ザクザクと草原を歩く音のみが響く。
それまでの穏やかな雰囲気とは異なり、ひどく殺伐とした空気が覚たち3人の周りにまとわりついていた。
3人共こういった場は好きなわけでは無いが、何か言葉を紡ぐ気にもならなかった。
何か言葉を発せば最後、辛うじて保っているこのつながりが一気に壊れてしまう恐ろしさがあったからだ。
ただ、行く宛も無いまま黙って歩くだけ。
いつ殺し合いに乗っている者に襲われるか分からない以上、そうするのが最適解と言えば最適解だ。
だからといって、その最適解とやらが必ずしも精神上よろしいわけではない。
むしろ、恐怖やストレスを増幅させることになった。


神栖駅から南にしばらく歩くと、荒れ地が広がっていた。
地面は草一本生えない焦土と化しており、倒れていない木は一本もない。
そして爆発でも起こったのか、大きなクレーターが1つ出来ている。
その場所は、数時間前マリベルが放ったビッグバンと鳴動封魔によって作られたものだとは分からなったが、戦いの場だったとはすぐに分かった。
既に緊張していた空気が、一層重くなる。


「ノビタ……サトル……。」
十数分ほど続いていたが、ダルボスに破られた。
「心配するな。」
それに対して覚が短くだが返事をした。
「火が消えているし、煙も出ていない。ここで戦いが起こったのはずっと前だ。」
いち早くダルボスが何を言いたかったのか察し、敵襲の心配はいらないと指摘した。
だが、覚が心配したのはそれだけではない。
戦いが、しかも辺り一面が草一本生えない荒れ地になるほどの戦いが起こったということは、ここに死者がいるということだ。
それが、のび太の友達だったら?


本当ならば生存者の確認のために大声を出したいが、そんなことをするのは自殺行為でしかない。
それから3人は荒れ果てた森林に入り、辺りを見回しながら歩いたが、死者も生者も見つかりはしなかった。
ここで戦った者は、全て地割れに飲み込まれたのだから、犬でも連れていない限りは見つけることは不可能なのだが。


はぁ、と朝比奈覚は小さくため息をついた。
そのため息は、自分のみならず子供の安全を見守らなければならないことへの気疲れか、はたまたのび太の友達の死体が見つからなかったことへの安堵か。

「のび太、疲れてないか?」
「大丈夫だよ。早くドラえもんや美夜子さんを探さないと。」

神栖駅を出発してから、2,30分ほど経過していた。
小学5年生、しかもその中でも体力が無い方ののび太がそれでも歩き続けられるのは、ひとえに友人が生きていることを信じ、絶対に助けたいという意思があったからだ。



(もし、のび太が友達の死体を見つけてしまったら?)
何度目か覚の頭に、いつ起こるか分からない、しかしいつかは起こりそうな仮定が浮かび上がった。

(もし、のび太が真実を知ってしまえば?)
暴走して、今腰に差している銃を乱射することだって起こりかねない。
覚はニセミノシロモドキから学んだことだが、呪力が生まれる前は、子供が銃を乱射する事件が問題になる国もあったことを知っている。
だが、それでも彼は銃を奪おうとはしなかった。
それはのび太からの信頼を無下に扱う行為だと考えていたから。


(早季……俺はどうすればいい?)
答えなど返ってこないし、考えた所でどうなるわけでもないことは分かり切っていても、こうした状況だと考えてしまった。
ずっと同じ町で過ごし、共に町を救った幼馴染ならばどうするか考えてしまう。
彼女は14年前の搬球トーナメントの時から野狐丸率いる悪鬼に追い詰められた時まで、常にアイデアを出してくれた。


(こんなサマを奇狼丸に見られれば、どやされるだろうな……。『泣き言は墓に入ってからウジ虫に聞かせろ』だったか?)
かつての戦いで死に、そしてこの戦いでも死んだバケネズミの戦友のことを思い返す。
バケネズミの将軍の彼ならば、こんな行き当たりばったりなことをせずに、先頭に立って指揮を執ってくれるはずだ。


その時、3人の目の前に赤い点が入り込んできた。
彼らの中で一番視力が優れている覚が、その姿を目の当たりにする。
その姿は見た目も体格も普通な成人男性だった。
だが、その男に対して妙な胸騒ぎを覚えた覚は、叫んだ。


「逃げろ!!」
言うが早いか、目の前の男はハンマーを取り出す。
まだ距離は離れており、武器のリーチからして攻撃は届かない。
しかし、闇に落ちたマリオはそれを地面にたたきつけた。


ズウウウンと重たい衝撃が、3人を飲み込もうとする。
「くそっ!!」
ハンマーが地面を殴った瞬間、いち早く覚は呪力でのび太を上空へと逃がした。
その動きは、神栖66町の呪力の最たる使い手、鏑木肆星が地割れから町民を守った瞬間に酷似していた。
しかし、それを行った覚は地震攻撃から逃げることは出来ない。
立つことが出来ず、地面に背中を付けることになった。
そして呪力もバランスが崩れたことで、のび太を浮かせることが出来なくなってしまう。


「危ねえ!!」
ダルボスが慌ててのび太をキャッチする。
岩と見紛うくらいの巨体と、相撲で培った体幹のおかげで、彼も転ばずに済んだ。

だが、安心するわけにはいかない。
のび太が礼を言う暇もなく、獲物を見つけたマリオは加速し、ハンマーを振りかざす。
そして、殺すならば断然、弱い方だ。
先程までかなり距離が離れていたはずのマリオは、もう距離を詰めてきた。
ハンマーを振り回し、ダルボスに抱えられたのび太を叩き殺そうとする。



「危ない!!」
しかし、覚は咄嗟に呪力で見えない壁を作り出し、マリオを弾き飛ばした。
堕ちた勇者は、ゴロゴロと地面を転がって行く。
動きが止まった瞬間、彼は地面に尻を付けたままハンマーを持ってない方の手を掲げた。
何をしたのかと疑問に思うと、突然黒い雷が覚に落ちた。


「ぐあっ……!!」
幸いなことに、それは本物の雷とは異なる。
電気特有の熱さや痺れこそあるが、一撃で人を消し炭にすることは出来ない。
だが、それでも呪力以外はありふれた成人男性と変わらない覚にとって、決して小さくはないダメージだった。

「うわああああああ!!!」
地面に崩れ落ちた覚と共に、のび太は恐怖の声を喉が保つ限り上げる。
普通の子供にとって、雷は恐ろしいものだ。
安全な場所にいてさえそう感じるが、間近で聞こえてしまったらその恐怖は比べ物にならない。
勿論生身の人間など一瞬で消し炭にしてしまう数千万ボルトの雷には遠く及ばないが、迫力はそれと何ら変わりはない。


「大丈夫だ……。落ち着いて自分の身を守ることだけ考えろ!!」
その声は震えていた。その会話だけで、覚が大丈夫では無いことがのび太にも伝わった。
だが、すぐに立ち上がったマリオはハンマーを振りかざして、崩れ落ちた覚に襲ってくる。
その容赦のない攻撃をする堕ちたヒーローは、神栖66町を襲った悪鬼のようにも見えた。


しかし、ダルボスの拳がその間に割って入る。
「そうはさせねえぞ!赤ヒゲ野郎!!」
(地震に雷を使うヒゲ親父ってか?……次は火事でも仕掛けてくるのかよ!!)
マリオのハンマーが、岩のように固いゴロンの拳に止められる。
(くっ……。)
ブロックを容易に砕く殴打を受け、ダルボスは痛みに顔をしかめる。

「オラァ!!」
だが、痛みも無視して力一杯持ち主ごとハンマーを殴り飛ばす。


岩壁をも砕くゴロンの族長の拳を受け、マリオは再び数メートル吹き飛ばされる。
しかし、油断は出来ない。
近付かれればハンマー、遠ざかれば雷の餌食になる可能性があるからだ。


マリオは猫のように上空で身を捩り、ひらりと着地する。
両脚を地面に付けて最高得点を決めた体操選手のように着地をするとすぐに、ハンマーを抱えて身体を捻り始めた。


(僕が、僕が何とかしないと!!)

その時、のび太が銃の引き金を引いた。
彼は普段は気弱な小学生だが、ドラえもんや他の仲間たちと5度も死地を乗り越えてきた。
恐怖を押し殺し、覚を守るためにマリオ目掛けて発砲した。
殺すつもりで撃ったわけではない。
ハンマーを持った腕を撃つことで、少なくとも半分は脅威を減らすことが出来ると考えた。
一発は雷によって動揺していたのもあり、銃弾はマリオの横を素通りする。
だが、二発目はマリオの右腕を捕らえていた。
しかし、忘れるなかれ。
この殺し合いは、勇気だけでは生きることも守ることも出来ないことを。


のび太の放った銃弾がマリオの腹に吸い込まれる直前のこと。
マリオは思いっ切りハンマーを振り回した。


彼が女王のしもべになる前から得意としていた回転ハンマーは、単純なハンマーとしての殴打だけではなく、弾き飛ばしたものをぶつけることでダメージを与えることも出来る。
弾いて武器に出来るのは、敵でなく、物体も同じだ。
勿論、飛んでくる敵の攻撃を跳ね返すのは、卓越した反射神経とコントロールが必要だ。
だが、マリオはどちらもそれを備え、さらに女王の力により身体能力を強化されている。
彼はかつて、身体を飛ばしてくるサボテンの怪物、サンボの攻撃を跳ね返して逆にぶつけたこともあるぐらいだ。
流石に銃弾が届くタイミングを1発で見抜くのは無理だが、2発目は彼にとって可能な次元だ。
スーパーガードと回転ハンマーの合わせ技は、銃弾のベクトルを反転させた。


「うああああああっ!!」
絶叫。
その声から、起こってはいけないことが起こったことを、ダルボスも覚も知ってしまった。
弾かれた弾丸が、のび太の胸を貫いたのだ。


「ノビタ!!しっかりしろ!!」

ダルボスがそのつぶらな瞳を大きく見開いて、吹き飛ばされたのび太の方向に走って行く。
不幸中の幸いと言うべきか銃弾が突き抜けたのは右の胸だったため、即死はしていなかった。
だが、彼のTシャツは銃弾を受けた場所を中心に真っ赤に染まっている。
このままでは出血多量で死んでしまってもおかしくはない。
その時、ダルボスでさえも恐ろしく感じるほどの慟哭が響いた。


「くたばれ!!」
感電の痛みが時間の経過により、わずかながら和らいだ覚は、自分の怒りを呪力に変えて、マリオに打ち付けた。
今度はマリオを吹き飛ばす呪力ではない。
かつて彼が神栖66町に襲撃したバケネズミの大群のうちの一団を鏖殺した、爆発の呪力だ。
呪力により空気が爆ぜ、マリオが吹き飛ばされる。
この世界では彼らの呪力に対する愧死機構は取り払われ、攻撃抑制の機能も幾分か失っていることを彼は知らない。
だが、そんなことは気にせず、怒りのままに呪力をマリオ目掛けて撃った。



マリオは女王の力で強化されているとはいえ、覚の呪力も弱くなっている。
爆発の一発では、殺すことは出来なかった。

「よくも……人の姿をしたケダモノめ!!」
爆発、爆発、そしてまた爆発。
マリオを中心として度重なる小型の爆発が起こり、青いツナギも赤い服も焼け、ヒゲもチリチリになっている。
それでも、マリオは攻撃を止めるつもりはなかったし、覚も敵が動かなくなるまで攻撃を続けようとしていた。


(な……何だあれ……。)
豹変した覚の態度は、歴戦のゴロンの族長であったダルボスでさえも恐ろしく感じてしまうほどだった。
まるで彼自身が、殺し合いに乗った者かと勘違いしてしまうほどに。


(そうだ……今のうちに!!)
だが、何にせよ勝負が自分達の方に傾いたことは確かだった。
ダルボスは倒れているのび太の呼吸が荒いながらも途切れていないことに気付くと、すぐに治療をしようとする。
「ノビタ!!しっかりしろ!!死ぬな!!」
ダルボスがそう言っている間も、のび太の服はどんどん朱色に染まっていく。
彼は昔はゴロン族の族長として、カカリコ村のルダを始め、人間の子供との交流はあった。
だが、そういった子供たちの怪我の治療は、牧師のレナードがしていたこともあって、ダルボス自身は全くしたことは無かった。
何をどうすれば怪我をした子供を延命することが出来るのか、彼に知識はない。
ザックから支給品を出したが、目ぼしい治療道具や、傷を回復する薬などは無かった。

(くそ……ザックの中は一度確認したはずなのに、何やってんだよ!!)
これでは精々が水で傷口を洗うぐらいしか出来ない。
自分が持っているのはタイムふろしきだけだ。


(いや……待てよ)
彼は一つ閃いた。

(……コイツが時間を巻き戻せるなら、さっき受けたダメージも無かったことに出来るんじゃねえのか?)


これは元々、首輪解除のための切り札だった。
だが、情に厚い彼は子供を見捨てることなどとてもできなかった。
(早くしねえと……死んだらどうしようもねえ!!)
説明書に書いてあったが、死者の時間を巻き戻して生き返らせることは出来ないという。
善は急げということで、早速風呂敷を広げ、のび太の身体に覆いかぶせようとする。



「うおっ!!」
しかし、それは戦場のど真ん中で負傷兵の手術をするような行為だ。
簡単に許してくれるはずがない。
吹き飛ばされた覚が、ダルボスの背中にぶつかり、あやうくタイム風呂敷を落としてしまいそうになる。
覚が押していたように見えた戦いの最中では、マリオは何度も呪力による爆発攻撃を受けながらも、着地した瞬間に強く地面を蹴り、覚にダイビングヘッドバットを見舞った。
戦況は再びマリオの方に傾く。

「すまない。ダルボス。」
「気にするな。でも落ち着いてくれ。ノビタは死んじゃいねえ!!」


そのチャンスを逃さず、マリオはハンマーを地面に叩く。
「くそ……また地震か!!」
ジシーンアタックの攻撃は範囲が広い反面、威力そのものは直接の殴打や蹴撃、雷などには劣る。
だが、その攻撃はある意味で雷以上に厄介な技だった。


覚は先程頭突きを食らい、痛む下腹部を無視してのび太を再び呪力で浮かばせる。
今度はのび太は重傷を負っているので、一度目以上に慎重に浮かばせる――――訳にも行かなかった。
地震攻撃により、バランスを保つことが難しくなり、呪力のコントロールもそれ相応に難しくなる。


「のび太はオレの方に任せろ!!」
浮かんでいるのび太をそのままダルボスが掴む。
しかし、ダルボス目掛けて雷が落ちて来た。


「ぐあああああ!!」
激しい痺れと熱さがダルボスの背中を襲う。
いち早く地面にのび太を降ろしていたため、雷撃がのび太に伝わることは無かったが、ダルボスは崩れ落ちた。


「手に負えねえ……のび太の傷をタイムふろしきで治す時間さえ作れねえじゃねえか……」
ダルボスが最悪の状況下で、悪態をつく。
しかしそう言っている間でさえ、マリオは大きくジャンプして、隙が出来たダルボスに襲い掛かる。
戦いという物は時として仲間を守ろうとする考えが、足を引っ張ることになる。
事実、覚もダルボスも負傷したのび太を守ることを第一に考えていた。
しかし、マリオは違う。
かつての仲間や恋人を大切に想う気持ちは一切奪われ、破壊と殺戮に身を委ねている。
獲物が全て死ぬか、あるいはその身が朽ち果てるまで、一瞬たりとも攻撃の手を休めることはない。
疲れることもなく、躊躇うことも無く、過去も未来も無いがゆえに最高のコンディションで戦いを挑んでくるのが、今のマリオだ。


「させるか!!」
その時、眩しい閃光がマリオの両目を照らした。
覚が空間に鏡を作る呪力を用いて、太陽光を反射させたのだ。
そのような小細工で稼げる時間はほんの一瞬。


だが、ダルボスが守りの体勢に入るまでの時間ぐらいは稼げる。

しかし、マリオは視界を奪われた瞬間、ダルボスへの攻撃を諦め、代わりにジシーンアタックを行った。
例えカゲに飲まれたとしても、豊かな戦闘経験による最適解を瞬時に見出す力はその神経に刷り込まれている。
攻撃範囲の広い地震攻撃ならば、視界を奪われようと関係なく威力を発揮できる。

「のび太!!」
呪力で三度のび太を宙に浮かすことで、犠牲者が出ることは抑える。だが、いつまでこれが維持できるか分からない。
地震攻撃が来るたびに、覚自身はその攻撃を受け、ダルボスもまた同じだからだ。


視力が回復すると、ハンマーを振り上げ、覚を近くで浮いているのび太諸共叩き殺そうとする。

「うおおおおお!!!」
しかし、ダルボスの伸ばした腕が、二人を守る。

「く……いてえ……。」
ハンマーによる強烈な一撃が丸太のような腕を苛むが、ダルボスは腕を引こうとしない。
そのままもう片方の腕で、マリオを殴り飛ばそうとする。


マリオは姿勢を限界まで低くし、その一撃を躱した。

「な?」
普通の人間ならばあり得ないほど身体を縮めたことで、ダルボスも対応できなかった。
そしてその動作は回避の為だけのものではない。
ジャバラジャンプと呼ばれた技で天を突くほど高く跳び上がった。
そして最高到達点を過ぎると、隕石のごとき勢いでダルボス目掛けて急降下を始めた。


どうにかして呪力で、その軌道を逸らそうとする。
だが、マリオはジャンプ攻撃を加える直前、覚目掛けてハンマーを投げた。

「危ねえ!!」
後ろに下がり、投擲物から覚たちを庇うダルボス。
しかし、勢いの付いたハンマーを直接腹に受け、ダメージは決して小さくない。
そこへ、マリオの痛烈なジャバラジャンプの一撃が襲い来る。


「ぐああああっ!!」
「ダルボス!?」

そのままゴロゴロと地面を転がって行く。
彼はまだ死んではいない。
だが、死とは別の最悪の状況が訪れた。


「タイムふろしきがっ!!」
覚は叫んだ。
ひらひらと風に乗り、軽い風呂敷は飛んで行った。
あれが無ければ、のび太を負傷したまま治すことも、首輪を元の素材に戻すことも出来ない。


咄嗟に覚は呪力で手繰り寄せようとする。
だが、よく見ればマリオはジシーンアタックの動作に入っていた。
吹き飛ばされた風呂敷を取らないといけないが、これ以上負傷したのび太にダメージを与えるわけにも行かない。



「くそっ!!」
四度目になるが、風呂敷を諦めてのび太を優先して、地震攻撃から守る。
のび太はなおも目を覚まさないままだ。
呼吸は途切れていないが、いつ途切れるか分かったものではない。
下手に動かすと傷口が悪化し、本当に死んでしまうかもしれない。

そんな状況を知ってか知らずか、マリオは地震攻撃を受けて立てず、その状態でのび太を守っているため呪力も打てない覚を攻撃しようとする。


(くそ……ここまでか……。)

「サトル!ノビタ!!」
地面を転がされたはずのダルボスが、岩のような姿になりマリオ目掛けて転がって来た。
戦慣れしたゴロン族なら誰もが出来るほど単純な回転攻撃だが、単純ゆえに高い攻撃力と速さ、そして防御力を持つ。
マリオはすぐに跳び越えようとするが間に合わず、思いっきり吹き飛ばされた。


「無事だったか。」
「あたぼうよ。あれぐらいで死んでたまるか。それよりあんたらは早く逃げろ。」
「無茶言うな!!俺達2人でやっとの状態じゃないか!!」
「心配すんな!!俺もすぐに逃げる!それまでの時間を稼ぐだけだ!!」
覚としても薄々分かっていた。
このままだと、のび太を守ることも、マリオを倒すことも出来ないまま、段々と追い詰められて全滅の道しかないことを。
ダルボスを見捨てるのは忍びないが、全滅するよりかはマシだ。
それに、ダルボスが死ぬことが確定しているわけではない。
頼みの綱のタイムふろしきが無い今、一刻も早くこの戦場から出て、のび太の治療をしないといけない。

気が付くとマリオは起き上がり、再びハンマーを振りかざしている。


「あんたの相手はオレだ!!」
マリオの前に、横綱のような姿勢で立ちはだかるダルボス。
彼の得意分野は相撲。
すなわち、1対1での戦いが彼の本領という訳だ。


「ダルボス、死ぬなよ!!」
「勿論だ!!ノビタを頼む!!」

覚は呪力でのび太を抱えながら、戦場を去ろうとする。
そのすぐ近くを、黒い雷が襲った


(危ない!!ダルボスを相手にしながらこの距離まで……。)
一刻も早くマリオの目の届かない所に離れようと、痛む足に鞭打って走る。
せめてタイム風呂敷だけでも回収したかったが、結局どこにあるかは分からずじまいだった。



(くそ……ダルボス……すまない……)
後ろで何度か雷の音が響いている中、覚はのび太を呪力で浮かばせたまま走る。

「のび太……無事でいてくれよ……。」
少年の呼吸は先ほどよりも荒くなり、顔は真っ白になっていた。
今はただ、彼の無事のみを願った。


(これは……あの時と同じだな……。)
思えば彼は、何度も何度も仲間の無事を願っていた。
12歳の時に筑波山でバケネズミの大群に追われ、仲間とはぐれた時も。
14歳の時に行方不明になった守を探した時も。
26歳の時に廃墟となった東京で早季と別れた時も。


(くそ……俺は変われないままかよ!!くそおっ!!)
今の自分は、悪鬼に頸をへし折られた鏑木肆星を見捨てて、地下洞窟を走っていた時と何も変わっていない。
そんな自分が、悔しくて仕方が無かった。




ダルボスの瞼に、火花が散った。
顔面にハンマーを叩きこまれ、大きく転がって行く。
既に何度も雷を受け、ハンマーでの殴打や蹴撃を食らい、いつ死んでもおかしくないほどダルボスはボロボロになっていた。


「うおおおおっ!!」
相撲の要領で、マリオを捕まえようとする。
しかし持ち前の素早さで難なくダルボスを躱し、ハンマーの一撃を見舞う。
まだ覚たちが戦場を去ってから、30秒と少ししか経っていない。

(まだだ……テメエみたいな奴に負けるかよ!!)
ゴロン族は、自然と力を重んじる性格の持ち主だ。
だが、間違っても誰かを私利私欲のために傷付け、殺すために力を持とうとするのではない。
だからこそ、邪な力の使い方をするこの男が許せなかった。


度重なる火傷と打撲に苛まれる全身を叱咤して、ダルボスは立ち上がる。
相撲と同じで、土俵際に追い込まれたからが勝負だ。


「これぐらいか……やってみろよ!!」
啖呵を切る。
だが、マリオを倒す方法は全く見つからない。
それでも、覚たちが逃げ切るまで時間を稼がねば。


その時だった。
(しめた!!)
ダルボスの目に、向こうからやって来る列車が入った。
彼にとって列車とは、のび太から聞いただけでしかなく、詳しいことは知らない。
だが、線路の上に誘導して、マリオを列車にぶつけるということを考えた。


(本当ならこの手でコイツをとっちめたいが、こだわってる場合じゃねえ!!)
自分の力で倒さずに相手を嵌めるなど、自分の流儀に反する。
だが、覚と生きて戻ると言ってしまった以上は、それどころではない。
線路の上でマリオの波状攻撃から身を守りつつ、列車が近づく瞬間を待ちわびる。


(!?)
マリオは、列車の音が聞こえるとさっと身を引き、線路から降りた。
かつて最初の放送の前に、ゴルベーザとの戦いで、列車が邪魔になり敵を殺せないことがあった。
そのため、この会場での列車が時に厄介なギミックになることを学んでいた。



(し、しまった!!)
ダルボスも咄嗟に身を逸らし、列車にはねられること自体は避けられたが、即興で練った作戦はあっさり破綻してしまった。

移動する列車によって、二人はそれぞれ左右に分かれることになった。
しかし、マリオは列車が去るまでの間、ダルボスを倒す為の技の構えを取る。


列車が去った時、マリオはストレッチでもするかのように大きく伸びを始めた。
「余裕のつもりか……!?」
ダルボスの背筋に、ゾクリと寒気が走った。

(冗談じゃねえ……このオレが怯えている!?)
さらに高まったマリオの邪悪な気配は、彼でさえ竦んでしまうほどのものだった。

「怖がっていられるかよ!!」
ダルボスは震える拳で、マリオに一撃を見舞う。
だが、攻撃力と防御力が強化されたマリオにとって、岩をも砕く一撃でさえ襲るるに足るものではなかった。

「!?」
自分の拳に、岩でも殴ったかのような衝撃が襲い来る。
先刻マリオを殴り飛ばした時とは、比べ物にならない衝撃が返って来た。

(敵わねえ……敵う訳がねえ、こんなバケモノに……!!)



ダルボスが驚くのも他所に、そのままマリオはハンマーを振りかぶり、万全のタイミングで岩のようなゴロン族を吹き飛ばした。
ドォンと爆発したかのような轟音が空気を揺らす。
戦の渦から、ゴロンの族長ははじき出された。

それはまるで大砲から打ち出された弾丸のように吹き飛ぶ。
バキバキバキと、最初に3本の立ち木を冗談のようにあっさりと打ち倒す。
それでも弾丸と化したダルボスは止まらず、4本目の木の幹をぶち抜き、5本目の木にぶつかった所でようやく止まった。


「チ……チクショウ……。」
満身創痍のダルボスにとって、まずいのはこれだけではなかった。
マリオは吹き飛ばされた自分ではなく、覚たちの方に走って行った。


(ま……待ちやがれ……。)
だが、今度こそ立つことは出来なかった。
虫けらか赤子のように這いつくばることしかできない自分など、後で殺せば問題は無いということだった。

「サトル……ノビタ……!!」
彼は間違いなく逃げた二人に追いつき、殺すことを優先しようとしていた。
ダルボスはそれを追いかけようとするが、身体が動かない。
その時、木の上から何かが落ちて来た。


それは、戦場の中で吹き飛ばされてしまったタイムふろしきだった。



「へへ……最後の最後で、幸運に恵まれたみてえだな……。」
ニヤリとダルボスは笑みを浮かべた。

(これで……オレの傷を治せれば……。)


その時、ダルボスは思い始めた。
(違う……。)
例え万全の状態でも、あのバケモノには敵わない。
精々稼げる時間が僅かに伸びるくらいだ。


ならばこれをあの男にかぶせて、赤ん坊にするか?
どんな相手でも、生まれた直後なら簡単に無力化できる。
それも駄目だ。あの男を風呂敷で包めるなど無理な話だし、そもそも自分はダメージが大きすぎて動くことさえままならない。


(……………………!!)
ダルボスは閃いた。閃いてしまった。
あの男の凶刃から仲間を守るための、唯一残っている、最低最悪極まりない回答を。


(バケモノにはバケモノをぶつけてやりゃあいいんだ!!どっちみち、こうでもしなきゃアイツを止められねえ!!)

これが正しいかどうかは、ダルボスにも分からない。
むしろ、これは問題解決どころか、自分の首を絞め、問題をさらに悪化させてしまう正しい回答ではないとも思う節はあった。
だが、今最悪の状況ならば、少しでも可能性のある最悪を選ぶしかない。


「これで良かったんだよな。これで…………。」
ダルボスは頭から、タイムふろしきをかぶった。
影の結晶石に触れ、暴れていた時のことははっきりと覚えていないし、ドン・コローネに話してもはぐらかされるばかりで本当のことを教えてくれなかった。
それでも、周りのゴロンたちの態度から、自分が良からぬことをしていたことだけは分かった。


チクタクチクタクと、ふろしきには似合わない秒針音が響く。



これで良かったんだよな、これで………………。
敵わねえ…こんなバケモノに、敵う訳がねえ!!
ノビタ!!しっかりしろ!!
何だよこいつ、本当にニンゲンか?
ノビタ、すまねえ。あんたの仲間を助けられなかった。


あれ?オレ、何をしているんだっけ?
でも、このふろしきを取っちゃいけないんだよな?



チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク




オレに巻いたら、過去の自分に戻れるのか?
こんな所でウマイ岩が食えるなんて思わなかったぜ!!
サトル!大丈夫か!?ノビタ、あんたは頼れる奴だな!!
ノビタもサトルも、いい奴で良かったぜ。


あれ?ノビタ?サトル?誰のことだっけ?




チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク




あいつら何てことしやがるんだ!!よくもイリアを!!
イリアの記憶が戻って、良かったな!


イリア?死んだ?どういうことだ?記憶が戻って、今リンクと仲良くしているはずだぞ?




チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク



最後に、奴ラと戦うコツを教えてやる。見つかる前に、やれ!
長老たちは、忘れられた里とも呼んでいたゴロ


そもそも、イリアって誰だっけ?


チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク



うう、頭が痛い…………なんでこんなトコに?



ごめんな、みんな。



チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク




ダルボスとは似ても似つかぬ紅蓮の巨人の咆哮が、辺りに響き渡った。



【C-7/一日目 草原 午前】

【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】

[状態]:気絶 ダメージ(大) 出血多量  情緒不安定
[装備]:ミスタの拳銃(残弾3)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ダルボス、覚と共に脱出する
0.…………。
1. 仲間(ドラえもん、美夜子、満月博士)を探したい
2. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフには警戒
※参戦時期は本編終了後です
※この世界をもしもボックスで移った、魔法の世界だと思ってます。
※主催者はもしもボックスのような力を持っていると考えています。
※放送は主催が危機感を煽るために嘘だと考えています。
※出血多量で危険な状態です。治療がされない場合は時間経過で失血死します。


【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:ダメージ(中) 早季への疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、北風のテーブルかけ(使用回数残り17/20)@ドラえもん のび太の魔界大冒険 ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探し、脱出する
1. のび太を連れて、マリオから逃げる。
2. のび太の治療できる人を探す。のび太の仲間を探す。生きていても死んでいても。
3. 神栖66町の仲間(早季、守、真理亜が心配)
4. 仲間を探す過程で写真の男を見つけ、サイコ・バスターを奪い返す
5. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフに警戒

※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。



【C-7とB-7の境目/一日目 森跡 午前】



【ダルボス@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:覚醒火炎獣マグドフレイモス化 首輪解除
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:破壊

※「元々の」参戦時期は少なくともイリアの記憶が戻った後です
※タイムふろしきでマグドフレイモスだった頃に戻りました。従って、これまでの記憶やリンクやイリアのことを覚えていません。
※影の結晶石まで再現したわけではないので、何もしなくてもいずれ魔力が切れて元の姿に戻ります。
※また、タイムふろしきの影響で、素材に戻った首輪が【C-7/森跡】に転がっています。何が素材なのかは不明です。



【マリオ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) FP消費(中) 腹部、背中に打撲 全身に火傷
[装備]:折れた大型スレッジハンマー@ジョジョの奇妙な冒険  ジシーンアタックのバッジ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品×2 ランダム支給品0~3 
[思考・状況]
基本行動方針:殺す
1:のび太と覚を追いかけ、殺す。
2:その後動けなくなったダルボスも殺す
3:???

※カゲの女王との選択で「しもべになる」を選んだ直後です
※カミナリなど、カゲの女王の技もいくつか使えるかもしれません。



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071:ここは表の一丁目 裏の入り口 時系列順 074:集合、そして散会
072:スタンド使いとシリアルキラーは惹かれ合う 投下順
060:影の迷い子 マリオ 079:血と灰の世界1 炎獄の戦場へ
061:unbelievable ダルボス
野比のび太
朝比奈覚
最終更新:2023年03月05日 14:48