アホ・バカ・マヌケは書を読まない


多くの催眠愛好家は本を読まない、とある人から言われました。

彼らは目新しい技法が知りたいだけだ。その奥にある原理や理屈を理解しようともしない。派手で人目を引くテクニックを披露して、周囲からちやほやされたいだけだ、という訳です。

もし本当にそうだとしたら、こればかりはどうにもなりません。いやがる馬(だっけ?)に水を飲ませるのは至難の業です。エリクソンなら、前の晩の食事に塩分をたっぷり入れておくかもしれませんが(笑)、この場合に使えるよい手を思いつけません。

ある統計では、世の中の9割の本は、人口の1割に当たる人たちが買っているそうです。
本を読む人は、圧倒的少数者です。最近では、大学はもちろんのこと、大学院ですらそうだといいます。

もともと他人に何か言われて、自分の行動を変えることができる人は、ごく限られています。
臨床に携わる人たちならば、《アドバイス》なるものが、もうまったく役に立たない現実と理由をよくご存知でしょう。
本を読んで、自分の糧としたり、自分の行動を改善したりできる人も、ごくごくわずかです。

たとえば理屈を学びさえすれば、あとは自分で応用できる、手法などいくらも作り出す事ができる、と思う事ができる人は、すでに相当の実力の持ち主でしょう。
自力で本を読む人、読める人は、本を読む利点を身にしみて分かっており、現にどんどん自分で読み進めることができる人でしょう。

このサイトのターゲットは、ごくごくせまいニッチに、合わせられています。
テクニックにしか興味の無い、社会的文盲の催眠愛好家は、最初から寄り付きもしないでしょう。
すでに自力で催眠研究を進める人たちにも、このブログは無用のものでしょう。
ターゲットは、その両端の間にある、小さな領域にいる人たちです。
技法にも興味があるが、理屈が分かればもっとよく自分のやっていることが理解できるんじゃないかと思う人、
日本語での催眠の情報(書籍からサイトまで)に不足と不満を感じつつも、自力で海外から情報を取り寄せるコストや時間を負担するのが難しい人、
英語や学校から離れてかなりの歳月が過ぎ、興味はあるが洋書を買ってもツンドクに終わってしまうだろうと現実的な判断を下す人、
もっとさまざまな《少ない人々》がいるかもしれません。

あらゆる人たちが独自の存在であるという点では、少数者です。
砂漠を緑に変える事は不可能だと言われています。けれど砂漠と非砂漠の間、その境界で、植物を砂から守り育てることが、砂漠の拡大を食い止め、人の生きる場所を少しでも広げることにつながるのだそうです。

この世に小さき花の生きる場を。少なき真摯な催眠家が自らを育てる術と手がかりを。
このサイトの存在意義を、大げさに言うのならば、多分きっとそういうことなるのでは、と思います。

「生まれては死ぬるなりけりおしなべて 釈迦も達磨も猫も杓子も」 (『一休咄』)
最終更新:2009年07月14日 17:24