とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 7-824

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匿名ユーザー

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序章 [そして事件は唐突に]

<2:17 AM>

深夜の夜道には人っ子一人いなかった。両サイドには学生寮と車道があるというのに不自然なほど人の気配がない。
そんな夜道を一人の少年が歩いていた。少年は右手で現代的なデザインの杖をついている。コンビニの帰りなのか、左手で缶コーヒーの入ったビニール袋をぶら下げていた。
彼は白く、白く、白い印象を持つ、赤い目をした少年で、
学園都市最強の超能力者のイメージを見るものに叩きつけるような風貌だった。
少年、『一方通行(アクセラレータ)』は夜の道をただ歩き続ける。
ただ前だけを見つめて、決して後ろを向かずに歩き続ける。

ふと思う。自分と別れた少女は今なにをしているのだろうか、と。
彼が守るために距離を置いた少女は元気にしているだろうか?
一方通行と呼ばれる少年はぼんやりと思考する

そんな彼の携帯のバイブが震え始めた。一瞬、自分の両腕が塞がっていることに気付き、彼は近くにあったベンチへと腰掛け、ビニール袋を置いてから携帯を開いた。
非通知ーーー
チッ、と舌打ちしてから彼は通話のスイッチを押した。
『こんばんは、一方通行。早速ですが頼みたいお話があります』
妙に礼儀正しい男の声が聞こえた。この男は一方通行の所属する学園都市の裏組織<グループ>の上司。
<グループ>に指令を出し、行動しやすくなるように調節する男だった。
しかし、一方通行にとって…いや、<グループ> にとっては組織はただの組織であり仲間という認識はない。それどころか<グループ>の中でさえ仲間ではなく、仕事の同僚で『死んでもか

まわない』とさえ思っている。
互いが互いを利用する組織。そんな関係の人間がなぜ一方通行に電話をかけてくるのか?仕事が入ったならリーダーの土御門にでも知らせればいいのだ。
つまりこの電話は仕事とは関係なく一方通行、一人だけに対するお願いということ。そんなことを一方通行が聞いてやる必要はない。
「俺ァ、断る」
それだけ言って電話を切ろうとする一方通行に男は食い下がる。
『まあ、待ってください。話くらい聞いても損はないでしょう?』
「あァ?なンで俺がオマエの話を聞いてやらなくちゃなンないんですかァ?」
切るぞ、と言って携帯の通話を切ろうとする。
その時、聞こえた


『妹達(シスターズ)が大変なことになっているのですが……残念です』


一方通行の通話をきる指の動きが止まった。
「そりゃどおォいうこった?」
『聞く気になりましたか?』
いちいち相手をバカにするような口調で話すのが勘にさわる。
「あァ…嫌ってほど聞く気になったからさっさと教えやがれェ」
『そう急かさなくてもお教えしますよ』
そう言って男は一拍置いて、
『学園都市の研究機関の一つが魔術師を名乗る団体の手に落ちました』


それに対し一方通行は思わずハァ?と呟く。
「それが妹達とどォいう関係がある?」
だから、最後まで聞いてくださいと言ったでしょう?と男は話し、続ける。
『正確には、魔術側に「落ちた」というより「落とした」です』
面倒な言い回しに腹がたったがその言葉の意味を読み取り一方通行は大きなため息を吐いた。
「…………研究機関が魔術側と手を組んだかァ?」
『ご名答。さすがは学園都市最強の超能力者(LEVEL.5)といったところですね』
男は人をバカにするようにフフッと笑う。
「そンなとってつけたような世辞はいらねェンだよ。さっさと妹達について教えろって言ってンだろォが!!」
『そう騒がないでください。きちんとお教えする、とさっきから言っているでしょう?』
クソッ…と呟き、一方通行は拳を握りしめる。もしこの男が目の前いたら殺してやりたい。
『その研究機関と手を組んだのはローマ正教です。この意味をあなたなら簡単に理解できるでしょう?』
ローマ正教とは世界最大の魔術結社、という学園都市と違った独自の超能力開発をしているところだと一方通行は聞いていた。
全人口を二十億人。その全てが超能力を使えるわけではないがもし完全に敵に回ったとすると一斉に世界の二十億人との対立となる。
その対立は世界戦争の引き金となるには充分だろう。その戦争を恐れて、互いに干渉しないように距離をとっていたのに向こうから仕掛けてきたということは……
「やつらは戦争をおっ始めるつもりかァ?」
『おそらく、そのつもりでしょう。』
男は一方通行の意見を肯定する。
この二人は知らない。ローマ正教の狙いはとある少年の『右腕』だということを。
そして、その少年のためだけに学園都市を潰そうとしているのを。
魔術と超能力は根本的な部分で違うということを。
一方通行は数秒思案して、口を動かす。
「………つまり、今の状況はかなりマズイってェことだよな?」
『お話が早くて助かります。』
一方通行の予想通り今の状況は極めてマズイ。研究機関が魔術側に〔落とされた〕ならまだいいのだ。その時はまた魔術師を片付ければいいのだから。しかし、状況は研究機関が魔術側に〔落とした〕だ。つまり、研究機関が魔術師を〔招き入れた〕のである。
ローマ正教が編み出した超能力の仕組みは学園都市と違うらしい、と聞いていた。


魔術師が科学の仕組みを理解してはならない。同時に科学が魔術師の仕組みを理解してはならない。
これが互いのルールらしい。このルールは研究機関と魔術師が手を組んだことで破られる。そして、落ち合う場所は学園都市だ。ローマ正教は〔学園都市がルールを破った〕という【攻撃する理由】が欲しいのだ。
研究機関が勝手にやったことだから学園都市は悪くない、と言っても「では、なぜ学園都市の中で落ち合っているのだ?」と言われればそこで最後。
戦争が始まってしまう。
『やつらは火種が欲しいのです。世界が認める、正当な理由を持つ火種をね』
クソッタレがァと一方通行は毒づく。
「つまりィ、オマエは俺に研究機関と魔術師を片付けろ、と言いたいんだよなァ?」
事は急を要する。ローマ正教が出張ってくる前にこのような案件を一番早く解決できるのは一方通行が適役だろう。
学園都市の第一位。最終兵器とも呼べる彼の能力は熱量・電気量・運動量などに関わらず、すべてのベクトルを肌に触れただけで変換することができる。
その能力は人を傷つけることしかできない。守ろうとする人まで傷つけてしまう。
そんな能力で表の世界の住民を、表の世界の一人の少女を守るために一方通行は裏の世界へと足を踏み入れた。
しかし、男の返事は一方通行の予想とは外れていた。
『報告したいのはそこではありません。』
「ハァ?他に何があるってンだァ?」
『それはですね…』
その言葉の続きは一方通行に届かなかった。


バァァァァン!!と
突然一方通行の座るベンチが爆破されたからだ。


学生寮のもの影から数十人の黒ずくめの武装集団が現れた。
タタタッ…と最小限の音しか出さない走り方からかなりの訓練を受けていることが伺われる。
もくもく、と煙の上がる爆心地を取り囲むように黒ずくめ達は行動した。
サブマシンガンを持ち、爆心地の中を見つめる。
そんな時間が十秒ほど経つと黒ずくめの一人が無線で通信を取り始めた。
「対象『一方通行(アクセラレータ)』は沈黙。おそらく、直撃したものかと」
了解、と短く無線機から返事が返る。
その後の手順を行うため無線をした男が他の者に合図を送った。
合図に従い、三人が一方通行の死体を回収するため爆心地に近づく。
瞬間ーーーー
「ギャアアアアアアアアッ!?」
と爆心地から声が上がった。
「!?」
黒ずくめ達はすぐに警戒体制に入る。
目の前に映るのは
もくもくと上がる、煙
ぼうぼうと燃え上がる、炎
大破した、床
そして…


宙を飛んでいく仲間の姿だった。


仲間が着地する場面を黒ずくめ達は見ていなかった。見ていられなかった。
本能でわかる、ここで爆心地から目を離すと死ぬ。
「あァ~あ。こんなに公共物壊しちゃって……どォするンですかァ?」
少年は笑う。愉快に楽しそうに口を歪める。
爆心地の中に
爆心地の中心に
炎が燃え上がる中心に少年、一方通行は何事もないように立っていた。
すでに首のチョーカーのスイッチは入っている。すでに学園都市最強の超能力者は降臨している。すでに彼は絶対無二の能力を使っている。
「逃げろ…」
黒ずくめの誰かが言った。無意識のうちに言っていた。
勝てるはずがない。こちらの武器は学園都市特製の最先端兵器〔程度〕しかないのだ。
そんなものでこの化け物に勝てるはずがない。
最初の奇襲が失敗したら逃げろと言われていた。
けれど、動けない。この化け物に後ろを見せてはならない。
「さァて……楽しい愉しい虐殺(ころしあい)の始まりだァ」



学生寮に悲鳴と絶叫が轟く。


第一章 [そして悪役は動き出す Operation Pandora]


早朝、鳥の声が聞こえる。上条当麻は部屋に軽く射し込む日差しと美味しそうな匂いに釣られて目を開けた。
眠そうに目をこすりながら起き上がると上条は違和感を感じる。
「………あれ?」
上条が起き上がったそこはベッドだった。
普通の家ではベッドで起きることに違和感はないだろうが、あの銀髪碧眼の修道女が来てからというもの上条はベッドを占領され、バスタブで寝ていたはずなのに、今上条はベッドの上にいた。
「あ、とうま起きた?」
ベッドの隣にあるテーブルでナイフとフォークを両手に持ち、ご機嫌なご様子の我が家の居候が上条に声をかける。
そちらの方をむいた上条は愕然とした。
「い、インデックスさん?その格好は……どうされたんでせう?」
「え?なにが?」
おどけたような表情を浮かべるインデックスの格好はいつもの修道服、別名『針のむしろ』とは違った、普通の女の子が着そうな普通の服装だった。
ありえない。今まで破れても安全ピンで修復するほどに執着していたあの修道服をインデックスが脱いでいる。
「お前……ホントにインデックスか?」
「そんなに失礼なこと言うとうまにはお仕置きが必要かも…」
ギラリ、と口から歯を覗かせる。
彼女、インデックスの悪癖の一つに噛みつきというものがある。彼女がお怒りモードに突入するとなんでもかんでも噛み砕いてしまうのだ。
それは家主である上条の頭も例外ではない。前々からこの悪癖を直そうと努力している上条なのだがまったく直る気配がなくて困っていた。
「インデックス………こんな下らないジョークで人の頭を噛むのはどうかと上条さんは思いますよ?」
「むう~なんだか今日のとうまは反抗的かも」
なぜだろう。今ならばなんでも出来る気がする。例え、一方通行が五人いても圧勝する自信がなぜか上条にはあった。
「ふ…インデックス……いつまでも上条さんが遅れをとるとお思いか!?」
「ふ…上等なんだよ、とうま」
そう言って適当に構える上条。対してインデックスはゆらりと立ち上がった。その口の中には綺麗な歯が光っている。
「懺悔をするなら今のうちだよ、とうま?私はシスターだから迷える子羊には救いの手を差し伸べるんだよ」
言葉だけは優しいが目が笑っていない。もし、ここで謝ったとしても噛みつかれることに変わりはないだろう。
その言葉に対し、上条は不敵に笑う。
「何を言いますか?上条さんは何も悪いことはしていませんよ?」
今ならばなんでも出来る気がする。もし襲いかかってきたらこの暴食シスターの攻撃を全て避け、スキを見てから毛布でくるんで無力化してやろうと、上条は考える。
そして、暴食シスターは身をかがめ、飛び掛かる体勢に入った時だった。


「こ~ら、インデックス!簡単に人を噛んだらいけないって言ってるでしょ?」


と部屋のキッチンから声が聞こえた。
その言葉で白シスターは動きを止めた。〔言葉だけで〕インデックスは動きを止めた。あの銀髪碧眼、白い暴食シスターが〔人の言葉〕で止まった。
「うう……ううううううううううっ!!」
うなり声をあげながら歯をガチン!!ガチン!!と噛み合わせるインデックス。目が据わっていてとっても怖い。
「でもでもでも!とうまが私に酷いこと言ったんだよ!!」
親の仇を見るような目でインデックスは上条を睨み付けながら抗議する。自分はこの修道女様に何をしたと言うのだろうか。まったく思い当たる節がない。
「いや、待て!!」
なぜここにインデックスと上条以外の人間がいるのだ。それにさっきから匂ってくる美味しそうな朝飯の香りはなんだ。
上条は何もせずに朝飯を作り、インデックスを止めることが出来るようなハイテクメイドロボを買った覚えはないし、買うお金もない。
誰かが上条家のキッチンを使っている。
確認のため上条がキッチンに目を向けると、
「はあ……ま~た当麻はインデックスに変なこと言ったの?いい加減にしなさいよ…」
と言いながら長い髪を後ろで纏めたポニーテールの知らない女の子が美味しそうな匂いをする味噌汁をトレイにのせてキッチンから出てきた。
(誰だ…この可愛い女の子は………ッ!?)
その女の子は制服の様なものの上にエプロンという夢のような姿だった。男のロマン、『女の子のエプロン姿』。その破壊力は着ける着けないで大きく変わる。
と土御門が力説していたのを聞き流していた上条は今、本当の意味で理解していた。
(だ、ダメだ………エプロンの破壊力がこれほどとは…っ!)
もうどうしていいか理解できない。上条はボウと放心したように女の子を見つめる。
茶色い髪に茶色い瞳、化粧は必要ない程度にデフォルトで整った顔立ち。着ている制服を見ると、常盤台中学のものだろうか。
(………………………あれ?)
誰かに似ている。
その疑問について考える前にインデックスが口を開いた。
「もっと言ってよ、みこと!!とうまはみことの言うことしか聞かないんだから!!」
みこと、この女の子をインデックスはそう呼んだ。はて、どこかで聞いたことのある名前だ。
(みこと……ミコト………美琴…………御坂…美琴?)
「お前……御坂か?」
おそるおそると言ったふうに上条がポニーテールの少女に問いかけると、少女は笑って、
「当麻が私のことを『御坂』って呼ぶの久しぶりね。もしかして、美琴ちゃんのエプロン姿が可愛すぎて記憶が飛んじゃった?」
と上条の問いかけを肯定した。
どうやらここにいる少女はあの御坂美琴らしい。
その状況を把握して、上条は携帯を取り出した。
「どうしたの、とうま?」
「やるべき事を見つけたんだよ、インデックス」
そして、出来れば押したくなかった番号をプッシュする。
「もしもし?警備員(アンチスキル)ですか?助けてください。不法侵入です」
上条は一般市民の義務を果たした。
「とうまあああああああああああああああ!!」
「なぜお前が怒る!?お前ら仲悪かったんじゃ…ぎゃああああああああああ!!」
インデックスが歯を光らせて襲ってくる。


<8:35 AM>


「どうわあっ」
そんなすっとんきょうな声を上げて、上条は夢から覚めた。
布団から起き上がるとそこはいつも見慣れたバスタブだ。
「今のは……夢?」
夢にしては妙にリアルだった。なんというか、その場特有の臨場感というか焦りというか。とにかく違和感がでるのを違和感に感じるほどにその夢は自然だった。
何気なく、上条は時計を見た。
「やっべ!!今日は10時から御坂と約束があったんだった!!」
遅れたらビリビリだ。そんな不本意なお仕置きを受けたくない。
そう思って風呂のドアの鍵を開けた瞬間。
銀髪シスターが口を大きく広げて襲いかかってきた。
「お腹すいたんだよおおおおおおおおお!!」
「ぎゃあああああああああああ!!インデックス!ご飯なら今から作るからもう少し我慢を………ッ!!」
「もう充分待ったんだよ!?何回何回呼び掛けてもとうまが起きても来なくて心配してたんだから!!」
「ごめん!ごめんなさいだから頭を噛まないでえええ!!」
不幸だあああああ!!と少年の叫びが学生寮に響いた。



<? AM>
「アレイスター。お前は何を考えているんだ?」
「何のことかな?」
「とぼけるな…また魔術師が学園都市に侵入したぞ……ッ!!」
「落ち着け土御門。今さら騒いだところでどうすることもできまい」
「そんなに落ち着けるような相手じゃない!!相手はローマ正教の『神の右席』候補者だぞ!」
「学園都市は『神の右席』なる前方のヴェントを撃破している。候補者など恐るに足りん」
「あれだけの被害を出しておいて…」
「その『被害』を最小限に抑えたいなら君が頑張ればいい」
「キサマ……ッ!!ヤツラの目的は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』だ…お前はそれをわかって……」
「理解しているさ」
「ならば何故手を打たない!?学園都市内にいる妹達(シスターズ)はほとんどヤツラの手に落ち、それを…」
「理解している、と言っているだろう?私のプランの短縮のために使えるんだ。それを利用しない手はない」
「そこまでして欲しいか…『虚数学区・五行機関』」
「…………………………………」
「クソッ……お前は戦争を起こすつもりなのか!?」
「それは君の努力次第だ。頑張ればこの前のように死者を出さないことができるかもしれんぞ?」


<10:36 AM>
「くっそ~また遅刻だ!」
上条は美琴と約束している場所、あの自販機の近くのベンチを目指しながら走る。
あの後、インデックスに朝食を作り、ご機嫌になったところを見計らい、
『今から御坂と遊んでくるから、お留守番しててくれ』
と言うとまた頭をかじられた。何がいけなかったのだろうか。きちんと朝食は作ったのに。
しかも、ただでも遅れているのにいつも使う道が通行止めになっていた。何やら爆発事件があったらしい。学生寮の隣で爆発事件なんて誰が何のためにしたのだろう。
現場をチラッと見たら、道路に亀裂が走っていたり、木が何本か折れていた。
(最近は物騒な事件が多いな……)
そう考えながら上条は約束の場所へと走り続けた。



<10:49 AM>
天候は曇り。
そのためもう朝だというのにその路地裏には光が入らず、まるで夜のような暗闇が通路に続いていた。
コンクリートとコンクリートに阻まれた、直線のような道。そのコンクリートの壁はボロボロで整理されていない。
暗い道だからという理由からか常日頃から人が通らないようで、まるで長らく掃除をしていない体育館倉庫のようにホコリが充満していた。
そんな道のほこりを舞い上げながら数人の人間が走り抜ける。
逃げる一人の少女と、追いかける数人の黒ずくめ達。
黒ずくめ達は一般人が手に入れられると思えないようなサブマシンガンを持ち、少女を追いかける。対して、追いかけられる少女は何の武器も持たない普通の少女だった。
いや、普通というのは少し違うだろうか。学園都市の能力開発による成果とも言うべき能力を持つ少女。
というところも普通ではないのだが、ここ学園都市では特におかしいことではない。
普通ではないおかしな点。路地裏の道を走り抜ける少女には約1万人の姉妹がいる。
能力名[欠陥電気(レディオノイズ)]
名称[妹達(シスターズ)]
とある実験で造り出された、[超電磁砲(レールガン)]御坂美琴の劣化型クローン。


(ここで……こんなところで捕まるわけにはいかない、とミサカは決意を新たにし必死に足を動かします)
学園都市にいる妹達は今、路地裏を走っている少女以外すべて捕まってしまっていた。
ちょうど、身体の調整のため病院を抜けて散歩に出ているときだった。一人のミサカが黒ずくめに捕まった。
妹達は能力で互いの脳をリンクさせ、記憶を共有できることができる。その名も『ミサカネットワーク』。
『ミサカネットワーク』によりミサカの一人が捕まったのを知るのに時間はかからなかった。
捕まったミサカの記憶により、黒ずくめ達の狙いは学園都市に残る妹達であることが判明。病院に迷惑をかけないように学園都市に残るミサカの全ては病院から抜け出した。
その後、10時間が経過している。
逃げ出したミサカはほとんどが捕まり、残るは路地裏を走る少女のみ。
その最後の少女さえ、すでに捕まるのは時間の問題だった。
「クッ…………!?」
少女が曲がり角を曲がるとそこは行き止まり。
行き止まりに一瞬思考と動きが停止する。
その一瞬の間に黒ずくめの一人が少女に追い付き、地面に身体を叩きつけた。
「グ……ウウ……ッ!?」
少女は手足を動かし抵抗するが、
「動くな…死ぬぞ?」
黒ずくめが頭にハンドガンを突きつけてきたため動きが止まる。
(……………こんなところで…)
死ぬわけにはいかない。
――『俺はお前を守るためにここにたってんだよ』
とある少年が助けてくれた命を、
――『お前は世界にたった一人しかいねえだろうが!』
とある少年が教えてくれた大切なものを、
――『勝手に死ぬんじゃねえぞ』
失うわけにはいかないのだ。
「く、あぁぁぁあぁぁああああぁぁぁ!!」
バチン、という音が少女の身体から響いた。
少女のもつ能力が発動し、青白い電流が辺りに撒き散らされる。
否、撒き散らさされるはずだった。
ズガン!!という鈍い銃音が路地裏に響き、銃弾は正確に少女の右腕を撃ち抜く。
「あ………ぐぅ…」
右腕に響く痛みで少女の能力が中断させられた。
「動くな、と言っただろうが…」
面倒くさそうに銃を片手に黒ずくめの男が呟く。
しかし、右腕を撃ち抜かれても少女は諦めない。諦めるわけにはいかない。
すると他のさっきまでの逃走劇で少女が少しずつ引き離していた黒ずくめ達が追い付いてきた。
合計、10人くらいはいるだろうか。
これで、さらに状況は絶望的となる。しかし、少女は諦めない。
例え、右腕を撃ち抜かれようとも、手足を引き千切られようとも、少女は絶対に諦めない。
(捕まるわけには……いかないッ!!)
少女は唇を噛み締める。
何か。
何かあれば。
この絶望的な状況を突破できる何かが。
もうこの際なんでもいい。
あの少年やお姉様でなくとも、不良でも先生でも風紀委員(ジャッジメント)でもいい。
この絶望的な状況から助けてくれる何か。
この絶望的な状況から助けてくれる誰か。
「誰でも、何でもいいから…」
震える声で少女は呟く。
過去に自分の命をどうでも良いと思っていた少女は誰ともわからない、いまだ見たこともないものに救いを求める。
「ミサカを助けて……ッ!!」
恥も外聞もないその叫びが路地裏に響いた。その叫びは自分勝手な願い。自己中心で、意地汚くて、自分しか得をしない醜い願い。
しかし、その叫びはとても純粋だった。
しかし、その叫びはなぜか透き通った音で路地裏に響いた。
しかし、その叫びはまるで小さな女の子が泣いているような印象を受けた。


そして、その叫びを一人の少年が確かに聞いていた。


轟ッ!!と少女の周りに凄まじい勢いで風が吹き荒れる。
「な、なんだ!?」
という黒ずくめ達の叫びを打ち消すように風はうねりをあげた。
風速一二〇メートルの疾風の槍が黒ずくめ達を襲う。
数秒後。
その場で意識を保っているのは二人だけとなっていた。
地面に押し倒される少女とその少女を地面に押し倒す黒ずくめの男。
その二人の周りには黒ずくめ達が意識を刈り取られ、地面に転がっていた。
「の、能力……?能力者?いったい…誰が……」
心の声がそのまま出ているかのように男が呟く。男は少女に銃を突きつけたまま、周りを忙しく見渡す。
(か、風……?)
対して、少女はいたって冷静に状況を分析していた。
風。
そんなものを操ることのできる能力者はたくさんいるだろう。
しかし、少女の思う人物は一人しかいなかった。
間違い、勘違い、思い違いかもしれない。
それでも、少女はこの時一人の白い少年のことを思い浮かべていた。
カッ…と路地裏に足音が響く。
足音がした方向に男が勢いよく振り向き、思わず少女に突きつけていた銃をそちらに向けていた。
行動からどれだけ男が焦っているかわかる。
そして、その焦りは足音のした方を向いた瞬間に恐怖へと変わった。
「ひ……ィ…ッ!?」
男の喉が急激に乾上がる。
こちらに歩いてくる一人の『怪物』がいた。その『怪物』は異常なまでの白い肌と髪を持ち、普通ではありえない紅い目をしていた。そして、その白さを強調するような黒い服。
白濁の『怪物』が引き裂かれたような笑みを浮かべ、こちらに歩いてくる。
その足音の一つ一つが死刑へのカウントダウンのような錯覚を男は覚えた。
このままじゃ、殺られる。
死にたくない、という感情が男の思考を支配する。
そこから逃げるための最善策は少女を人質にとることだという考えに男がたどり着くのにそう時間はかからなかった。
「くっ…来るなあぁ!!」
男は少女の髪を掴み、無理やり立たせて少女の頭に銃を突きつけた。
「…………………………………」
その行動で白い少年の足が止まる。
「ひ、ひひははあ…」
少年が足を止めたのを見て男は泣きながら無理やり笑うような表情を浮かべた。
効いている。
そう男は思った。
この作戦はあの学園都市最強に確かに効果的だ。このままいけば、男は助かるかもしれない。
あの『怪物』から無傷で逃げることができるかもしれない。
そこで男は気づいた。
この状況を利用すれば。
うまくやれれば。
もしかすると、この『怪物』を殺せるのかもしれない。
「は、はは…ははは…」
乾いた声を男があげる。
そう、考えれば簡単なこと。
逃げれるのなら。
言うことを聞かせることができるなら。
殺すことだってできる。
殺すことができるなら…
「なァ……お前、ジブンが何やってンのか理解してンのか?」
男の思考をさえぎるように白い少年が口を開いた。
それに対して男は、はあ?と呟く。
「理解もなにも…お前こそ自分のおかれてる状況がわかってるのか!?適当なこと言ってるとコイツの頭ぶっ飛ばすぞ!!」
男は少女の頭に銃を叩きつけるように当て、白い少年へと叫ぶ。


「あ、う…う…」
少女のうめき声が男の気分を妙に上昇させた。
「おらぁ!この人質が見えねえのか!?言うこと聞かないとこの女の子死んじまうぞ!!」
男は顔に気味の悪い笑みを貼り付けながら言葉を吐く。
その言葉に白い少年は呆けた表情を一瞬だけ見せると、吹き出すように笑い始めた。
「ギャアッハハハハハハハハ!!」
「な、何がおかしい!?」
その意味のわからない挙動に男が叫んだ瞬間だった。
ダン!!と白い少年が勢いよく地面を踏む。
たったそれだけで。
それだけの動作で男の後ろにあった換気扇が爆発した。
「な、ああぁ!?」
突然の出来事に男は一瞬だけ意識がそちらに向く。
その一瞬が命取りだった。
少年が足を踏み込む。
すると、バゴン!!とコンクリートを爆散させながら少年は弾丸のように駆けた。
両者の距離は一秒に満たない時間で〇になる。
息を呑む暇もなく、声をあげる暇もなく、男は少年の細い腕で地面へと叩きつけられた。
「ぐ、ハァ…ァ……!!」
触れれば折れてしまいそうな腕で顔を押さえつけられながら、男は後悔していた。
効いていた。
男はそう思った。
今の作戦はあの学園都市最強に確かに効果的だった。
しかし、その効果は少年の怒りをあげるだけものでしかなかった。
「さァて…お前、わかってンだろ?」
手を出すべきではなかった。
今、男を押さえている超能力者だけでなく、
「テメェらのくだらねえ思惑かなにか知らねェけどなァ…」
あの少女にも。
手を出すべきではなかったのだ。
「人が護りてェもンに手ェだしてただで済むわけねェってことぐらいよォ!」
男の悲鳴が誰もいない路地裏に響いた。



「ふン…」
一方通行(アクセラレータ)は首筋の電極のスイッチを通常モードに戻して、呟いた。
「オレも人のこたァ言えた義理じゃねェな…」
男だったものから目を離し、御坂妹の方を向く。
「大丈夫か?その右腕、病院に…」
「そんなことより…」
アァ?と一方通行は御坂妹の顔を見る。
「お姉様が………お姉様が大変なんですと、とミサカはあなたに助けを求めます!!」
その顔は泣いている少女のようにぐちゃぐちゃに歪んでいるように彼には見えた。


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