寮を出て歩き出すと、声が聞こえてきた。
「いやーやっぱ休日の朝はアニメ鑑賞だよにゃー」
「全くその通りですな。この時期は何故かまだ夏休みアニメ特集の残滓が残ってたりしてビミョーに古い
アニメ映画とかやってるのが見逃せませんな」
「おう。『コラムジャンク』とか『ねじめの一筆』とか、久しぶりに見てもやっぱいいもんだぜい」
「おーっと渋い。ぼかあ『ちゅうに克己』の再放送とか好きなんやけど」
「ほほう。なかなかいい趣味ですな? 落ちぶれた貴族の娘ってのもエロネタ的にはオツですな」
「全くその通りですな。この時期は何故かまだ夏休みアニメ特集の残滓が残ってたりしてビミョーに古い
アニメ映画とかやってるのが見逃せませんな」
「おう。『コラムジャンク』とか『ねじめの一筆』とか、久しぶりに見てもやっぱいいもんだぜい」
「おーっと渋い。ぼかあ『ちゅうに克己』の再放送とか好きなんやけど」
「ほほう。なかなかいい趣味ですな? 落ちぶれた貴族の娘ってのもエロネタ的にはオツですな」
朝の七時過ぎから、一体何の話をしているのかも分からないディープな会話に上条は思考停止したい
衝動に駆られたが、何とか耐えて逃げ出した。
「どうしたのとうま。あの二人に声かけないの?」
「いいの! 今はあいつらに会いたくないの!」
「平和」はまあ百歩譲るとして、あの二人に会って「静か」に過ごせるなどとは夢にも思わない。
ここは一刻も早く立ち去るべきだ。
裏路地に入って隣の通りに抜ける。なんとなく振り返ってみるが、もう声も聞こえなかった。
「ふう……何とかやり過ごせたか。朝っぱらからあんな変態どもに付き合ってらんねーよな」
また歩き出す。今度こそ人っ子一人居なかった。
早朝の学園都市は、まさにゴーストタウンといってよい。何せ住民のほとんどが学生であり、
上条自身も学生寮に住んでいる以上、通勤途中のサラリーマンなんてものにはまず出会わない。
加えて今日は休日だ。通勤も通学も、ほとんどの人間にとっては関係ない。
この時間からやっているコンビニは一体どういう客層を見込んでいるのか摩訶不思議だが、
普段学校をサボっている奴や、早朝から漫画を立ち読みしたいという特殊な嗜好を持つ学生が
相手なのだろう。レジにはごっついヒゲ親父が突っ立っている。予想を裏切らない客も、一人。
衝動に駆られたが、何とか耐えて逃げ出した。
「どうしたのとうま。あの二人に声かけないの?」
「いいの! 今はあいつらに会いたくないの!」
「平和」はまあ百歩譲るとして、あの二人に会って「静か」に過ごせるなどとは夢にも思わない。
ここは一刻も早く立ち去るべきだ。
裏路地に入って隣の通りに抜ける。なんとなく振り返ってみるが、もう声も聞こえなかった。
「ふう……何とかやり過ごせたか。朝っぱらからあんな変態どもに付き合ってらんねーよな」
また歩き出す。今度こそ人っ子一人居なかった。
早朝の学園都市は、まさにゴーストタウンといってよい。何せ住民のほとんどが学生であり、
上条自身も学生寮に住んでいる以上、通勤途中のサラリーマンなんてものにはまず出会わない。
加えて今日は休日だ。通勤も通学も、ほとんどの人間にとっては関係ない。
この時間からやっているコンビニは一体どういう客層を見込んでいるのか摩訶不思議だが、
普段学校をサボっている奴や、早朝から漫画を立ち読みしたいという特殊な嗜好を持つ学生が
相手なのだろう。レジにはごっついヒゲ親父が突っ立っている。予想を裏切らない客も、一人。
御坂美琴が週間少年漫画雑誌を手に、窓際で立ち読みの最中だった。
(ちょっとーーー! 何してるんですか美琴センセー!!!)
心の声は決して外に漏らしてはならない。今日は静かに、平和に、過ごしたい。まだ十分も
経っていないのにこれでは、悲劇を通り越して喜劇だ。ここで見つかったら負けのような気がする。
「よりによってなんであいつがここに居るんだ?」
「早起きだね」
俺たちもな、と呟いて、そろそろと後ずさりし始めた。まだ距離もあるし、第一相手は立ち読み中なんだから
普通に歩いて立ち去ればいいようなものだが、なんとなく御坂はこの距離でも気配を察知しそうな気がする。
上条の慎重さの意味が分からないインデックスは、首をかしげながらも普通に歩いてついてきた。
心の声は決して外に漏らしてはならない。今日は静かに、平和に、過ごしたい。まだ十分も
経っていないのにこれでは、悲劇を通り越して喜劇だ。ここで見つかったら負けのような気がする。
「よりによってなんであいつがここに居るんだ?」
「早起きだね」
俺たちもな、と呟いて、そろそろと後ずさりし始めた。まだ距離もあるし、第一相手は立ち読み中なんだから
普通に歩いて立ち去ればいいようなものだが、なんとなく御坂はこの距離でも気配を察知しそうな気がする。
上条の慎重さの意味が分からないインデックスは、首をかしげながらも普通に歩いてついてきた。
ふ、と御坂の視線が上に向いて、
「もがっ!?」
上条はインデックスを引っつかむと逃げ込む予定だった曲がり角に身を隠した。前からインデックスを
抱きしめるような格好で息を殺し、頭を後ろから押さえて自分に押し当て、しゃべれないようにする。
一分ほど待ってようやく警戒を解くと、インデックスは顔を真っ赤にしてうつむいていた。
(うわ、ヤバ……ぶち切れないうちにフォローを入れねえと……)
「ごめんインデックス。息、苦しかったろ?」
噛まれた。
今度は自分の口に手を当てて悲鳴がもれないようにしつつ、泣きながら早朝の町並みを駆ける。
インデックスもそれほど怒っていなかったのか、たったの十分で開放してくれた。
「ほんとにごめん。今日はどうしてもあいつに見つかりたくなかったんだよ」
そっぽを向いた少女は、耳まで赤くしながらもかすかにうなずいた。手を差し出してくる。
仲直りの合図と受け取った上条は、その手をとった。
「さ、それじゃあ行こうか。走ったからもう結構近くまで来たぞ」
「…………」
無言のまま、手は離さないインデックスを連れて歩き出そうとすると、
「おはようございます、とミサカは若干緊張の面持ちで朝の挨拶をします」
御坂妹が背後に立っていた。
バッ!と音が立つほどの勢いで振り返ると、御坂妹は体を振るわせた。
「お邪魔でしたら私はこれで失礼します、とミサカは失意もあらわに肩を落として去っていきます」
「あ、あっー! 邪魔じゃない! 邪魔じゃないから!」
子犬のようにしおれつつ去っていこうとする御坂妹を呼び止める。
「あの、ほら。今日は朝っぱらから変態に出くわしちまったから、警戒態勢だっただけで、決して
邪魔とかそんなんじゃないから!」
「そう、ですか?とミサカは恐る恐る確認してみます」
相変わらず変わった口調だが、とにかく誤解は解けたらしい。パッと見では分からないくらいに薄く微笑んでいる。
「うん、そうそう。ところで、こんなところで何してるんだ?お前、えー……10032号、かな?
病院で治療してるんじゃなかったっけ?」
今度こそ御坂妹は微笑んで、
「はい。私は10032号です、とミサカは喜色満面に答えます。想定よりも非常に早く培養器から出られるまでに回復し、
今は早朝の少しの間だけ、ゆっくりと歩いて運動する事を許されています、とミサカは解説します」
「そっか。それは良かった。俺たちも今散歩の途中だ」
「……でしたら、ご一緒してかまいませんか?とミサカは許可を求めます」
「おう、いいよ」
ぴくり、と。純白の修道女が震える。
「とーうーまー。短髪や土御門とかがダメでクールビューティーならいいの!?」
「うおお!? なに言い出すんですかインデックスさん。そんなん当たり前だろうが!あいつらと御坂妹を
一緒にしたら可哀想だろ!」
ううう、と唸るインデックスを適当にあしらって、上条は河川敷へと歩き出した。
「もがっ!?」
上条はインデックスを引っつかむと逃げ込む予定だった曲がり角に身を隠した。前からインデックスを
抱きしめるような格好で息を殺し、頭を後ろから押さえて自分に押し当て、しゃべれないようにする。
一分ほど待ってようやく警戒を解くと、インデックスは顔を真っ赤にしてうつむいていた。
(うわ、ヤバ……ぶち切れないうちにフォローを入れねえと……)
「ごめんインデックス。息、苦しかったろ?」
噛まれた。
今度は自分の口に手を当てて悲鳴がもれないようにしつつ、泣きながら早朝の町並みを駆ける。
インデックスもそれほど怒っていなかったのか、たったの十分で開放してくれた。
「ほんとにごめん。今日はどうしてもあいつに見つかりたくなかったんだよ」
そっぽを向いた少女は、耳まで赤くしながらもかすかにうなずいた。手を差し出してくる。
仲直りの合図と受け取った上条は、その手をとった。
「さ、それじゃあ行こうか。走ったからもう結構近くまで来たぞ」
「…………」
無言のまま、手は離さないインデックスを連れて歩き出そうとすると、
「おはようございます、とミサカは若干緊張の面持ちで朝の挨拶をします」
御坂妹が背後に立っていた。
バッ!と音が立つほどの勢いで振り返ると、御坂妹は体を振るわせた。
「お邪魔でしたら私はこれで失礼します、とミサカは失意もあらわに肩を落として去っていきます」
「あ、あっー! 邪魔じゃない! 邪魔じゃないから!」
子犬のようにしおれつつ去っていこうとする御坂妹を呼び止める。
「あの、ほら。今日は朝っぱらから変態に出くわしちまったから、警戒態勢だっただけで、決して
邪魔とかそんなんじゃないから!」
「そう、ですか?とミサカは恐る恐る確認してみます」
相変わらず変わった口調だが、とにかく誤解は解けたらしい。パッと見では分からないくらいに薄く微笑んでいる。
「うん、そうそう。ところで、こんなところで何してるんだ?お前、えー……10032号、かな?
病院で治療してるんじゃなかったっけ?」
今度こそ御坂妹は微笑んで、
「はい。私は10032号です、とミサカは喜色満面に答えます。想定よりも非常に早く培養器から出られるまでに回復し、
今は早朝の少しの間だけ、ゆっくりと歩いて運動する事を許されています、とミサカは解説します」
「そっか。それは良かった。俺たちも今散歩の途中だ」
「……でしたら、ご一緒してかまいませんか?とミサカは許可を求めます」
「おう、いいよ」
ぴくり、と。純白の修道女が震える。
「とーうーまー。短髪や土御門とかがダメでクールビューティーならいいの!?」
「うおお!? なに言い出すんですかインデックスさん。そんなん当たり前だろうが!あいつらと御坂妹を
一緒にしたら可哀想だろ!」
ううう、と唸るインデックスを適当にあしらって、上条は河川敷へと歩き出した。