どうにか地面から抜け出したマリオは、仗助達を追わず、北へ向かい始めた。
何故かはわからないが、一刻も早くこの場所から離れたかった。
列車が進む方向とは逆向きに歩いている途中、放送が流れた。
既に仲間のことを忘れ、カゲに身を落とした英雄はその言葉が無くとも殺し続けるーーはずだった。
「アアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!!!」
何が原因かは分からない、とてつもない頭痛がマリオを襲う。
それはクレイジーダイヤモンドから受けた一撃よりも遥かに痛かった。
近くに誰もいなかったのが幸いだったが、辺りに凄まじい慟哭が響いた。
どの名前かは分からない。
けれど、今呼ばれた名前の中で大事な人がいたのは確かだった。
涙はとめどなく流れた。しかし、それは何のため、誰のために流した涙なのかは終ぞ分からなかった。
脳裏に何かがフラッシュバックしたが、靄がかかっているかのようにぼやけていて、それが誰の思い出か、何なのかは全く分からなかった。
だが、かつて想い人だった者の死を知らされても、彼の行く道は変わらない。
ただ、『彼女』のために命ある光の者を殺し尽くす。
――――もう、やめにしないか?
そのまま当て所なく歩くと、誰だかわからないのに、気配だけは感じる『誰か』が話しかけてきた。
――――このまま殺し続けていても、何も残らないよ。
聞いたことがあるけど、どこか聞いてて妙な心持ちになる声だった。
歩いた先に立っていたのは、もう一人の“マリオ”だった。
彼にはもともと瓜二つの弟がいたが、彼がマリオの恰好をしているなどという訳ではない。
兄弟や双子以上にそっくりそのまま、同じ姿なマリオがそこにいた。
否、1つ相違点がある。
それは両の目だ。
片方は墨で塗りつぶされたかのように光を失い、カゲに染まっているのに対し、もう片方は広い海のような青い光を湛えている。
――――それは君自身も分かっているはずだ。いや、ここでは「僕自身」と言うべきかな?
口を動かすことを忘れたマリオは、“マリオ”の言葉に答えることは無かった。
この場合どちらが本物のマリオなのかは分からないのだが。
――――だけどそれを認めたら、仲間を裏切ってまで女王に付いた理由が無くなってしまう。だから気付いていないふりをしている。そうだよね?
マリオはそれに応えず、素通りして行こうとした。
――――無視かあ。掛け声だけは溌溂としていたのに、無口な君らしいね。
無口と言われたのは、マリオも心外だった。だが、口を動かすことは無かった。
――――それとも、仲間たちのリーダーとして、聞き上手を通していたのかな?
当たり前のことかもしれないが、“マリオ”は自分のことを全て見透かしたように話をしてくる。
――――君はリーダーでありながら、自らの意志で選択出来る機会はほとんど無かった。
――――自分で判断して行動しているように見せかけて、不思議な地図やピーチ姫のメールに従って動いてばかりだった。
――――だから自分で選択しなければいけない時に、あの答えを選んでしまった。
“マリオ”は話を続ける。
その言葉に腹立たしいとも思わない。悲しいとも思わない。
“マリオ”が話している人物は、最早赤の他人だからだ。
――――勘違いしないでね。僕は君があの時、女王を受け入れたことを否定している訳じゃないんだ。
――――選択と言うものは得てしてそれ自体に問題があるわけではなく、その後どうするかが重要なものだ。
――――そもそも、君はどうして女王がいないこの場所で、殺し続けている?
鬱陶しいと思ったのか、マリオはハンマーを振り回して、“マリオ”に振りかざす。
それは煙のように消え、少し離れた場所にまた現れた。
――――理由も無く、殺し続ける、か。
言葉に発さずとも、“マリオ”には伝わった。
距離を一度離した後、またしても“マリオ”は近づいてくる。
何をしに来た。
そこでマリオはこの世界に来て、初めて抱いた疑問だった。
――――拒絶したと思ったら、今度は質問だなんて、我ながら随分勝手だね。
言葉には出さずとも、そう思っただけで“マリオ”はその疑問に答えた。
――――ただ君は自分の気持ちに向き合ってくれる相手が必要だと思った。それだけさ。
――――こうなってしまった以上、僕ぐらいしかそれが出来る相手はいそうにないしね。
マリオはもう一人の自分に近づく。
今度は攻撃することは無かった。
ただじっと、“マリオ”の青い瞳を見つめていた。
――――どうすればいいって顔してるね。
――――そうなるのも無理はない。君は今まで助けてばかりで、助けを求めたことなんてなかったからね。
――――でも、そのために何をすれば良いかなんて、悩む必要はない。必要になれば自ずとその答えが出てくるはずさ。
――――それに、もう忘れてしまったかもしれないけれど、君のことを大切に思ってくれる人は沢山いる。
――――その人が君を助けてくれるのを待つのも、時には良いんじゃないかな。君が大切に思っていた人がよくやっていたみたいにね。
マリオの白い手袋が、“マリオ”の手を掴もうとする。
それは拒絶の手か、助けを求める手か、許容の手か、マリオにさえ分からない。
だが、その時、赤い帽子とツナギの男は1人しか立っていなかった。
“マリオ”は本当に幻想のマリオなのか。
ここに立っている赤い帽子とツナギの男は、本物のマリオなのだろうか。
もしも、ここにマリオのことを知っている者がいれば、どちらをマリオだと認めるのか。
“マリオ”が消えた時、マリオは何かを思い出したかのように立ち止まっていたが、再び歩き出した。
あの男は一体誰だったのか、自分は一体何者なのか、分からないままだがそんなことはどうでも良かった。
この世界ではやることは、最後の一人になるまで殺し続ける。
彼の心にあったのは、それだけだった。
【C-7 朝】
【マリオ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(中) FP消費(小) 腹部、背中に打撲
[装備]:折れた大型スレッジハンマー@ジョジョの奇妙な冒険 ジシーンアタックのバッジ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品×2 ランダム支給品0~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺す
1:北へ向かい、新たな参加者を狩る
2:???
※カゲの女王との選択で「しもべになる」を選んだ直後です
※カミナリなど、カゲの女王の技もいくつか使えるかもしれません。
最終更新:2022年03月06日 09:57