学校の前でバイクを停め、校門から入っていく。
キョウヤにとっては懐かしの場所だ。
正確に言うと学校からこの場所に連れて来られてから1日も経っていない以上、時間的な視点から見れば懐かしくも無いが、彼にはどこかそのように感じた。

「ここがキョウヤの通ってた学校っすか?」
仗助は辺りを見回しながら尋ねる。

「ああ。ここで俺たち能力者は『人類の敵』と戦うために訓練していたんだ。」
キョウヤの口から出る、とんでもない言葉に仗助は首を傾げる。
仗助の世界でも、特殊な能力を持った者はいるが、彼らが集められ、人類の敵と戦うようなことは強いられたりはしなかった。

「そんなスゲエことをやってる割には普通っすね……アレ?」
仗助は、グラウンド上で、倒れている銀髪の男を見つけた。
慌てて走り寄るも、近づけばそれが手遅れだということがすぐに分かった。


「ひでえ……。」
思わず仗助も言葉を零した
その男は鈍器のようなもので顔面を潰され、事切れていた。
攻撃の仕方に容赦がない事と、ハンマーを持っていたことから、駅で仗助達を襲ってきたマリオがやったことだと二人とも察しはついていた。


「東方。」
「俺のスタンドは、死んだ人には意味ないっすよ。」
「違う。そのスタンドでこの男の首輪を取って欲しい。」
「ええ?」

予想以上に大変なことを頼まれ、驚く仗助に対し、キョウヤは冷静に返す。

「やがてはこれの解除に必要だろ?」
人差し指で、付けられた首輪をコツコツと叩く。
「いや、それが必要な理由を知りたかったワケじゃなくて、俺がこの人の首を切らないといけないプレッシャーっすね~。」
「嫌なら俺がやるぞ。これぐらいの死人は見慣れている。ここから適当な刃物を取ってくればいい。」

既に死んでいるとはいえ、人の首を斬るという行為に、恐怖感を覚える仗助。
彼の祖父や虹村慶兆の過去もあるように、人の死を見ていない訳ではないが、死人を眺めるのは気持ちのいいことではない。
ましてや、首を切るという形で触れることになるのだから猶更だ。


仗助はスタンドを出し、右手で手刀を作る。
しかしいざやると決めたものの、中々行動に移せず、手刀も上で硬直したままだった。


そこへ、最初の場所でも聞いた、主催の野太い声が学校にも響いた。
呼ばれるのは、禁止エリアのこと
そして、僅か6時間の間でこの殺し合いに膝を屈した者達の名前。


「おい、東方!?」
手刀が動かなくなったセシルの首を、瞬時に切り落とした。
今まで躊躇っていたのが嘘のように勢いの付いた行動だったため、やるように頼んだキョウヤさえも驚いた。


「何でもねえよ。」
静かに仗助は呟いた。
「ただ、俺たちはこんな所で躊躇う訳にはいかねえって分かっただけだ。」
血で汚れるのも厭わず、セシルの首輪をキョウヤに渡した。
実のところを言うと、仗助はこの殺し合いを幾分か楽観視していた。
確かにバツガルフやマリオのように、殺し合いに乗っている者こそいても、かつての吉良と同様、仲間と協力して倒すことが出来ると思っていた。
そして広瀬康一という友人は、この殺し合いを打破するのに欠かせない人物だと思っていた。
その彼が、これほど早くに呼ばれるとは。

また、康一の恋人だった山岸由花子の名前も呼ばれたことも気がかりだった。
どこか見知らぬところで、お互いを想いながら死んでいったのか。
それとも再会したが、より強い力を持った何者かが、二人を纏めて葬ったのか。

どっちにせよ、否が応でもこの殺し合いの恐ろしさを思い知らされた。

「ありがとよ。」
キョウヤは小さい声で感謝を告げる。
当の彼は、クラスメイトであったミチルの死に、さほど動揺していなかった。
一度彼女とは死別を経験していたし、冷たいようだが彼女が死んだことに関して、特に思う所は無かった。
大方見知らぬ相手に無警戒のまま近づいたか、治癒の能力を使い過ぎたことが原因で命を使い果たしたか。
彼女の死因は、考える宛はいくらでもあった。


むしろ気になったのは、キョウヤと同じ学校の3人のことだった。
これだけ死者が出ているということは、彼女らのうちいずれか、最悪の場合は全員が殺し合いに乗っている可能性もある。
この学校に行きたかったのも、殺し合いに乗っている者が拠点にしている可能性のある場所を調べたかったのもあった。


「東方、ここを出てどこかへ行きたい気持ちも分かるが、少し付き添ってくれ。」
「え?まだここでやることがあるんすか?」
キョウヤは首輪を受け取ると、今度は自分達がいた寮へと向かう。
キョウヤの予想通りというか、意気込んで外へ出ようとしていた仗助は、急にその足を止められたような気分になる。


「ちょっと気になることがあってな、というか東方、血だらけの状態で人に会うつもりか?」
「え?」
「シャワーや水道が使えるかどうか分らんが、俺の部屋で洗っていった方がいいと思うぞ。」
仗助本人には気付かないのも当たり前のことだが、右手と顔にはべっとりと血が付いていた。


学校の敷地こそはデザインに寸分の狂いも無かったが、この場所には寮のすぐ近くの裏山は無かった。
背景のみが全く異なる寮に奇妙な感覚を覚えながらも、寮の中に乗り込んでいく。

「東方、靴は脱がなくていいだろ。」
「いけね、つい癖だ。」

何度か角を曲がり、その先でキョウヤの部屋にたどり着く。

「ここだ。」
キョウヤは仗助を自室に招き入れる。
「んおお?」

部屋を見れば、凡その人間性というのは掴めるというものだ。
しかしキョウヤの部屋は一貫性が無い以上、その人間性を掴むのは無理と言うものだった。

「何かあったか。」
「い、いやぁ~、個性的な部屋っすね~。」
上着や靴下が床に乱雑に転がっているのはまだマシな方。
模造刀にテレビゲーム、『21日』と賞味期限らしきものが貼ってある野菜に、不細工なデザインの人形。
そして、部屋の隅には様々な分野の本を詰め込んだ本棚が並んでいた。


「そうか?気に入ってもらえると嬉しいのだが。」
どこかキョウヤはズレた回答をしながら、本を何冊か取り出す。

「ここがキョウヤの部屋ってことは分かったんすけど、何か用があったんすか?」
何故かつながっている水道で手と顔を洗いながら、至極当たり前の質問をキョウヤに投げかける。

「友達のおまえさんと親睦を深めるためにゲームを……と言いたいところだが、それどころじゃ無いからな。
この本の中にこいつをどうにかするのに使える何かがあるかもしれないと思って来たんだ。」
「確かに、これだけ本があるなら、何かヒントになる1冊くらいはあるかもしれねえな。」

血を洗い終わった仗助は、ビニールに包んであったトマトを頬張りながら、片手で本を探る。

「何だ……これは……。」
『爆発物取り扱い注意方法』という本を開いた瞬間、キョウヤの表情は驚きの色に染まった。

「虫でも張り付いていたんすか……え!?」
その本の中には、何一つ文字が書かれていなかった。
表紙と真っ白の紙だけで構成されていた本だった。
これでは、メモ帳ぐらいにしか役に立たない。


こんな話があるかと思って、2人は他の本も探ってみる。
しかし、結果は同じ。
キョウヤの部屋にあった本の中身は全て、文字が消えていた。


「意味が分からないな。」
全てでは無いが、一通りの本が白紙になっていることを確認すると、キョウヤは1つ呟いた。

「要はここの本が何か主催に知られたくないことを書いていたってことじゃ無いっすか?」
「そうじゃない。ここまで精巧にそっくりな場所を作っておいて、なぜ本の中だけ違うものにするかってことだ。」
キョウヤの疑問は極めて真っ当だ。
仗助の仮定の通り、元の世界の自室にあった本を置くことが何らかの不利益に繋がる場合は、本を置かなければよい。
そもそも、寮自体を置く必要が無いのだ。


「ところでお前さん、ゲームに興味があったのか?」
そこで仗助がゲームのスイッチを入れていたことに気付く。
テレビ画面には、キョウヤが元の世界でよくやっていたゲーム、『DANGER BOMBER』の文字が浮かびあがった。

「いや、ゲームは好きっすけど、それよりこっちの方はどうなのかな~って。」
仗助の予想に反して、普通にゲームは動いた。
残念ながらこのまま楽しむ余裕は無いので、電源をそのまま切ったが。

「本以外に異常は無いか。」
ここで手掛かりを得ることが出来ないと分かると、残ったトマトやバナナをザックに入れ、寮を後にする。

「ここからどこに向かうんすか?」
ゴロツキ駅から降りた時は、仗助は最寄りの山岸由花子の家へ向かおうと思っていた。
だが、山岸由花子も、その恋人の広瀬康一も死んでしまった以上、その場所へ向かっても仲間と再会できる可能性は低い。
ミキタカや重ちーに出会える可能性に期待して、杜王駅へ向かうのもありだが、道中が禁止エリアにされる以上は遠回りしないといけない。
バイクを使ったとしても、向かうのにはそれなりな時間を要する。
なので行く宛が無い以上、仗助は行先をキョウヤに任せようと考えた。


俺としては禁止エリアって奴が気になる。
その様な表情と共に、地図にメモされた禁止エリアの場所を指した
「ここへ行くんすか?」
キョウヤのメッセージが、「話すな」ということだと見抜いた仗助は、ぼかした言い方で返す。
『気になるのは、「入ったらどうやって死ぬのか」ってことだ。』
今度はキョウヤの部屋にあったボールペンで、中身が書かれていない本に書き込む。
「!?」


恐らく入った場合は首輪が爆発して死ぬことになるのは、キョウヤには勿論、仗助にも察しがついていた。
しかし、どういった過程で、どういった理由で爆発するのかは全く不明だ。


「その先には、スタンド使いがいるかもしれねーっす。」
決まったエリアに行くことで、何かのトリガーが発動するという繋がりで、仗助は鉄塔のスタンドを思い出す。
あのスタンドは鉄塔が無いと意味が無かったが、似たような能力を持つスタンド使いが、殺し合いに協力している可能性だってある。


『もしかすると、主催が直接出入りして手を下す可能性もある。』
『そこを俺たちでモグラ叩きっすか!』
『まあ、それが出来るとは限らないが、この首輪がどんな反応をするか、試してみることは出来そうだ。』


禁止エリアとは、言うまでも無くこの殺し合いの中でも最も死ぬ可能性の高い場所だ。
故に多くの者が近づくことすら恐れる。
だが、誰も近づかぬ場所こそ、殺し合いという檻の扉が隠されていることもある。


この世界に呼ばれた多くの者達は、殺し合いの世界に呼ばれずとも、何かの特別な力が支配する軛に閉じ込められる経験を積んできた。


光の世界の住民からは冥土と呼ばれた影の領域
闇の力で切り取られ、封印された大陸
古の女王の力で呑み込まれた影の宮殿
魔力を秘めたクリスタルの力によって稼働する月と地球を繋ぐ塔
弓と矢の力で覚醒したスタンドによって造られた、不規則に動く時間と爆発の空間
八丁標で区切られた町
とある秘密道具の存在によって露わになった魔法の世界
そして、能力者のみが集められた孤島の学校


ある者はその地に潜む征服者を討伐することで境界を打ち払い、ある者は知恵を用いてその地から脱出し、またある者は何らかの力を使って外からその軛を破り、未来を掴んできた。
拘束された裏にこそ自由への可能性はあり、そしてその裏への道は時に知で、時に力で拓かれるものである。


殺し合いという表のカゲに潜む裏への存在は、どのようにして繋がるのか。
あるいは表と裏は繋がらず、乖離されたまま結末を迎えるのか。
能力を持った者達が、そして無能な者達が織り成される道は、未だその先を見せない。



【E-8 学校 寮入り口 朝】


【小野寺キョウヤ@無能なナナ】
[状態]:健康
[装備]:モイのバズーカ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス (残弾2/5)
[道具]:基本支給品(切符消費)、替えの砲弾×5 ランダム支給品(×0~2 確認済) セシルの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:主催者が何を考えてるのか。少なくとも乗る気はない。
1.禁止エリアの近くへ向かい、首輪がどうなるのか試す。
今の所F-5を目指そうと思っているが、状況次第ではC-6の禁止エリアにするかも
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.知人の捜索。優先順位は佐々木=鶴見川>柊。
4.東方仗助は信用してもよさそうだ。
5.吉良吉影、柊に警戒。
※参戦時期は少なくとも犬飼ミチルの死亡を知った時期より後です。
※不老不死の再生速度が落ちています。少なくともすぐには治りません。
※死亡した場合一度死ぬと暫くは復活できません。
※仗助からダイヤモンドは砕けないの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。


【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(小)ほぼ治療済み 覚悟
[装備]:クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(切符消費)、ランダム支給品(×0~1 確認済) 承太郎が盗んだバイク@ジョジョの奇妙な冒険 いくつかの食糧
[思考・状況]
基本行動方針:乗るつもりはない。主催を康一たちの分まで殴る
1.キョウヤと共に禁止エリアへ向かう。
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.仲間を探す。生き返ってる重ちー、一般人の早人を優先したい。
4.吉良吉影を探す。乗ってるかどうか関係なしにぶちのめす。
5.佐々木ユウカ、鶴見川レンタロウに警戒。
6.クローショットがちょっと楽しい。
※参戦時期は少なくとも最終決戦、億泰復活以降です。
※キョウヤから無能なナナの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。
※マリオはバツガルフに操られている(DIOの肉の芽を植え付けられた虹村家の父の様に)と思い込んでいます

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小野寺キョウヤ
最終更新:2022年02月21日 13:35