(5.木曜日15:20)
吹寄制理のマシンガントークに圧倒され、呆然と吹寄制理を見送る上条に
「カ~ミ~や~ん」という3大テノールも真っ青の野太いボイスが聞こえてきた。
「とうとうカミやんは、吹寄にまでフラグを立てよったんか。
吹寄と放課後ドキドキお勉強タイムに、お手々つないで仲良しデートなんて羨ましすぎる」
「あのな、鬼軍曹のしごきと、不良のカツアゲに遭うのがそんなに嬉しいんかい?」
「なんで、いつもカミやんだけが良いおもいをするねん。ボクとカミやんとどこが違うというねん。
こんな不公平を神様が許すはずあらへん。その前にボクがそんな悪行を許しまへん」
青髪ピアスが上条の胸ぐらをつかんでぐいっと引き寄せた。
「カミやん。これは暴力やあらへん。人の道を外れそうな(ハーレムルートの)カミやんを
思った(妬んだ)愛の(嫉妬の)ムチ(ゲンコツ)やねん」
「さあ。歯を食いしばり」と言いかけた青髪のうしろで、姫神秋沙が
「校内での暴力は。いけない」
そう言って魔法のステッキ(特殊警棒)で青髪の後頭部をポンとつついた。
その瞬間、「バシッ」という音が教室内に響き渡り、青髪の動きが止まった。ついでにいうと青髪は白目まで剥いていたりする。
上条は姫神秋沙の(しまった)という表情を見逃さなかった。
どうやら魔法のステッキのマジカルパワー(スタンガンともいう)を間違えて発動させてしまったようだ。
上条がとりあえず姫神秋沙に「サンキュー」と言おうとした時、青髪の体は、棒が倒れるように、ゆっくりと姫神秋沙の方へ傾いていった。
上条はとっさに青髪のズボンのベルトを左手でつかんだが、180cmの青髪の身体を168cmの上条が支えきれるわけがなく、青髪が姫神秋沙を直撃しないよう、青髪の体を左に逸らせるのが精一杯だった。
そして教室に「ドスーン」、「ガチャン」という音が鳴り響いた。
上条が期待した通り、青髪の身体は姫神秋沙をそれて床に激突した。
そして、お約束通り、上条の身体が姫神秋沙を直撃した。
吹寄制理のマシンガントークに圧倒され、呆然と吹寄制理を見送る上条に
「カ~ミ~や~ん」という3大テノールも真っ青の野太いボイスが聞こえてきた。
「とうとうカミやんは、吹寄にまでフラグを立てよったんか。
吹寄と放課後ドキドキお勉強タイムに、お手々つないで仲良しデートなんて羨ましすぎる」
「あのな、鬼軍曹のしごきと、不良のカツアゲに遭うのがそんなに嬉しいんかい?」
「なんで、いつもカミやんだけが良いおもいをするねん。ボクとカミやんとどこが違うというねん。
こんな不公平を神様が許すはずあらへん。その前にボクがそんな悪行を許しまへん」
青髪ピアスが上条の胸ぐらをつかんでぐいっと引き寄せた。
「カミやん。これは暴力やあらへん。人の道を外れそうな(ハーレムルートの)カミやんを
思った(妬んだ)愛の(嫉妬の)ムチ(ゲンコツ)やねん」
「さあ。歯を食いしばり」と言いかけた青髪のうしろで、姫神秋沙が
「校内での暴力は。いけない」
そう言って魔法のステッキ(特殊警棒)で青髪の後頭部をポンとつついた。
その瞬間、「バシッ」という音が教室内に響き渡り、青髪の動きが止まった。ついでにいうと青髪は白目まで剥いていたりする。
上条は姫神秋沙の(しまった)という表情を見逃さなかった。
どうやら魔法のステッキのマジカルパワー(スタンガンともいう)を間違えて発動させてしまったようだ。
上条がとりあえず姫神秋沙に「サンキュー」と言おうとした時、青髪の体は、棒が倒れるように、ゆっくりと姫神秋沙の方へ傾いていった。
上条はとっさに青髪のズボンのベルトを左手でつかんだが、180cmの青髪の身体を168cmの上条が支えきれるわけがなく、青髪が姫神秋沙を直撃しないよう、青髪の体を左に逸らせるのが精一杯だった。
そして教室に「ドスーン」、「ガチャン」という音が鳴り響いた。
上条が期待した通り、青髪の身体は姫神秋沙をそれて床に激突した。
そして、お約束通り、上条の身体が姫神秋沙を直撃した。
(6.木曜日15:23)
結果として姫神秋沙を押し倒してしまった上条は、
右頬が触れている弾力のある暖かさと開いた右手が押し潰している柔らかい感触に気がついた。
上条当麻は健全な男子高校生である。
この状況で右手の指が無意識に動いてしまったとして誰が責めることができよう?
しかし、姫神が小さく漏らした「アッ!」という声を聞いたとたん上条はわずか0.05秒で完全土下座体勢に移っていた。
「姫神様、今のセクハラまがいは決して故意ではなく、ここは姫神様の御慈悲をもって、姫神様をお助けしようとしたわたくしめをお許し頂きたく...」
床に額をこすり付けながら全力で謝り続ける上条は無言で立ち上がり近寄ってくる姫神の気配を感じた。
(このまま頭を踏み砕かれて上条さんはご昇天なんでしょうか?なんて不幸なんだーっ)
と嘆いていると、不意に上条の右手を姫神秋沙の両手が包み込むように握ってきた。
「へっ?」
何が起こったのか理解できていない上条が顔を上げると姫神秋沙は、そのまま上条の右手を引っ張って上条を立ち上がらせた。姫神秋沙の手の柔らかさに先ほどの右手の感触がフラッシュバックし、つい姫神秋沙の顔から視線を外してしまう。そして左手で頬をかきながら
「あっ、ありがとう。姫神。それとゴメン」
(姫神大明神、あなた様の御慈悲は決して忘れません)などと
感慨にふけっていた上条であったが、ふとあることに気がついた。
「あの~、なんで姫神さんは上条さんの右手をお離しにならないんですか?」
そう問いかける上条に、潤んだ瞳で上条の顔を見つめていた姫神秋沙は両手で包み込んだ上条の右手を自分の胸元へグッと引き寄せることで応えた。
言うまでもないが、姫神秋沙は美少女である。本人は自分の存在感が限りなく薄いことを嘆いているが、クラスでは吹寄制理と双璧をなし、クラスの男子からの人気はすこぶる高い。
そして再び言おう、上条当麻は健全な男子高校生である。
たとえ朴念仁であろうが、姫神秋沙が美少女であるという認識はある。
不幸体質の自分にこんな美味しいラブコメなんてあるはずないと達観しつつも、美少女の訴えるような瞳に見つめられれば、鼓動が早まるのを止められない。
上条の視線が姫神秋沙の柔らかそうな唇に釘付けになったのも仕方のないことだろう。
その唇が「上条君。」と動いた。
(なっ、なんですか?この反応は、いったい私は何のフラグを立てたのでしょう?)
上条は、いつの間にか乾ききっていた喉が痛くなってゴクリと唾を飲み込んだ。
「姫神」
:
「どうしよう。ケルト十字」
「へっ?」
現実は「甘ったるい若い男女の青春模様」ではなく、極めて深刻なものであった。
さっきの事故(セクハラ)の最中にどうやら上条の右手「幻想殺し」が姫神秋沙のケルト十字に触れてしまったようだ。「幻想殺し」に殺されたケルト十字はもはや「吸血殺し」を封印することはできない。姫神秋沙が上条の右手を握ってきたのは「幻想殺し」で「吸血殺し」を封印するためだった。
現状をようやく理解した上条は、自分のしでかした事の重大さに
「すまない、姫神」というのがやっとだった。
「大丈夫。君の右手が触れている限り。私の「吸血殺し」は発動しない」
姫神秋沙はそういってくれたものの、逆に言えば、上条の右手はもう姫神秋沙から離せなくなったということだ。
しかも、もうすぐ小萌先生と吹寄が教室に戻ってくる。
上条はどうすれば良いか判らないが、とりあえずできることをしようと思った。
「姫神、逃げるぞ!」
結果として姫神秋沙を押し倒してしまった上条は、
右頬が触れている弾力のある暖かさと開いた右手が押し潰している柔らかい感触に気がついた。
上条当麻は健全な男子高校生である。
この状況で右手の指が無意識に動いてしまったとして誰が責めることができよう?
しかし、姫神が小さく漏らした「アッ!」という声を聞いたとたん上条はわずか0.05秒で完全土下座体勢に移っていた。
「姫神様、今のセクハラまがいは決して故意ではなく、ここは姫神様の御慈悲をもって、姫神様をお助けしようとしたわたくしめをお許し頂きたく...」
床に額をこすり付けながら全力で謝り続ける上条は無言で立ち上がり近寄ってくる姫神の気配を感じた。
(このまま頭を踏み砕かれて上条さんはご昇天なんでしょうか?なんて不幸なんだーっ)
と嘆いていると、不意に上条の右手を姫神秋沙の両手が包み込むように握ってきた。
「へっ?」
何が起こったのか理解できていない上条が顔を上げると姫神秋沙は、そのまま上条の右手を引っ張って上条を立ち上がらせた。姫神秋沙の手の柔らかさに先ほどの右手の感触がフラッシュバックし、つい姫神秋沙の顔から視線を外してしまう。そして左手で頬をかきながら
「あっ、ありがとう。姫神。それとゴメン」
(姫神大明神、あなた様の御慈悲は決して忘れません)などと
感慨にふけっていた上条であったが、ふとあることに気がついた。
「あの~、なんで姫神さんは上条さんの右手をお離しにならないんですか?」
そう問いかける上条に、潤んだ瞳で上条の顔を見つめていた姫神秋沙は両手で包み込んだ上条の右手を自分の胸元へグッと引き寄せることで応えた。
言うまでもないが、姫神秋沙は美少女である。本人は自分の存在感が限りなく薄いことを嘆いているが、クラスでは吹寄制理と双璧をなし、クラスの男子からの人気はすこぶる高い。
そして再び言おう、上条当麻は健全な男子高校生である。
たとえ朴念仁であろうが、姫神秋沙が美少女であるという認識はある。
不幸体質の自分にこんな美味しいラブコメなんてあるはずないと達観しつつも、美少女の訴えるような瞳に見つめられれば、鼓動が早まるのを止められない。
上条の視線が姫神秋沙の柔らかそうな唇に釘付けになったのも仕方のないことだろう。
その唇が「上条君。」と動いた。
(なっ、なんですか?この反応は、いったい私は何のフラグを立てたのでしょう?)
上条は、いつの間にか乾ききっていた喉が痛くなってゴクリと唾を飲み込んだ。
「姫神」
:
「どうしよう。ケルト十字」
「へっ?」
現実は「甘ったるい若い男女の青春模様」ではなく、極めて深刻なものであった。
さっきの事故(セクハラ)の最中にどうやら上条の右手「幻想殺し」が姫神秋沙のケルト十字に触れてしまったようだ。「幻想殺し」に殺されたケルト十字はもはや「吸血殺し」を封印することはできない。姫神秋沙が上条の右手を握ってきたのは「幻想殺し」で「吸血殺し」を封印するためだった。
現状をようやく理解した上条は、自分のしでかした事の重大さに
「すまない、姫神」というのがやっとだった。
「大丈夫。君の右手が触れている限り。私の「吸血殺し」は発動しない」
姫神秋沙はそういってくれたものの、逆に言えば、上条の右手はもう姫神秋沙から離せなくなったということだ。
しかも、もうすぐ小萌先生と吹寄が教室に戻ってくる。
上条はどうすれば良いか判らないが、とりあえずできることをしようと思った。
「姫神、逃げるぞ!」
(7.木曜日15:30)
上条と姫神秋沙は、すぐにやってくるハズの小萌先生と吹寄制理を避けるために人のいない隣の教室に隠れることにした。もちろん手を繋いだまま。しばらくすると、
「きゃー、青髪ちゃん!いったいどうしたのですかー!!」
という声が聞こえた。
「吹寄さん、青髪ちゃんを保健室まで運ぶのを手伝って下さい。」
しばらくすると、ズリズリ青髪を引きずる音が、廊下を通過していった。
どうやら、学校から逃げ出す絶好のチャンスが来たようだ。
「ふーっ、どうやらうまく脱出できそうだぞ。姫神」
と隣の姫神秋沙に話しかけたが、姫神秋沙はうつむいたまま顔を上げようとしない。
なぜだかその頬は少し赤くなっている気がする。
しかも両膝をすり合わせるようにモジモジしていたりする。
(あっ)こんな時に限って直面する大問題に上条は気付いてしまった。
言い難いことではあるが、気付いてしまった以上、先送りする訳にはいかない。
意を決して、上条は姫神秋沙に小声で話しかけた。
「姫神、ひょっとしてトイレか?」
いきなり核心を突かれた姫神秋沙は一度肩をビクッと震わせたと思うと、うつむいたまま固まってしまった。
表情は読み取れないものの、真っ赤になってしまった耳たぶを見れば、どうやら上条の想像は当たっていたようだ。だからといって、上条にその大問題への解決案があったわけではない。
上条と姫神秋沙は、すぐにやってくるハズの小萌先生と吹寄制理を避けるために人のいない隣の教室に隠れることにした。もちろん手を繋いだまま。しばらくすると、
「きゃー、青髪ちゃん!いったいどうしたのですかー!!」
という声が聞こえた。
「吹寄さん、青髪ちゃんを保健室まで運ぶのを手伝って下さい。」
しばらくすると、ズリズリ青髪を引きずる音が、廊下を通過していった。
どうやら、学校から逃げ出す絶好のチャンスが来たようだ。
「ふーっ、どうやらうまく脱出できそうだぞ。姫神」
と隣の姫神秋沙に話しかけたが、姫神秋沙はうつむいたまま顔を上げようとしない。
なぜだかその頬は少し赤くなっている気がする。
しかも両膝をすり合わせるようにモジモジしていたりする。
(あっ)こんな時に限って直面する大問題に上条は気付いてしまった。
言い難いことではあるが、気付いてしまった以上、先送りする訳にはいかない。
意を決して、上条は姫神秋沙に小声で話しかけた。
「姫神、ひょっとしてトイレか?」
いきなり核心を突かれた姫神秋沙は一度肩をビクッと震わせたと思うと、うつむいたまま固まってしまった。
表情は読み取れないものの、真っ赤になってしまった耳たぶを見れば、どうやら上条の想像は当たっていたようだ。だからといって、上条にその大問題への解決案があったわけではない。
プラン1.右手を離す->「吸血殺し」発動。
プラン2.一緒に女子トイレに入る->セクハラ大魔王への成長進化ルート確定。
プラン3.トイレに行かない->姫神が大惨事。
プラン2.一緒に女子トイレに入る->セクハラ大魔王への成長進化ルート確定。
プラン3.トイレに行かない->姫神が大惨事。
使えない選択枝しか浮かばないのでは話にならない。つい漏れた「どうしよう」という上条のつぶやきに反応したのか、うつむいたままの姫神秋沙が消え入りそうな声で、
「かっ、上条君。もし君が迷惑でなければ。その。女子トイレまで付いてきて欲しい。」
「いや、姫神、いくら何でもそれは」
「君が目をつむっていてくれれば。大丈夫」
「でも」
そう反論しかけた上条であったが、上条を見上げてきた真っ赤な顔の姫神秋沙を見て、
(何やってんだ、俺は。姫神の方が恥ずかしいはずなのに)
「わかった、姫神。俺は絶対目を開けない。耳だって塞いでやる」
そういって左手でポケットからティッシュを取り出し、左手で器用に丸めては両方の耳の穴にグリグリ詰めていた。その様子を見た姫神は、一度目をパチクリさせるとクスッと笑った。
そして、上目がちに上条を見たまま手の甲で口元を隠しつつクスッと微笑んだ姫神秋沙の仕草に思わずドキッとした上条であった。
「かっ、上条君。もし君が迷惑でなければ。その。女子トイレまで付いてきて欲しい。」
「いや、姫神、いくら何でもそれは」
「君が目をつむっていてくれれば。大丈夫」
「でも」
そう反論しかけた上条であったが、上条を見上げてきた真っ赤な顔の姫神秋沙を見て、
(何やってんだ、俺は。姫神の方が恥ずかしいはずなのに)
「わかった、姫神。俺は絶対目を開けない。耳だって塞いでやる」
そういって左手でポケットからティッシュを取り出し、左手で器用に丸めては両方の耳の穴にグリグリ詰めていた。その様子を見た姫神は、一度目をパチクリさせるとクスッと笑った。
そして、上目がちに上条を見たまま手の甲で口元を隠しつつクスッと微笑んだ姫神秋沙の仕草に思わずドキッとした上条であった。
(8.木曜日15:37)
女子トイレ、そこは男子生徒にとっては禁断のシークレットゾーン。
既に決断は済ましているものの、禁断の地に近づくほど呼吸は荒くなってくる。
入り口まで来た時には上条当麻の心拍数は160を軽く超えていただろう。
先に入る姫神に手を引かれ(ええい、ままよ)と禁断の地に一歩を踏み出した。
その瞬間、いきなり襟首を掴まれ強引に引き戻された。
「貴様!!何をやっている?」
「ふっ、吹寄さん。」
聞き覚えのある声にギギギッという感じで首を回し、後を振り向いた上条に
「教室に居ないから、どこに行ったのかと心配して、探してみれば」
こめかみに浮かんだ青筋をヒクつかせた吹寄は
「女子トイレの中まで女子(あいさ)をストーカーしようとしていたとは!」
「こっ、これにはマリアナ海溝よりも深い事情があるわけでして、
女子トイレの中を覗こうとしたとか、姫神様にセクハラをしようとしたとかを
上条さんが企んでいたなんてことは決してありま「天誅―!」」
脈絡のない上条の言い訳が終わらないうちに吹寄制理の頭突きが上条に炸裂した。
意識を半ば刈り取られながら、姫神秋沙の手を離さなかった上条は天晴れであるが、そのことが吹寄制理の怒りの炎に大量の火薬を投下する結果になってしまった。「怒髪天をつく」とは今の吹寄制理のためにある言葉である。
怒りに震えるその拳は、きっとゴーレム「エリス」ですら容易に打ち砕くであろう。
胸の前で左掌に右拳を叩きつけ、
「上条当麻、貴様、生きて朝日を拝みたいか?」
と(今すぐその手を離さなければ殺す!)と言外に言って迫ってくる吹寄に上条はとうとう観念して右手を離すことにした。
本当のことを言えば、吹寄に殴り殺されるのが怖いからではなかった。
今の吹寄制理が凶悪なオーラをまとっているとはいえ、はるかに恐ろしい神の右席とも戦ったことのある上条である。(例え「吸血殺し」が発動しても、わずか数分であれば吸血鬼がくることなんてないだろう)という打算が働いてしまったのである。
それに事情を知らない吹寄制理に拳をあげることなど決してできない上条であった。
上条の目配せに、姫神秋沙は一瞬困惑した表情を浮かべたものの小さく頷いた。
目の前で、手を取り合った二人がアイコンタクトで語り合う様子を見せつけられた吹寄は
「さっさとその手は離しなさい!」
というやいなや、上条の右手と姫神の左手をつかんで二人を強引に引き離した。
そして、
「貴様、そこから一歩でも動くんじゃないわよ。」
と上条に念を押し、吹寄は姫神の手を引き女子トイレに入っていった。
「秋沙、大丈夫?何もされなかった?」
という不穏当な吹寄制理の声がトイレ横の壁際で立たされ坊主となった上条にも漏れ聞こえてきた。
明日この話を伝え聞いたクラスメイト達から受ける冷やかし(暴力付き)を想像しかけて
(上条さんには何も聞こえません。ええ。聞こえませんとも)と現実逃避を図った。
そして(どう説明したら吹寄をうまく言いくるめられるだろう?)などと考えていた時、ヤツはやって来た。
女子トイレ、そこは男子生徒にとっては禁断のシークレットゾーン。
既に決断は済ましているものの、禁断の地に近づくほど呼吸は荒くなってくる。
入り口まで来た時には上条当麻の心拍数は160を軽く超えていただろう。
先に入る姫神に手を引かれ(ええい、ままよ)と禁断の地に一歩を踏み出した。
その瞬間、いきなり襟首を掴まれ強引に引き戻された。
「貴様!!何をやっている?」
「ふっ、吹寄さん。」
聞き覚えのある声にギギギッという感じで首を回し、後を振り向いた上条に
「教室に居ないから、どこに行ったのかと心配して、探してみれば」
こめかみに浮かんだ青筋をヒクつかせた吹寄は
「女子トイレの中まで女子(あいさ)をストーカーしようとしていたとは!」
「こっ、これにはマリアナ海溝よりも深い事情があるわけでして、
女子トイレの中を覗こうとしたとか、姫神様にセクハラをしようとしたとかを
上条さんが企んでいたなんてことは決してありま「天誅―!」」
脈絡のない上条の言い訳が終わらないうちに吹寄制理の頭突きが上条に炸裂した。
意識を半ば刈り取られながら、姫神秋沙の手を離さなかった上条は天晴れであるが、そのことが吹寄制理の怒りの炎に大量の火薬を投下する結果になってしまった。「怒髪天をつく」とは今の吹寄制理のためにある言葉である。
怒りに震えるその拳は、きっとゴーレム「エリス」ですら容易に打ち砕くであろう。
胸の前で左掌に右拳を叩きつけ、
「上条当麻、貴様、生きて朝日を拝みたいか?」
と(今すぐその手を離さなければ殺す!)と言外に言って迫ってくる吹寄に上条はとうとう観念して右手を離すことにした。
本当のことを言えば、吹寄に殴り殺されるのが怖いからではなかった。
今の吹寄制理が凶悪なオーラをまとっているとはいえ、はるかに恐ろしい神の右席とも戦ったことのある上条である。(例え「吸血殺し」が発動しても、わずか数分であれば吸血鬼がくることなんてないだろう)という打算が働いてしまったのである。
それに事情を知らない吹寄制理に拳をあげることなど決してできない上条であった。
上条の目配せに、姫神秋沙は一瞬困惑した表情を浮かべたものの小さく頷いた。
目の前で、手を取り合った二人がアイコンタクトで語り合う様子を見せつけられた吹寄は
「さっさとその手は離しなさい!」
というやいなや、上条の右手と姫神の左手をつかんで二人を強引に引き離した。
そして、
「貴様、そこから一歩でも動くんじゃないわよ。」
と上条に念を押し、吹寄は姫神の手を引き女子トイレに入っていった。
「秋沙、大丈夫?何もされなかった?」
という不穏当な吹寄制理の声がトイレ横の壁際で立たされ坊主となった上条にも漏れ聞こえてきた。
明日この話を伝え聞いたクラスメイト達から受ける冷やかし(暴力付き)を想像しかけて
(上条さんには何も聞こえません。ええ。聞こえませんとも)と現実逃避を図った。
そして(どう説明したら吹寄をうまく言いくるめられるだろう?)などと考えていた時、ヤツはやって来た。