良いことと悪いことは同時に来る。
 ついに迎えた、迎えてしまったとも言うべき朝。
 夜を示す月は何処かへと消え、燦燦と舞台を照らしていく。
 これほどまでに太陽が疎ましく思えたのは、彼女にとって後にも先にもこれだけだろう。
 死体操作が使えない日中とは、日常ならまだしもこの場では余りにも不安要素。
 能力者でなくなればただの一般人と大差ない存在になってしまう。ユウカの最大の弱点。
 耐え凌ぐ時間が始まると同時に放送の結果。それは彼女にとって頭を抱えたくなるものだ。
 正月元旦の朝のような爽やかな気分にさせてくれる気は毛頭ない結果。

 死者は人数からすれば多い。自分以上に乗り気な人がいるのがわかる。
 優勝を狙ってる以上ペースが速い点に関して言えば彼女の良い報せだ。
 ミチルの脱落も、土壇場で誰かが完全復活して襲い掛かる可能性は減った、
 そう考えるとありがたいものではある。仗助は変わらず健在だが。

 一方で悪い報せが多すぎる。
 自分を友好的な参加者と言う情報をばらまくはずの由花子が死亡した。
 しかも彼が一番信頼を置いてる広瀬康一も命を落としてしまっている。
 昼ぐらいまでは生きて情報拡散をしてもらいたかったがこうも早いとは。
 ナナも生存している状態で身を隠していては包囲網を築かれてしまう。
 早々に方針を考え直さなければ袋小路に追い詰められる。
 明るくなった世界とは裏腹に、彼女の道は暗闇へと閉ざされていく。

(ま、それは置いといて……)

 だが、意外にもこれは一番の問題ではなかった。
 彼女の怨敵が未だいるのは復讐の機会があるから。
 というわけではなく。

「遺言ぐらいは聞いてやるぞ、小娘。」

(どう切り抜けるか、だよね。)

 今目の前にいる相手───バツガルフの存在の方が問題だったからだ。
 元々南下して逃げていた以上、湖の開けた場所に沿って歩くことになる。
 どうあがいたって遠目からでも人が認識できてしまうので仕方ないが、
 寄りにもよってと言うべき相手と遭遇してしまい、内心で舌打ちする。
 何とも言えぬ奇抜なロボット、ないしサイボーグのような姿をしてるが、
 相手の実力は先程見ていたので知っている。能力者に負けず劣らずの多彩な力を持つ。
 夜でも難儀しそうな相手を、能力が使えない自分が勝てる可能性など万に一つもない。
 たとえそれが億の可能性であったとしても無理と言い切れるだろう。

「遺言……って言うには大分違うけど、降参。」

 敵意がないことを示すように両手を挙げる。
 内心は相当焦ってるが、冷静さを装った状態を維持していく。
 元々シンジで散々人形遊び、基自作自演を続けていた彼女だ。
 人前でキャラを変えることなんて造作もない。

「ちょっとだけ話聞いてくれる? 一応そっちにも利益があるから。」

「ほう、なんだ?」

 明らかに下の立場。蹂躙されるだけであろう存在が、
 それでもなお生きあがく姿にほんのちょっぴりだけ興味を持つ。

「あたしと手を組まない? 殺し合いに乗ってるでしょそっちも。」

 共闘の持ちかけ。
 この場をやり過ごすにはそれしか選択肢はない。
 ありふれた命乞いでバツガルフは溜息しか出なかった。
 ピーチと違って相容れぬ相手ではないが、ただの小娘。
 殺し合いに乗れる人材とは思えなかったからだ。

「戯言だな。貴様が乗ってると証明できる手段は───」

「ピーチって女を殺したの、あたしだよ。」

 あっけらかんと表情で答える。
 駅に闖入者がいたことは分かっていたが、彼女とは想定しなかった。
 考えれば、移動手段である駅から逃げるようにしてた時点で彼女が犯人なのは当然だ。
 私怨が強いマリオと出会えば、やるかもしれないと言えばそうなのだが、
 悪の権化であるバツガルフだとしても、あそこまで惨たらしい死体にはしない。
 しないと言うよりは、純粋にそこまでやるメリットがないだけでもある。

「言い訳で取り繕った可能性もあるか。どうやって殺した?」

「持ってた地雷を使ってボンッてね。
 結構エグかったでしょあれ。ま、あんな女には当然の末路だと思うけどね。」

 嫌悪感とか欠片もない、本心の表情。
 自分がやりたいからやったかのような反応は、
 十分に信用に足るだけの悪女であることが伺える。
 ピーチとは対極に位置しそうなほどの輩ではあるが、
 それゆえに利用価値がないと断言もしきれなかった。

「では、何故手を組む必要がある?」

 別に男女差別とかの意識があるわけではないが、
 此処まで小娘の皮を被った悪魔はいないだろう。

「ん-、その前に聞くけどさ……この際呼び捨てでもいいか。
 バツガルフって、此処に来る以前からマリオと敵対してるよね?」

 ピーチの記憶には全部ではないが、事の顛末の多くは理解している。
 月に拠点を持ってたり、かなりぶっ飛んだ世界なのは伺えるものの、
 イリアや虹村形兆から得た前情報から、そこまで理解に苦しむものではない。

「何処から得たのかは知らんが、そうだな。」

 初対面の、それも乗った相手にその事実が伝わってることに訝る。
 死体操作から得た情報とは微塵にも思うことはない。

「だったら、この先も一人だけで戦うのって難しいと思うんだよね。」

 話に乗ってくれたからか、
 手をおろして無防備に適当にそこらを歩くユウカ。
 この場にはペケダー達もいないこともあって、
 確かに孤軍奮闘をせざるを得ないのは間違いない。
 初対面の小娘相手にそれを言われるのは中々に癪なことだが。

「考えてもみなよ。マリオには仲間が三人もいる。
 一人は放送で最初に死んじゃったみたいだけど……それでも、
 参加者と出会った可能性ってのは高いと思うんだよね。そしてその参加者が、
 他の参加者へと伝えての連鎖。六時間も経つし、流石にそっちも理解してるでしょ?」

「要するに、敵と認識した奴がすでに大勢いると言いたいのだろう。」

 ユウカと同様に情報が拡散されての包囲網。
 その可能性は決して否定できるものではなかった。
 特に、マリオの事情を知らないバツガルフにとっては余計に。

「そ。でさ、あたしも同じでちょっと来る前にやらかしちゃってやばいんだよね。
 あたしはそっちほど強くないし、ピーチは運よく殺せても今後は上手くいかない。」

「だから手を組むと。だが、手を組んだところで認識が覆るとでも?」

「確かに難しいかもねー。でもさ、
 どっちも敵と言う情報持ってる参加者って相当限られるんじゃない?」

 由花子が死亡した以上、ナナを敵と仕向けておくのは難しい。
 ユウカの次にできる一手はバツガルフと共に集団に紛れ込むこと。
 昼間のボディガードも確保できるし、生き延びる確率は隠れるよりも高い。
 どちらも脛に傷持ちな立場ではあるが、同行者がいれば不可能ではない。
 単独では弁明は難しくとも、説得できる可能性としては十分だ。
 流石に、リンクのように直接対決してしまったら別だが。

「どっちかの情報は得ていてもどっちかは得られてない。
 だったらまだ集団に紛れ込んで混乱を起こす手段にはなると思わない?」

 事実、双方を敵と認識できるだけの情報を持った参加者は殆ど限られている。
 図書館にいるナナと、学校付近にいるキョウヤの二つの陣営ぐらいしかない。
 そして両者ともに情報の拡散ができるような状況下でもないと言う、
 偶然ながら彼女達にとっての向かい風が起きている。

(この小娘の考え───穴がありすぎる。)

 確かに混乱を招くと言う一つの手としては有効ではある。
 だが、一人の意見にどれだけの効果があると言うのか。
 素性を知られてない側の弁明とは、つまり確実に初対面との会話。
 殺し合いに乗ったと疑われる人物と共にいた片割れの言葉、信用を勝ち取るのは難しい。
 杜撰極まりない共闘の計画ではあった。

(しかし、ダメージが大きいのも事実だ。)

 このまま続けて戦えばいずれ限界を迎えるだろう。
 杜撰であるが、杜撰すぎるのは逆にいいのかもしれない。
 優勝を目指す奴がこんなあからさまな手段を使うか? と言った疑念。
 手駒がいない現状、使える手数は増やしておくのも一つの手だ。

「小娘。武器はあるのか?」

「外れだらけだよ。写真と馬笛と地雷。絶望的でしょ?」

 本当はもう一個あるが、ひとまずは黙っておく。
 終盤で強敵相手に使う際に出し抜くとっておきの一手だ。
 味方になりうる人物であろうともその手札は切らないでおく。

「酷いありさまだな。これでも持っておけ。」

 能力の条件の遺品は思いのほか役に立つ。
 自分の武器が当てにならないと思い込ませられる。
 バツガルフにとってえいゆうの杖があれば大概はなんとかなると思って、
 特に使わずに放置していた支給品であるブロックを渡す。

「え、いいの?」

「戦える手段がない奴を手元に置く意味などないだろう
 叩けば地震を起こすブロックだ。こちらも巻き添えになる以上合図は送れ。」

 本当はこのブロック二つで一つなのだが、
 彼もまた彼女を信用したわけではなくそのことは伏せる。
 もっとも、それを抜きにしてもまだバツガルフには恐らくもう一つある為、
 ユウカも素直に受け取りはするものの、用心深い奴なのは理解していた。
 少なくとも力と智、どちらも兼ね備えた人物と警戒するには十分だ。

「了解。ところでこの同盟っていつまでにする? 夜?」

「夜にもなれば参加者も殆どいなくなる。放送から動きを変える可能性も考慮し、
 二十一時までの同盟としておこうか。その前には逃げる算段でもしておくんだな。」

「お優しいことで。」

 夜まで猶予を与えた時点でこっちのもんだけど。
 とは思いながらもこっちが出し抜くことは見抜いてるはずだ。
 同盟中だからと油断はしない方がいいだろう。

 こうして、二人は『猶予ない選択』から『好転の兆し』を手にし『嘘』で固めた関係となる。
 月は何処かへ行く。しかし月は姿を現した。ジャックとセブンを合わせた『ⅩⅧ』の二人に。

【B-3/湖付近 一日目 朝】

【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大)
[装備]:POWブロック@ペーパーマリオRPG
[道具]:イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品×2(自分、ピーチ)、遺体収納用のエニグマの紙×2@ジョジョの奇妙な冒険 陶器の馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品×1(彼女でも使える類)、愛のフライパン@FF4
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1:暫くはバツガルフと行動。集団に紛れ込めればいいんだけど。

※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※次の夜まで死体操作は出来ませんが、何らかの条件で出来る可能性もあります。
※死体の記憶を共有する能力で、リンク、仗助、ピーチ、マリオの情報を得ました。
 イリアの参戦時期は記憶が戻った後です。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)

【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(特大) 至る所に焦げ付き 愉悦 
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み)、POWブロック@ペーパーマリオRPG
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し世界征服を叶え、ついでに影の女王へ復讐する。
1:ひとまず休憩場所を探す
2:打倒マリオ。その為の支給品集め。
3:マリオを味方と偽る形での悪評も考えておく。
4:ユウカの提案には一先ず乗ってみるか。

※参戦時期は影の女王に頭だけにされて間もなくです。

【POWブロック×2@ペーパーマリオRPG】
バツガルフに支給。地上に大きな揺れを起こすことで攻撃するアイテム。
空中にいる敵には何も効果はない。使用者以外の使用エリア全体がこの影響を受ける。
なお二つの理由は初出のマリオブラザーズが一個のブロックで二回使える為。


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056:エンドロールは止まらない 時系列順 058:炎の裏で思考する者達
投下順
038:憤懣焦燥 前編 佐々木ユウカ 065:ジジ抜きで警戒するカード
バツガルフ
最終更新:2021年12月12日 09:31