伊東守は、影に付けられたことがある。
時はこの戦いが始まる、1か月前。
呪力を持つ子供の中で、出来の悪い子供や、将来町に危害を及ぼす可能性のある子どもを間引いていく、「不浄猫」の影を見た。
殺されまいと、一人で町から逃げた。
その先で彼の仲間である早季や覚、そして最愛の人であった真理亜が助けてくれるも、真理亜の決意の下で、永遠に町から離れる道を選んだ。


守は心の優しい性格だった。
そして、一度愛した相手には、どこまでも愛した。
彼の得意なことである、呪力を使った絵で、恋人を何度も何度も描き続けた。




「殺し合いなんて……どうすればいいんだ……。」
爆発したようなくせ毛の髪型の少年、伊東守は恐怖に震えていた。

今でもフラッシュバックする、少女の悲鳴と、真っ赤な血と共に潰れた顔。
「う……うええ……」
何度も心を苛む出来事に耐えきれず、胃の中のものを戻す。
元々弱気な彼は、殺し合いに耐えきれるほど強い心ではなかった。
以前不浄猫に追いかけられた時は、町の人の手が届かない所に逃げることが出来た。
しかし、今回はそれさえも出来ない。


「そ……、そうだ。誰がいるのか、確認しないと……。」
名簿代わりというトランプを、震えた手でめくる。
どこか全人学級時代に呪力で作ったカードの塔を思いだし、懐かしい気持ちになるが、1枚目をめくった瞬間、それどころではないことに気づいた。


「真理亜……。」

めくるといたのは全人学級の友達にして、最愛の人だ。
トランプをめくって一番最初に見つかったのは、全人学級の同じ班の友達にして、最愛の人だ。
他にも神栖66町から呼ばれている者が呼ばれているかもしれないが、このカードを調べている時間が勿体ない。
彼女だけは絶対に死ぬ前に見つけないといけない。


何度も言うが、守は優しい性格の持ち主である。
たとえ命令されても、生き残るために大切な友達や恋人を殺すことはできない。
だが、主催に対する反撃をしようと考えるかは、別の話。
この殺し合いを止めようという勇気は、彼は持ち合わせていなかった。


続いて地図を見ると、その中に書いてあった地名に、見覚えがあるものがあった。

『清浄寺』
かつて神栖66町で、守護霊を得た子供が、呪力を承る洗礼の場所である。
もう二度と行くことになるまいと思っていた場所だが、他の仲間もこの場所を目指しているはずである。

ゆっくりとだが、北へ向かって歩きはじめた。
(無事でいて……。)

そう思いながら駆け出した時、何者かがぬるりと地面から現れた。


「マリオ……。どうすればいいの……。」
何かを嘆いているその存在は、どう見ても人間ではない。
体全体が影のようで、頭に大きなとんがり帽子をかぶっている。
バケネズミが作ったミュータントか?と思い身構えてしまう。


「あの……大丈夫ですか?」
自分の身も案じずに、守はなぞの魔物に話しかけた。
近づくのは怖かったが、いざというときに呪力がある。
もしかすると真理亜達に関する重要な話を聞けるかもと思って、声をかけた。


「アタイはビビアン。大切な人がね。殺し合いに呼ばれたの。」
ふと守は大切な人が呼ばれて、困惑していた自分を重ねてしまった。
「近寄らないで!!」
警戒心を解き、ビビアンに近づくと、急に叫ばれた。

「ご、ごめんなさい。」
「アタイ、あなたを殺そうと思ってるの。」
突然の告白に、守の背筋が冷たくなる。


「マリオのために生きることにしたの。アタイの幸せは、マリオの幸せだから。」
ビビアンは守に向けて指をさす。
守自身は相手の能力を全く知らないが、それが恐ろしいものだと第六感が告げていた。
呪力で抵抗する勇気も、失せていた。

「真理亜……。ごめん。」
守は涙目になりながら、最愛の人に別れの言葉を呟く。


「どうしてよ……。」
しかし、ビビアンは攻撃をする前に、崩れ落ちた。
「同じ大切な人がいるのに、アナタだけを殺せないわ。」


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


ビビアンは、かつてはバツガルフ所属の刺客集団、カゲ三人組の一人で暗躍していた。
しかし、その中で彼だけ男だということ、他の二人より弱いということで、惨たらしい扱いを日々受けていた。
ある日、リーダーのマジョリンが無くした爆弾を、無理矢理探させられていた。
その時に、かつて敵として命を狙っていた相手のはずの、マリオに助けてもらった。
彼の優しさに惚れ込み、その命を共にしようとした。


やがてカゲ三人組の真のボスである、女王がマリオの手により倒され、姉たちとも和解し、幸せを手に入れた。
手に入れたはずだった。

再び自分たちに会いにやって来たマリオを、他の仲間と共に迎えようとしていた時、気が付いたら殺し合いに巻き込まれていた。
しかも、大切な人まで参加させられていた。


(何でアタシの幸せは、こんなに脆いの?)
しかし、ビビアンの心にはあるものがあった。
自分はまだマリオを幸せに出来ていない。
こんな状況だから、全てを殺してでもマリオを生き残らせるべきだ。
だが、マリオはそんなことを望まないはず。
でも、もしも、この殺し合いで、彼が殺されてしまったら?



最初に出会ったのは、気弱そうな少年だった。
殺そうと思ったら、殺せるほどの。
だが、マリオと自分の幸せのために、誰かの幸せを壊していい権利なんてない。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「へえ、ビビアンも好きな人がいたんだ」
「マリオっていうのよ。」

2人は戦えないと分かって、僅かながらの話をすることにした。
トランプカードの、『♤7』の所に、優しそうな笑みを浮かべた、赤い帽子の男がいた。
「じゃあ、ちょっと待って。」


守が呪力で、ビビアンのザックの表に絵を描いた。
彼は昔から、真理亜の絵を描き続けたので、得意なことである。
マリオとビビアンが、楽しそうに手を繋いでいる絵だ。

「ありがとう。とてもステキね。」
「こういうの、得意だからね。」

少しだけ守は表情を緩めた。


「ねえ、一緒に行かない?」
守はビビアンに、同行を頼む。
「ゴメン。それは出来ないわ。」
「えっ!?」
心を許した相手であったと思っていたからこそ、余計驚く。


「あなたが優しい人だと分かった。でも、時が来れば、アナタを殺すかもしれない。」
「ま、待ってよ!!」
「ごめんなさい。アナタの絵、ありがとう。」


独特な走り方をしながら、ビビアンは小さくなっていく。
呪力を使えば動きを止められたかもしれないが、守にはそれは出来なかった。


【E-4/草原/一日目 深夜】
【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 不安 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜を探す
2.清浄寺へ向かう

※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した直後です
※真理亜以外の知り合いを確認していません。

【ビビアン@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 情緒不安定
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針 マリオを探す もし彼が死んだら?
1. 探す途中に、危険そうな存在がいれば殺す

※本編クリア後の参戦です
※ザックには守の呪力で描かれた自分とマリオの絵があります。


Back← 002 →Next
001:頭を使おう、物理ではなく 時系列順 003:背けた視線の先のカエサル
投下順
NEW GAME 伊東守 029:心を照らす光
NEW GAME ビビアン 040:想いは呪い呪われ
最終更新:2021年05月13日 10:26