太陽が顔を出した頃に、ダルボスは戻ってきた。
特に争った跡が見られないことに安堵した覚は、外の状況を尋ねる。
「戻ったか。外には誰も来なかったか?」
「ああ。さっきの赤マントの奴も来ないみたいだ。」
最初の数時間は追ったり追われたりで騒がしい時間だった反面、駅に来てからの1時間と少しの間は、ダルボスにとって幾分か退屈だった。
しかしその一方で、朝比奈覚は何とも言えない胸騒ぎを覚えていた。
駅の構内には、血のように真っ赤な朝日が差し込んでいた。
それは、悪鬼が襲来した忌まわしき日の朝日を連想させた。
あの時、覚は前夜のバケネズミの襲来はほんの牽制攻撃で、本当の地獄はこれからだったと嫌と言うほど思い知らされた。
同様に、この敵の襲撃を受けていない駅の構内も、嵐の前の静けさでしかないと思っていた。
そこへ、最初の放送が構内にも流れる。
「嘘だろ……13人も……。」
ダルボスの知り合いは呼ばれていなかったが、既に4分の1もの参加者が殺されている事実が彼を動揺させた。
既にルビカンテというゲームに乗った者に会ったし、大盗賊ガノンドロフも方々で暴れているはずだが、その2人だけでは到底13人もの犠牲者を出すことは出来ない。
「参ったな……アイツがこれほど早く殺されるとは……。」
覚が言った「アイツ」とは、かつてサイコ・バスターを探すときに共に行動した奇狼丸将軍のことだ。
彼は呪力こそないが、度重なる戦争で培った武術や戦術の面では自分達より達者だった。
下手な呪力を持った人間よりよほど死ににくいとは思っていたので、これほど早く呼ばれたことは予想外だった。
だが、覚は予想外な事実を突き付けられても、さほど動揺することも無かった。
そうなったのは全人学級で人知れず行われていた間引きや、バケネズミとの戦争で失われた数多の死を経験しただけではない。
そんなシステムや事件は氷山の一角でしかなく、呪力が生まれる前から人類は血みどろの殺し合いを繰り返したことも知っていたからだ。
これが12歳の時にミノシロモドキに世界の真実を知らされる前の彼ならば、動揺していただろう。
だが、それから彼は身近な死も、歴史の裏での死も、知りすぎてしまった。
言ってしまえば、せいぜい1日しか行動を共にしていない1人の戦友、しかも一度死別を経験した相手ぐらいの死では心が動くことさえ無くなってしまった。
(早季達が無事なのは良かったがな……。)
とはいえ、彼が死んだ喪失感のみならず、神栖66町の3人が生きている安堵もあった。
もしも彼女が昔、まだ他者の悪意や殺意を知らない頃にこの世界に呼ばれているなら、是が非でも見つけて保護しないといけないし、後の2人も驚かれることを覚悟でまた会いたい。
しかし、この場にいた最後の1人に知らされた悲劇は、簡単に済ませられるものではなかった。
放送で起こされたのび太は、項垂れてすすり泣いていた。
その反応から、何が起こったのかは話を聞かずとも伝わってきた。
突然のび太は急に立ち上がり、駅の外へ走って出て行こうとする。
「待て!どこへ行くつもりだ!!」
覚は呪力を使って、無理矢理のび太を連れ戻した。
「僕の友達を探しに行かなきゃ!!じっとしていられないよ!!」
宙ぶらりんの不安定な体勢になりながらも、手足をばたつかせて抵抗する。
のび太とて魔族との戦いの中で死の危機を感じなかった訳ではない。
しかし、その冒険の中で仲間が犠牲になったことは終ぞなかった。
だからこそ、これほど早く大切な仲間が2人もいなくなった事実を受け入れられなかった。
そしてのび太は身近な者との離別を経験していない訳ではない。
幼稚園の時、初めて死を目の当たりにした祖母から始まり、冒険の度にその世界で出会った仲間との別れを経験した。
しかし、それらは全て寿命や冒険の終わりと言う誰でも分かる前触れがあり、のび太自身も別れの言葉を告げることが出来た、「然るべき離別」だった。
ゆえに、それらとは全く異なる、あまりにも突発的過ぎる離別を受け入れることが出来なかった。
きっとドラえもんも美夜子さんも、危ないことになっているだけで、今から助けに行けば間に合う。
その根拠は何処にもないのに、そうとしか信じられなかった。
「気持ちは分かる。けど、今一人で出て行ってもどうにもならねえ。」
ダルボスもどうにかしてのび太を宥めようとする。
「じゃあ二人ともついて来てよ!どうしてじっとしているの!?」
「外に俺たちのことを狙っている奴らがいるかもしれない!君は友達の後を追いたいのか!!」
今この場で最悪なことは何か。
それは不慮の事態のせいでパニックになったり過剰に動こうとし過ぎて、更なる不慮の事態を呼び寄せることだ。
野狐丸、神栖66町を侵略した時のスクィーラも、そのパニックを利用した街の壊滅を狙っていた。
「死んだみたいに言うな!!ドラえもんも美夜子さんも死んだはず無いよ!!どこかで危険な目に遭っているだけだ!!」
キツイ言葉をかけてしまったことに覚は後悔した。
死者を聞かされる放送で自分は動揺することなくとも、他者にまでそうしろと強要することは必ずしも良い事ではない。
むしろ、不和を一層加速させることになってしまう上で、悪い方向に転がっていく可能性だってある。
「……すまない。」
自分がのび太の心の傷を抉るようなことを言ってしまったことを謝る。
「けどよお、どこへ探しに行くんだ?」
そこへダルボスが声をかける。
彼もまたのび太が気がかりで、どうにかして落ち着かせようと考えた。
「わからないよ!」
「じゃあ、いつ敵に襲われるか分からねえ中、手掛かりも無しに探しに行けってのかよ!」
「それでも、探しに行かなきゃ!!」
あくまで友達は死んでおらず、危険な状態になっているだけだとのび太は言い張る。
「そうだな……休憩もしたし、のび太君の友達を探しに行くか。奴等がガセを流したかもしれないしな。」
突然覚はのび太に同調するかのように、死んだはずの仲間を探しに行くと言い始めた。
「……ありがとう。」
「礼なら彼らを見つけてからだ。それとこれから先、自分の身の安全を優先してくれ。」
のび太の心はほんの僅かながら解れ、協力してくれると言ったことへの礼を言う。
2人は早速駅の入口へと歩く。
8時頃に来るという電車を、この空間で何もしないまま待つのは正気を保てる自信はない。
「ダルボス、どうしたんだ。置いていくぞ。」
急な覚の態度の変わりように驚きを隠せず、しばらく唖然としていたダルボスだったが、覚に呼びかけられ、その後を追う。
(どうすればいいんだ……?)
ひとまずのび太を宥めることは出来たが、覚の胸の内にはわだかまりが残っていた。
覚は決して、主催が告げた死者の話がウソだとは思っていない。
その場しのぎにのび太に合わせたのは良いが、そうしてしまった以上、言葉を曲げるわけにも行かない。
彼が年長者として、ダルボスと共にまだ少年であるのび太を守らねばならぬという意思は勿論あった。
でも、現実を突き付けず、のび太の都合が良い考えに付き添うのは、本当に彼を守ることに繋がるのかと言う疑問もあった。
同時に、ここから先にもどうすべきかという疑問もある。
もしもの話、この先死人となったのび太の友達を目の当たりにしたら、もしくはその友達を看取ったという参加者に出会ったら、その時こそどうのび太に声を掛ければいいか、見当さえつかない。
人の心、特に年端も行かない子供の心は決して強いものでは無い。
覚にとっての早季のような人物の方が異例だということは分かり切っていたし、強くないから悪鬼のような災害が現れる。
幸か不幸か、のび太は呪力そのものを持っていないし、腰に差してある銃ならば間違った使い方をする前に取り上げれば問題はない。
心の行く宛を失い、自暴自棄になってしまえば、その時は彼とどう接することが出来るのか。
そこまで考えて、自分の心に対して嫌気が刺した。
のび太がどうしようもなくなることを恐れているのが、産まれてくる卵の中身が安全な雛か危険な怪物か恐れている神栖66町のリーダー達と同じだと気づいたからだ。
彼は一見バケネズミのミュータントと見紛う姿をしているダルボスにも気兼ねなく話をすることが出来るし、魔族と戦っていたというのだから、その辺りの子供よりはるかに精神が強靭だ。
しかし、知っているのび太と言うのはあくまで一面でしかない。
6時間ほどしか共に行動していない少年を、昔から知っている人間のように信頼しろと言うのは土台無理な話だ。
そして覚にとっては、もう2つしたいことがあった。
行方の知らぬままの写真の男の追跡と、神栖66町の3人の捜索だ。
先の13人の死因にも全てではないにせよ、細菌兵器を持った写真の男が関わっている可能性も無いわけではないし、ここまで短時間で殺害された者が多いとすると、いよいよ彼女らもいつまで生きているか分からない。
勿論彼の友達探しと並行してやっては行ける。
だが、一度自分の仲間、のび太の仲間どちらかの手掛かりを掴んでしまったら、否応なくどちらかを優先することになる。
それ以前に、神栖66町の仲間を探すならば、目的地は清浄寺一択でしかない。
この世界にある清浄寺が、覚の世界にあった清浄寺と同じである保証はどこにもないが、バケネズミに襲われた先で避難した時と同様、あの寺は危急存亡の事態に隠れ場所や集合場所として役に立つはずだ。
しかし、のび太の仲間は清浄寺のことを知らない筈なので、その場所にいる可能性は低い。
のび太に改めて本当のことを伝え、まだ生きているはずの自分の仲間探しの優先に切り替えるか
それとも彼の心が壊れないように「仲間探し」に付き合うべきか。
覚は自分の選択肢が正しいはずであると考えることにした。
その答えが合っていたにせよ、間違っていたにせよ、きっと戦いは避けられない。
襲撃者がいつどこから襲ってきても良いように、辺りを伺うことを怠らなかった。
【B-7/一日目 朝】
【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康 情緒不安定
[装備]:ミスタの拳銃(残弾5)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ダルボス、覚と共に脱出する
1. 仲間(ドラえもん、美夜子、満月博士)を探したい
2. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフには警戒
※参戦時期は本編終了後です
※この世界をもしもボックスで移った、魔法の世界だと思ってます。
※主催者はもしもボックスのような力を持っていると考えています。
※放送は主催が危機感を煽るために嘘だと考えています。
【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:健康 早季への疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、北風のテーブルかけ(使用回数残り17/20)@ドラえもん のび太の魔界大冒険 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探し、脱出する
1. のび太の仲間を探す。生きていても死んでいても。
2. 神栖66町の仲間(早季、守、真理亜が心配)
3. 仲間を探す過程で写真の男を見つけ、サイコ・バスターを奪い返す
4. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフに警戒
※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。
【ダルボス@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ほぼ健康 のび太が心配
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タイムふろしき@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[思考・状況]
基本行動方針:リンクと合流し、主催を倒す
1.のび太と覚、そしてその仲間を守る
2.なぜガノンドロフがここにいるんだ?
3. タイムふろしき、これを使えば……。
※参戦時期は少なくともイリアの記憶が戻った後です
最終更新:2022年03月06日 09:58