太陽が完全に顔を出す直前、ルビカンテは準備を整えていた。
恐らく明るくなれば、これまで以上に激しい戦いが訪れる。
きっと次の戦いに負ければ、死ぬことになる。
これまでの2度の敗北で死ななかったのも、ただ運が良かったに過ぎない。
慢心や不意打ちなどを含めて、少しでも負ける要素を減らさねばならない。
そのためにも、支給品を今一度確認する。
確か、もう1つ残っていたはずだった。
あまり道具に頼る戦いは好まないが、敗者に贅沢など許されない。
この際どんな物でも、使えるならば使うしかない。
期待を込めてザックをひっくり返すと、出てきたのは4つ折りに畳まれた紙だった。
何か入っているのかと思い、広げてみる。
そこに写っていたのは、重厚な武装に身を包んだ猪だった。
戦馬、いや、戦猪と言うべきか。
結局ハズレの支給品かと思うも、その時紙の中から鳴き声がした。
「ブルルルルルルーーーーッ!!!」
「なっ!?」
全くもって予想外の登場の仕方に、ルビカンテも驚くしなかった。
まるで水面から顔を出すかのように猪の鼻面が立体的になる。
そのまま全身が出ると、鉄の鎧をまとった猛獣は、闘技場の扉を突き破り、そのまま走って行こうとする。
ルビカンテは慌てて背に乗り、猪の鎧に付いてあった手綱を握り、動きを抑える。
「ま、待て!!」
「ブフゥゥゥーーーー……。」
どうにか足を止めてくれて、安堵するルビカンテ。
彼自身、乗馬の経験はほとんどない。
世界征服を実行する際には、主であったゴルベーザがいち早くバロンの中枢を乗っ取ってくれたおかげで、バロン王国を管理していた飛行船を自由に乗り回すことが出来た。
だから馬、ましてや馬より扱いが難しそうな猪の騎乗は、骨が折れそうだと感じた。
しかし手綱から分かるように飼いならされた獣だからか、それとも主催の手によりそのようにされているのか、いざ乗ってみるとさほど暴れることなく動いてくれた。
「よし、よし、良いぞ。」
不慣れな手つきで手綱を動かす。
次第にコツがつかめてきたような気がしていた。
その思い上がりは、すぐに打ち砕かれることになった。
そこへ、島全体に放送が流れる。
『セシル・ハーヴィ』
助からなかったか、と改めて思う。
最期の瞬間を見ることなく、戦場から強制退場させられたため、彼が逃げて、生き延びているとほんの僅かながら期待していた。
生き延びていたらどうするかは分からないが、借りの1つでも返せるのではないかと言う期待はあった。
『キングブルブリン』
「ブッ!!」
人の言葉が分かるのか、はたまた動物にも伝わる仕組みになっているのか分からないが、その名を呼ばれた時に、天に向かって吠えた。
「うわ!落ち着け!!」
急に動揺した猪を宥めようとするも、時すでに遅し。
「ブルルルルルルーーーーッ!!!」
最初に紙から出てきた、威勢のいい鳴き声とは異なる、悲しみと怒りがないまぜになったような叫びと共に走り出す。
「うわああああああああ!!!」
手綱を引っ張るも、全く意味がなかった。
そのままルビカンテごと、思いっきり走って行く。
その速さは、この会場を走る列車を優に超えている。
途中で何本かの木や、岩が立ちはだかるが、全て砕いて進んでいった。
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時は少し遡る。
バツガルフとの戦いが終わり、ピーチと別れた後でも、リンクはひたすらに走り続けた。
勿論、戦いで受けた傷がキリキリと痛む。
だが、そんなことを気にせず走り続けた。
あの時、自分のせいで死んだはずのイリアが生きている。
再び会えるという気持ちを胸に、ただ走った。
今度こそ彼女を守る。
そこへ島全体に行き渡る放送が流れた。
(死者……だって?)
走り続けながらも、その内容に耳を傾ける。
『モイ』
(そんな……アンタも死んだのか?)
同じ村で、何かあるとよく相談に乗ってくれて、剣術を教えてくれた男の名を耳にする
大分後でハイラルのレジスタンスの一員だと判明し、陰りの鏡を求めて時の神殿に向かう時は世話になった男でもある。
しかし、そんな彼の死を悲しむ間もなく、続けざまに知り合いの名前を呼ばれる
『キングブルブリン』
(死ぬのが思い浮かばないヤツなのにな……。)
かつて何度も死闘を繰り広げた怪物の名を思い出す。
崖から落とされても、滅多切りにされてもなお、挑んでくる奴だった。
イリアを攫った怪物として敵対しながらも、最後には実力を認め、協力をしてくれた。
実はこの世界では協力できるのではないかなと淡い期待を抱いていた相手だった。
『ピーチ』
(なぜだ……?)
その名前は、ある意味で前の2人以上にショックだった。
彼女との関わり合いは、ほんの数時間あるかないかだ。
それでも、彼女をバツガルフから守ることが、イリアを失った贖罪か何かのように感じた。
だからこそ戦いの後、彼女が生きていたのがこの上なく嬉しく感じた。
バツガルフが生きていたのか、それとも別の殺し合いに乗った者が近くにいて、ピーチは殺されてしまったのか。
イリアのことばかり夢中になりすぎて、またも誰かを失ってしまったことに後悔した。
でも、イリアの名前は呼ばれていなかった。
絶対に助けて見せる。
彼女を助けて――――――――
視界が急にまぶしく、鮮明になる。
太陽に目を射られたのか、と思ってしまうが、やがて視界が色を失い、形を失っていく。
同時に、高い山を登った時の様な耳鳴りがして、聴力を失った。
しつこく付き纏っていたはずの痛みが、急に軽くなる。
それから足の力が抜けて行き、正宗とトルナードの盾を地面に落として、崩れ落ちる。
理由はただ単純、体力が尽きただけだ。
最初の6時間、2度も戦い、その後も休まずに幼馴染をたずねて全力疾走していたからだ。
牧畜仕事や剣術で鍛え、野山を1日中駆けまわることの出来る体力を持っているリンクでさえも、限界はいつかは来る。
最後にイリアを追いかけねばという想いと共に、意識を手放した。
草と泥のみが、彼を受け入れた。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
「ウワアアアーーーーーーーッッ!!」
崖から落ちた時の様な悲鳴をリンクは上げた。
何しろ、目覚めた瞬間、視界に巨大な猪の鼻面がアップで映っていたのだから。
しかし、よく見てみると、その猪は初対面の獣では無かった。
「目が覚めたか。」
放送で呼ばれたばかりの宿敵が持っていた猪、キングブルボーの背中には、赤マントの男が座っていた。
(???)
記憶が混乱する。
ピーチからイリアの話を聞いて、そして彼女を追いかけた所から、イマイチ覚えていない。
「アンタが助けてくれたのか。」
目の前の男にそう質問する。
「助けたつもりなどない。ただこのケダモノが急に足を止めた先に、おまえが倒れていただけだ。」
「そうか……ありがとう。俺はリンク、この生き物の飼い主とは何というか……敵とも味方とも言い切れない関係だな。」
ルビカンテとキングブルボーに感謝を告げる。
しかもエポナのように長年共に過ごした生き物ならいざ知らず、獣の気持ちは分からなかったが、少なくとも踏みつぶさなかっただけ、お礼を言うことにした。
ついでにエポナにしてやったように、猪の頭をなでたが、キングブルボーはプイと顔を背けた。
素直じゃない所は、飼い主に似ているなと笑いが漏れた。
「聞かれてもいないことを話すな。それに礼など言われる筋合いはない。私はただこの殺し合いを壊したいだけだ。」
「それでも………痛ッ!!」
身を起こそうとした所で、再び体の節々に痛みが走った。
魔法による凍傷や火傷の痛みは、普通の切り傷や打撲よりも長く響く。
「弱者となれ合う気は無いが……回復してやろう。」
赤い衣を纏った男が両手を広げると、その痛みが格段に和らいだ。
「そうだ、そこまでしてくれたついでに、1つ教えてくれないか?」
「一応、聞いてやろう。」
「イリアという、金髪の少女を知らないか?」
逆方向から来たキングブルボー達なら、彼女を見たんじゃないのかと期待して聞いた。
「知らぬな。そもそもこやつに乗ってから会ったのは、おまえ1人だけだ。」
やっと起き上がれるようになってすぐに、他者のことを尋ねるリンクに対して、ルビカンテは呆れながら答えた。
「この少女のことだ。本当に知らないのか?」
カード名簿の束をバラバラにして、ルビカンテに見せようとする。
しかし、どうしてもあったはずのイリアのカードは見つから無かった。
「奴の放送を聞いていたのか?死んだ者の札は消えているはずだ。」
「そんなはずはない!!イリアは呼ばれなかった!!」
少し前なら、ルビカンテは死んだ「者」ではなく、死んだ「弱者」と答えていたはずだった。
だが、自分の命を身を挺して救ったセシルを、弱者呼ばわりすることは出来なかった。
「放送が間違っている訳でもないようだ。私がこの殺し合いで死んだと知っている者が呼ばれている。」
「俺は……一体何を……?」
イリアは確かに放送で呼ばれていなかった。
だからこの殺し合いで死んだのではなく、イリアのカードが混ざってないということは、あの時最初の場所で死んだということになる。
だがハイラル駅で五体満足だったはずのピーチが、イリアらしき少女がいると伝えた。
(……何がどうなっているんだ……!?)
訳が分からない状況に、リンクは頭が痛くなった。
ピーチが馬笛と言っていたことから、人違いをしたようにも思えないし、かといってウソを付いたようにも思えない。
ハイラル駅に戻り、ピーチに事の詳細を再度聞きたいが、彼女もまた放送で呼ばれてしまった。
「そうだ、もう1つ聞きたいことがある。」
「欲深いな。」
続けざまに質問をするリンクを、呆れながらもその内容を聞こうとする
「ピンクのツインテールの少女を見たことがあるか?」
「それもまた知らぬな。さっきからおまえの言っていることは意味不明だ。何があったのか最初から詳しく聞かせろ」
ルビカンテはリンクのことなど興味は無かったが、この殺し合いで未知の事柄を未知のままにしておくのは、死や敗北に直結すると知っていた。
現にこの戦いでも、マリオのことを知らぬがまま敗れ、眼鏡の少年の底力を知らない内にまたしても敗れた。
過去には情報収集のような頭脳労働は配下のルゲイエに任せていたが、ここには彼はいない以上、自分で有利になれそうな情報を集めるしかない。
イリアと言う少女が死んでいようと生きていようと、リンクがどうなろうと知ったことではないが、知らない情報のために自分が死んでしまっては困る。
「分かった。そうしよう。」
リンクとしてはルビカンテの言葉は意外なものだった。
見た目もあって人の話を聞かなさそうな風貌だったが、意外に話が分かる相手だと安堵した。
リンクは説明した。
イリアというのは最初の場所で、自分が殺した少女だということ。
ハイラル駅で、ピーチと言う参加者を襲っていたバツガルフと戦ったこと。
1度ピーチを駅の外に逃がしたが、その最中に駅に別の襲撃者がやって来たということ。
ピーチは無事だったが、彼女曰くイリアが襲撃者だという桃色の髪の少女を連れて、逃げて行ったということ。
そして、今に至る。
「愚かな男だ。せめてそのバツガルフという男を倒しておけば良かったものを……。」
「愚かなのは十分理解してるさ。」
リンクは自嘲気味に表情を歪める。
一方でルビカンテはしばらく何かを考えているような表情を浮かべていたが、突然口を開いた。
「死霊降臨術(ネクロマンシー)は知っているか?」
「知ってはいるが……どういうことだ?」
リンクもこれまでの冒険で、ゴーストや骸骨の魔物とは戦ったことがある。
だが、どうして急にその言葉が出てくるのかは分からなかった。
「知っているのなら簡単だ。この殺し合いの中で、死者を操る者がいたのかもしれぬ。」
ルビカンテとしては、同じゴルベーザ四天王にいたスカルミリョーネがゾンビを操っていたこともあり、彼自身は出来ないが知識としては知っている。
また彼の直属の部下であったルゲイエも、人間をゾンビの様な怪物に改造して、思うが儘に操る研究をしていた。
「イリアは……そいつに操られていたと?」
あの時のハイラル駅には、誰とは分からないが襲撃者がいたということは分かっている。
だが、それではまだ釈然としない部分がある。
「死霊降霊術の中でも、高度な物は配下の死者にも魔法を使わせたり、術者が思うが儘の言葉を話させたり出来る。」
「だが、それじゃあおかしい。あの時ピーチは『イリアが助けてくれた』と言ったんだ。
イリアに襲われたというのならともかく、助けてくれたというのはおかしいんじゃないか?」
「おまえはいつから操れるゾンビが、1体だけだと錯覚していた?」
「………そういうことか。」
「『ピンクのツインテールの少女』というのは、大方死霊使いが憎んでいる相手だろう」
まずはイリアを操ってピーチを殺す、あるいは死霊使いと共に殺して、そのままピーチを手駒に加える。
それからリンクを唆して、死霊使いの憎んでいる相手を襲わせる。
誰とも分からぬ死霊使いに完全に手の上で踊らされたことが今になって癪に障る。
「くそ……キングブルボーを貸せ!そいつを殺しに行く!!」
初めにイリアが殺された時は、ザントへの怒りと言うよりもむしろ、自分の弱さに対して怒りが向いた。
だが、幼馴染を死してなお弄んだ挙句、殺人をさせるようなことをした相手に対し、怒りを露わにせずにはいられなかった。
「慌てるな!!死霊使いが誰なのか分かりもせずに行くつもりか!!」
「うわっ!!」
ルビカンテが気持ちを早らせるリンクを一喝する。
そしてキングブルボーは体を揺らし、乗ろうとするリンクを突き飛ばした。
どうにもこの猪は、かつての主人の宿敵を乗せることを拒んでいるようだった。
「死霊が相手ならば、私の炎の術の格好の獲物だ。襲ってくるたびに焼き尽くし、死霊共が来た場所から奴を見つければいい。」
ルビカンテはキングブルボーに跨り、リンクが来た方向に向かおうとする。
「待ってくれ!俺も行く!!」
「おまえは別のことをすれば良い。私はこの殺し合いを破壊するつもりだが、なれ合うつもりはないと言ったはずだ。」
そのまま猪の蹄の音と共に、ルビカンテの姿は小さくなっていく。
おまえは別のことをすれば良い、と彼は言った。
別の方向を見ると、煙が上がっている建物があった。
リンクは1つ考えることになる。
例えイリアの命を弄んだことを除いたとしても、ミドナやゼルダを傀儡にされてしまう可能性は、一刻も早く取り除いておきたい。
しかし、キングブルボーは行ってしまった以上は、今さらハイラル駅付近に戻っても、遅れることは避けられない。
もしかすると延々と追いかける羽目になる可能性だってある。
本来なら、あの火事になっている場所に向かうべきだ。
火付けの下手人がいる可能性が高いし、今から走れば逃げ遅れた者を助けられるかもしれない。
だが、少しでも早く殺して、死してなお道具とされているイリアを救う事こそが、彼女への贖罪になると考える余地もある。
どちらにせよ、悠長に考えている時間は無いと感じ、リンクは地面を蹴り、走り出した。
その方向は、図書館のある南か、死霊使いがいるはずの南西か
【A-5/草原/一日目 朝】
【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ハート1/2 服に裂け目 所々に火傷 疲労(小) 死霊使い(佐々木ユウカ)に対する怒り(大)
[装備]:正宗@FF4 トルナードの盾@DQ7
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1.イリアを操っているはずの死霊使いを殺すか?燃えている図書館に人を助けに行くか?
2.ピンクのツインテールの少女(彼女が殺し合いに乗っているかは半信半疑)から、可能ならば死霊使いの情報を聞く
※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。
※地図・名簿の確認は済みました。
※奥義は全種類習得してます
【B-4/草原/一日目 朝】
【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/2 魔力消費(小)
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG キングブルボー@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせて受けた屈辱を晴らし、生き延びた者と闘う
1.南西へ向かい、死霊使いを倒す
2.あの帽子の男(マリオ)は絶対に許さない
3.弱者とは協力はしないが、殺し合いに乗っている者と闘う
※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。
[キングブルボー@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス]
ルビカンテに支給されていた意思持ち支給品。
ブルブリンのリーダー、キングブルブリンが愛用していた猪で、刺々しい鎧を纏っている。
頑丈だが、一度暴れると止めるのは難しい欠点がある。
最終更新:2021年12月31日 09:28