ボトクから支給品を回収したガノンドロフは、北へ向かっていた。

(ぐ……。)
白い装束を付けた男に刺された傷が痛んだ。
それがかつて、処刑された時に受けた傷と共鳴し、更に痛みが増幅していった。
大魔王と言えど、彼もまた命ある者。
力のトライフォースによる常人を逸した生命力と、大地の精霊の力を借りた鎧による防御力があれど、然るべき理由があれば怪我もするし死にも至る。
先の戦いで彼自身が受けた傷の最大の要因になったマスターソードは、既に自分の手の内にある。
災い転じて福となす、ということだろうか。魔獣の姿になった際に、身体に刺さっていた聖剣は、元の姿に戻った際に近くに転がっていた。
だからと言って、これで勝利が保障されたと判断するほど、愚かでもない。


先の放送で知ったことであるが、最初の6時間のうちに死んだ者はおよそ4分の1。
その後殺した2名を踏まえても、まだ先は長いということになる。
このまま休まずに終わりまで殺し続けることは、難しいと判断した。
そのため、一度草原にあった手ごろな岩に腰かけ、休憩を取ることにした。
支給品の食糧である、焼いてから3日ぐらい経っていそうなボソボソとした味も素っ気もないパンを食べ、これまた温いだけで味のない水で喉を潤す。
さして食べた気にもならない食事を終えると、ボトクから奪った支給品を調べることにした。
あの怪物は期待外れだったが、方々で暴れていたからか支給品は潤沢にあった。
まずはひとつめの支給品、ボトクが広瀬康一という少年から奪った支給品だ。


(ふむ、これは……。)
最初に出てきたのは、黒と茶色の筒。
引き金らしきものが付いていることや、その形状からして、小型の大砲のようなものだと判断した。
だがそれだけ。確かに面白そうな武器ではあるが、実用には及ばない。
武器というものは、総じて有効活用するには多かれ少なかれ、訓練が必要となる。
ましてや、剣や棒のような原始的なつくりの武器では無く、形状を考えられて作られた武器なら猶更だ。
訓練する猶予が設けられているならば使用も念頭に置いても良いかもしれないが、そんな悠長なことをしている場合ではない。
これといって大した感情も湧かないまま、火縄銃と呼ばれた武器を仕舞い込んだ。


次に出したのは、ピンクのケースに包まれた薄い四角の金属板。
一見役に立ちそうも無いが、スイッチらしきものがあるので、それを押してみる。

(何だ……これは……!!)
爆弾の様なものかと思い、警戒するがそうでは無いようだ。
しかし、スマートフォンというガノンドロフのいた世界にはない機械が提供したのは、下手な爆発よりも遥かに驚く情報だった。


「推定殺害人数15万人……50万人以上?」
目を見張るのは、スマホに映し出された、到底人一人に殺せるとは思えない人数だ。
ガノンドロフとて、人間の殺害経験が無いわけではない。
並の人間や怪物を軽く凌駕する力を秘め、彼1人だけでも殺害した人間の数は優に百は愚か、千を超える。
故に、生涯を通しても1人だけで殺せる人の数には限りがあるということを、この身で知っている。
だからこそ、この機械に映し出された人間達の殺害者数は、文字通り桁違いだった。
しかも、そのうち4人がこの殺し合いに参加しているのだから余計に質が悪い。


(いや待て……。)
一瞬驚きはしたが、すぐにこの機械に映し出された情報に様々な粗があることにも気づいた。
まずはここに書かれているのは「推定」殺害人数と書いてあるということ。
従って、実際にこの佐々木ユウカという少女が50万人を殺したわけでは無く、「50万人を殺す可能性がある」というだけの話だ。
現に自分が処刑された理由も、殺人や略奪だけでは無く、やがてハイラルに反旗を翻すという危険性からだ。
加えて、「50万」やら「15万」やらの数字も、少し考えてみれば愚か者に対して危機感を煽ったり、欲望を掻き立てたりするのに何かと使われがちな数字であることも思い出した。


第二に、この機械の出所が分かっていないということだ。
仮にここに映されている推定殺害人数が本当だったとしても、「何人のうちの15万人」なのかは書いていない。
ハイラルで15万の人間が殺されれば、殺害された者が誰であれ、深刻な人口減少によって国そのものが多大なダメージを受けるのは間違いない。
100万殺されれば、少なくとも一定の産業が動かなくなり、最悪の場合は国の機能そのものが麻痺し、衰退の一途をたどるしか無くなるだろう。
だがもし、この機械の出所になった国の人口が、数十億、もしくは数十兆であり、なおかつ国で紛争でも起こっていれば、百万の命程度簡単に失われるだろう。


第三に、この殺し合いの中で件の危険人物たちの情報が、自分の耳に入り込んでいないということだ。
もし本当に50万や100万を殺せるほどの力を持っている場合は、この殺し合いに参加させられた50人程度、赤子の手を捻るかのように殲滅させることが出来るはずだ。
仮に殺すことが出来るのは自分が殺してきたような「か弱い人間だけ」だったとしても、その惨劇は殺し合い会場の至る所に広まっているはず。
だと言うのに、殺し合いが始まってから7時間と少し経った今でさえ、4人全員どころか1人として情報が耳に飛び込んでこない。
加えて、この機械に掲載されている人間の内、犬飼ミチルという人間は既に殺されている。


以上の根拠から考えて、このスマートフォンという機械に載っていた危険人物たちは、必ずしも恐ろしい存在ではないという結論に達した。
いつの時代でも誰か、とりわけ政治家などが厄介な相手を合法的に排除するために、その存在の危険性を吹聴するという手法は、手を変え品を変え繰り返されてきた。
この機械こそは中々面白いものだが、中に書いてあることは恐らく古臭い、手垢が幾重にも層を作っている手法に過ぎない。
とは言え、ここに載ってある人物が厄介な存在である可能性は決して低くはない。
万全の状態ならば負けるとは到底思えないが、手負いの状態ならばそこそこ手こずる相手かもしれない。
それに、機械に記述されていた内容が真っ赤な嘘だとしても、嘘から出たまことという場合もある。
おとぎ話で読んだ、双子が災いをもたらすという占いを真に受け、捨てた双子の片割れに王座ごと国を奪われる国王のように、危険人物だと嘘を広められた吹聴された人間が、本当に危機をもたらす存在になるケースもあると知っている。


その時だった。
北の方から2人の人影が見えた。
人影、というのは聊か間違っている表現かもしれない。
なにしろ片側はどう見ても人間には思えず、今片手に持っているピンク色の小型機械のような、精密な金属や未確認物質の塊が人の姿を形成したように見えたからだ。


(厄介な奴だ……。)
一見強敵に見えるのは、人間の姿をしている方では無く、人間の姿を形成している方だ。
しかし、ガノンドロフが警戒したのは、人間の姿をした方だ。
何故なら金髪のくせ毛の少女は、先程危険人物として載せられていた佐々木ユウカだったからだ。
一体どのような隠し玉を持っているか分からない。
そして、人間の方にばかり警戒して、もう片方から不意を突かれる可能性も決して低くはない。
現に自分は二度見くびった相手に不意を突かれ、受けなくても良いダメージを受けている。
従って、迂闊に戦いを挑むのは悪手だと判断した。



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


南下していた二人組のうち、ユウカは突然足を止める。
「どうした。」
気遣いをするほど温和な性格では無いが、同盟者が後ろ暗いことを企んでいると勘繰ったバツガルフは、声をかけた。


「気付かないの?この先に、恐ろしい奴がいる。」
それは演技などではなく、明らかに本気で恐れていたことがバツガルフにも理解できた。
こういう第六感の様なものは生身の人間であるユウカの方が優れているし、逆にバツガルフは論理的な思考能力は長けている反面、殺意や敵意など目に見えぬものに対しては鈍感であった。
故に、カゲの女王から攻撃を受ける寸前まで、その敵意に気付けなかった過去もあるのだが。


ユウカは、まだ遠くにいるはずのガノンドロフの邪気に、心臓を掴まれているような感覚を覚えた。
そもそも彼女は、元居た世界から後ろ暗いことをしていたため、他者からの殺意には敏感な所があった。

「何しているのよ!早く逃げなきゃ!!」
それに気付いていない様子のバツガルフに、必死で呼びかける。
本当の所バツガルフ程度どうなっても良いが、1人だけで逃げ出すと同盟を破棄したと見なされ、攻撃を受ける可能性も低くはない。
少なくとも、「同盟を組んでいる」と最低限取り繕うための姿勢は見せねばならない。


「もしオマエの言うことが本当ならば、迂闊に逃げればその瞬間に奴は襲ってくるだろう。ここは留まることにする。」
「え?ちょ……。」
「黙っておけ。それとも同盟を破棄して、オマエ一人で逃げても良いのだぞ?」
「………。」


バツガルフの文字通り無機質な瞳に見つめられ、ユウカは黙ってしまう。
もし逃げれば襲ってくるような危険人物だとしたら、ここに留まって戦っても結果は同じでは無いかという考えを、言葉に出すことは出来なかった。

「まあ、勿論準備は仕掛けておけ。例のブロックを出せ。ただし私の指示があるまで叩くな。」
ユウカは言われた通り、叩けば地震を起こすPOWブロックをザックから出す。


しかし、どういう訳か重苦しい空気はその場に存在するだけで、空気の主が近づいてくることは無かった。

「ねえ、いつになったら来るのよ?」
重い空気のままの沈黙に耐え切れず、ユウカが小声で言葉を紡いだ。
「それはオマエの方が詳しくないか?現にこの話を切り出したのはオマエの方だぞ。」
「………。」

しかし、いつ来るか分からない敵に身構えるのは、下手に戦う以上に精神も体力も消耗する。
その間は実に3分も満たなかったが、佐々木ユウカにとっては、たっぷり30分にも、それ以上にも感じられた。
彼女は恋人を取られればその相手を、恋人ごと焼き殺したことがある。
そんな常軌を逸した精神と行動力の持ち主だが、死の危険を察知すれば人並みに恐怖もする。
増してや今は能力が使えない以上、胸の内を支配する恐怖心は猶のことであった。


「仕方あるまい。此方から出向くしか無かろう。」
「はあ~~~~。やっぱりそうなるのよね~~~~。」

遠ざかれば追いかけたくなり、近寄られれば離れたくなるのが人間の性と言うもの。
下手に逃走したり、相手の出方をいつまでも伺い続けるよりも、敢えて此方から近づいた方が優位に立てるとバツガルフは考えた。
ユウカ自身はバツガルフの策には反対であり、今すぐにでも逃げ出したかったが、月曜日の朝の学生やサラリーマンの様な足取りで、その後に付いていく。


しばらく歩くと、禍々しい気配の主らしき男が、岩の上に腰かけていた。
特にこれと言ったことはしておらず、ただ頬杖をついて鎮座しているだけなのに、肖像画や彫刻のモデルにでもなるかのような荘厳な雰囲気を醸し出している。
全身のほとんどが鎧やコートで覆い隠されているが、唯一露出している、厳めしい顔はあちこちに傷を作っている。
しかし、痛々しいとは全く思わず、むしろそれさえも恐ろしさを感じる。
きっと彼に傷をつけた相手は、それ相応の報復を受けたことも、自ずと察してしまう。


(これは……たとえ夜だとしても、どうするか困りそうなヤツね……。)
ユウカは頭の中でそう考える。
せめてバツガルフと相打ちになってくれれば、と期待していたが、実際にそのご尊顔を拝んでみると、そう簡単に行きそうもない相手だと分かった。


「そう畏まることも無い。我に逃げることもせず、近づいてきただけでも、敬意を表しようでは無いか。」


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目の前にいる2人は、明らかに自分を警戒している。
警戒してもしなくても同じことだとばかりに、2人を纏めて薙ぎ払っても良いが、どうにもそれはメリットが薄い。
彼女らを攻撃するのを躊躇う根源にあるのは、恐怖心では無い。
勿論、一見ただの少女である彼女を迂闊に刺激して、手痛い反撃を食らうのは避けたい。
トライフォースの力とガイアーラの鎧でよほどの力を持っていない限り、即死は免れるにしろ、後々に響く傷を負ってしまうかもしれない。
だが、一番の理由は「推定殺害人数50万人」の人間とやらの可能性に対する興味だ。


彼が求めているのは、自分の想像をも超えた力。
彼が元の世界にいた時は、その対象が自分が持っていない知恵と勇気のトライフォースだった。
そしてその力を使って世界を征服し、混沌に満ちた世界を築く。
だが、この世界はトライフォース以外にも素晴らしい力があり、ともすれば自分が望む混沌を見ることが出来るかもしれない。
それが自分の傀儡であったザントのお膳立てによるものだというのが腹立たしい事この上ないが、折角用意してくれた余興は見るべきであろう。


「そう畏まることも無い。我に逃げることもせず、近づいてきただけでも、敬意を表しようでは無いか。」
ガノンドロフは立ち上がり、二人組に近づく。

「どうにも強者気取りだな。その『敬意を表する』とやらはその剣を使うことか?それとも拳を振り回すのか?」
「ちょ……ちょっと……迂闊に挑発しな……。」
「オマエは黙っておけ。」


そのやり取りを見ただけで、機械の男と人間の間では、機械の男の方が上の立場だということが分かった。
それに関しては何らおかしいわけではない。
たとえ同盟関係だという名目だとしても、自ずと力関係が生まれて、イニシアティブをどちらかが握るようになるのはよくあることだ。
問題は、機械の男が少女のことを「詳しく知った上で主導権を握っているか」ということだ。
乞食に変装した王子のように、立場を低く見せつけ、その裏で行動しようとするケースもある。
敢えて少女の正体を試しにバラしてみることも考えてみたが、知らなければ知らなかったで滑稽な様を拝める可能性もあるので、機械を渡さないことにしておいた。


「特に暴力的な手段で敬意を表するつもりは無い。むしろそのような手段に打って出ないのが敬意の表し方だ。」
「何もしないというだけで主導権を握ったつもりか。さぞかし素晴らしい力を持っているようだな。」
「口の減らぬ奴だ。我が力がどのようなものか見せたいところだが、今は互いに傷を貰っている模様。そのようなやり方は賢いとは思わぬのでな。」


その時、少女が僅かでも強張り切った表情筋を緩めたのをガノンドロフは見逃さなかった
(あの機械が見せた情報は嘘だったのか……?)
自分に対する恐れの抱き方は、自分が血祭りにあげてきた人間と同じだった。


「それは同じことを考えていたわたしとしても喜ばしい限りだ。感謝する。だが、わたしが油断した瞬間、オマエが背中から刺してくる危険性を考慮する必要は無いのか?」
「無いな。そもそもこちらから我の下に向かう胆力がある時点で、つまらぬ騙し討ちが通用せぬ相手だと分からぬほど耄碌しておらん。最も、キサマに胆嚢があるかは分からぬが。」
「なるほど。わたしの手の内もある程度は想定しているという訳か。」


少し話をして、自分から向かって来ただけあってこの機械男も一筋縄ではいかぬという相手だと分かった。
勿論、正面からぶつかり合えば負けることは無いにせよ、後々に面倒なことになる。
例え勝てても、戦わなくても良い敵や実入りが少ない敵は他者に押し付けた方が良い。
優勝の為にいずれは殺すにせよ、今殺す必要は無いし、その力を他者にぶつけさせて高みの見物を決め込むのも悪くはない。
だが、1つ試したいことがあった。


「我が貴様らの敵でない証拠を一つ見せてやろう。」
ガノンドロフは鞄から3つまだらくも糸を出した。
勿論、警戒は解かれてはいないようだ。
大方爆弾か何か危険な物だと思われているのだろう。


「これは敵に向けて投げれば、動きを阻害するらしい。貴様らのような者に向いているのではないかな。
信用が出来ないのなら、その場で燃やすなり、置き去りにするなりすれば良い。」

そう言って黄色の糸玉を3つ、岩の上に置いた。

「小娘、取りに行け。」
「ええ?」
「オマエのような者は、こういう時にいるのだろう。」
「でも、爆弾の様な物かもしれないんだよ?」
「だからこそだ。」


少女は何度もガノンドロフとまだらくも糸への視線を繰り返し投げながら、亀のようにゆっくりと歩いてくる。
両手を震わせて、顔中に冷や汗を浮かべながら、毒物が爆発物に触れるかのような挙動でまだらくも糸を手に取る。
行く時と違い、戻る時はひどく早足だった。そのまま機械男の所へ戻ると、すぐに糸玉を全て機械男の鞄に入れる。
その挙動は、死や暴力を恐れる力無き人間と何ら変わりはなかった。


そして、機械男は少女を隠し玉として使うつもりでは無く、使い捨ての道具程度に思っている。
少なくとも50万の人間の殺害をしでかす可能性がある人間だとは考えておらぬということが判明した。


「そう警戒しなくても、我はつまらぬ嘘を言うつもりはない。今渡したのは噓偽りのない蜘蛛の糸玉だ。
これで我が騙し討ちをするつもりが無いのはよく理解できたはずだ。」
こちらも貴様らのことが少し分かった、と心の中で付け足す。


「なるほど。ありがたき施しを感謝する。ならばわたしの方にも何か渡さねばな。
こちらはわたしよりオマエの方が使うのに向いていそうなのでな。」

機械男は鞄から出した者は、真っ黒な剣だった。
しばらく離れた地面に突き刺す。
柄から刀身まで真っ黒に染まり、定期的に赤い光を発するその剣の出所は分かった。
その剣から、自分を崇拝するそぶりを見せたくせに、オルゴ・デミーラにあっさり河岸替えした男が発する魔力と酷似していたからだ。


「どうした?その剣で何か不満でもあったか?」
「いや、何でもない。ありがたくいただいておく。そうだ、ついでに聞いておくが、リンクという緑帽子の男とゼルダという女性を知らぬか?」
「何!?」


とりあえず聞いてみたのだが、反応があったということはどうやら関わり合いになったらしい。
嘘かとも疑ってみたが、隣にいる少女の目線が嘘では無いことを伝えている。

「奴は北のハイラル駅で戦った。トドメを刺し損ねたが、今ならまだ近くを探せば出会えるかもしれぬ。」
「ふむ、良き知らせを聞いた。また会えることを願っているよ。最もその時は味方ではないかもしれぬがな。」



そのままガノンドロフは北へと走る。
推定殺害人数50万という数字は不確定ながらも惹かれる数であったが、あの少女の態度を見る限り、執着しても大した成果を得られる可能性は低い。
能ある鷹は爪を隠す、ということがを考慮しても、あの少女の態度は、弱者のそれだ。
仮に能力があるとしても、出すには何らかの条件が必要だとしか思えない。
それならば、元々狙いを定めていたトライフォースの入手に集中した方が良いはずだ。


体力が回復したのもあって、探し求めていた獲物の手掛かりを掴めた魔王の足は、さながら黒豹の様だった。



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


「あ~、助かった。正直、死ぬかと思った。」
「そう恐れるほどのことでも無かろう。」


バツガルフとユウカは、ガノンドロフとの話し合いが終わったのち、岩場に腰かけ休憩を取っていた。
ユウカはガノンドロフの圧迫感から逃れられて、素直に安堵しているが、バツガルフの電子頭脳の中には別の疑問があった。


(あの男は小娘の何を知っている?)
ガノンドロフという男は、自分よりもユウカの方に視線を送っていた。
自惚れるつもりは無いが、明らかに2人のうちで警戒されるべきは、小娘では無く自分の方だろう。
だというのに、自分よりむしろ小娘の方に警戒した様子を見せていたのは、どうにも疑問で仕方が無かった。
小娘はガノンドロフのことは全く知らなかったというのに、一体奴は何を知っているのだと疑問に思う。

本当ならば佐々木ユウカという人間の詳細を問い詰めたかったが、厄介なことにガノンドロフは、言葉では彼女を知っているか否かを全く話さなかった。
下手な詮索をして、相手方の機嫌を損ねてしまうのは避けたかったのがある。
いずれはガノンドロフも殺さねばならない相手であるのは間違いないが、今はそのタイミングではない。
相手は見ただけで強大な力を持っていると分かるし、例え勝ったとしても無傷では済まない。
もっと悪いことに、小娘がガノンドロフに寝返る危険性だって考慮せねばならない。


岩の上に腰かけている最中に、ユウカという小娘と同盟を組むときの話を反芻する。
―――持ってた地雷を使ってボンッてね。結構エグかったでしょあれ。ま、あんな女には当然の末路だと思うけどね。
―――外れだらけだよ。写真と馬笛と地雷。絶望的でしょ?


(奴の能力は、地雷と何か関係があるのか?)
マリオの仲間にいたバレルのように、爆発能力に長けるという可能性も考慮する。
だが、先の地雷のことを述べた発言さえ、ミスリードの可能性もある。
ここでバツガルフは、佐々木ユウカという少女の厄介さを改めて認識することになる。
それは、彼女の「杜撰さと策略の境目が分からない」ということだ。
どこまで小娘は考えて自分と同盟を組もうとし、どこまで彼女の思考の穴なのかが分かりにくい。
1つ問題点があると、続けざまに思考と言うものは悪い方向に傾いてしまうものであり、あの剣をガノンドロフに渡してしまったのも、安直だったのではないかと考えてしまう。
確かにあの剣は自分にとっては無用の長物だ。同盟関係を改善するのに使ってしまうのも悪くはない筈。
だというのに、どうにも間違えたことしてしまったかのように思えてしまった。


かつて佐々木ユウカは、パズルと能力者に向けた暗殺訓練の双方で鍛えた柔軟な思考を持つ柊ナナにその境目を見破られ、手の内を封じられ敗れた。
しかし、数多のデータを持ち、ロジックな思考に長けるバツガルフは、知識なら柊ナナをも凌駕するが、その境目を見抜く能力は、彼女に劣る。
異なる世界の征服を企む2人のヴィランは、佐々木ユウカという少女の裏を見抜ききれなかった。


そしてもう一つバツガルフは知らぬことだが、彼が魔王に渡した剣は、ただの鉄を叩いた刃物に非ず。
光の者に影を齎すと同時に、死した者に生をもたらす魔力を秘めている。
かつてザントは怪獣の頭蓋骨に刺し、その怪獣はザントの傀儡となり戦い始めた。
そのような武器をバツガルフは捨てるほど杜撰ではない。
だが、影の力を秘めた剣は、とある爆薬の材料であるニトロハニーシロップと同様、説明書の肝心な部分は隠されていたのだ。


見えぬ物を見破るのは不得意な彼が、その剣の力を見逃してしまうのも無理はない。
そして、ガノンドロフは影の世界に飛ばされた際にザントのことを知っているため、その剣の力を知っている。
だが、その剣が齎すのは救いか災いか、それはまだ誰も知らない。




【C-3/草原 一日目 午前】



【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大) ガノンドロフへの恐怖
[装備]:POWブロック@ペーパーマリオRPG
[道具]:イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品×2(自分、ピーチ)、遺体収納用のエニグマの紙×2@ジョジョの奇妙な冒険 陶器の馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品×1(彼女でも使える類)、愛のフライパン@FF4
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1:暫くはバツガルフと行動。集団に紛れ込めればいいんだけど。

※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※次の夜まで死体操作は出来ませんが、何らかの条件で出来る可能性もあります。
※死体の記憶を共有する能力で、リンク、仗助、ピーチ、マリオの情報を得ました。
 イリアの参戦時期は記憶が戻った後です。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)

【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) 至る所に焦げ付き 愉悦 
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品、POWブロック@ペーパーマリオRPG まだら蜘蛛糸×3@ドラゴンクエストVII
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し世界征服を叶え、ついでに影の女王へ復讐する。
1:ひとまずこの場所で休憩する。
2:打倒マリオ。その為の支給品集め。
3:マリオを味方と偽る形での悪評も考えておく。
4:ユウカの提案には一先ず乗ってみるか。
5:ユウカの能力とは?

※参戦時期は影の女王に頭だけにされて間もなくです。



【B-3/草原 一日目 午前】

【ガノンドロフ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]ダメージ(小) 腹に刺し傷 疲労(中) 
[装備]:ガイアーラの鎧@ドラゴンクエスト7、美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み) 柊ナナのスマホ@無能なナナ  マスターソード@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ザントの剣@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス 火縄銃@新世界より

基本行動方針:主催者も含め皆殺し、ただし生かすことでより混沌が生まれそうな場合は別。
[思考・状況]
1:バツガルフの話を聞いた通り、北へ向かいリンクを探して殺す
2:柊ナナのスマホに書いてあった、推定殺害人数の能力者(鶴見川レンタロウ、小野寺キョウヤ)に興味
3:せっかく手に入れたザントの剣をどう使おうか


※ハイラル城でリンクを待っている間からの参戦です。
※原作のようにマスターソード以外の攻撃は無効という訳ではありませんが、それでも大半の攻撃はダメージがカットされます。
※影の力が奪われているため、原作の第一戦(ガノン憑依ゼルダ)で使った憑依能力、第二戦(魔獣ガノン)の瞬間移動は出来ませんが、それ以外の技はすべて出来ます。
※魔獣化は出来ますが、長時間変わり続けることは出来ません。




【火縄銃@新世界より】
広瀬康一に支給されていた。
原作出典の武器、ではなく元の世界ではバケネズミの兵隊の武器だった。
言われるまでも無いが、現在の拳銃に比べると撃てる速さは劣り、慣れても1分に4発ほどしか打てないらしい(山川の中学日本史教科書より)
とはいえ、銃ではあるため一般人が受ければ致命傷は免れない。


【ザントの剣@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
バツガルフに支給された剣。真っ黒なデザインの剣で、普通に使うことも出来るはずだが、魔力を込めて死骸に突き刺せば傀儡として操ることが出来る。
原作ではザントは怪物の頭蓋骨にこれを突き刺し、覚醒古代獣ハーラ・ジガントとしてリンクを襲わせた。
本ロワでは同封の説明書には、武器としてしか書かれていない。



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064:明日へと向かう帰り道 時系列順 068:切望のフリージア(前編)
投下順 066:愛する人へ
057:月はなくともMOONはある 佐々木ユウカ 078:あいつをさがせ!!
バツガルフ
059:死刑執行中脱獄進行中(前編) ガノンドロフ 067:魔王決戦1 転がるように風を切って
最終更新:2022年07月17日 11:35