6
「お嬢ちゃん、ちょっと待つじゃんよ」
繁華街を出て、ものの数分。
警備員の詰所を過ぎたところで、突然声をかけられて天井は急ブレーキを敢行。
学校指定スニーカーの靴底は、アスファルトの地面との間で激しく音を発てた。
完全に殺し切れていない制動の勢いを、上半身に残したまま半ば強引に振り返り、
「お嬢ちゃんって言うなっ!」
と、激昂。あまりの剣幕に、通行人の視線が天井に集中した。
「お嬢ちゃんはお嬢ちゃんじゃんよ。とんがらずに『可愛い』って言われてると受け取れば、別段腹なんか立たないじゃんよ」
声の主は、詰所の中に居た一人の女性警備員。
天井の記憶から一人の人物の名前が浮かび上がり、警戒レベルを強化させた。
黄泉川愛穂。天井の学校の体育教師。兼、学園都市の治安組織『警備員』の一員。強能力者程度ならポリカーボネートの盾で、相手が泣くまでどつきまわす事で有名。
正直、関係は『顔見知り』程度で抑えたいと思っている人物だったりもする。
「黄泉川……」
「ちっがーうじゃんよ!」
天井が言い切るより早く、女性の手が天井の頭を鷲掴みにした。俗に言うアイアンクローだが、それを片手で行う黄泉川の腕力たるや、女性にしては相当な物だ。女性特有のしなやかさを残したまま、よく鍛えられていると感心するところだろうか、それとも素直に泣くべきか。
(ぐぁあ、笑顔で込める力じゃねぇ)
頭蓋骨がなんだかミシミシと悲鳴をあげている気がするのは、おそらく気のせいだけでは無いのだろう。
叫びたいけど、うまく声が出ない。天井的な警戒レベルが一気に跳ね上がる。危険度の示す針は危険ゲージの赤いラインに猛然と突っ込み、ワーニンッ! ワーニンッ! と危険信号が鳴り響きっぱなしだ。
要するに痛いのだ。
天井のどこか冷静な部分が『さて、人間の頭蓋骨ってどれぐらいの圧力に耐えれるんだっけか?』と明日から使える無駄知識を考え、現実逃避を開始。気のせいか、幾分か痛みが和らいだ気がする。
が、当の黄泉川からしてみれば、天井の脳内でどんなトリビアが生まれていようと、ダンマリを決め込んでいる様にしか見えないわけで……。
当然、その右手には更に力が込められる事になる。
「ぐぁぁああああぁ! よみかわぁ!」
「黄泉川先生じゃんよ? 天井のお嬢ちゃんは冗談が上手いじゃんよ――あんまりおもしろすぎて、先生思わず右手に力がこもっちゃうじゃん?」
「こもってる! もう十分こもってる!」
「まだまだ上があるじゃんよ」
「う、上っ?」
「うん、上じゃん」
頭砕かれちゃ堪らない。宙吊りの体勢では、どうしようもない事だし、と天井は要求に従う事にする。
長い物には巻かれろ。これも処世術だ。
目尻に涙を浮かべ、
「・・・・・・ごめんなさい、黄泉川せんせい、お願いだから離してください……」
と、懇願したとしても誰も天井を責められない。
『先生』と呼ばれて満足した黄泉川は天井を解放。
詰所の中からは黄泉川の同僚達であろう数人の警備員が『大人気無いですよ、黄泉川先生……』との声をあげている。
まったく同感だ、と顔をさすりさすり、同意する天井。
(こんなのが教師でいいのかな……)
と思いつつも、天井が知っている『大人』という分類の中では、黄泉川愛穂は割とマトモな部類に入る。もっとも、これはマトモじゃない『大人』を、天井が少し知りすぎているだけかも知れないが……。
繁華街を出て、ものの数分。
警備員の詰所を過ぎたところで、突然声をかけられて天井は急ブレーキを敢行。
学校指定スニーカーの靴底は、アスファルトの地面との間で激しく音を発てた。
完全に殺し切れていない制動の勢いを、上半身に残したまま半ば強引に振り返り、
「お嬢ちゃんって言うなっ!」
と、激昂。あまりの剣幕に、通行人の視線が天井に集中した。
「お嬢ちゃんはお嬢ちゃんじゃんよ。とんがらずに『可愛い』って言われてると受け取れば、別段腹なんか立たないじゃんよ」
声の主は、詰所の中に居た一人の女性警備員。
天井の記憶から一人の人物の名前が浮かび上がり、警戒レベルを強化させた。
黄泉川愛穂。天井の学校の体育教師。兼、学園都市の治安組織『警備員』の一員。強能力者程度ならポリカーボネートの盾で、相手が泣くまでどつきまわす事で有名。
正直、関係は『顔見知り』程度で抑えたいと思っている人物だったりもする。
「黄泉川……」
「ちっがーうじゃんよ!」
天井が言い切るより早く、女性の手が天井の頭を鷲掴みにした。俗に言うアイアンクローだが、それを片手で行う黄泉川の腕力たるや、女性にしては相当な物だ。女性特有のしなやかさを残したまま、よく鍛えられていると感心するところだろうか、それとも素直に泣くべきか。
(ぐぁあ、笑顔で込める力じゃねぇ)
頭蓋骨がなんだかミシミシと悲鳴をあげている気がするのは、おそらく気のせいだけでは無いのだろう。
叫びたいけど、うまく声が出ない。天井的な警戒レベルが一気に跳ね上がる。危険度の示す針は危険ゲージの赤いラインに猛然と突っ込み、ワーニンッ! ワーニンッ! と危険信号が鳴り響きっぱなしだ。
要するに痛いのだ。
天井のどこか冷静な部分が『さて、人間の頭蓋骨ってどれぐらいの圧力に耐えれるんだっけか?』と明日から使える無駄知識を考え、現実逃避を開始。気のせいか、幾分か痛みが和らいだ気がする。
が、当の黄泉川からしてみれば、天井の脳内でどんなトリビアが生まれていようと、ダンマリを決め込んでいる様にしか見えないわけで……。
当然、その右手には更に力が込められる事になる。
「ぐぁぁああああぁ! よみかわぁ!」
「黄泉川先生じゃんよ? 天井のお嬢ちゃんは冗談が上手いじゃんよ――あんまりおもしろすぎて、先生思わず右手に力がこもっちゃうじゃん?」
「こもってる! もう十分こもってる!」
「まだまだ上があるじゃんよ」
「う、上っ?」
「うん、上じゃん」
頭砕かれちゃ堪らない。宙吊りの体勢では、どうしようもない事だし、と天井は要求に従う事にする。
長い物には巻かれろ。これも処世術だ。
目尻に涙を浮かべ、
「・・・・・・ごめんなさい、黄泉川せんせい、お願いだから離してください……」
と、懇願したとしても誰も天井を責められない。
『先生』と呼ばれて満足した黄泉川は天井を解放。
詰所の中からは黄泉川の同僚達であろう数人の警備員が『大人気無いですよ、黄泉川先生……』との声をあげている。
まったく同感だ、と顔をさすりさすり、同意する天井。
(こんなのが教師でいいのかな……)
と思いつつも、天井が知っている『大人』という分類の中では、黄泉川愛穂は割とマトモな部類に入る。もっとも、これはマトモじゃない『大人』を、天井が少し知りすぎているだけかも知れないが……。
「教師の勤務時間は終わってるんだろう?」
「おっと、天井のお嬢ちゃん。それは違うじゃんよ。私の教師って言うのは二十四時間営業なんだ。むしろ職業って言うよりは、生き方なんじゃんよ。だからこれからは、私に会ったらキチンと『黄泉川せんせー』って呼ぶじゃん? っていうか、アンタは少し言葉遣いに気を配るべきじゃんよ」
「めんどくさ……」
再び襲い来る黄泉川の手×二。天井のこめかみに黄泉川の両拳がぐりぐりと捻じ込まれる。
「よみかわせんせー」
「よし。まあ、立ち話もなんだから中に入るじゃんよ。心配しなくても問答無用で補導したりはしないじゃんよ、私は寛大だから」
寛大だというのなら、言葉遣いくらいは大目に見て欲しい。そして今回もまるごと見逃して欲しい。
「例の新しい委員会の件で出歩いてるじゃん?」
「いえ、別に委員会絡みでは無いんですが……」
「だったら、こんな時間に出歩くのは感心しないじゃん? うちの学校の寮は確かに門限は無いけど、教師としては生徒の夜遊びを見過ごすわけにはいかないじゃんよ。そんなだから月読先生が休憩時間に吸うタバコの量が右肩上がりなんじゃんよー」
「遊びでも無いんだけど……」
遊びでないのは天井で、ひのからすれば遊び感覚かも知れないが。かくれんぼ程度と認識している可能性も否定できない。
(あと、小萌先生が吸うタバコの量が多いのは別の問題だと思うが)
さて、どう説明したものか。天井は頭を捻った。
当事者達以外から見れば、それこそ、かくれんぼの鬼が見付からない程度の事。
正直、天井がひのを見つければ済む話で黄泉川には、「別になんでも無いです」と知らばっくれるのが天井好みの選択だ。反面、素直にひのの事を話して探すのを手伝ってもらうのも割と悪くない様に思える。
むしろ渡りに船。
何せ警備員だ。それも警備員兼教師。徘徊している不審な生徒の情報なんてものは、当然共有しているだろうし、天井の事を邪険に扱ったりはしないだろう。それに監視カメラを使う手もある。ひのがどこに居ようとどこかのカメラには移っている筈。そして学園都市中にほぼ死角無しの状態で点在する監視カメラの映像を閲覧できるのは、公務中の風紀委員を除けば警備員ぐらい。
天井は自分の制服の袖にある白い腕章に目線を落とした。
白い腕章のフチには二本の赤い線が走っており、中央には赤い十字の刻まれた盾を模したマーク。天井が所属する組織『保健委員』である事を証明する目印の様な物。その辺りは風紀委員と同様だ。
天井も公務中なら権限を使って閲覧する事が出来るのだが、生憎と今はプライベート。当然監視カメラなど機密性の高い情報の閲覧は不可能。
(選択肢はほとんど無いに等しいって状況が多すぎるな、私の人生には)
天井は黄泉川の協力を仰ぐ事にした。
もともとひのと接触できるかすら怪しい状況なのだ、四の五の言っていたら日付が変わってしまうだろう。
自分が思う中で、最も可愛く。そして下から見上げる視線により自分より背が高い相手の保護欲をかきたてる事間違い無しの会心の『ポーズ』を繰り出す。
「あの……黄泉川せんせ。ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけど」
(よし、決まった! これで大抵は落ちる!)
が、反応は無い。
(あ、あれ?)
というか、いつの間にか天井とは逆の方向を向いている。
「おーい・・・・・・」
「おっと、天井のお嬢ちゃん。それは違うじゃんよ。私の教師って言うのは二十四時間営業なんだ。むしろ職業って言うよりは、生き方なんじゃんよ。だからこれからは、私に会ったらキチンと『黄泉川せんせー』って呼ぶじゃん? っていうか、アンタは少し言葉遣いに気を配るべきじゃんよ」
「めんどくさ……」
再び襲い来る黄泉川の手×二。天井のこめかみに黄泉川の両拳がぐりぐりと捻じ込まれる。
「よみかわせんせー」
「よし。まあ、立ち話もなんだから中に入るじゃんよ。心配しなくても問答無用で補導したりはしないじゃんよ、私は寛大だから」
寛大だというのなら、言葉遣いくらいは大目に見て欲しい。そして今回もまるごと見逃して欲しい。
「例の新しい委員会の件で出歩いてるじゃん?」
「いえ、別に委員会絡みでは無いんですが……」
「だったら、こんな時間に出歩くのは感心しないじゃん? うちの学校の寮は確かに門限は無いけど、教師としては生徒の夜遊びを見過ごすわけにはいかないじゃんよ。そんなだから月読先生が休憩時間に吸うタバコの量が右肩上がりなんじゃんよー」
「遊びでも無いんだけど……」
遊びでないのは天井で、ひのからすれば遊び感覚かも知れないが。かくれんぼ程度と認識している可能性も否定できない。
(あと、小萌先生が吸うタバコの量が多いのは別の問題だと思うが)
さて、どう説明したものか。天井は頭を捻った。
当事者達以外から見れば、それこそ、かくれんぼの鬼が見付からない程度の事。
正直、天井がひのを見つければ済む話で黄泉川には、「別になんでも無いです」と知らばっくれるのが天井好みの選択だ。反面、素直にひのの事を話して探すのを手伝ってもらうのも割と悪くない様に思える。
むしろ渡りに船。
何せ警備員だ。それも警備員兼教師。徘徊している不審な生徒の情報なんてものは、当然共有しているだろうし、天井の事を邪険に扱ったりはしないだろう。それに監視カメラを使う手もある。ひのがどこに居ようとどこかのカメラには移っている筈。そして学園都市中にほぼ死角無しの状態で点在する監視カメラの映像を閲覧できるのは、公務中の風紀委員を除けば警備員ぐらい。
天井は自分の制服の袖にある白い腕章に目線を落とした。
白い腕章のフチには二本の赤い線が走っており、中央には赤い十字の刻まれた盾を模したマーク。天井が所属する組織『保健委員』である事を証明する目印の様な物。その辺りは風紀委員と同様だ。
天井も公務中なら権限を使って閲覧する事が出来るのだが、生憎と今はプライベート。当然監視カメラなど機密性の高い情報の閲覧は不可能。
(選択肢はほとんど無いに等しいって状況が多すぎるな、私の人生には)
天井は黄泉川の協力を仰ぐ事にした。
もともとひのと接触できるかすら怪しい状況なのだ、四の五の言っていたら日付が変わってしまうだろう。
自分が思う中で、最も可愛く。そして下から見上げる視線により自分より背が高い相手の保護欲をかきたてる事間違い無しの会心の『ポーズ』を繰り出す。
「あの……黄泉川せんせ。ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけど」
(よし、決まった! これで大抵は落ちる!)
が、反応は無い。
(あ、あれ?)
というか、いつの間にか天井とは逆の方向を向いている。
「おーい・・・・・・」
同僚の警備員達数名に囲まれた黄泉川はしきりになにかを見せている。
きっと、ワイワイと詰所の中が騒がしいので、聞こえなかったのだろう。
今度は近づいてから、
「よみかわせんせ。よみかわさーん、あいほせんせー」
反応無し。仕方なく直接その肩をツンツンと突っつく。
「ん?」
「何を見てるんですか?」
と、黄泉川が事務所椅子をくるりと回転させ、手に持っていた黒い携帯電話の液晶画面を天井に見せた。
「って、何見てるんだっ、黄泉川!」
「あんまりにも可愛らしいもので写メに撮ったじゃんよ、写真写りいいのは素直に羨ましいじゃん」
液晶画面に映っていたのは、天井の姿。制服姿で走る姿が液晶画面に映し出されていた。
黄泉川は天井の反応を楽しむ様に、携帯を操作して表示された画像を切り替えていく。
ぶかぶかの体操服で、すっころぶ天井。調理実習で指を切り、涙目でその指を咥えている天井。授業中うつらうつらと居眠りをする天井。コンビニで女性週刊誌を立ち読みする天井。少年漫画を買う時に下から新しいのを引っ張り出す天井。ゲームセンターのUFOキャッチャーでお目当ての人形に熱い視線を送る天井。そしてそれを取り損ねてご機嫌斜めの天井などなど。
「な、なんだこれ!?」
「アンタの写真、結構人気あるじゃんよ」
「いつの間に・・・・・・」
「黄泉川先輩、僕らにも見せて下さいよ」
と、男性警備員の一人。
「あー、だめだめ。会員以外にはみせらんない決まりじゃん」
「ですよねー」
と女性警備員が黄泉川に同意する。
(会員って何だよ・・・・・・)
断られた男性警備員は、仕方なく天井へと自らの携帯電話を向け、撮影しようと試みる。
「勝手に撮るな」
シャッターボタンを押されるより早く、天井の右手が青白い火花を散らした。
「あ。あれぇ、これ換えたばかりなのに、勝手に電源が落ちちゃった」
あたふたと携帯電話を弄る男性警備員を尻目に、天井は黄泉川へと向き直る。
「アンタの能力はそういう使い方も出来るんじゃん、てっきり治療専用の能力かと思ってたけど、意外と汎用性が高そうじゃんよ?」
「出力自体は大したこと無いんだ」
「でも、アンタの能力なら出力とか関係無さそうな気もするじゃんよ」
天井が黄泉川の携帯に向けて手をかざすと、黄泉川は慌てて携帯を仕舞った。
「隠すな」
「アンタの写真は一部の男性教師や男子生徒の間で絶大な人気を誇っているのは知ってるんじゃん? 九月初めに転入して来たのに学園都市美少女ランキングの上位に食い込んでるんだ」
「だからなんだ」
「先生てば、今月少し厳しいじゃん。何が厳しいって新しい家電を買いこんだら、結構な額になったじゃん、だから少しアルバイトをしたじゃんよ」
最近居候も増えてるし、大変なんじゃんよー、と黄泉川は笑い飛ばす。
「人の写真でアルバイトすんな教職員兼警備員! 終いには訴えるぞ!」
「いやぁ、先生の周りには月読先生や天井みたいな年の割にちっこい子が多くて不思議なんじゃんよー、当然、普通の人間なら、ずばり若さの秘密は何だろうねぇって思うじゃん? 最初は月読先生だけで満足してたんだけど、面白くなってランキングとか作ってみたら、これが大当たりだったじゃんよ」
「そっちもお前が元凶か!」
「ちなみに何故か私自身も美人ランキングの方には名前が載ってるじゃん、現在上位争奪戦じゃんよ、目下のライバルは冥土返し医師と火燈っていう看護婦じゃん」
「それ自慢してるだけだろっ! 巨乳お断り! グラビア系モデル体系お断り!」
「胸が大きいのも結構大変なんじゃんよ? 下着のデザインでかわいいのは無いし、肩は凝るし、Tシャツは胸のところだけ伸びるし」
「あぁ、なんかまた私とは無縁の言葉を口にっ!? ってか自慢する気マンマンじゃないか! 大は小を兼ねるとでも言いたいのか!」
「あんたのとこの保護者も結構大きいじゃんよ? サイズいくつなんじゃん?」
「知るか! 私は普通なんだ。世界の平均胸囲が私なんだ。年齢的に仕方ないんだ!」
それはどうかと思う、と警備員達が無言の突っ込み。
「アンタのクラスにも胸大きい娘の一人や二人いるじゃんよ?」
うなづく警備員達。警備員達は教師なのだから、きっと思い思いの想像の翼でも広げているのだろう。しかし、女性の警備員も頷いているのはどういう事だろうか?
今度は近づいてから、
「よみかわせんせ。よみかわさーん、あいほせんせー」
反応無し。仕方なく直接その肩をツンツンと突っつく。
「ん?」
「何を見てるんですか?」
と、黄泉川が事務所椅子をくるりと回転させ、手に持っていた黒い携帯電話の液晶画面を天井に見せた。
「って、何見てるんだっ、黄泉川!」
「あんまりにも可愛らしいもので写メに撮ったじゃんよ、写真写りいいのは素直に羨ましいじゃん」
液晶画面に映っていたのは、天井の姿。制服姿で走る姿が液晶画面に映し出されていた。
黄泉川は天井の反応を楽しむ様に、携帯を操作して表示された画像を切り替えていく。
ぶかぶかの体操服で、すっころぶ天井。調理実習で指を切り、涙目でその指を咥えている天井。授業中うつらうつらと居眠りをする天井。コンビニで女性週刊誌を立ち読みする天井。少年漫画を買う時に下から新しいのを引っ張り出す天井。ゲームセンターのUFOキャッチャーでお目当ての人形に熱い視線を送る天井。そしてそれを取り損ねてご機嫌斜めの天井などなど。
「な、なんだこれ!?」
「アンタの写真、結構人気あるじゃんよ」
「いつの間に・・・・・・」
「黄泉川先輩、僕らにも見せて下さいよ」
と、男性警備員の一人。
「あー、だめだめ。会員以外にはみせらんない決まりじゃん」
「ですよねー」
と女性警備員が黄泉川に同意する。
(会員って何だよ・・・・・・)
断られた男性警備員は、仕方なく天井へと自らの携帯電話を向け、撮影しようと試みる。
「勝手に撮るな」
シャッターボタンを押されるより早く、天井の右手が青白い火花を散らした。
「あ。あれぇ、これ換えたばかりなのに、勝手に電源が落ちちゃった」
あたふたと携帯電話を弄る男性警備員を尻目に、天井は黄泉川へと向き直る。
「アンタの能力はそういう使い方も出来るんじゃん、てっきり治療専用の能力かと思ってたけど、意外と汎用性が高そうじゃんよ?」
「出力自体は大したこと無いんだ」
「でも、アンタの能力なら出力とか関係無さそうな気もするじゃんよ」
天井が黄泉川の携帯に向けて手をかざすと、黄泉川は慌てて携帯を仕舞った。
「隠すな」
「アンタの写真は一部の男性教師や男子生徒の間で絶大な人気を誇っているのは知ってるんじゃん? 九月初めに転入して来たのに学園都市美少女ランキングの上位に食い込んでるんだ」
「だからなんだ」
「先生てば、今月少し厳しいじゃん。何が厳しいって新しい家電を買いこんだら、結構な額になったじゃん、だから少しアルバイトをしたじゃんよ」
最近居候も増えてるし、大変なんじゃんよー、と黄泉川は笑い飛ばす。
「人の写真でアルバイトすんな教職員兼警備員! 終いには訴えるぞ!」
「いやぁ、先生の周りには月読先生や天井みたいな年の割にちっこい子が多くて不思議なんじゃんよー、当然、普通の人間なら、ずばり若さの秘密は何だろうねぇって思うじゃん? 最初は月読先生だけで満足してたんだけど、面白くなってランキングとか作ってみたら、これが大当たりだったじゃんよ」
「そっちもお前が元凶か!」
「ちなみに何故か私自身も美人ランキングの方には名前が載ってるじゃん、現在上位争奪戦じゃんよ、目下のライバルは冥土返し医師と火燈っていう看護婦じゃん」
「それ自慢してるだけだろっ! 巨乳お断り! グラビア系モデル体系お断り!」
「胸が大きいのも結構大変なんじゃんよ? 下着のデザインでかわいいのは無いし、肩は凝るし、Tシャツは胸のところだけ伸びるし」
「あぁ、なんかまた私とは無縁の言葉を口にっ!? ってか自慢する気マンマンじゃないか! 大は小を兼ねるとでも言いたいのか!」
「あんたのとこの保護者も結構大きいじゃんよ? サイズいくつなんじゃん?」
「知るか! 私は普通なんだ。世界の平均胸囲が私なんだ。年齢的に仕方ないんだ!」
それはどうかと思う、と警備員達が無言の突っ込み。
「アンタのクラスにも胸大きい娘の一人や二人いるじゃんよ?」
うなづく警備員達。警備員達は教師なのだから、きっと思い思いの想像の翼でも広げているのだろう。しかし、女性の警備員も頷いているのはどういう事だろうか?
ともかく。黄泉川との進展の無い問答から開放されて、天井は一息ついた。
「うぅ、なんか余計に疲れた……」
ぼやいていると、どこからか携帯電話のカメラのシャッター音がする。顔を上げればそこには長い黒髪の女性警備員。
「こんばんわぁー。私、光陵学院高等部で国語の教師をしている逆月って言いますぅ、よろしくねぇ、天井さん」
黄泉川程では無いがスタイルが良い。サラサラの黒髪が腰あたりまで伸びており、先端は床に届きそうなまでに長い。前髪に隠れて表情が良くわからないが、彼女も警備員なのだろう、黄泉川や他の警備員と似たり寄ったりな服装をしている。カメラのシャッター音は彼女の右手にある二つ折りの携帯電話からだ。
「どうぞぉ・・・・・・」
天井の前に差し出される紙コップ。なみなみと満たされた黒い液体が湯気を発てている。コーヒーの『様な』香ばしい香りと白い湯気が寒い日には有難い。
「あ、ああ、ありがとう……」
「熱いので気を付けてくださいねぇ。」
物腰が丁寧で、少しおっとりとした伸び口調。声は小さめなので集中してないとうっかり聞き逃してしまいそうである。
天井の中で逆月の名前は良い人リストへと刻み込まれた。
(優しさが目に染みるとはこの事か……)
天井は弱弱しく紙コップを受取り、中身を一口含んだ。
そして。含んだ後に一拍置いてから、盛大に含んだものを「――ごふゅ……」と噴き出す。
黒いコーヒーっぽい物で出来た霧が、蛍光灯の光に反射してキラキラと輝いた。
逆月が「あぁ、今年の忘年会で使えそうな一発芸ぅ、名づけて『虹』ですねぇ。こんな高等テクニックを目に出来るなんてぇ、私この仕事してて良かったですぅ」などと拍手喝采。
「おおっ」
「すげえ」
「さすが天井」
釣られて詰所中から拍手が飛ぶ。
「おふゅ、へふゅ、はひゅ……」
喉というか、気管をピンポイントで襲う予想していなかった未知の味に激しく噎せ込み、天井が涙目気味に逆月を睨む。
逆月の名前は悪い人リストへとその名を移動した。
「なんだ、この得体のしれない飲み物は? コーヒーの面をした養命酒かなにかか!? それとも二日酔いの薬か!」
「あのぉ、気付けにいいかと思ってぇ……」
「何の気付けだ! って、ああ、もう。なんか涙が止まらないし、喉は痛いし、ついでになんかムカつくし!」
涙が止まらないのは恐らく気管に入ったせいだけでは無いだろう。味に驚いたから気管に入ったのだから。そもそも何を飲まされたのかすら判らない。
「学園都市の新製品ですぅ。警備員の特典、というか体の良い実験台なんですけどぅ。生徒達より先に新製品を味わう事が出来るんですよぅ。ちなみにそれは秋の新製品『必殺! 撲滅ヒーロー』っていうコーヒー風味の飲料ですぅ。実際にはカフェインなんて一グラムも入って無くて眠気なんて飛ばないんですぅ。疲労とヒーローが掛けてあるみたいで、コーヒー風味の中に無理やりビタミンCとかが入ってますぅ。あとベータカロチンも豊富で酸っぱ苦い感じ?」
スカートのポケットからハンカチを取り出して自らの口元を拭うと、天井はまだ『必殺! 撲滅ヒーロー』なる怪しげな液体が半分以上残っている紙コップを持って、ゆらりと立ち上がった。その姿は本場の幽霊も裸足で逃げ出す程。
「…………飲――……」
「えっ? ごめんなさい~、よく聞こえなかったんですよぉ。もう一度。もう一度だけ、お願いできますか?」
耳に手を当てて、天井に近づく逆月。きっと彼女は天井からお礼でも聞けると思っているのだろう。その顔にはありありと『私良いことした』が浮かんでいる。
「飲めるかぁっ!」
「あぁ、十代の激情ですかぁっ!? 私ってば反抗されてるんですねぇ!? なんか新鮮!」
「お前が飲め! この艶やかロングヘアー天然おっとり女がぁああ! 酸っぱ苦いって何だっ、初めて聞いたぞ、そんな感想!」
天井、右手に持った紙コップの中身を、逆月へと飲ませようとする。
「ひぁぁあああぁぁ、助けて、助けて! このチビッ子てば反抗期なんですよぉ」
「チビって言うなぁ! 誰が豆粒程度だ! 小さくて悪かったな! ああ、小さいよ、そりゃあもう体のあらゆるパーツが小さいよ、ミニマムだよ!」
「ひぁぁ! そこまで言ってませんよぉ」
虎の如く逆月に躍りかかる天井。物語のヒロインよろしく悲鳴をあげて床を後ずさる逆月。彼女の危機を救ったのは黄泉川の手だった。
飛び掛る寸前の天井を、空中で素早く小猫でも捕まえるように首根っこ掴んで確保。
天井は空中で逆月に届かない手足をジタバタとさせた。
「ちょ、放せ、よーみーかーわー」
「黄泉川ぁ先輩ぃ! やっぱり私をぉ助けてくれるんですねぇ。なんかぁ、こう、いろいろとありがとうございますぅ……でもなんで完全装備なんですか? むぎゅ」
いつの間にか黄泉川は、ヘルメットを脇に抱え、ポリカーボネートの透明な盾まで持っている。まるでこれから荒事にでも行くかの様。
「なんかそうやってると、マスコットキャラクターみたいじゃんよー、天井のお嬢ちゃん」
黄泉川、天井を背中に装着。
「アンタは私と一緒に来てもらうじゃんよ」
「え、いや私は警備員じゃ無いんだが・・・・・・」
「大丈夫じゃん、れっきとした『保健委員』のお仕事もあるじゃんよ」
「はっ?」
「アンタのとこのボスにも許可は貰っているじゃんよ、ほら行くじゃん、じゃんじゃん行くじゃん! 事件は詰所で起こってないんだ、現場で起こってるんだぁー」
「あ、もう、何がなんだか!」
黄泉川がじゃんじゃん言いながら詰め所を出て行こうとすると、逆月が黄泉川を呼び止める。
「黄泉川先輩ぃ、現場へは『直行』ですか?」
直行。呼んで字の如く、現場に直接向かう事。この場合はこの詰め所から行くという事だろう。
「それ、確認する意味あるのか・・・・・・」
黄泉川に背負われた天井の言葉に逆月はブンブンと顔を振る。縦に横に。
(どっちだよ・・・・・・)
「命にぃ関わりますかもぉ?」
「直行に決まってるじゃん」
「電車で?」
「車じゃん」
黄泉川の返答を聞くなり、逆月は「大変ですぅ、準備しませんとぅ」と奥へと走っていった。 そして黄泉川と天井以外の全員が何故か十字らしき物を切り、祈りを捧げ出す。ある男性警備員なんて『まだ若いのに可哀想に』などと涙する。
しばらくして逆月が持ってきたのは毒々しいパッケージの描かれた350ミリリットルの缶。見た事が無いのでこれも先刻の『必殺! 撲滅ヒーロー』と同じく実験飲料なのだろう。
「新製品『起こせ撃鉄、酔い止めDX』ですぅ!」
真剣な顔で続ける逆月。そして「これで何とか耐えてくださぃ」と何度も何度も念を押し、天井の手の中に冷たい感触の缶を押し込んできた。
天井がその真意を知るのは少し後の事。今はまだ呆けた表情を浮かべるのみ。
「うぅ、なんか余計に疲れた……」
ぼやいていると、どこからか携帯電話のカメラのシャッター音がする。顔を上げればそこには長い黒髪の女性警備員。
「こんばんわぁー。私、光陵学院高等部で国語の教師をしている逆月って言いますぅ、よろしくねぇ、天井さん」
黄泉川程では無いがスタイルが良い。サラサラの黒髪が腰あたりまで伸びており、先端は床に届きそうなまでに長い。前髪に隠れて表情が良くわからないが、彼女も警備員なのだろう、黄泉川や他の警備員と似たり寄ったりな服装をしている。カメラのシャッター音は彼女の右手にある二つ折りの携帯電話からだ。
「どうぞぉ・・・・・・」
天井の前に差し出される紙コップ。なみなみと満たされた黒い液体が湯気を発てている。コーヒーの『様な』香ばしい香りと白い湯気が寒い日には有難い。
「あ、ああ、ありがとう……」
「熱いので気を付けてくださいねぇ。」
物腰が丁寧で、少しおっとりとした伸び口調。声は小さめなので集中してないとうっかり聞き逃してしまいそうである。
天井の中で逆月の名前は良い人リストへと刻み込まれた。
(優しさが目に染みるとはこの事か……)
天井は弱弱しく紙コップを受取り、中身を一口含んだ。
そして。含んだ後に一拍置いてから、盛大に含んだものを「――ごふゅ……」と噴き出す。
黒いコーヒーっぽい物で出来た霧が、蛍光灯の光に反射してキラキラと輝いた。
逆月が「あぁ、今年の忘年会で使えそうな一発芸ぅ、名づけて『虹』ですねぇ。こんな高等テクニックを目に出来るなんてぇ、私この仕事してて良かったですぅ」などと拍手喝采。
「おおっ」
「すげえ」
「さすが天井」
釣られて詰所中から拍手が飛ぶ。
「おふゅ、へふゅ、はひゅ……」
喉というか、気管をピンポイントで襲う予想していなかった未知の味に激しく噎せ込み、天井が涙目気味に逆月を睨む。
逆月の名前は悪い人リストへとその名を移動した。
「なんだ、この得体のしれない飲み物は? コーヒーの面をした養命酒かなにかか!? それとも二日酔いの薬か!」
「あのぉ、気付けにいいかと思ってぇ……」
「何の気付けだ! って、ああ、もう。なんか涙が止まらないし、喉は痛いし、ついでになんかムカつくし!」
涙が止まらないのは恐らく気管に入ったせいだけでは無いだろう。味に驚いたから気管に入ったのだから。そもそも何を飲まされたのかすら判らない。
「学園都市の新製品ですぅ。警備員の特典、というか体の良い実験台なんですけどぅ。生徒達より先に新製品を味わう事が出来るんですよぅ。ちなみにそれは秋の新製品『必殺! 撲滅ヒーロー』っていうコーヒー風味の飲料ですぅ。実際にはカフェインなんて一グラムも入って無くて眠気なんて飛ばないんですぅ。疲労とヒーローが掛けてあるみたいで、コーヒー風味の中に無理やりビタミンCとかが入ってますぅ。あとベータカロチンも豊富で酸っぱ苦い感じ?」
スカートのポケットからハンカチを取り出して自らの口元を拭うと、天井はまだ『必殺! 撲滅ヒーロー』なる怪しげな液体が半分以上残っている紙コップを持って、ゆらりと立ち上がった。その姿は本場の幽霊も裸足で逃げ出す程。
「…………飲――……」
「えっ? ごめんなさい~、よく聞こえなかったんですよぉ。もう一度。もう一度だけ、お願いできますか?」
耳に手を当てて、天井に近づく逆月。きっと彼女は天井からお礼でも聞けると思っているのだろう。その顔にはありありと『私良いことした』が浮かんでいる。
「飲めるかぁっ!」
「あぁ、十代の激情ですかぁっ!? 私ってば反抗されてるんですねぇ!? なんか新鮮!」
「お前が飲め! この艶やかロングヘアー天然おっとり女がぁああ! 酸っぱ苦いって何だっ、初めて聞いたぞ、そんな感想!」
天井、右手に持った紙コップの中身を、逆月へと飲ませようとする。
「ひぁぁあああぁぁ、助けて、助けて! このチビッ子てば反抗期なんですよぉ」
「チビって言うなぁ! 誰が豆粒程度だ! 小さくて悪かったな! ああ、小さいよ、そりゃあもう体のあらゆるパーツが小さいよ、ミニマムだよ!」
「ひぁぁ! そこまで言ってませんよぉ」
虎の如く逆月に躍りかかる天井。物語のヒロインよろしく悲鳴をあげて床を後ずさる逆月。彼女の危機を救ったのは黄泉川の手だった。
飛び掛る寸前の天井を、空中で素早く小猫でも捕まえるように首根っこ掴んで確保。
天井は空中で逆月に届かない手足をジタバタとさせた。
「ちょ、放せ、よーみーかーわー」
「黄泉川ぁ先輩ぃ! やっぱり私をぉ助けてくれるんですねぇ。なんかぁ、こう、いろいろとありがとうございますぅ……でもなんで完全装備なんですか? むぎゅ」
いつの間にか黄泉川は、ヘルメットを脇に抱え、ポリカーボネートの透明な盾まで持っている。まるでこれから荒事にでも行くかの様。
「なんかそうやってると、マスコットキャラクターみたいじゃんよー、天井のお嬢ちゃん」
黄泉川、天井を背中に装着。
「アンタは私と一緒に来てもらうじゃんよ」
「え、いや私は警備員じゃ無いんだが・・・・・・」
「大丈夫じゃん、れっきとした『保健委員』のお仕事もあるじゃんよ」
「はっ?」
「アンタのとこのボスにも許可は貰っているじゃんよ、ほら行くじゃん、じゃんじゃん行くじゃん! 事件は詰所で起こってないんだ、現場で起こってるんだぁー」
「あ、もう、何がなんだか!」
黄泉川がじゃんじゃん言いながら詰め所を出て行こうとすると、逆月が黄泉川を呼び止める。
「黄泉川先輩ぃ、現場へは『直行』ですか?」
直行。呼んで字の如く、現場に直接向かう事。この場合はこの詰め所から行くという事だろう。
「それ、確認する意味あるのか・・・・・・」
黄泉川に背負われた天井の言葉に逆月はブンブンと顔を振る。縦に横に。
(どっちだよ・・・・・・)
「命にぃ関わりますかもぉ?」
「直行に決まってるじゃん」
「電車で?」
「車じゃん」
黄泉川の返答を聞くなり、逆月は「大変ですぅ、準備しませんとぅ」と奥へと走っていった。 そして黄泉川と天井以外の全員が何故か十字らしき物を切り、祈りを捧げ出す。ある男性警備員なんて『まだ若いのに可哀想に』などと涙する。
しばらくして逆月が持ってきたのは毒々しいパッケージの描かれた350ミリリットルの缶。見た事が無いのでこれも先刻の『必殺! 撲滅ヒーロー』と同じく実験飲料なのだろう。
「新製品『起こせ撃鉄、酔い止めDX』ですぅ!」
真剣な顔で続ける逆月。そして「これで何とか耐えてくださぃ」と何度も何度も念を押し、天井の手の中に冷たい感触の缶を押し込んできた。
天井がその真意を知るのは少し後の事。今はまだ呆けた表情を浮かべるのみ。