「「おい!!おい!!向こう!!」」

列車の窓から横を見ていた東方仗助と、無人の運転席側から前を見ていた小野寺キョウヤ。
2人が声を上げたのは同時のことだった。

「何があった。」
「そっちこそ何があったんすか!?」

互いの言動に驚きながら、何を見たのか訪ねる。


「龍だ!龍がいたんだ!!」
先に言ったのはキョウヤの方だった。
その表情や口調は、どうにも仗助をからかっているようには聞こえない。
そもそもサイボーグのような姿の参加者を見かけて、龍の存在を疑うというのも奇妙な話だ。

「龍っていうと……あのガーッって奴だよな。どこにいるんだ!?そいつは。」
仗助は両腕を広げ、巨大な生き物のジェスチャーをする。

「……。」
しかし、辺りを見回すキョウヤから返ってきた返事はなかった。
「おいおい、まさか『じょーだんでした~』って奴じゃ無いっすよね~?」

だが、仗助の目には龍のような巨大な存在は全く映らなかった。
「いや、確かに見たはずだ。目の前に黒い龍が飛び込んできたんだ。」
キョウヤは戸惑いながらも、自分の言葉を否定しなかった。


「電車に轢かれる龍なんてどうにもマヌケだけど、見えないってのはどういうことっすかね~。」

一瞬仗助の頭に思い浮かんだのは、祖父、ジョセフと共に世話を焼かされた透明の赤ちゃんのこと。
状況に応じて、その龍とやらも姿を消す、あるいは別の生き物に姿を変えたのではないかと考えた。
だが、その考えはすぐに捨てた。
透明の赤ちゃんと同じ能力ならばぶつかった列車の姿も消えるはずだし、たとえ姿が変わっても電車に衝突した音一つ響かないのはおかしいからだ。


最もその龍はゴルベーザの呼び出した召喚獣で、すぐに姿を消しただけなのだが。

「考えても分からん。東方、おまえさんが見た物は何なんだ?」
「写真っすよ。」
「写真?それならば飛んでいてもおかしくは無いんじゃないのか?」

別方向に予想外な回答を聞かされて、キョウヤも目を丸くする。
龍とは異なり、写真なら風に飛ばされていてもさしておかしくはない。
少なくともサイボーグが襲ってきたり、列車の前に龍が立ちふさがることに比べると、幾分かは現実的な風景だ。


「いや、少し前に空飛ぶ写真で、嫌な思い出がありましてね~。さっき吉良って殺人鬼の話はしたでしょ?」
仗助は話すことにした。
写真のおやじ、吉良と同様に厄介な彼の父親のことを。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


風に乗り、のび太たちを振り切った吉良吉廣は、愛する息子を探して南へ飛んでいた。
どちらかというと彼は騒がしい場所を好まない。
だから戦いの会場の中心へ行かず、周囲から探していくことにした。

そんな中彼の目に入ったのは、会場を疾走する列車。
念のため列車の中を確認してみると、そこには愛する存在の敵である、忌まわしき男、東方仗助の姿があった。


(ゲッ……!!奴は……!!)
列車越しからでも分かる、あの独特な髪型は忘れられなかった。
息子の命を狙う悪党、東方仗助の姿を見かけて、吉廣は歯を食いしばる。
家にまで押しかけて、殺人をしただけなのに愛する息子を殺そうとする極悪人の一人だ。
挙句の果てに、写真の姿をした自分は一度奴に嵌められて、あろうことか息子の能力で殺されてしまった。
すぐにでもこの細菌兵器をぶちまけてやりたいところだが、そう思っている内に電車は過ぎ去ってしまった。


しかし、仗助だけではなく、それ以上に目を引くものが視界に入ってきた。
それはとぐろを巻いた黒い龍。
だが、その龍は一瞬目に入っただけで、列車に触れた瞬間、消えてしまった。


(なんじゃあれは……)
上手く行けば列車の中にいる厄介者にダメージの1つでも与えられるのではないかと期待したが、いとも簡単に裏切られて、何とも言えない気分になる。
ただし、近くにあの龍を操るスタンド使いがいるかもしれないと思い、高度を上げ、さらに線路側から離れて森の中に入り、辺りを警戒する。


そうしていると見かけたのは、金髪の青年だった。
どうやら後ろ暗いことをしているかのように、何度か前以外の方向をチラチラ見ている。
まあ見つかっても、この高さからなら捕まることはまずないだろう。


そう思ったのが間違えだった。

「なっ!?」
突然下から、少年のナイフが飛んで来た。

「何をしていたのですか?」
「お、おまえは!!」
驚く間もなく、写真のおやじは一本の木に磔にされてしまう。

「こんな所に写真が飛んでいたから奇妙だと思ったら、やはりタダの写真じゃなかったようですねえ。」
金髪の少年は醜悪な笑みで、刺さったナイフをグリグリと動かす。
しかし、まだ吉廣には切り札があった。

「早くこれを解け!!この細菌兵器を見ろ!!コイツをうっかり間違えて落としたりすれば、おまえなど真冬のカブトムシより簡単に死ぬぞ!!」
のび太から奪った細菌兵器、サイコ・バスターを見せつけ、脅しにかかる。
それを見た少年は、慌てて木の方向に走り出した。



(ふん、少し脅しただけでこのザマか。まあこれが若造との年季の違いと言う奴よ……!?)
近づいてくるはずの足が、急に止まったと思いきや、突然サイコ・バスターを持つ手に外側からの力がかかる。

「はい、いただきます。」
その力が、夜の闇に紛れた半透明の少年のものだと気づいた時はもう手遅れだった。


(なんじゃ……あれもスタンドか!?)
言うならば、幽体離脱。
肉体を捨てて自由に動けて、しかも物を掴むことが出来る能力は驚くばかりだが、それどころではない。
切り札をいとも簡単に奪われ、いよいよ八方塞がりだ。

「安心してください。汚い男性の写真などに興味はありません。」
「ま、まさか、このままにしておくつもりか?」
「そうですね。特に得することも無さそうなので。」


得することがないなら捨て置くならば、まだ何か情報を提供することで動かしてもらえる可能性もある。
「そ、そうだ、おまえの鞄に入れさせろ!そうすればわしが知ってる情報をお前に伝えてやるぞ!!」


返事は無く、少年は足を止めなかった。

「ワシはワシの息子が助かればそれでいい!!ワシの息子に手を出さなければ協力もしよう!!」



レンタロウは口元を歪める。

これは面白い拾い物をしたと。
レンタロウは美しいものが好きだ。
美しい生き物、可愛らしい生き物を見ると、汚してみたくなり、汚れている部分を暴いてやりたくなる嗜好の持ち主だ。
それ故、薄汚い中年男性の映った写真など、後生大事に取っておくものでは無かった。
最も、細菌兵器を食らって、醜くのたうち回る美しい生き物を眺めるのは面白そうだったので、サイコ・バスターは奪ったのだが。


「おお、物分かりが良くて助かるぞ。」
「ええ。あなたの息子への気持ち、わかりましたので。ただし、あなたの細菌兵器とやらはもらいますよ。」
「仕方が無いな……好きにしろ。」

だが、先程の写真の男の発言で、レンタロウの気持ちは変わった。
この男は、見た目こそ醜いが、子供への愛こそはベクトルはどうであれ純粋で美しいものだと。
言うならば、この写真の男にも汚せるものはあるのだと。
それは他の能力者と同様家族から離れて生活をしていた彼にも分かることだった。
だからこそ、木に刺さったダンシングダガーを抜いて、写真の男を解放した。


是が非でもこの写真の男と、この殺し合いにいるらしき「息子」とやらを会わせてみたくなる。
勿論優しさではない。
美しく映える、親子の情を汚すためだ。
再会できた所で奪った細菌兵器をばら撒き、互いのことなど知ったことじゃないとばかりに逃げ惑う姿を見たい。
また、息子とやらをナイフで切り刻み、今わの際に「この写真の男のおかげでこんなことになった」と教えてやるのも良さそうだ。



「それと教えて欲しいことがあります。あなたの正体は何なのですか?」
それを実行するに至って、この写真の男が何者であるのか、なぜ写真の姿でこの会場を散策しているのか聞いておかねばならない。
特別な写真と聞いて思い出すのは、今は亡き彼のクラスメイト、波多平ツネキチの未来が見える写真のことだが、それとは全く違う。
首輪を付けていない(これに首輪をつけるのは難しいという話は無しにして)という点も気になった。


「ワシはな、父親として死んだところを、写真となって蘇り、何故か支給品に混ざっていたのだ。」
「なるほど。あなたは支給品であって、参加者ではない。そういうことですか。」

レンタロウは顔をしかめた。
この写真の男は悪知恵が働く存在だということを知ったからだ。
先程は自分の話をしながらも、全く息子と関係する情報を流していない。
名前ぐらいは話してくれるはずだから、その名前からどの参加者なのか推理すればいいと思った。
息子の名前さえわかれば、この写真に用は無いからだ。


「それとだ。あちら側に向かう列車に、サザエさんのような髪型をした男が乗っていた。奴には気を付けた方がいい。ワシら親子の命を狙う、残酷な男だ。」
「サザエ……?わかりました。色々教えてくださりありがとうございます。」

そこでレンタロウはザックから支給品を取り出した。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ゴロツキ駅に到着しました。5分以内に下車しなければ、首輪を爆破します。」
チャイムと共に車内放送のような物が流れ、降りることを強制させる。


仗助達が降りたゴロツキ駅は、死んだように静まり返っていた。
着いた時間は午前3時過ぎ。
屋根があった神栖駅とは対照的に、構内もなく野ざらしで、改札も小さなゲートに毛が生えたようなもので非常に小さい。
一本の街灯のみが寂しく駅を照らしている。


「さて、東方。どっちへ向かう?」
「俺としては南の山岸由花子の別荘っすかね~。」
「なら、俺としても向かいたい場所がある。向こうの建物だ。」
キョウヤが指をさしたのは、ここからそう離れてもいない建物だった。


「あれは……学校だな。キョウヤが行ってたとか?」
「そういうことだ。俺の知り合いもいるかもしれない。」
元々「学校」という曖昧な名称で地図に載っていたし、自分が通っていた学校だとは思ってなかった。
だが、ここからその姿を見ると、間違いなく自分達の学校だ。
小野寺キョウヤとしては、知り合いの一人ぐらいはあの学校にいるのではないかと言う期待があった。
仗助の知り合いとやらも気になるし、再会できればうれしいことこの上ない。
だが、キョウヤとしては元の世界の知り合いがどうしているかの方が気になる。



「じゃあ、行こうぜ。さっき列車の中で確認したけど、丁度いい物があってな……」
ザックから出したのは、小型バイクだった。

「おお、こんなものまで支給されているとはな……。お前さん、免許を持ってるのか?」
「勿論、持ってねーっす。でも運転したことはあるから問題ないでしょ……!?」


そこへ闇夜を駆け抜け、一迅の赤が襲い掛かる。

「ドラァ!!」
そこから振るわれたハンマーを、仗助のスタンドが殴り飛ばした。

動きが止まり、はっきりと見えたその姿は、別世界の存在ながらも、知っている相手だった。


「おめーは……」
「マリオか……!」

不気味な笑みを浮かべるのは、バツガルフが配下と言っていた男だった。
とはいえ、バツガルフが流したガセだと思っていた以上、マリオが殺し合いに乗っているのは予想外だったが。


「話が通じる相手でもなさそうだな。」

敵の目は、ひとかけらの慈悲も無いほど、闇に満ちていた。
弾き飛ばされてなお、ハンマーを振りかぶって、二人に襲い掛かる。

「じゃあ話し合いがしたくなるまで何度でも叩いてやんよ!!」

クレイジー・ダイヤモンドの範囲に入る少し前に、大きくジャンプ。
そこからハンマーを叩きつけて来るのかと思いきや、叩いたのは地面だった。


「「!!?」」
地面を叩いただけとは思えないほど強力な衝撃が足の裏に伝わり、二人は立てずにいられなくなる。
マリオが殺したセシルから奪った支給品の中にあった、「ジシーンアタック」のバッジの効果だ。

しかし、これでマリオの攻撃は終わりではない。
ハンマーを掲げると、仗助に雷が落ちる


「ぐああああああ!!」
スタンドの屈強な戦士は腕をクロスさせ、身を守る。
それは雷とは似て非なる者である以上、一撃で人を殺すほどの力はない。
増してや仗助はキラークイーンの作動させた爆弾に巻き込まれても生きているほどの生命力を持っている。
とはいえ、ある世界を闇に包もうとした女王から借りた力。
そのダメージは決して低くはない。


「東方!!」
しかしただ仲間の心配をするキョウヤではない。
先程電車に乗っている間に、仗助だけではなく、彼もまた鞄の中身は確認しておいた。
中で眠っていた「それ」はむき出しで持ち歩くには持て余してしまうため、見つけた後も仕舞っておいたのだが。


雷を落とした後でも、闇に落ちた英雄はなおも攻撃の手を休めず、ハンマーを振り回して飛びかかる。
そこにドン、と大きな音がして、爆撃を受けたマリオが大きく吹っ飛んだ。


「キョウヤ……助かったぜ……。」
「無事で良かった。」

彼が担いでいたのは、ハイラルのレジスタンスが持っていたバズーカだった。
殺傷力は見た目ほど高くないのだが、それでも成人男性一人を吹き飛ばすには十分な威力だった。


「しかしすげえな!バズーカとか……使い慣れていたのか?」
「本物を使うのはぶっつけ本番だった。まあ、日ごろやってるテレビゲームのたまものという奴かな。」

彼の同級生のモグオやセイヤほど、持っている能力が攻撃向きでないとはいえ、彼は戦場の案山子になるつもりはない。
かつて同級生を殺した「人類の敵」を一人で探っていた時の様に、冷静に状況を分析しながら最適解を見出そうとする。
敵が仗助にかかりきりになっていると判断し、出すのも発射するのも隙を要するバズーカを使ったのだ。

しかし敵もバズーカ程度で終わる相手ではない。
彼も直撃したわけではなく、ハンマーの柄で砲弾を受け止めたのだ。
それでも完全に威力を殺しきれず、吹き飛ばされて、爆風によるダメージも少なからず食らったのだが。


今度はキョウヤ目掛けて、黒い雷が落ちる。
「そうはいかねえぜ!!ハーミット・パープル!!」

仗助はキョウヤの頭上に目掛けてクローショットを放つ。
鍵爪を飛ばすのではなく、クローショットそのものを空に目掛けて投げつける。
金属製のそれは、確実に雷を受け止める避雷針になった。


雷を予想外な形で凌がれたマリオは、驚きもせずハンマーを縦に振り回して襲い掛かる。
まともに当たればセシル同様、仗助も死に至るはずだ。


「そう何度もやられますかってんだ!!」
バチィンと小気味良い音が響く。
クレイジー・ダイヤモンドの両手で上から迫りくるハンマーを挟んで受け止めたのだ。


「ドラァ!!」
そのまま横方向に力をかけ、ハンマーの柄をへし折った。
それはジョースター家の縁から来るものなのか、彼の甥である空条承太郎がかつて刀のスタンドを掴んで折った時に近しい光景だった。


「もう一発と言わず、何度でも決めてやるぜ!!」
今度は一転、仗助が攻勢に出る。
大型スレッジハンマーという、最大の脅威は取っ払った。
このまま一気に攻め続ければそう勝ちは遠くないはず。
仗助はそう思っていたし、キョウヤも同じことを考えていた。


すでにスタンドは拳を固め、マリオに仕上げのラッシュを入れる体勢に入っていた。
まともに当たれば車さえ容易に破壊できるクレイジー・ダイヤモンドの威力は折り紙付きだ。


「ドラ………」

マリオに、雷のお返しを何倍にもして返してやるつもりだった。
もう一瞬時間があれば、事実それは出来ていた。


仗助の視界に火花が散る。
そして、彼の巨体が木の人形のように簡単に蹴とばされた。
肉体での攻撃をまるで考慮していなかったなんて、自分は何て単純なミスをしていたんだ、と相手よりも自分に苛立つ。
それは仗助のみならず、キョウヤも同じだった。


仗助を蹴った勢いでさらに高く飛び、マリオは追加攻撃を加えようとする。
ジャバラジャンプ。
元々売りであった彼のジャンプ力に、さらに拍車が掛かった一撃だ。
本来はウルトラブーツの力無しではマリオでも出来ない芸当だが、女王の呪いによって強化された肉体、それに敵を蹴った勢いによって、天高く跳び上がったのだ。


「くそっ!!」

仗助とマリオの距離が離れたのをいいことに、キョウヤは再度バズーカを構え、発砲する。
しかし、まぐれは二度は続かない。
砲弾は明後日の方向へ向かい爆ぜる。


すかさず赤の槍はキョウヤ目掛けて突き刺さる。
勢いよくヒットし、そのまま駅の壁目掛けて転がり、倒れた。


「キョウヤ!!」
叫んだところでどうにもならない、が、叫ばざるを得なかった。
すぐにクレイジー・ダイヤモンドで治療しようと思うが、そんな余裕をマリオが与えてくれるはずもない。
そして、仗助が近接、キョウヤが遠距離を担っていた戦闘で、遠距離側に出来た隙を、マリオが狙わない筈がない。


再度高く跳び上がり、キョウヤの顔目掛けて鋭い一撃を見舞う。
ゴキリと嫌な音がして、一人の少年が動かなくなった。


「くそおおおおお!!」
重ちーに次いで、仲間が死んだ。
自分の浅はかな考えのせいで、仲間を死に至らしめた。

「ドララララララァ!!」
怒りのラッシュが炸裂する。
だが、怒りにより隙が出来ていたことを見抜いたマリオは、慌てず騒がず高く跳ぶ。
そして今度は仗助の頭の上を狙うのではなく、彼を大きく飛び越える。

「逃げてんじゃねえ!!殴り合いで勝負しろコラァーーー!!」
拳があと少しという所で、空を渡るマリオにぶつかりそうになる。
彼の速さにも追いつけるのは流石のスタンドということか。



「なっ!?」
しかしその拳は直撃はしなかった。
咄嗟にマリオは鞄から、セシルの氷剣を出し、盾替わりに使ったのだ。

本来剣や盾を使うことは無いマリオだが、緊急回避用の道具としては有用だった。

「つ、冷てえ!!」
仗助の右手に感じたのは、先程バツガルフから受けた冷凍光線と同じ感覚。
パンチを受けたアイスブランドは、ボキリと折れるも、そのお返しとばかりに殴った物の腕を凍らせる。


慌てて腕を引っ込めるが、それはマリオが仗助の後ろに回り込むのには十分すぎるほどの時間のロスだった。
そしてマリオは仗助の背後からすぐに攻撃をすることはなく、用済みになった氷剣を捨て、折れたハンマーの柄の、鈍器が付いている方を掴みに行く。


「ドラララララララララララララ!!」
怒りに燃える仗助の、スタンドラッシュが襲い掛かる。
しかし、マリオの振り回すハンマーは、折れる前よりもスピードが増していた。
風車のごとき回転が、ラッシュの威力を明後日の方向に受け流し、さらに勢いが増す。

「くそ……こいつ、はええ!!」
元々マリオが持っていたハンマーは、柄があまり長くはなかった。
従って、並の人間を優に上回る体格の者向けのハンマーなら、少しくらい柄が折れた方が使いやすかった。


「―――――ッ!!」
スタンドでガードしたため、致命傷こそは免れるも、大きく後退させられる。
距離が出来、近距離型スタンドであるクレイジー・ダイヤモンドの射程から外れた瞬間、マリオは再びハンマーを掲げた。
またも音石がやったような電気攻撃か、と思い身構えるも、それは異なる術だった。


(な……何か来る……やべえ!!)
先程から醸し出されていた邪悪な気配が、数段増した。
立っているだけで総毛立ち、仗助の第六感が逃げろと告げた。



それは、彼が勇者だった時にゴールドスターストーンを媒体に使っていたムキムキボディ、ではない。
カミナリと同じように、女王から承った肉体強化の術だ。


逃げる間もなく、今度は横からハンマーの一撃が襲い来る。
「ドラァ!!」
何度目か、拳と槌がぶつかり合う。


(くそ……痛てぇ……何でもありかよコイツ……。)

しかし、右腕に受けた衝撃はこれまでとは比べ物にならなかった。
まるで素手でダイヤモンドの鉱脈を殴ったかのような痛みと共に、拳から血が滲み、腕を引っ込めてしまう。
そこへトドメの一撃が振るわれる。


――――はずだった。


「確かに面白い道具だ。お前さんがハマるのも分かるな。2つあったらクローショット仲間を作りたいものだ。」
振るわれるはずのハンマーは、鍵爪ががっちり掴んでいる。
予想外の方向から引っ張られ、肉体が強化されていたマリオもバランスを崩した。
小野寺キョウヤの能力は「不死身」。
従って、頸がおかしな方向に曲がっても、暫くすれば復活する。

「今だ!東方!!」
「お、おうよ!!」
首の骨を折られて、死んだはずのキョウヤが生きて、しかもクローショットまで使っていたことに驚くが、紛れもないチャンス。


「ドラァ!!」
狙いすました拳が、引っ張られているマリオの腹部に一閃。
キョウヤのことを全く考えていなかったマリオは、完全にノーガードだ。
クローショットの拘束からは解かれるが、赤の砲弾として、派手に駅の方まで吹っ飛んでいく。



★★★★★★★★★★★★★★★★


――――僕は、ここで何をしている?

派手な一撃を食らって、目を開けた先に、飛び込んできた光景は、見たことのある光景だった。
地面に叩きつけられた衝撃で、床の一部分がめくれている。
確か、ここにほしのかけらが埋っていて


皆で列車に乗るのが楽しみだってチビヨッシーがはしゃいでいて、バレルが注意して、クラウダがそれをみて呆れて。
ビビアンは姉のことを気にかけていて、それをノコタロウが心配して。
クリスチーヌが列車のことを調べようとして、チュチュリーナが列車にあるお宝を探そうとして。

――――誰の記憶?


こんなことをしている場合じゃない。
誰の物か分からないような記憶を、思い出している場合じゃない。
僕は、戦わないといけない。



――――誰のために?

女王様。
違う、ピーチ姫。
僕の大切な人。
ゴロツキタウンで出会えた仲間よりも大切な人。

ピーチ姫。
違う、女王様。
ピーチ姫なら、自分が誰かを殺すことなんて望まない。
女王様は、僕もピーチも生かしてくれた。
そして、永きに渡り仕えるために、新しい力をくれた。


彼女を守るために、戦わなければいけない。
でも、彼女って、誰?



――――今、僕が従っているのは、ピーチ姫?女王様?


★★★★★★★★★★★★★★★★


マリオが吹っ飛んで数秒。
これまで言葉もしゃべらずただひたすらに殺しに来ていた男が、こうしてうずくまっているのは、紛れもない僥倖。
だが、二人とも薄気味の悪さを感じていた。


「あいつ、どうしたっていうんだ?」
クレイジー・ダイヤモンドによる一撃が原因で苦しんでいるとも思えない。
「敵のこと、心配している場合じゃ無くないっすか?」
「そんなんじゃないが、どうにも細かいことが気になる性分でな。
奴はあのバツガルフと言う男に操られているのかもしれん。」
言われてみれば、バツガルフがああ言ったのも合点がいく話だ。
例えばDIOが肉の芽を虹村慶兆の父に植え付けたように、何か操り人形にしている道具があるのかもしれないと仗助も勘繰る。

「…案外当たってるかもしれないっすね。それとキョウヤ、一つ頼みがあるんすけど。」



そうこうしているうちにマリオは立ち上がり、再びハンマーを向けて襲い掛かってくる。
時間経過で切れるのか、先程の強烈なオーラはもう無かったが、それでも邪悪な気は留まることを知らない。

「とにかく自分の身を安全にしとけよ。いつ雷が来るか分からねえ。」
「言われなくてもそうするつもりだ。」


初手はハンマーか雷のどちらが来るか警戒していたが、ハンマーを振りかざして走ってきたことから、前者で間違いないと判断する。

仗助が再度受け取ったクローショットを、キョウヤはバズーカを放つ。
鍵爪はハンマーで弾き飛ばされ、コントロールの欠如から砲弾は当たらず、マリオの少し前に落ちる。


舞い上がる砂煙は、一見視界を遮るかのように見えたが、ハンマーの一振りで霧消する。

「ドララララララ!!」
ハンマーを振った所で、仗助が勢いよく走り、バズーカの爆心地、丁度マリオがいるあたりの場所の穴をさらに広げる。


「俺のクレイジー・ダイヤモンドは、『治す』ことも出来るんだぜ!!」
そして彼はスタンドでの穴掘りだけが目的では無い。
クレーターのように抉れた地面に、ジグソーパズルのように瓦礫が集まり、元通りになる。

中心にいたマリオがいるのを無視して。


「なるほど、やるじゃないか。」
破壊と再生の合わせ技で、気が付けばマリオは胸の上を残して地面に挟まっていた。
両手で藻掻こうとするも、しばらくは時間がかかる。



「よし!!今のうちに行くぜ!!後ろに掴まってな!!」
そこから追加攻撃に行くかと思いきや、ここで仗助が見せたのは父譲りの技。
すなわち、逃走だ。

ここで、出したばかりのバイクがようやく出番が来る。

「なるほど、そうするか。」


キョウヤとしてもこれには賛成だった。
手負いの獣は何をしてくるか分からない。
拘束してようとしてまいと、その危険性に違いはない。


「確かあの学校に向かいたいって行ってたっすよね?」
「ああ。あの場所なら休憩できそうな所もある。そこで傷の手当てもするぞ。」
「ところでキョウヤはしなくても……。」
「問題ない。」

2人が向かった先にあるのは、キョウヤが言っていた学校。
あの場所ならば最悪追ってきても、内部の情報ならばキョウヤの方が詳しい。


ひとまずマリオと戦った時に消耗した体力を回復させるために、バイクは学校へと向かう。


【E-8 学校付近 早朝】


【小野寺キョウヤ@無能なナナ】
[状態]:健康
[装備]:モイのバズーカ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス (残弾2/5)
[道具]:基本支給品(切符消費)、替えの砲弾×5 ランダム支給品(×0~2 確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者が何を考えてるのか。少なくとも乗る気はない。
1.ひとまず学校へ向かう
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.知人の捜索。優先順位は佐々木=鶴見川>犬飼=柊。
4.東方仗助は信用してもよさそうだ。
5.吉良吉影、柊に警戒。
※参戦時期は少なくとも犬飼ミチルの死亡を知った時期より後です。
※不老不死の再生速度が落ちています。少なくともすぐには治りません。
※死亡した場合一度死ぬと暫くは復活できません。
※仗助からダイヤモンドは砕けないの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。


【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左腕凍傷、腕にダメージ 軽い火傷
[装備]:クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(切符消費)、ランダム支給品(×0~1 確認済) 承太郎が盗んだバイク@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:乗るつもりはない。
1.学校へ向かい、傷の手当てをする。その後山岸由花子の別荘へ向かう。
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.仲間を探す。不安と言う意味で由花子か生き返ってる重ちー、一般人の早人を優先したい。
4.吉良吉影を探す。乗ってるかどうか関係なしにぶちのめす。
5.佐々木ユウカ、鶴見川レンタロウに警戒。
6.クローショットがちょっと楽しい。
※参戦時期は少なくとも最終決戦、億泰復活以降です。
※キョウヤから無能なナナの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。
※マリオはバツガルフに操られている(DIOの肉の芽を植え付けられた虹村家の父の様に)と思い込んでいます



【E-8 ゴロツキ駅付近 早朝】


【マリオ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) FP消費(小) 腹部、背中に打撲 拘束中
[装備]:折れた大型スレッジハンマー@ジョジョの奇妙な冒険  ジシーンアタックのバッジ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品×2 ランダム支給品0~3 
[思考・状況]
基本行動方針:殺す
1:この場所にはいたくない
2:???

※カゲの女王との選択で「しもべになる」を選んだ直後です
※カミナリなど、カゲの女王の技もいくつか使えるかもしれません。




一方で、場所はE-8の森の中。駅からも学校からも少し離れた所。
「お、おい!!何をしているんだ!!奴等行ってしまうぞ!!」
鶴見川レンタロウの制服ポケットの中から、しわがれた声が響く。


「うるさいなあ。俺は奴等には興味が無いんですよ。」
レンタロウは仗助とキョウヤがマリオと戦っている所を、美夜子の支給品にあった「スパイ衛星」で監視していた。

「そもそも、お前の能力があればそんなことをする必要もないだろうが!!」
「あんたが原因なんですよ。幽霊になっている間にあんたが俺の物を奪って逃げられる可能性だってある。」
「……!!」
普段から後ろ暗いことをしているレンタロウは、慎重派な性格だった。
幽体離脱をして、小動物を殺めるときには親分のモグオの説教中や、トイレの個室の中からなど、常にアリバイの利く場所から犯行を重ねていたように。


しかも、戦いが終わるや否や、学校を素通りしてさらに南西、すなわちバロン城や山岸由花子の別荘がある方へと向かう。

「お前、奴らを追う気は無いのか?」
「ええ、俺はただ美しいものを汚したいだけなので。あなたの因縁の相手なんて興味が無いんです。」
「~~~~~~!!」


どちらも目的の為なら手段を択ばない性格だが、その目的が大いに異なっているため、合わないのも当然だ。
もしもの話、彼が殺し合いに呼ばれるのがもう少し後なら、その犯行をキョウヤに見抜かれたことで、報復の相手として選んだかもしれない。
だが、彼はまだキョウヤのことなど、1人の同級生程度にしか見ていないので、彼にも興味は持ってなかった。



【鶴見川レンタロウ(@無能なナナ】
[状態]健康
[装備]ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ
[道具]基本支給品×2 オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち、ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII、石ころ帽子(エネルギー切れかけ)@ドラえもん、スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険 サイコ・バスター@新世界より 写真のおやじ@ジョジョの奇妙な冒険 不明支給品0~1、美夜子の支給品0~1、 
[思考・状況]
基本行動方針:参加者がキレイな内に"表現"する。
1.南へ向かい、新たな獲物を見つける。吉良吉影は是非とも殺してみたい。
2.急かす写真のおやじに苛立ち
3.サイコ・バスターに興味。ナイフで切り刻むのも良いが、病気で苦しむ姿も悪くないかも
4.あの二人(仗助、キョウヤは割とどうでもいい)
5.写真のおやじは自分の目的のために利用するつもりだが、邪魔になるなら捨てる。

※少なくともアニメ12話で犯行をキョウヤに明かされる前からの参戦です。
※肉体に瞬時に戻ることができますが、その場合所持品はその場に放置されます。
※名簿はまだ確認していません



[承太郎が盗んだバイク@ジョジョの奇妙な冒険]
東方仗助に支給されたバイク。
原作では3部で承太郎とポルナレフがDIOを挟み撃ちにするために使った。
速さはそれなりだが2人乗りぐらいなら十分できる。


[モイのバズーカ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス]
小野寺キョウヤに支給された武器。
トアル村の剣士にしてハイラルのレジスタンスの一人、モイが最終決戦で使っていた武器。
威力はそこそこ強い雑魚的、リザルフォスを3匹まとめて倒せるほど。
使うのに訓練が必要か否かは不明。多分必要

[スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険]
美夜子に支給されたひみつ道具。
超小型衛星とモニターでセットになっており、飛ばした方向の状況を監視することが出来る。
本ロワでは、半径1マス分の距離までしか調べることが出来ない。

[ジシーンアタックのバッジ@ペーパーマリオRPG]
セシルに支給されたバッジ。
装備することで地面と天井にいる敵全員にダメージを与えられる「ジシーンアタック」が出来る。


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042:交錯する想い 時系列順 044:カゲが呼び寄せるものは
投下順
023:ペナルティ 東方仗助 062:表の終わり、裏の入り口
小野寺キョウヤ
032:薄っぺらな人形劇 マリオ 060:影の迷い子
022:狼、猫、人間、そして……? 鶴見川レンタロウ 072:スタンド使いとシリアルキラーは惹かれ合う
最終更新:2023年02月26日 18:16