どんな物にも、表と裏がある。
表が美しい存在は、裏もそうとは限らない。
どんなに好きな相手でも、その裏を知ってしまったとき。
それでも人は、その相手を好きでいられるだろうか。
世界でも同じこと。
どこまでも平和だと感じていた世界が、実は見えない所で争いと鬱屈に満ちているかもしれない。
それを目の当たりにしたとき、世界を受け入れられるだろうか。
ある朝僕は、フィッシュベルの港を漁船と共に出発した。
行き着く先は風が示している。
空は雲一つなく、太陽のみが輝いている。
船乗りたちはせわしなく動きながらも、満ち足りた表情をしている。
嬉しそうな表情を浮かべると、父のボルカノからぼやぼやするなと喝を入れられた。
早速船室へ行って、芋の皮むきを手伝おうとすると、背後から大きな声が聞こえた。
「船長!!大渦です!!」
突然の轟音と共に、海のすぐ近くから大渦が出来ていた。
「……どういうことだ!!急いで方向を変えろ!!」
ボルカノが慌てた表情で、舵取りに指示を出す。
しかし、方向を変える暇もなく、大渦は迫りくる。
「うわあああああ!!」
船は自由を完全に失った。
自分も合わせた、様々な悲鳴が船中にこだまする。
どちらが上かもわからない。ただ、海の藻屑になるまいと必死だった。
その後、視界が真っ黒になり……。
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「起きなさいよ!!」
意識を取り戻すと、見知らぬ場所だった。
「ようやく目が覚めたのね、アルス。あんたっていつまでたっても寝坊助ね。」
「マリベル!?」
声の主は、アルスのよく知っている人だった。
「ここは!?」
見回すと、大広間。人も、人ならざる者も、多く集まっている。
「分からん。だがいつの間にか、ここに皆集まっていた。」
そう話しかけたのは、自分と同じ、緑の帽子で、堀りの深い顔ととがった耳が特徴的な青年だった。
「静粛に!!」
頭上からホール全体に轟く、野太い声が聞こえる。
天井近くに、異形の存在が浮いていた。
それは、僕のよく知っている怪物だった。
「我は、オルゴ・デミーラ。貴様たちデク人形共、我を楽しませて見せよ。」
楽しませる、とは何のことかは分からないが、この怪物が考えていることだから何かろくでもないことなのだろう。
「今度は何をするつもりなんだ!?」
二度敵が蘇る恐怖に慄きながらも、声を荒げる。
「これより貴様たちは殺し合いをしてもらう。逆らうことは許さん。」
予想は最悪の形で当たった。
元々不穏だった空気がざわつき始めた。
一部の存在を除いて。
「そうはさせるか!!」
隣にいた緑帽子の青年が、弓矢を取り出し、ムカデと竜を合わせたような怪物の、むき出しの脳目掛けて射る。
それは、一寸のぶれもなかった。
矢はデミーラの頭に吸い込まれるその時。
矢は軌道を突然変えて、別の少女の頭に突き刺さった。
悲鳴と共に少女の頭から血がほとばしる。
「イリア!!」
どうやら青年の知っている相手だったらしい。
「困るな。いくら殺したいからと言って、いきなり武器を出すなど。」
「ザント!!」
突然上空に表れたのは、不気味な仮面をつけ、黒い服を全身にまとった男だった。
青年の動揺もよそに、話を続ける。
「とはいえ、殺し合いをする鞭だけではやる気も起きないだろう。影の王として生き残った一人には、何でも願いを叶えることにした。」
仮面の男、ザントが指をパチンと鳴らすと、矢が消え、イリアと呼ばれた少女が息を吹き返した。
僅かながら青年も安どしたような表情を見せる。
「え?」
「このように、死んだ者も生き返らせる。全員を生き返らせることはできないが、我らに不利にならない限り、無限の富でも永遠の命でも、何でもくれてやろう。」
「ただし、我らに逆らうとこうなる。デク人形共、自分の首を見るがよい。」
(!?)
ここでようやく、僕は首輪に気づいた。
「何……これ。いやああああ!!」
デミーラが念じると、首輪から謎の点滅音が聞こえ、先ほど生き返ったばかりの少女の顔が、爆発と共につぶれた果実のようになった。
「最後に選別として、デク人形共に道具をくれてやろう。参加者の名前や、大切なことは載っているから先ほどの青年のように、くれぐれも殺しに急がないように。」
「だが、他の道具は何が入っているか分からん。珍しい物があるかもしれぬから、弱者でも強者に打ち勝つチャンスはある。」
「うああああああ!!」
二度少女を失った青年は、なりふり構わず二人に斬りかかる。
だが、その結末を見ることはできなかった。
僕も、その青年も、マリベルも違う場所に送られたから。
【イリア@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 死亡】
【残り51名】
表裏ロワイヤル 開始。
最終更新:2021年08月19日 21:57