とある地下街の人目につきにくい路地の入口からミサカ一三五一〇号は犯罪者(ターゲット)を確認していた。
上条当麻である。
とくに目立つでもない普通の黒髪をワックスで尖らせ、近くの高校の学生服に身を包んだ、どこにでもいそうな容姿の男性。眠そう
な目をこすって歩く姿に、今にも張り倒したい衝動を抑える。
「どうして他の姉妹(シスターズ)はあのような男性がいいのでしょう、と早速発見した犯罪者(ターゲット)を見て心の底から疑問
に思います」
まぁ、命の恩人ではあるのですけど、とは思う。
上条に注意を払いつつもミサカ一三五一〇号は懐に収めた重量感を確かめる。
これは万が一の場合に備えて持ってきたものだが、このような人目の多い場所では少し使用に戸惑ってしまう。
(戦場ではこのためらいが命を奪うのです、とミサカは体験したこともないですが知ったかぶってみます。それに……これは美琴お姉様の、ひいては、その……ミ、ミサカと美琴お姉様の素敵な……っ! これ以上はいけません、とミサカは暴走気味の思考回路を押さえるために作戦内容を確認して冷静さを取り戻します)
御坂美琴を守る。
それが今回のミサカ一三五一〇号の目的だった。
ネットワークの情報から上条は一般的な同世代の男性と比較して女性との出逢いが膨大で、またその後の展開が加速度的なことがわ
かった。救いといえば、本人がその事実に気づかない極度の鈍感だ、ということだろう。
そして、どうも大覇星祭で美琴が上条となんらかの契約を交わし、それはまだ実行されていないらしい。
その契約がなんであれ、美琴に会わせたらどのような危機(ハプニング)が発生し危害が加わるかわからない。そのため上条を監視
し接触があった場合は臨機応変に対応することが必要だった。
(もしものときは……やります、とミサカはどこかの誰かに高らかに宣言します)
小さく拳を握って決意を新たにしたミサカ一三五一〇号だった。
上条当麻である。
とくに目立つでもない普通の黒髪をワックスで尖らせ、近くの高校の学生服に身を包んだ、どこにでもいそうな容姿の男性。眠そう
な目をこすって歩く姿に、今にも張り倒したい衝動を抑える。
「どうして他の姉妹(シスターズ)はあのような男性がいいのでしょう、と早速発見した犯罪者(ターゲット)を見て心の底から疑問
に思います」
まぁ、命の恩人ではあるのですけど、とは思う。
上条に注意を払いつつもミサカ一三五一〇号は懐に収めた重量感を確かめる。
これは万が一の場合に備えて持ってきたものだが、このような人目の多い場所では少し使用に戸惑ってしまう。
(戦場ではこのためらいが命を奪うのです、とミサカは体験したこともないですが知ったかぶってみます。それに……これは美琴お姉様の、ひいては、その……ミ、ミサカと美琴お姉様の素敵な……っ! これ以上はいけません、とミサカは暴走気味の思考回路を押さえるために作戦内容を確認して冷静さを取り戻します)
御坂美琴を守る。
それが今回のミサカ一三五一〇号の目的だった。
ネットワークの情報から上条は一般的な同世代の男性と比較して女性との出逢いが膨大で、またその後の展開が加速度的なことがわ
かった。救いといえば、本人がその事実に気づかない極度の鈍感だ、ということだろう。
そして、どうも大覇星祭で美琴が上条となんらかの契約を交わし、それはまだ実行されていないらしい。
その契約がなんであれ、美琴に会わせたらどのような危機(ハプニング)が発生し危害が加わるかわからない。そのため上条を監視
し接触があった場合は臨機応変に対応することが必要だった。
(もしものときは……やります、とミサカはどこかの誰かに高らかに宣言します)
小さく拳を握って決意を新たにしたミサカ一三五一〇号だった。
「はぁ……っはぁ……こ、このフナムシがっ、とミサカは目の前でぶっ倒れている不届き者を見下ろしながら再装填を開始します」
足元にはさっきまで美琴の隣にいたはずの上条は這いつくばって地面と挨拶を交わしている。
四肢を動かして必死に抵抗しているがミサカ一三五一〇号の左足が上条の腰をしかと押さえつけているため効果がない。しかも、絶
対の右手に当たらないようにミサカ一三五一〇号は電流を加えて、断続的に微弱なスタンガンを当て続けている状態を保っている。
銃口を上条の後頭部に押し当てる。
腕にじわじわと力を加え、手動で自動式拳銃のスライドを引くと、その音とともに上条の動きもおとなしくなった。
(最初からこうしていればよかったのです、とミサカは美琴お姉様を魔の手から救い安心しつつも初動捜査の甘さを悔やみます)
ミサカ一三五一〇号はさっきまで言動と比較しても、随分と辛抱していた方だろう。
足元にはさっきまで美琴の隣にいたはずの上条は這いつくばって地面と挨拶を交わしている。
四肢を動かして必死に抵抗しているがミサカ一三五一〇号の左足が上条の腰をしかと押さえつけているため効果がない。しかも、絶
対の右手に当たらないようにミサカ一三五一〇号は電流を加えて、断続的に微弱なスタンガンを当て続けている状態を保っている。
銃口を上条の後頭部に押し当てる。
腕にじわじわと力を加え、手動で自動式拳銃のスライドを引くと、その音とともに上条の動きもおとなしくなった。
(最初からこうしていればよかったのです、とミサカは美琴お姉様を魔の手から救い安心しつつも初動捜査の甘さを悔やみます)
ミサカ一三五一〇号はさっきまで言動と比較しても、随分と辛抱していた方だろう。
尾行を始めて数分で上条は美琴と遭遇した。それくらいは予想していたが、待ち合わせをしていたのは完全に不意打ちで一瞬思考が
停止した気分だった。安全装置を外すくらいは平気とミサカ一三五一〇号は自分に言い聞かせて、どうにか持ち直した。
美琴は上条を罰ゲームを口実にデートに誘っていたらしく、二人して携帯電話のサービス店に入っていった。
そこまではよかった。まだ耐えられた。しかし、その後がいけなかった。
ツーショット。
ソワソワと落ち着きのない美琴、なぜだかぐったりとしている上条。
(あの人には美琴お姉様とのツーショットは興味ないのでしょうか、とミサカはあの人と代わりたい願望を抑えて監視を続けます)
そして、なぜだかいきなりやる気になった美琴が、ぶつかるように上条の隣へ。
(み、美琴お姉様!? そんなに近づいてはお体があの女たらしに、とミサカは無用心な美琴お姉様が心配で心配で懐に伸ばした手を
抑えることができません)
同じようなことを二度繰り返した後だった。
それは起こった。
お互い睨みあって、あの野郎がちょっとだけ真面目な顔になって、いきなり美琴お姉様の肩に腕を回して、美琴お姉様も少しお顔を
赤く染めて——。
限界だった。
ミサカ一三五一〇号は体躯をかがめて隠れていた路地裏から飛び出した。
まだ上条は気づかずにミサカ一三五一〇号へ背を向けている。周囲の人間たちはいぶかしむが、声を上げる暇など与えない。
勝負は一瞬だ。
発電系能力者(エレクトロマスター)である美琴にはミサカ一三五一〇号の発している気配、肉体制御のために使用している電磁波
を感知してしまうはずだ。
だからこそ——そこを突破点にする。
(美琴お姉様には気の毒ですが少し脅かさせてもらいます、とミサカは心の中で美琴お姉様に事前に謝罪をしておきます)
二人との距離が五メートルまで縮まった瞬間——気づくか気づかないか程度の電磁波を美琴に放つ。
「——っ!」
予想通り美琴は身をひるがえして間合いを取った。
ミサカ一三五一〇号を視界に収めたときにその表情が固まったのがわかる。
(さすが美琴お姉様、瞬時に攻撃に移ろうとしたのでしょうが……集中力が切れているようですね、とミサカは電撃が放たれなかった
ことから心情を察します。ですが——)
やっとのことでこちらを振り返っている上条の視界に映らないように身を沈める。
「ちょっとアンタなにして——」
思わず美琴が声を上げたが、もはや遅すぎる。
「はぁっ!? ——って、んなぁぁあああっ!?」
上条の膝を折るように両脚をはらう。
完全に上条の体勢が崩れ落ちる前にミサカ一三五一〇号は身を引いて不安定なその背中に蹴りを入れる。
その勢いのまま上条の背中ごと脚で地面に押えつけた。
「これでチェックメイトです、とミサカは無様にひれ伏したあなたに完全勝利を宣言します」
とはいえ、ゴキブリなみにしぶとい上条はジタバタと抵抗を続けた。
そのためミサカ一三五一〇号は必死に当てたい衝動を抑え射線をずらしながら何度も威嚇射撃を繰り返した。
停止した気分だった。安全装置を外すくらいは平気とミサカ一三五一〇号は自分に言い聞かせて、どうにか持ち直した。
美琴は上条を罰ゲームを口実にデートに誘っていたらしく、二人して携帯電話のサービス店に入っていった。
そこまではよかった。まだ耐えられた。しかし、その後がいけなかった。
ツーショット。
ソワソワと落ち着きのない美琴、なぜだかぐったりとしている上条。
(あの人には美琴お姉様とのツーショットは興味ないのでしょうか、とミサカはあの人と代わりたい願望を抑えて監視を続けます)
そして、なぜだかいきなりやる気になった美琴が、ぶつかるように上条の隣へ。
(み、美琴お姉様!? そんなに近づいてはお体があの女たらしに、とミサカは無用心な美琴お姉様が心配で心配で懐に伸ばした手を
抑えることができません)
同じようなことを二度繰り返した後だった。
それは起こった。
お互い睨みあって、あの野郎がちょっとだけ真面目な顔になって、いきなり美琴お姉様の肩に腕を回して、美琴お姉様も少しお顔を
赤く染めて——。
限界だった。
ミサカ一三五一〇号は体躯をかがめて隠れていた路地裏から飛び出した。
まだ上条は気づかずにミサカ一三五一〇号へ背を向けている。周囲の人間たちはいぶかしむが、声を上げる暇など与えない。
勝負は一瞬だ。
発電系能力者(エレクトロマスター)である美琴にはミサカ一三五一〇号の発している気配、肉体制御のために使用している電磁波
を感知してしまうはずだ。
だからこそ——そこを突破点にする。
(美琴お姉様には気の毒ですが少し脅かさせてもらいます、とミサカは心の中で美琴お姉様に事前に謝罪をしておきます)
二人との距離が五メートルまで縮まった瞬間——気づくか気づかないか程度の電磁波を美琴に放つ。
「——っ!」
予想通り美琴は身をひるがえして間合いを取った。
ミサカ一三五一〇号を視界に収めたときにその表情が固まったのがわかる。
(さすが美琴お姉様、瞬時に攻撃に移ろうとしたのでしょうが……集中力が切れているようですね、とミサカは電撃が放たれなかった
ことから心情を察します。ですが——)
やっとのことでこちらを振り返っている上条の視界に映らないように身を沈める。
「ちょっとアンタなにして——」
思わず美琴が声を上げたが、もはや遅すぎる。
「はぁっ!? ——って、んなぁぁあああっ!?」
上条の膝を折るように両脚をはらう。
完全に上条の体勢が崩れ落ちる前にミサカ一三五一〇号は身を引いて不安定なその背中に蹴りを入れる。
その勢いのまま上条の背中ごと脚で地面に押えつけた。
「これでチェックメイトです、とミサカは無様にひれ伏したあなたに完全勝利を宣言します」
とはいえ、ゴキブリなみにしぶとい上条はジタバタと抵抗を続けた。
そのためミサカ一三五一〇号は必死に当てたい衝動を抑え射線をずらしながら何度も威嚇射撃を繰り返した。