「早季ちゃん、向こうから誰か来るみたい。」
わたしとドラえもんと橋の下から出ようとした時、頭上からギシギシと音が聞こえてきた。
足音からして、人ぐらいの大きさのようだ。
ドラえもんが言っていた赤い帽子の男あることを恐れながらも、月が輝いている方を見上げた。


「ワシはメルビンと言う者。そこな女子(おなご)とからくり、鎧を付けた赤髪の男を見なかったでござるか?」
橋の上にいたメルビンと名乗った老年の男性は、ひらりと飛び降り、私達に話しかけた。

「私は見てませんが……その怪我は……。」
「ええ!?ぼくはからくりなんて古臭いものじゃないよ!!22世紀の高度な猫型ロボットだ!!」
「別の方向へ行ったでござるか……。」
年にしては妙に優れた身のこなしに驚くも、それ以上にわたしとドラえもんが驚いたことが別にあった。
最も、ドラえもんにとっては自分のこと、わたしにとっては怪我と言う他人のことだったが。

「しかしからくりでは無いとは、ワシの目も曇ったものでござる。」
からくりとロボットって、どういう違いがあるのだろうと思っていた所で、私達の後ろにいたチビィが、メルビンの方へ這い寄る。

「プギー、プギー!!」

「なんと、そなたは……!!」
意外な人が、意外な生き物と知り合っていたことにすっかり驚いてしまった。
だがそれ以上にチビィの知り合いだということで、メルビンが悪人ではないことが分かって安堵した。

「プギー!プギー!!」
「久し振りでござるなあ。ワシのことを覚えてくれて、嬉しいでござるよ。」
身体をのたくらせ、メルビンの体の上に登ろうとする。
それは捨てられた小動物が、長い旅の果てに主人と再会できたかのような図だった。
最も、片側は犬や猫ではなく、巨大な虫なので見栄えはお世辞にも良いとは言えないが。

「メルビンさんのペットだったの?」
チビィの懐き様を見て、ドラえもんは少し物怖じしながらも、声をかける。

「飼い主はシーブルという男でござる。ワシはこのチビィがルーメンという街を救った一部始終を見届けただけでござるよ。」
「プギー!!」
「え?街を救ったって……。」

わたしとて幼き頃にヒーローが街や国を救った話を、読んでないわけではない。
しかし、そのヒーローの姿は概して人や獣の姿をしており、虫の姿をした英雄の話は聞いたことがなかった。
いや、大昔から語り継がれたヒーローと言うのも、本当は人の姿をしておらず、親近感を持たせるために「カッコいい」と思うデザインにしたのかもしれないが。


「見た目は怖いかもしれぬ。だがチビィは紛れもなく強くて優しい勇者でござる。」
「いえ…私の町にも似たような生き物がいますし……。」
「でも、新しい仲間が見つかって良かったね!!」
「プギー!」


「そういえばメルビンさん、怪我しているようですが……。」
この集まりは人にからくり人形に大きな虫と、一見仮装大会のようにも見える。
だが、ここは殺し合いの世界だ。
現にメルビンは何者かと戦ったのか、怪我をしていた。
だからそればかりは聞き逃すことは出来なかった。

「うむ。そう言えば忘れていたでござる。」
チビィのことで話が逸れていたが、メルビンが最初に訪ねた、鎧の赤髪の男のことは聞いてなかった。

そして、彼もまた、ドラえもんと同様、殺し合いに乗った者を見たとのことだった。

メルビンは最初は、ここから南のバロン城にいた。
そこで赤髪の男が、自分と仲間のノコタロウに襲い掛かってきた。
戦ったが、力及ばず敗れて仲間は犠牲に、自分も怪我をしてしまった。


自分は幸いなことに、誰かが誰かを殺す瞬間はおろか、殺し合いに乗った者さえも見ていない。
だが、ドラえもんが言っていたマリオという赤帽子、そしてメルビンが言っていたガノンドロフという赤髪の男など、そこかしこに殺し合いに乗っているものがいるという事実は否定できない。


「死んでいったノコタロウのためにも、一刻も早く仲間を集め、ガノンドロフを倒さねばならぬ。」
「うん。ぼくの仲間もきっと協力してくれるはずだよ。」
「あの……私も手伝います!」

順調に協力者は集まっている。
この調子で覚や真理亜や守も来ればよいと、私は思っていた。
そして橋の下から土手に上がり、少し西に向かって歩くと、私の視力が、新たな参加者を捕らえた。

「ドラえもん、メルビンさん、向こうに……。」
しかし私が見つけたその姿は、人とは大きく異なっていた。
紫の液体のような塊に手袋と大きな帽子を付けており、しかも脚は無い。
人間どころか、他の図鑑で見たどの生き物とも似つかない。
強いて似ている存在を挙げるとするなら、私が小さい頃に読んだ絵本の「おばけ」に似ている。

「む。その姿は……!!ワシが近づいて見るでござる。」
意思疎通を取るか取るまいか悩んでいると、メルビンがいち早く私たち二人を後ろに、謎の姿の参加者に走り始めた。


「やめて!来ないで!!」
「待ってくれ!!そなた、ノコタロウ殿の仲間のビビアン殿ではござらぬか!!」

「え?」
ビビアンと言われたお化けは、逃げようとするも、急に足を止める。
「話を聞いているでござる。ワシらと共に、仲間を見つけようではないか。」

「あなた……ノコタロウに会ったの?」
ビビアンはメルビンに対して話を切り出そうとした。
ようやくコミュニケーションが取れたと私も安堵した。


「すまぬ。お主の仲間を守ることは出来なかった。」
深く頭を下げるメルビン。
この人はどうも礼儀と言うものを重んじる人なんだなと思った。

「でも、きっとワシらと一緒にいれば、他の仲間も見つかるはずでござる。」
「そうだよ。君もぼくたちと一緒に………。」

追いついたドラえもんも、仲間に誘おうとする。
しかし、突然造り物であるはずの顔が、引き攣り始めた。

「どうしたの?」
「き、君のそのカバン……」
「え?」


反射的にビビアンの支給品袋を見てみる。
デザインは私達が持っている物と違いはない。
だが、模様が描いてある。
いや、模様ではない。絵だ。
そして私は、その模様に見覚えがある。
全人学級でも習った、呪力で描いた絵だ。
幾分か上手い気もするが、優しげな表情から、守が描いた物だった。
班のメンバー同士で、互いに描いた絵を穴が開くほど見たのだから、間違いない。


「そのカバンに描いてあるのは、あの危険な赤帽子の男の絵じゃないか!!」
「!!!!!!!!!!!!!」


ビビアンの帽子の裏に隠された瞳の、光が失われた。
守の絵を見つけて、嬉しい気持ちになってしまったが、それどころではないことにすぐに気づく。
問題は絵の作者じゃない。何を描いてあるかだ。
確かにカバンに描かれていたのは、ドラえもんが説明したトランプ名簿の人物と間違いなく同じ存在だった。

「ドラえもん殿!そんなはずは無かろう!!マリオ殿はノコタロウ殿の仲間でもあるぞ!」
「ぼくは見たんだ!!そのカバンに描かれている人が、別の人を殺したんだ!!」


「違う……違う……そんなはずない………。」
「落ち着くでござる。きっと何かの間違いで……。」
パニックに陥っているビビアンを、メルビンが宥めようとする。


「マリオがそんなことをするはずがない!!!消えて!!!!!」
耳が痛くなるほどの大声と共に、両手から炎が放たれる。
それは、メルビンも、ドラえもんも、追いついたばかりのわたしとチビィも、全員を焼き殺そうとしていた。


「ぬぐうううう!!!」
しかし、わたしもドラえもんもチビィも、それで焼け死ぬことは無かった。

咄嗟にメルビンが炎を前にして立ちふさがり、どういった技術か知らないが、炎を通すことは無かったからだ。
だが、私は助かっても、彼は無事かどうか分からない。

「メルビンさん!!」
私は呪力で咄嗟に身体中の火を消す。
恥ずかしい話、わたしはビビアンを止めることも、ドラえもんを宥めることも出来なかった。
先程ビビアンのことをパニックに陥っていたと言ったが、一番情緒が安定していなかったのはわたしだったのかもしれない。


「プギィィィィ!!」
「メルビンさん!!」
ドラえもんとチビィも、声をかける。

「かたじけない。ワシより、あの子を助けて欲しい……。」
メルビンはどうやら無事だったようだが、追いかけようとしてすぐに倒れこんだ。
すでに怪我をしていたし、4人分の攻撃を受け止めた火傷は軽くはなかった。
「分かった、そうする。早季ちゃんはメルビンさんを診ていて!!」


ただわたしはコクリと頷き、小さくなるビビアンと、その後すぐに小さくなっていくドラえもんを見守るしか出来なかった。

隣ではチビィが心配そうに鳴いている。
幸い、命に別状は無いようだが、不安でたまらなくなった。


何が正しくて、何が間違っているのか分からない。
ドラえもんが言ったことは間違っていないと思うが、ビビアンやメルビンの話が嘘だとも思わない。
ただ一つ分かったのは、この世界は私が和気園に入る前に読んだ物語の様に、敵と味方がはっきりしているわけではないということだった。



【F-5/一日目 早朝】


【渡辺早季@新世界より】
[状態]:健康 恐怖(小) マリオに対する疑問
[装備]:トアルの盾@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品 チビィ@ドラゴンクエスト7 不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(真理亜、守、覚を探す)
1.メルビンの怪我が治るまで、隣にいる
2.近くにいるらしい守を探しに行きたい。
3.名簿の友達の姿に疑問
※参戦時期は夏季キャンプ1日目終了後。そのため奇狼丸・スクィーラとは面識はありません。


【メルビン@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:HP1/10 全身に火傷 背中に打撲、軽い脳震盪 MP2/3
[装備]:勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~5(一部ノコタロウの物)
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから身を守る、ガノンドロフは今度会ったら絶対に倒す 
1.自分とノコタロウの仲間(アルス、マリベル、ガボ、アイラ、シャーク・アイ、クリスチーヌ、ビビアン、マリオ、ピーチ)を探し、守る
2.ボトク、バツガルフ、クッパには警戒
3.マリオに不信感
※職業は少なくとも武闘家、僧侶、パラディンは極めています。



【ドラえもん@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康 恐怖(中) メルビンへの罪悪感 ビビアンへの不信感
[装備]:天罰の杖@DQ7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから身を守る、マリオ・デマオン・赤髪の男(ガノンドロフ)に警戒
1.ビビアンを追いかける
2.のび太、美夜子、満月博士を探す
3.学校で起きたことを対主催勢力に話す

※魔界大冒険終了後です。


【チビィ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康
[思考]:早季とメルビンが心配





【ビビアン@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 FP微消費 情緒不安定(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針 マリオを探す もし彼が死んだら?
1. 探す途中に、危険そうな存在がいれば殺す
2.マリオに会って、本当のことを知りたい

※本編クリア後の参戦です
※ザックには守の呪力で描かれた自分とマリオの絵があります。


Back← 040 →Next
038:憤懣焦燥 前編 時系列順 042:交錯した想い
039:Seek for my change 投下順 041:パパは僕のパパじゃない
027:過去も未来も、巨悪も超えるから ドラえもん 044:カゲが呼び寄せるものは
渡辺早季 056:エンドロールは止まらない
002:影に飲まれるな ビビアン 044:カゲが呼び寄せるものは
004:魔王を貫け メルビン 056:エンドロールは止まらない
最終更新:2021年09月04日 22:19