とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-144

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匿名ユーザー

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「仕方ないよ、式。橙子さんの頼みなんだから。」
伽藍、という下駄の音とともに、少女、両儀式は気だるげな顔で辺りを見回した。
大型二車線の道路、某大手チェーンのコンビニ、行き交う人々・・・・極普通の町並みがそこにある。
しかし、よく見れば微かな違和感に気づく。
カラカラと回る風力発電のプロペラ、行き交う人々の平均年齢の低さ、自販機にならぶ劇薬(いちごおでん)。
『学園都市』。
厚い塀で仕切られたその中で、超能力者を『科学的に』生み出し続ける異端の都古もとい都。
なんでこんなところに・・・口に出た思いを瞳にのせ、隣の青年を睨む。
「それはコクトーだけだろ。オレは別に橙子の弟子でも社員でもないんだし。」
残暑の中、漆黒の衣服をまとった青年、黒桐幹也は、害意を全く感じさせない顔で苦笑した。
「はは、まあそうなんだけどね。じゃあ、式は帰る?」
「っ、・・・・キタナイぞ・・・。」
恨めしそうな顔で、式は幹也を睨んだ。
こんな得体の知れない町に恋人を放り込んで平然としていられるほど、式の幹也への想いは小さくない。
それをわかっていて、それでも橙子の頼みを断らなかった幹也。
「コクトーはいつもそうだ。ヒキョーだ。腹黒だ。犯罪だ。」
ぶつぶつと不平を漏らす式をはいはいとあしらいながら、幹也は数日前に橙子と交わした会話を思い出していた。


彼が彼女の工房について早々、橙子は言った。
「DEAD OR ALIVE。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
ぽかんとする幹也を前に、彼女は焦らすように煙草を口に含み、ふっと息を吐く。
「何、よくある手口だよ。最初に意味深な言葉を吐くことで相手の興味を引き立て、続く本題を聞かせようとする・・・
どうだい、続きが気になるだろう?」
「(そういうのはバラしたら色々と効果が半減する気がするんですが・・・)・・・ええ、まあ・・・。」
あいまいな答えに少し不満そうな顔をしながらも、橙子は煙草を置き、口を開いた。
「さて、黒桐君。今日は給料日だね。」
「そうですね。」
「昨日私はそのための金も含めて我が家には40万あると言ったね。」
「言いましたね。」
「そして昨日、君が帰った後少しふらついていたら、たまたま、かなり年代物の
魔道具“アンティーク”を見つけたんだ。」
「そうなんですか。」
「歴史的にもそれなりに貴重な物だったから、早く買わないと誰かに買われてしまうかもしれない。
そこで私はその魔道具 “アンティーク”をレジに持っていった。すると店主はこう言った。
「40万円になります。」」
「・・・・・・・・・(黙」
「そしてここに成功報酬数百万、しかも依頼遂行中は食費と寝所すべて向こう持ちという極めて怪しげな依頼がある。」
「・・・・・・・・・(呆」
「黒桐君。事務所の未来は君の双肩にかかっている。」
「・・・・・・・・・(疲」
依頼を受ける以外に道は無かった。
これ以上思い出すのも嫌なので、後は要点をつまんで思い出すことにする。
依頼内容は、学園都市のLV5の調査。
彼ら7名の能力、戦闘力をできる限り調べてくること。
「私もついて行ってやりたいのだがね、あそこに魔術師が入るのは、よほどの特例でもないと許されない。
世界のバランスが崩壊する危険を孕んでいるからな。たとえ私のような隠居魔術師でもね。そういう訳で私は別の仕事を
受けるから、こちらは君に任せた。ああ、君の彼女は連れて行って大丈夫だ。直死の魔眼“アレ”はぎりぎり、魔術の範疇ではないから。」

そして、依頼主のコネにより「研究所所員」という形で正面ゲートを突破して、今に至る。
回想を終了し、横でまだ続いている式の言葉を聞き流しつつ、これからどうしようか・・・と考えていた幹也は、
前を走ってきた少女にぶつかった。
「おっと。」
ぶつかってよろめきながらも、自分よりも大きくよろめいた少女の方を支える。
「あ・・・、すいません。」
体勢を立て直した少女は、軽く頭を下げた。
ああ、いえ、と答えた幹也は、ふと少女の着ている制服に気づいた。
プリッツスカートに半そでのブラウスと袖なしセーター。
調査対象であるLV5を2人も抱える超名門女子校・常盤台中学の制服だった。
何とか情報を引き出せないかと思い、とりあえず話しかけてみた。
「どうしたの?そんなに急いで。」
「え?えっと・・・。」
少女は答えに詰まったように黙り込んだ。
不思議そうに少女の顔を見た幹也は、その時気づいた。

少女が『LV5を2人も抱える学校の生徒』なんてものじゃなく、正真正銘の『LV5』だったということに。

「えっと・・・その、ちょっとアクセサリーを集めに。」
少女、御坂美琴は、愛想笑いとともに答えた。


そこは、科学が生んだバベルの塔。
入り口も出口もなく、ただ、1人の『人間』が永遠に住まい続ける、墓標のような遠坂じゃなかった塔。
そこに住まう『人間』は、決して破れない硬質のビーカーの中に、逆さで佇み続ける。
男のように女のように、大人のように子どものように、聖人のように囚人のように。
『人間』アレイスター=クロウリーは、ビーカーの前に立つ人間に向かって笑った。
「私の命通りに動いてくれたか、土御門。」
対するアロハシャツの青年、土御門元春は、無感情な顔でうなずいた。
「お前の言った通り、教会の中のタカ派を動かして蒼崎橙子にLV5の能力の調査を依頼させた。お前の想定通り、
両儀式と他1名が研究所所員を装い侵入してきた。」
正面ゲートで撮られた、黒髪の少女と青年の写真を見せる。
アレイスターは、満足そうな笑みを浮かべた。
両者口を開かず、場に沈黙が訪れる。
「・・・アレイスター、お前は何を考えている?」
沈黙を破ったのは土御門だった。
「“幻想殺し”に“吸血殺し”、お次は“直死の魔眼”か。おまけにこちらの能力者の情報を
与えるような真似をして・・・いつからお前は敵に塩を送るような人間になった?」
アレイスターは、変わらずビーカーに浮いて笑みを浮かべていた。
その笑みが、より深まる。
「『手順』のためならば、私は敵に塩も送る。どの道塩は、単なる材料の1つに過ぎない。賢者の石ならばいざ知らず、
塩があるからと言って、錬金術師が真理に至れるわけではない。塩や硫黄や水銀、それ単体に意味は無い。正しい知識があってこそ、
それらは初めて意味を為す。所詮は、そういうことだ。『手順』を省略できるのならば、
塩などいくら撒いたところで痛くはない。」
「・・・・・・・・。」
黙る土御門を前にアレイスターは詠うように、
「空想は具現化する。幻想は殺される。全ての死を視る少女は果たして、幻想殺しに何を視るのだろうか、ね。」
(続くらしい)



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