映像を見ていたリップは、ふうと息を吐いて淡白な感想を口にする。

「まあ、変に結託とかし出さないだけ良かったけどよ。
 キングが見逃さなかっただろうが、流石にこれ以上胃痛の種を抱えるのは御免なんでね」

 ただでさえ、色々といっぱいいっぱいの現状なのだ。
 これ以上面倒事を抱えるのは、修羅場慣れしている皮下も流石に御免被りたかった。
 その点、北条沙都子古手梨花とあくまで対立し続ける姿勢なことを示してくれたのはありがたかった。
 彼女は従者であるリンボ共々油断ならない相手だが、しかし優秀さに置いては今のところ非の打ち所がない。
 目の上の瘤だった脱出派の勢力にも小さくない痛手を与えてのけたこともあり、少なくとも現状は、皮下達の未来に貢献してくれている。

「色々と頭の痛くなるようなことが多すぎて誤認しそうになるが、俺達の置かれてる状況は決して悪いものじゃない。
 ウチの"総督"にお前の"械翼(アーチャー)"ちゃん、そして総督が勝手に同盟結んだらしい"女帝"。
 これだけ揃えば峰津院のクソガキにも決して遅れは取らないだろう。……ま、人徳ってやつかな」
「寝言は寝てから言ったらどうだ、ヤブ医者」
「傷付くな。まあ、それはさておき……そろそろ行くか。現世(あっち)に」

 脱出派の存在は、現在進行形の障害だ。
 だが、しかし。彼らと競い合う上でこちらは未だ何一つ劣っていない。
 それに――明確に脱出派の存在を許容したがっていない界聖杯が、いざ連中の脱出計画が実行に移されたとして、果たして黙って見ているだろうか。
 皮下はそうは思わない。連中の道のりは、連中が思っている以上に過酷な道だ。
 そしてこちらは連中がその過酷さに手を拱いている間に、圧倒的な暴力で以って叩き潰してやればいい。

「お前のボディーガード役は金輪際御免だ。手早く終わらせろよ、そこまで付き合いたくはない」
「それはあちらさんに言ってくれ。ガキだとは聞いてるが、話の分かる奴だといいんだけどな」

 そう言いながら、皮下はリップ共々現実世界。
 カイドウの同盟相手である"もう一人の皇帝"、そのマスターの元へと向かおうとしていた。
 霊地の争奪戦に加え、脱出派勢力への対処。その他諸々引っ括めての今後の展望について、などなど。
 話すべきことは無数にある。むしろ今の今まで顔を突き合わせずにいたことの方がおかしい。

 そして皮下は、会談の場に臨むに当たってリップを連れて行くことにした。
 その理由は護衛と、そして監視だ。彼ら主従の強さ、便利さは皮下自身よく知っている。
 なればこそ、主従揃った状態で留守を預けるのは危険極まりないと。そういう結論に達したのだ。
 リップが自分達に弓を引くとしても、それは今ではないと。皮下はそう思っているが。
 それでも――不安の種を取り払っておくに越したことはない。

「世田谷の一件もある。精々有意義な話し合いが出来ることに期待しようぜ」


皮下真@夜桜さんちの大作戦】
[状態]:健康
[令呪]:残り二画
[装備]:?
[道具]:?
[所持金]:纏まった金額を所持(『葉桜』流通によっては更に利益を得ている可能性も有)
[思考・状況]
基本方針:医者として動きつつ、あらゆる手段を講じて勝利する。
0:ひとまずライダーが同盟を結んだサーヴァントのマスターとコンタクトを取る。
1:大和から霊地を奪う、283プロの脱出を妨害する。両方やらなきゃいけないのが聖杯狙いの辛い所だな。
2:覚醒者に対する実験の準備を進める。
3:戦力を増やしつつ敵主従を減らす。
4:沙都子ちゃんとは仲良くしたいけど……あのサーヴァントはなー。怪しすぎだよなー。
5:峰津院財閥の対処もしておきたいけどよ……どうすっかなー? 一応、ICカードはあるけどこれもうダメだろ
6:梨花ちゃんのことは有効活用したい。…てか沙都子ちゃんと知り合いってマジ?
7:逃げたアイの捜索をさせる。とはいえ優先度は低め。
[備考]
※咲耶の行方不明報道と霧子の態度から、咲耶がマスターであったことを推測しています。
※会場の各所に、協力者と彼等が用意した隠れ家を配備しています。掌握している設備としては皮下医院が最大です。
 虹花の主要メンバーや葉桜の被験体のような足がつくとまずい人間はカイドウの鬼ヶ島の中に格納しているようです。
※ハクジャから田中摩美々、七草にちかについての情報と所感を受け取りました。
※峰津院財閥のICカード@デビルサバイバー2、風野灯織と八宮めぐるのスマートフォンを所持しています。
※虹花@夜桜さんちの大作戦 のメンバーの「アオヌマ」は皮下医院付近を監視しています。「アカイ」は星野アイの調査で現世に出ました
※皮下医院の崩壊に伴い「チャチャ」が死亡しました。「アオヌマ」の行方は後続の書き手様にお任せします
※ドクロドームの角の落下により、皮下医院が崩壊しました。カイドウのせいです。あーあ
皮下「何やってんだお前ェっ!!!!!!!!!!!!」
※複数の可能性の器の中途喪失とともに聖杯戦争が破綻する情報を得ました。
※キングに持たせた監視カメラから、沙都子と梨花の因縁について大体把握しました。結構ドン引きしています。主に前者に

リップ@アンデッドアンラック】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[令呪]:残り3画
[装備]:走刃脚、医療用メス数本、峰津院大和の名刺
[道具]:ヘルズクーポン(紙片)
[所持金]:数万円
[思考・状況]
基本方針:聖杯の力で“あの日”をやり直す。
0:仕方ないので皮下と一緒に現世に行く。
1:皮下と組むことに決定。ただしシュヴィに魂喰いをさせる気はない。
2:283プロを警戒。もし本当に聖杯戦争を破綻させかねない勢力なら皮下や大和と連携して殲滅に動く。
3:古手梨花を利用する。いざとなれば使いつぶす。
4:敵主従の排除。同盟などは状況を鑑みて判断。
5:地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)の量産について皮下の意見を伺う。
6:ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)は様子見。追撃が激しければ攻勢に出るが、今は他主従との潰し合いによる疲弊を待ちたい。
[備考]
※『ヘルズ・クーポン@忍者と極道』の製造方法を知りましたが、物資の都合から大量生産や完璧な再現は難しいと判断しました。
また『ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)』が一定の規模を持った集団であり、ヘルズ・クーポンの確保において同様の状況に置かれていることを推測しました。
※ロールは非合法の薬物を売る元医者となっています。医者時代は“記憶”として知覚しています。皮下医院も何度か訪れていたことになっていますが、皮下真とは殆ど交流していないようです。



時系列順


投下順


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112:拍手喝采歌合 皮下真 128:ウィーアー!
117:Surprise MOM Logic ライダー(カイドウ
120:STRONG WORLD ライダー(シャーロット・リンリン) 128:ウィーアー!
116:prismatic Fate 北条沙都子 133:地平聖杯戦線 ─RED LINE─(1)
112:拍手喝采歌合 古手梨花 133:地平聖杯戦線 ─RED LINE─(1)
112:拍手喝采歌合 リップ 128:ウィーアー!

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最終更新:2022年11月19日 00:36