とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第一章

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匿名ユーザー

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(1.水曜日17:00)
その日も上条当麻は不幸であった。
居残り補習のせいで朝から練っていたスーパー特売はしご大作戦はその出鼻を見事にくじかれてしまった。
現在の上条家の食料事情は家に棲みついた暴食シスターによってレッドゾーンに達している。
起死回生を狙う本作戦において大戦果をあげない限り破滅はもはや時間の問題であろう。
事ここに至っては敵前逃亡も許されず早急に攻略ルートを練り直す必要に迫られていた。

そんな訳で思考をフル回転させて急ぐ上条が「ちょっとアンタ!」とか「無視すんじゃないわよ!」
といった呼びかけを雑踏(ノイズ)として処理したのも仕方がないことかもしれない。
もっとも事情を知らない声の主がデフォで自分を無視した(ように見えた)黒いツンツン頭に
つい10億ボルトの雷撃の槍を見舞ったのも仕方がないことかもしれない。

その後命がけの鬼ごっこを体力の限界まで堪能した上条が手に入れた戦利品(特売品)は僅かだった。
これだけの食材では次の特売日まで生き延びることは不可能である。
もちろん死因は餓死ではなく腹ぺこシスターに噛み殺されるためだが、自分の死に様を想像
した上条は大きなため息をついた。

視線は定まらず力無く両腕をぶら下げ足を引きずるように歩く姿はどこからみても敗残兵である。
しかもレジ袋に入った特売鳥肉を狙った野良犬にしつこく追いかけられ、身も心も服までも
ボロボロになって帰宅した。


(2.水曜日18:15)
ボロボロになって帰宅した上条を見たインデックスの第一声がさらに追い打ちをかけた。

「なに?とうま。そのズタボロの格好は?
 ズボンなんてお尻が裂けてパンツが丸見えだよ。
 そんな姿で帰ってきたの?ちょっと恥ずかしいかも」

家事もせずに家主の数倍の食費を消費しスーパーの特売をはしごせざるをえない状況に追い込んだ
元凶(インデックス)にそんなことを言われ上条はカチンときてしまった。

「おまえの格好(アイアンメイデン)だって十分恥ずかしいだろうが」

言ってしまってから『歩く教会』を破壊したのが『上条当麻』だったらしいという知識を思
い出し上条は胸の奥がチクリと痛んだ。
そのせいでいつもと違うインデックスの反応に気付くのが遅れた。
いつもなら「これはとうまのせいなんだよ」といって噛みついてくるはずがその気配はなく、
あろうことかまるで本物のシスターさんのように祈りを捧げていたりする。

「天にまします我らが父よ。自分の行いを棚に上げ暴言を吐くこの愚かな家主をお許し下さい」
「なんですか?インデックスさん。その全てを許します的な慈愛に満ちたシスターぶりは?
 いつもなら問答無用で上条さんを噛み砕きにくるのでは?」
「フッフーン。それはね、と・う・ま。
 明日になったら新しい『歩く教会』が届くって連絡があったんだよ。
 とうまに『針のむしろ』にされたあの日から耐え難きを耐えていたけど、明日になれば
 インデックスは『パンクなシスターちゃん』から『清楚なシスターさん』にクラスチェン
 ジだよ。
 だからね、今日だけはとうまを許してあげる」

予想外ではあったが生命の危機を脱した上条は小さな幸運をくれたどこかの神様に感謝した。
とはいえ腹ぺこシスターが機嫌を損ねては元も子もないので早速夕食の準備に取り掛かった。
しかし上条当麻に本当の幸運など訪れるわけが無い。

「それはそうとして、とうま。今朝約束していたゴージャスプリンは?
 おなか空いたから今食べさせてもらうとうれしいかも」

やはり腹ぺこシスターが駄々をこね始めた。
夕食前にデザートを食べさせるのは不本意だが機嫌を損ねさせるのだけは避けたかった。

「ああ。それならちゃんと買ってこの中に……」

そういってレジ袋に手を入れた上条の顔から一気に血の気が引いた。

(ない。確かに袋に入れたハズなのに……ない。
 さっき野良犬に追い回されたときに袋から落っこちたのか?)

袋の中をいくらかき回しても現実は変わらないことを頭は理解している。
それでもこれから始まるであろう惨劇を回避したい体がいうことをきいてくれない。
袋の中から視線をあげることができない上条の鼓膜を怒りに震えるインデックスの声がゆすった。

「忘れたんだね。今朝あれだけ約束していたのにとうまは忘れたんだね」
(きっと今インデックスの目は三日月みたいにつり上がり開いた口には犬歯がキラリと光っ
 てるんだろうな)

頭は他人事のように考えようとするものの体は流れ始めたイヤな汗を止めることができない。

「あの、これは不可抗力というやつで……
 というか、先ほどの慈愛に満ちたシスターさんはいったいどこに行かれたのでしょう?
「それとこれとは話が違うんだよ。言い訳なんて聞きたくないんだよ」

その夜どこかの学生寮の7階付近では「不幸だあぁぁっ!」という絶叫がこだましたという。


(3.木曜日1:23)
深夜、上条当麻が後頭部の噛み傷にうなされながらバスタブの中で眠っている同時刻とある
学生寮で一人の少女が目を覚ました。
一見すればその表情は普段と変わらないように見える。
しかし、その額にはうっすらと汗が浮かび心臓は普段より激しく鼓動していた。

その少女「姫神秋沙」は直前まで見ていた夢の中身を思いだす。
舞台は忘れたくても忘れられない10年前の京都の山村だった。
登場人物はみな顔なじみの人達ばかりだった。
あの日の夕方「暗くなったから早く帰りなさい」と言ってくれた八百屋のおじさんがいた。
「ばいばい」と言ってくれたおばさんがいた。
「また明日遊ぼうね」と言ったゆずちゃんがいた。

でも夢に出てきた人は皆、同じ言葉をかけてきた。

「ごめんね」

一夜のうちに皆を灰に変えてしまったのは『吸血殺し(ディープブラッド)』だった。

(どうしてこんな『吸血殺し(ちから)』を持っているのだろう。
 こんな能力さえ無かったら今もあの村は平和で自分も笑いながら暮らしていたかもしれない)

そんな決して起こりえない『もしも』の世界を夢想しても無駄なことは判っている。
理解しているからこそ強く願う。

(魔法使いになりたい)

そして胸のケルト十字を確かめるように握って呟いた。

「大丈夫。なんの問題もない」

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