カイン達が森を抜けた瞬間、二度目の放送が流れた。
その内容は、3人にとって1度目以上に衝撃的なものだった。
野太い声に告げられた名前の中に、彼らの知っている名前がいくつもあったからだ。
渡辺早季
伊東守と同じ班のメンバーの一人で、彼の想い人の秋月真理亜が大切に想っていた人。
彼が神栖66町から脱走した後ぐらいしか、話す機会はあまりなかったけれど、自分なんかよりよほどタフだとは思っていた。
だからこの殺し合いでも生き残っているんじゃないか。2年前の筑波山の時のように、ひょっこり仲間を連れて出てくるんじゃないか。そうだとばかり思っていた。
ビビアン
この殺し合いが始まってすぐに、伊東守が出会った参加者。
口調から女の子かと思いきや、男の子だったのは驚いた。
結局一緒にそれぞれの恋人を探しに行くことは出来なかったが、無事に会って欲しかった。
そう言えばあの人の恋人も呼ばれたけど、たとえ死んでいてもその最期は見届けることが出来たのか。
満月博士
守がビビアンと別れてからすぐに出会った、正義感の強いおじさんだった。
話をした時間はそう長くなかったけど、彼の善良な人となりは良く伝わった。
あの後もきっと悪と戦い抜いて、死んでしまったのだろう。
東方仗助
ミキタカが地球に来た時に最初に出会った地球人の一人で、色んな物を教えてくれた。
彼が地球人に興味を持ったのも、彼に出会ったのが発端の一つだ。
グレートな強さを持つ彼こそが、この殺し合いを止める存在だとばかり思っていた。
ゴルベーザ
カインの友の兄にして宿敵の男。
かつては許されざる罪を犯した男だったが、この場でこそ協力関係を築けるとカインは思っていた。
勿論、洗脳するされるの関係ではなく、心から協力できる相手になると。
だが、その願いも叶わず、弟の後を追うかのように死んでしまった。
エッジを殺したガノンドロフの名が呼ばれたのは朗報ではあったが、逆に考えれば彼さえも殺すほど力を持った参加者がいるということだ。
もしその人物さえもこの殺し合いの優勝を目指していれば。そう考えるとカインの表情は暗くなった。
残る参加者は半分を割った。
この殺し合いは3人の想像以上のペースで進行している。
おまけにその下手人の一人に、守の恋人が関わっているというのだから猶更質が悪い。
森を出た後、背後から爆音が聞こえて来た。
デマオンか吉良の攻撃が始まったのだと容易に想像がつく。
だが、カインは戻ろうとはしなかった。
今の彼の目的は、守を真理亜の下に届け、もし彼女がそれでも殺し合いを続けようとするならば、止めることだからだ。
(すまんな。)
戦いを生業とする竜騎士が、肝心な時に戦えぬことを申し訳なく思う。
それからしばらく歩くと、3人の目に何かが入り込んできた。
それは、火事で倒壊した図書館だった。
「惜しいことになったものです。ここが焼けていなければ皆さんのことについて書いてあった本をよめたかもしれません。」
あろうことかそこに内蔵されたであろう本の焼失を嘆くミキタカ。
だが、カインと守は別のことを憂いていた。
真理亜という少女が、この図書館を焼き払ったという話が事実だということだ。
まだ彼女がやった瞬間を見ていないが、デマオンが嘘をついたとは思えないし、呪力を使えば建物1つ焼くことぐらいはどうということはない。
守は2年前、呪力を用いて同胞を殺すことは出来ないことを教わったが、ここではそういったリミッターが外されているのだろうと察しがついた。
「どうして……。」
守はそう呟く。彼が何を疑問に思っているのかは、その先の言葉を聞かずともわかった。
しばらく彼は項垂れていたが、何か決意したかのように面を上げた。
「ミキタカさん。お願いがあります。」
「はい、どうしましたか。」
「前やったように、空飛ぶ靴に化けて、僕を東に運んでくれませんか?」
伊東守は吉良やヤンと清浄寺へ居た時、シャークが空を飛んでいる瞬間を、その網膜に焼き付けた。
後で彼と合流した際、それはミキタカの能力によるものだった。
「無茶なのは分かっています。でも、僕はすぐにでも彼女に会いたいんです。」
時は一刻を争う。
今彼は、安全性など二の次でとにかく早く真理亜のもとに辿り着ける手段を必要としていた。
二度目の放送を聞いて、図書館の成れの果てを見て、逸る気持ちは一層強くなった。
彼女に会いたかった。会って、何故こんなことをしたか聞きたかった。
聞いた所で絵しか描けない自分は、彼女を止められるかどうかは分からないが、それでも止めたかった。
ミキタカの力、アース・ウィンド・アンド・ファイヤーならば、空を飛んでいても真理亜の所へ行けるし、彼らが歩くよりずっと早い。
危ないことを承知で、ミキタカに懇願した。
「出来ますが、運べるのは守さんだけですよ。」
「分かっています。お願いします。」
「正気か……?」
仮面の裏で、カインの表情がさらに歪んだ。
殺し合いに乗って、少なくとも参加者を2人殺した相手に会いに行くというのだ。
それでもまだ、彼らを守ることが出来る自分がいるから、仕方なく彼女を追うことを許していた。
ところが、この少年はあろうことか自分なしで彼女に会いに行くというのだ。
「人の話を聞いていたのか?彼女は殺人を犯している。お前とミキタカだけで会いに行くなんて許すわけないだろ!」
カインの剣幕に気圧されるも、それでも守は答える。
「でも、僕は彼女に会いたいんです!」
「会ってどうする気だ。」
「間違ってることをしているなら、止めます。」
「間違っていることを間違っていると言って止められるなら、この殺し合いはここまで進んでいない。現実を見ろ!!」
カインは守の胸倉を掴む。
上を向かされており、呪力を使おうにも視界にカインが入らないので何も動かせない。
自分はヤンとシャークに、この2人を守るように頼まれている。
個人の願望を優先させ、その結果みすみす二人を死なせてしまえば、あの二人にも顔が立たない。
傍から見れば、強者が弱者を力で脅しているようにも見える。
強い者は間違った選択をする弱い者を、無理矢理でも正しい方向へ動かすべきだ。
それこそ、泣いたまま動かないミストの村の少女を、無理矢理引っ張って行こうとした時のように。
「カインさん!やめてください!」
ミキタカが竜騎士の片腕を掴み、彼を止めようとする。
「……お前まで、俺が間違っていると言いたいのか。」
ドサリと守を落とし、今度はミキタカの方を向いて睨む。
「違います。でも、間違っているとか、間違っていないとか、校則を破った生徒を叱る生徒指導の先生のように、守さんの気持ち抑えつけてはいけないと思います。」
「……コウソク?セイトシドウ?……お前は何が言いたいんだ。」
「私は守さんの想いを尊重して、大切な人に会わせてあげたいです。」
守とミキタカ、そしてカインの口論は完全な平行線をたどる。
「カインさんには話をしましたが、マゼラン星雲の私の故郷の人達は、皆死んでしまいました。
だから私は会いたい人がいる守さんが羨ましいんです。出来るなら守さんの力になりたい。」
「ありがとう。ミキタカさん。」
守にとって、このミキタカという男の言うことは半分くらいよく分からなかったが、それでも彼の要望を承ってくれたことは分かった。
「仕方がない……だが、二人共必ず帰ってこい。都合が悪いと分かればすぐに逃げろ。」
カインは結局根負けした。
(分かっていない弱い奴は、俺なのかもしれないな。)
こんな所で不毛な言い争いをしているのが嫌だからという訳ではない。
この場に想い人がいるのは守だけではない。
彼もまた、ローザという白魔導士に思いを寄せていた。
だが自分は、洗脳されて悪事を為すような弱い心の持ち主だから、彼女はセシルに思いを寄せているからという理由で、彼女からは離れた。
言い争いをしている内に、そんな弱い自分が彼を止める資格など無いと思い始めたからだ。
「……ありがとうございます。カインさん。」
守は頭を下げてお礼を言う。
「礼ならそいつに言え。」
「分かりました……ミキタカさん、ありがとうございます。」
「礼ならいりません。ただ……。」
ミキタカが何やら言い淀むが、次に言いだしたのは二人が予想もつかないことだった。
「もし無事に生きて戻ってこれたら、私にティッシュをご馳走してくれませんか?」
「「!!!?」」
彼が仗助たちがいる地球に、初めて来たときに仗助から貰った、白くて四角いモノ。
人間にとって食べ物ではないそれは、宇宙人である彼にとってフワフワとしていてとても美味しいものだった。
「ティ、ティッシュというとあの白くて四角くて、箱に入ってるアレか?」
カインの顔がさっきとは別ベクトルで引き攣った。
彼がティッシュを見た場所は、ドワーフの城の隅にあった、恐ろしい部屋だった。
自分たちとはまるで違うおかしな名前の人達やモンスターが、『〆切』という名の何かを恐れながら、光る箱や真っ白な紙に向かって鬼の形相で作業していた。
中には涙や鼻血を出していた者もいて、その人達が別の人に『ティッシュをくれ』とねだっていた。
そこにいた者達の見た目は普通の人間や魔物だというのに、彼らがどこか神々しく見えたのもまた恐ろしかった。
あたかも彼らが自分達の世界の人間を創造した神様でもあるかのように。
カインがティッシュを見た場所である『開発室』は、下手なダンジョンよりも恐ろしい場所だった。
「私が初めて食べたティッシュは、箱ではなく布に包まれていましたが……。白くて四角いですね。」
「何でもいい。あんな恐ろしいものを好んで食べるというのか?」
「え?え?何の話をしているんですか?」
呪力の到来に伴って、化学製品が国から姿を消した守の故郷では、知らないものだったので、なんのこっちゃという話である。
それでも、デマオンから真理亜のことを聞いて以来、ずっと重くなり続けた空気が少しだけ軽くなったのは良い事だったが。
「では守さん。行きましょうか。」
しばらくティッシュのことで盛り上がった後で、ミキタカが呼びかけた。
本当は彼も1人で危険な場所に向かいたくない。
もっと色んな人から色んな物を学びたいというのは事実だ。
でも、伊東守という自分が持ってない気持ちを胸に抱く人間が、最後に何を見つけるのか見届けたかった。
「はい。お願いします。」
「俺もすぐに追いつく。たとえマリアを止められなくても良い。俺が行くまで時間を稼いでいてくれ。」
かつて仗助やシャークにやったように、ミキタカは身体の形状を変えて、守の足に巻き付く。
瞬く間に真っ白なスニーカーへと姿を変える。
「全力で飛ばしますんで、振り落とされないでください。」
「はい……うわああああああああ!!」
高く、高く、高く。
ミキタカは守を連れて、そのまま東へと飛んで行く。
仲間の恋路を見届けるために。
前へ、前へ、前へ。
守は空気抵抗を浴びながらも、辺りを見渡す。
不安定な空中でも、自分の視界に彼女のシンボルカラーの赤が入ってこないか必死で地上を見渡す。
あの時手を掴んでくれた彼女の手を、今度は自分が掴むために。
早く、早く、早く。
カインはミキタカを追いかけ続ける。
先に行かせることになってしまった彼らを追いかけるために。
【B-5 図書館跡地 /一日目 日中】
【カイン@Final Fantasy IV】
[状態]:HP7/10 服の背面側に裂け目 疲労(小)
[装備]:ホーリーランス@DQ7 ミスリルヘルム@DQ7
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーを殺す。
1.守、ミキタカを追いかける。
2.ローザとも集合したい。
3.出来るならばスクィーラ、偽ローザ(ボトク)、吉良吉影の危険性を広めたい
※参戦時期はクリア後です
【B-5 東 空中 /一日目 日中】
【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(小) スニーカーの姿
[装備]:魔導士の杖@DQ7
[道具]:基本支給品 バッジ?@ペーパーマリオRPG 紫のクスリ(残り半分)@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:カインやシャーク、早人に協力する
1.守を真理亜の下に届ける
※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。
【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 精神的疲労(大) 不安(大) 真理亜が心配
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜を探す。見つけたら絶対に止める。
※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した直後です
※真理亜以外の知り合いの参加者がいることを知りません。
※デマオン達から真理亜が殺し合いに乗っていることを聞きました。
最終更新:2022年12月11日 00:12