蝉の声が相変わらずけたたましく鳴り響いている休暇明けの今日、
ここ
成瀬台高校には[対『
ブラックウィザード』風紀委員会]に参加している各風紀委員支部が何時ものように集まっていた。
「おい、椎倉。寒村達は何処に行ったんだ?」
「寒村達には、早朝から“別件”で出て貰っている。というより、数日間は戻らない」
「・・・早速の単独行動というわけか」
「また、報告できる段階になれば皆にも伝える。ちゃんと、橙山先生の許可も取ってある」
だが、休暇前とは違う光景もある。それが、『成瀬台支部の単独行動』である。
浮草の質問に答える椎倉は現在所属している支部員の内、押花・速見・勇路・寒村を“別件”と称して出張させていた。
「ゆかりっち・・・何処に行ったんだろう?何時も一緒にここへ通っていたのに・・・」
「・・・私には連絡があった。『どうしてもそっちに行けない用事が』とか言ってた。けど、どうしてか理由を言わなかったんだよな。ゆかり・・・」
一方、176支部の焔火は親友が欠席している現実を憂い、リーダーである加賀美も部下の行動を心配する。
一昨日の椎倉が放った檄が効いたのか、体調を崩している者等は今日の捜査には参加していない。
ちなみに欠席者は、159支部から湖后腹、176支部から葉原と網枷、178支部からは固地と秋雪、花盛支部からは渚、警備員から緑川という面々である。
「さて、これから捜査に向かって貰う前に橙山先生から報告がある」
各支部の面々に緊張が走る。今朝ここに来た時から、橙山から大事な報告があると耳にしていたからだ。
「では、橙山先生。よろしくお願いします」
「うん!それじゃあ、皆よく聞いてっしょ!!居眠りしてる奴には、容赦無くタマをぶち込むから(ニコッ)」
「タ、タマって!?チョークをすっ飛ばして、いきなりタマって!?」
「大丈夫っしょ!タマって言ってもゴム弾だし!」
「そういう問題じゃ無いですよ!!」
初瀬のツッコミが会議室に響き渡る。橙山は、警備員の中でもトップクラスの射撃能力を有している。
それが幸い(災い)しているのか、授業中居眠りしている生徒を起こすために、彼女はチョークをブン投げている。百発百中で。
なのに、今日はいきなりタマ(ゴム弾)である。チョークでは無く。
「まぁ、それは冗談として・・・私もちょっと苛立ってんしょ!」
「・・・今からされる報告に何か関係が?」
「・・・まぁね」
このやり取りの後、橙山の口からある報告が為される。それは、昨日の午前中に発生した狙撃事件。場所は・・・第7学区。
『マリンウォール』の近くの路地裏で、『ブラックウィザード』の“手駒達”と思われる人間3名が脚を焼き貫かれているのを一般人が発見し、警備員に通報した事案である。
「・・・ということっしょ!“手駒達”の脚は骨ごと焼き貫かれていたっしょ!路地裏には監視カメラも無かった。付近の監視カメラにも怪しい人影は無し。
倒れてた道の上空はビニールで覆われてたから、衛星による監視も意味無し。これらのことから、遠距離からの狙撃と見て間違い無い・・・と思われるっしょ!」
「・・・『思われる』ということは、何か断言できない理由があるのですか?」
報告が一通り終わった後に、花盛支部の六花が橙山の言葉の最後に疑問を抱く。狙撃に関しては、橙山と並ぶ知識を持つ者は然程多くない。
その彼女が、言葉を濁す。それには、何か理由がある筈。そう、六花は考えた。
「・・・小型アンテナが無かったんだよ」
「えっ!?」
橙山の代わりに、事前に報告を聞いていた椎倉が口を開く。
「“手駒達”は、頭部に取り付けられた小型アンテナを受信機とし、『ブラックウィザード』に操作されている。つまり、小型アンテナが無ければ操作は不可能だ。
だが、現場に居た警備員からの報告では小型アンテナらしき物は見受けられなかったそうだ。その代わり・・・頭部にくっ付いていた何かを毟り取った形跡はあった。
他にも、周囲にはカメラの残骸らしき物も幾つか発見されていた。つまり・・・“手駒達”を襲った者は、奴等の性質に熟知している者と思われる」
「・・・付近の監視カメラには誰も映っていなかったのに・・・ですか?」
「あぁ。だから、橙山先生も遠距離からの狙撃と断定できていない。一応、付近の監視カメラにハッキングの形跡がないか調査してるが、それらしき痕跡は今の所見付かっていない」
「・・・なぁ、椎倉。その監視カメラには、どういう機能が付いていたんだ?」
椎倉と六花のやり取りに、159支部リーダーである破輩は口を挟む。昨日『マリンウォール』に居た者として、彼女はある予感を抱いていた。
「・・・通常のカメラ機能に、夜間でも使用可能にするために赤外線機能が付いている」
「赤外線・・・光・・・光!?」
同じく『マリンウォール』に居た焔火が、破輩の抱く予感に気付く。
「・・・そういえば、この路地裏の近くって昨日私や緋花が『マリンウォール』に行くために通った道だよね?」
「・・・!!」
「加賀美・・・焔火・・・。そして、破輩に一厘。
お前達が昨日『マリンウォール』へ遊びに行ったことは、監視カメラの分析でわかっている。そこに・・・界刺達が遊びに来たこともな」
「「「「!!!」」」」
会議室に驚愕と更なる緊張が走る。
「あの人・・・私を遊びに連れて行けって拳に言ったんだよ・・・。私達が『マリンウォール』に行くことも、あの人は知っていた・・・。ま、まさか・・・!!」
「・・・“手駒達”は、きっと債鬼君にしたように休暇中の私達を監視するか危害を及ぼすつもりだった。それを・・・あの“変人”が食い止めたってこと!?」
「そういえば・・・あの時の界刺さんって待ち合わせ時間のギリギリに来た。
界刺さんがギリギリなのは何時ものことらしいけど。・・・・・・まさか、“そっち”も?(ボソッ)」
「奴なら監視カメラを欺いて行動することができる。・・・あの時から仕組んでいたってことか?一応、私も注意していたが・・・。休暇で気が緩むことも計算尽くか。
時間帯的に、私達が『マリンウォール』へ入って数十分後に“手駒達”は発見されている・・・。奴なら、発見される時間を調節する程度の小細工は造作も無い・・・か」
焔火・加賀美・一厘・破輩は頭を抱える。もし、自分達の推測が正しいならば、あの碧髪の男は『ブラックウィザード』に対する警戒を全く怠っていなかったことになる。
自分達は、休暇ということで無意識の内に気が緩んでいた・・・かもしれない。
それは、否定し切れない可能性。それを、『ブラックウィザード』が突いて来る可能性はあった。あったのだ。
それを見透かすように、否、見透かしていたからこそあの男は先手を打ち、焔火達を誘導し、可能性の実現―“手駒達”の出現―の排除という行動に出たのではないか。
風紀委員でも無い男が。本来なら風紀委員こそが警戒しなければならないのに・・・である。
「・・・椎倉。その界刺という男には・・・」
「・・・念のため今朝の内に奴の部屋に行ってみたが、不在だった。奴の親友である不動にも尋ねてみたが、行き先は知らないそうだ」
「・・・あの野郎」
浮草の問いに椎倉が答え、神谷が毒づく。この感じだと、もしかしたら昨日は自分達にも『ブラックウィザード』の監視の手が及んでいたかもしれない。
何も起こらなかったのが不幸中の幸い・・・と安易に片付けていいものなのかどうか、今の彼等彼女等には判断が難しかった。
「あの・・・。1つよろしいですか?」
「うん?何だ、佐野?」
そんな思案に耽る最中に挙手したのは、159支部の“ゴーストアイ”こと
佐野馬波。
「界刺・・・さんと同じく可視光線や赤外線等の電磁波を操作できる者として、1つ確認したいことがあります」
「ほぅ。何だ?」
「もし、“手駒達”を仕留めたのが界刺さんだとして、その手段・・・つまり『脚を焼き貫く』ために、あの人はどういう方法を取ったのでしょうか?」
「・・・そこなんだよ、佐野。俺も橙山先生も首を傾げているのは」
「うーん!?ど、どういうことですかー!!?」
佐野と椎倉の話題をよく理解できていない抵部が、大声で疑問を放つ。
「抵部さん。例えば、私の『光学管制』は太陽の光に含まれる可視光線や赤外線を集約して紙や衣服、果ては人間の皮膚等を焼くことができます。
しかし、それぐらいが限度です。とてもじゃ無いですが、人間の肉体を骨ごと焼き貫くような光線の類は到底不可能です」
「な、なるほどー!!」
「抵部・・・お前、本当に理解してんのか?」
「そ、そういえば姫っちの『光子照射』は鉄の板を貫けるレーザーを放てるんだよね?」
「・・・・・うん。・・・・・・でも、それ以外はできない。・・・・・・あの“変人”みたいに色んな光を自在に操れない。・・・・・・くそっ」
「うっ・・・。姫っちの機嫌が悪い・・・」
「これも念のためにだが、『書庫』で奴の『光学装飾』のデータを見てみた。だが、奴には姫空のようなレーザーを放てる能力は無いようだ。
あくまで使用できる光は、可視光線及び赤外線。そして、人体を焼き貫くような出力を出せるという記録は無い」
「ハァ・・・。つまり・・・あの“変人”の仕業と断定することはできないってことか、椎倉先輩?」
「・・・その通りだ、神谷。奴らしいと言えばらしいんだが・・・ハァ」
佐野のわかりやすい説明に頷く抵部に閨秀がツッコミを入れ、思い付いたことを姫空に質問して逆に機嫌を悪くさせてしまった焔火はうろたえる。
また、椎倉の発言に神谷が溜息混じりに確認を取り、椎倉も溜息を吐く。あの“変人”の意図が掴めない。
もし、今回の事案があの男の仕業なら、自分達に協力はしないと言っておきながら風紀委員に利のあることを行っていることになる。
仮に、自分の都合だったとしてもそれが何なのかがわからない。“手駒達”を襲い、小型アンテナを奪い去る。
小型アンテナを解析でもするつもりなのか?しかし、光学系能力者に自分で解析する術等無い。界刺自身に、そんな技術があるという情報は聞いたことも無い。
なら、それに関する伝手でもあるのか?一昨日に返された盗聴器等からはデータが抽出されていた。
しかも、受信側の機材には界刺が台所へ行った辺り以降の映像が残っていなかった。それ等に対する対策を、界刺は能力外で持っていると見て間違い無い。
それは、一体何なのか?誰の助力を借りたのか?・・・簡潔に言えば、わからないことだらけである。それが・・・風紀委員達の心を無性に苛立たせていた。
「撚鴃。その界刺という男は、お前から見てどういう人間なんだ?」
少しばかりの沈黙を破ったのは、椎倉の元カノである冠。
「・・・何が言いたい?」
「例えばだな・・・普段から成績優秀だったとか、普段から奇行ばっかり繰り返しているとか、普段から不真面目な人間だとか・・・その辺りのことだ。
私は、その男に会ったことが無い。データや人伝でしか人物像を量れない。だから、心の何処かでその“変人”を過大評価しているかもしれない」
「・・・!!」
椎倉は冠の言いたいことを理解する。それは、適切な評価。
「何事も、過大評価や過小評価をするのは避けるべきだ。それは、自分の判断を鈍らせる引き鉄になるかもしれない。必要なのは、適切に評価すること。
主観的じゃ無く、客観的に。そして、お前ならそれができるだろう?だから、私はお前の意見が聞きたい。どうなんだ?」
「(フッ、そうだったな。不動の言葉を忘れるな、私!!揺らぐな、
破輩妃里嶺!!あいつが、この手のことに関して優れているのはわかり切ってたことだろう!?)」
それは、何時しか自分達の心に根付いた“恐れ”。
重徳力や救済委員、そして今回の件にてその力をまざまざと見せ付けられたことに対する“誤解”。
冷静な思考を奪われ、きちんと人物を見極めることができない状態になっていた。それが、各風紀委員にも広がることを冠は危惧したのだ。
同じく、159支部リーダーの破輩も自身に活を入れる。あくまで、客観的に現状を認識するべき事柄であるが故に。
「そうよ・・・。もし、能力テストとかで手を抜いていたら記録に残るわけがないわ。こ、こんな簡単なことを思い付かなかったなんて・・・」
「梳。『心はクールに』・・・だぞ?」
幾凪の言葉に、冠は改めてアドバイスを送る。『心はクールに』。これは、冠要の信念でもある。
「(あの男と最初に出会ったのは・・・・・・・・・)」
その間に、椎倉は過去へ思いを馳せる。そう、あれは確か・・・
「・・・ククッ。ククッ、ククッ・・・・・・」
「ん?どうした、撚鴃?急に笑い出して」
「い、いや・・・すまんすまん。かつてのあの男の姿を思い出していたら、今とは全然違っていたモンだから、つい笑ってしまったんだ。
すっかり忘れていたな・・・。まさか、今のような胡散臭い笑みを浮かべるぐーたら人間になるとは、あの頃は考えもしなかったな。ククッ」
「???」
冠は、元カレの思考が読めない。それは、他の風紀委員も同様。だが、椎倉は気にも留めない。
あの頃の姿を、一つ残さず記憶の海から掬い上げるために。そして・・・作業は完了する。
「そうだな・・・。客観的に話せる自信は無いが、俺から見た
界刺得世は・・・奴の能力風に言えば、閃光のように激越な・・・唯の“不良”だった」
去年の4月に、成瀬台高校は新入生を迎えた。その頃の椎倉は、一風紀委員であった。成瀬台高校は、レベル関係無しに生徒を受け入れる。
数少ない男子校ということもあってか、毎年気性の荒い人間や所謂“不良”と呼ばれる生徒もそれなりに入って来る。
その中でも、特に異彩を放つ人間が1人居た。名は界刺得世。入学当初からレベル4であった彼は、成瀬台に根強く蔓延っていた“不良”人間を片っ端から叩き潰した。
周囲からは、『暴力』で物事を解決しようとする界刺は“不良”と捉えられていた。だが、それだけでは無かったのも事実であった。
「・・・それって、風紀委員の補導対象にならなかったんですか?」
「界刺が上手いのは、必ず相手に先に手を出させた所だ。カツアゲされそうになっている生徒を助けるためとか。つまり、正当防衛だ。
特に、奴の場合は光を操るという傍目には何をしているかよくわからない能力だったから、仮に界刺が先に手を出していたとしても証拠が無い。俺も、全く気付かなかった。
だから、俺を含む当時の風紀委員は界刺の行動にやきもきしながらも、何処か尊敬の念を抱いていたような気がする。
弱きを助け、強きを挫く・・・まるで正義感溢れる“ヒーロー”のような男だと」
「“ヒーロー”・・・」
界刺は、ゴールデンウィーク前には成瀬台で問題を起こしていた不良共を一掃した。
一掃とは、つまり病院送りである。全て正当防衛にした手腕は、風紀委員の間でも驚愕として受け止められた。そして、椎倉はある行動に出た。それは、界刺と接触すること。
風紀委員として“やらなければならない”ことを自分達の代わりに成し遂げた形となった界刺に、お礼の一言でも言ってみるかと気紛れに思ったのだ。
もしかしたら、“ヒーロー”と呼ばれる人間の考え方がわかるかもしれない。自分も、学園都市の平和を守る風紀委員の一員として日夜励んでいる(昼行灯である椎倉基準で)。
何処かに共通する部分でもあれば・・・そんな思いを抱いたが故に。だが、そんな椎倉の期待を界刺は即座に切り捨てた。
『俺は、別に正義だの“ヒーロー”だのに憧れてもいねぇし、恭順するつもりも無ぇ!!俺は見極めているだけだ!!世界が許す「暴力」ってのは、一体何なのか!?
風紀委員・・・!!テメェ等だって例外じゃ無ぇぞ!!世界を軽視してその「暴力(せいぎ)」を振るっていたら、何時かこの世界に叩き潰されるぜ!!!』
「・・・そう言って、奴は俺の前から立ち去った。界刺は、弱きを助け、強きを挫く・・・そんな正義感溢れる“ヒーロー”では無かった。
そんな奴の姿を見て、俺は失望しながらも何処か気になっていた。
自分勝手で、独り善がりで・・・だが何かを確かめようと必死にもがいている・・・そんな“不良”だったから」
「・・・不動さんも言っていました。『以前のお前は、まるで閃光のように苛烈で、峻烈で、激烈だった』って」
「確かに、その通りの人間だった。尖り過ぎていたと言ってもいいのかもしれない。
閃光のように激し過ぎる光を纏いながらがむしゃらに直進する姿は、失望して尚見惚れてしまう何かがあった。
だから、ぶつかった。“不動”というものを体現した男に。
不動真刺という男に」
「(まさか・・・!!昨日、不動達が零していた・・・)」
ゴールデンウィーク明けの初日のことである。何が切欠なのかはわからないが、突如として成瀬台の一角にて殺し合いが始まった。喧嘩では無い。殺し合いである。
『「己の正義の下、悪は全て許さず」。界刺・・・貴様は“悪”だ。この不動真刺が、貴様を地獄の底へ叩き込んでやろう!!』
『テメェが“正義”?ハッ、世界の一部でしか無ぇ野郎が、何を偉そうなことをほざいてやがる。いいぜ。来いよ、不動。テメェは、俺の「本気」でぶっ殺してやる!!』
死闘を演じているのは、同じクラスに所属する界刺得世と不動真刺。窓ガラスは砕け散り、壁は吹っ飛び、様々な光が乱反射する中で、それでも死闘は収まらない。
椎倉達風紀委員だけでは手に負えず、対能力者仕様の警備員まで出勤する羽目になった。だが、それでも完全には抑え切れない。
両者共レベル4の能力者。一方は、光を支配する“閃光の英雄(ヒーロー)”(当時の成瀬台生間で流行した異名。瞬く間に不良達を一掃したことが起因である)。
一方は、障害になる者全てを衝撃波でねじ伏せる“猛獣”(当時の成瀬台生間で流行した異名。その暴れっぷりが起因である)。そんな両者の死闘は、遂に成瀬台を飛び出した。
「・・・その後は、こっちも行方が掴めなくてな。一晩中探し回ったんだが見付けられず、仕方無しに成瀬台へ登校したら、なんとその2人も普通に登校していたんだ」
「・・・何ですか、その展開?」
「一応、その後すぐに停学処分が与えられたんだが、それでも2人は無視して成瀬台に通った。そして・・・毎日のように殺し合いを演じた」
「・・・そういえば、私も聞いたことがあったな。『成瀬台で、2人の“不良”が意地と
プライドを賭けて死闘を演じている』と」
「・・・破輩の言う通り、2人の死闘は周囲の学校にも広まった。俺達風紀委員も、何とか仲介しようとしたんだが2人は聞く耳を持たなかった。
下手に手を出そうとしたら、こっちまで巻き添えを喰らいかねなかった。一応、一般生徒には被害が出ていなかったから、警備員も様子見を決め込んだ」
「・・・ぶっちゃけ、最初に取り抑えられなかったから、これ以上恥をかきたく無かったんじゃ・・・」
「そうか・・・あの時の・・・。フッ、緑川君が(力尽くで)仲介したいって当時はしきりに言ってたわね」
毎日成瀬台で死闘を演じる2人に、さすがに学校側も怒った。つまり、『これ以上成瀬台で騒動を起こすようなら、2人共退学処分とする』ということである。
それを突き付けられた2人は、成瀬台に通わなくなった。その足取りも不明なまま。噂では、別の場所で相も変わらずに殺し合いを繰り広げているとのことだった。
風紀委員やそれ以外の生徒も気を揉む中、5月の最終日に2人が登校して来た。互いにボロボロであったが、構わずまっすぐに校長室へ向かい、2人揃って頭を下げた。
学校側としては、界刺のおかげで校内の不良活動が沈静化したことも事実であったので、最も重い退学処分にまではしなかった。その代わり、6月一杯の停学処分を与えた。
そして、停学明けに登校した2人を見て成瀬台の全生徒(教師陣含む)は一様に驚愕した。何と、界刺と不動が親しげに会話を繰り広げているのだ。
聞く所によると、2人は友達になったらしい。まさに、拳で語る友情とでも言うのか。この結末に、皆脱力してしまったのは言うまでも無い。
「・・・とまぁ、そんな大騒動だったんだ。ある意味、風輪で起きた騒動並に凄まじかったぞ?何せ、毎日目の前で殺し合いが繰り広げられていたからな。
途中からは慣れてしまったのか、どっちが勝つか負けるかの賭けまでするようになっていたな」
「・・・・・・かもな。あの2人が『本気』で暴れたら、私達159支部でも抑え切る自信は無い」
「・・・親友の矯正ってそういうことだったのか。というか、矯正されたのは自分じゃないの?・・・もしかしたら、176支部(ウチ)の問題児集団よりヤバヤバだったのかも」
「拳と拳で交わす男の友情・・・ハァ、ハァ。これは、あの“変人”達に対するイメージを変更しなければならないかも!!ハァ・・・ハァ・・・」
「牡丹・・・お前・・・」
椎倉の回想に、破輩や加賀美はそれぞれの感想を抱く。六花は、またもや妄想の世界へ飛び立ち、友人の閨秀が毎度のツッコミを入れた。
「ハッ!!ゴ、ゴホン!!そ、その後はどうなったんですか?」
「・・・それからの界刺は、何に対しても基本的に無気力な人間になった。校内の“不良”にも喧嘩を売ることもしなくなったし、騒動を起こすようなこともしなくなった。
まぁ、奇抜極まるファッションセンスを披露し始めたくらいか?騒動と呼べるのは。
その奇行のせいで、界刺は“閃光の英雄”から“成瀬台の変人”へモデルチェンジしたんだよ」
「(それって、モデルチェンジじゃ無くて・・・)」
「(完全なランクダウンなんじゃ・・・)」
「(“閃光の英雄”・・・!!“ヒーロー”・・・!!!)」
“閃光の英雄”から“成瀬台の変人”へ変貌した界刺に対する椎倉の言葉に、真面と殻衣は疑問付を付ける。
一方、焔火は当時の界刺が“英雄(ヒーロー)”と呼ばれていたこと、本人がどう思っていようが周囲からは“ヒーロー”として扱われていたことに、強い衝撃を受ける。
「・・・不動と死闘を演じたことで、奴なりに掴めたモノがあったようだな。だが、そのせいもあってか学業面にもやる気を見せなくなった。
唯でさえ、1年の1学期は騒動や停学でテストをまともに受けなかったのに、2学期以降は何とか進級できる程度の勉強しかしないと聞いている。
これは、不動が時々寒村にぼやいていたのを傍で聞いていた俺の情報だ」
「その無気力人間の動きが、今になって活発化し始めているということは・・・」
「あぁ。あの頃の界刺が帰って来たのかもしれん。閃光のように苛烈で、峻烈で、激烈な、それでいてあの時とは違う在り方を抱いた唯の“不良”がな」
「撚鴃・・・。フッ、結局は唯の“不良”ということか?その界刺という男は?」
「そうだ。何処にでも居るような、唯の“不良”。色んな壁にぶつかりながらも乗り越えて来た、唯の人間。それが、界刺得世だ。つまり・・・」
「私達が、あの人の居る場所に届かないわけじゃ無い」
椎倉・六花・冠の応酬に飛び込んだのは、176支部の焔火。
『まぁ、俺だったら“ヒーロー”にはなれるかな?名前は・・・“詐欺師ヒーロー”とか?』
「(あの人はあの人なりに必死にもがいた末に今の姿があるんだ。きっと、今のあの人なら何時でも“ヒーロー”にはなれるんだろうな。
あの人なりの“ヒーロー”に。“閃光の英雄”か・・・。カッコイイ異名じゃないですか、界刺さん?)」
“ヒーロー”とは何か?
『んふっ、別になりたくもないけど。ならせてあげるって言われても、こっちから願い下げだ。“ヒーロー”なんかに縛られたく無いし』
「(でも、あの人は“ヒーロー”になりたく無いって言う。私がなりたくて堪らない“ヒーロー”に。“ヒーロー”と呼ばれていたあの人は、その場所で一体何を感じていたんだろう?
“ヒーロー”になるつもりも無い人間が、周囲から“ヒーロー”扱いされる気持ちって一体どんなモノだったんだろう?
私がその意味を知るには・・・“ヒーロー”になるしか無い。ならないと・・・きっとわからない。単純な私らしい発想だけど)」
“ヒーロー”になりたい者と、“ヒーロー”になりたく無い者。“ヒーロー”になれていない者と、“ヒーロー”になろうと思えばなれる者。両者の違いとは一体?
『自分のことを最優先に考えられない“ヒーロー”に、一体何を救えるんだい?例え救えたモノがあったとしても、その“ヒーロー”は納得し続けられるのかな?
馬鹿だねぇ・・・そんなこともわからないのかい?わからない?あっそ。なら、仕方無いね。
少なくとも、俺は今の君が考える理想の“ヒーロー”なんかになりたくない。羨ましくもない。俺からしたらだけど』
「(私が目指す“ヒーロー”像・・・『他者を最優先に考える“ヒーロー”』。あの人が考える“ヒーロー”像・・・『自分を最優先に考える“ヒーロー”』。
私は、あの人の理想像を受け入れたくない・・・というかなりたくない。非情過ぎるから。でも・・・その存在は認めるしかない・・・のかな?・・・わからない。
考えてもわからないなら、やってみるしか無い。あの人も自分の命を懸けて掴んだんだ。だったら、私も命懸けで。そうしないと、何時まで経っても掴めない!!)」
『他者を最優先に考える“ヒーロー”』と『自分を最優先に考える“ヒーロー”』。この2つに、どんな違いがあるのか?それを、
焔火緋花は命懸けで確かめる決意を固める。
「・・・やるしか無いです。あの人の言動に必要以上に戸惑う必要はありません。適切な判断が、今の私達には必要だと思います。
今の私が言えたことじゃ無いですけど・・・それでもやるしか無いです。進むしか無いんです。その決意だけは・・・絶対に揺らいだら駄目だと思います」
「・・・私も焔火に同意見です」
「一厘・・・」
焔火に同調するのは、159支部の一厘。破輩の声を聞きながら、一厘は己の決意を強く握り込む。
脳裏に思い浮かぶのは、一昨日の常盤台での出来事。界刺が金束戦で使用した警棒・・・<ダークナイト>の機能。
「・・・実は、心当たりがあるんです。さっき話題に挙がった“手駒達”の脚が焼き貫かれていた件に」
「・・・それは、界刺の仕業を意味するのか?」
「・・・私が言えるのは、『心当たりがある』ということだけです。私も確証は持てていませんし」
「・・・・・・そうか。・・・わかった。もう、いい」
「・・・はい」
一厘の言葉に含まれた真意に、椎倉達風紀委員は悟る。これは、“3条件”の1つ目。『行動の黙認』。おそらく、3つ目の『黙認』の回数には入らない。
何故なら、風紀委員を助けるためだと言い張るから。きっと、それを承知の上であの“変人”は動いたのだ。
確証が無いと言っていることから、一厘自身も界刺の仕業かどうかは断定できないのだろう。
だが、『心当たり』を説明する口を封じているのは、おそらく“3条件”が要因であることは容易に想像が付く。
「・・・唯の“不良”で片付けるには、些か度が過ぎる男だな。自分の都合次第で、俺達に利がある行動も害がある行動も取る・・・か。タチが悪いな」
「浮草・・・」
「まるで、固地を相手にしているような感覚だ。切り札を何枚も持っていそうな奴を相手にするのは、正直しんどい。
まぁ、固地にしろその“変人”にしろ、それだけのモノを積み重ねて来たのは間違いないんだろうが。だが・・・やるしか無いな。時間は待ってくれない。そうだろ?」
「・・・あぁ!!」
この後に、各支部の外回りは揃って成瀬台を後にする。とりあえずは、“手駒達”が倒れていた『マルンウォール』近くの現場へ一緒に向かう。
そこでの確認作業が終わった後に、各支部単位の捜査活動を行う予定である。
『ブラックウィザード』による監視の目が届かないように、閨秀の『皆無重量』にて高速輸送される風紀委員達。
各構成は、159支部(破輩・一厘・鉄枷)、176支部(加賀美・焔火・神谷・斑・鏡星・一色・姫空)、178支部(浮草・真面)、花盛支部(抵部・閨秀・冠)の面々。
程なくして、『マリンウォール』前に到着する。ここからは、徒歩で現場へ向かう・・・筈だった。だが、そんな彼等彼女等の足を釘付けにした集団が居た。それは・・・
「ハーハッハッハ!!!俺は“ゲコ太マン”!!!将来有望な幼子達よ!!弱者を救い、悪を刈り取る我が“剣”が放つ暗黒闘気(オーラ)を見るがいい!!!」
No.1“ゲコ太マン”(啄鴉。着ぐるみの上からマントを羽織り、模造剣を二振り身に付けている“暗黒ヒーロー”)
「師匠!!その暗黒闘気を、拙者にも分けてくだされ!!!」
No.2“
ゲコ太マスク”(ゲコ太マスク。カエルにレスラー的服装を着色させたような姿をしている“レスラーヒーロー”)
「そらっ!!“ピョン子”も一緒に!!」
No.3“ゲコ太”(
仲場志道。髭とスーツが着ぐるみに着色されたような姿をしている“ゲコチックヒーロー”)
「な、何でこんなことに・・・!?」
No.4“ピョン子”(
葉原ゆかり。カエルの頭に赤色の髪留めがプリントされたような姿をしている“
サークルヒーロー”)
「葉原先輩・・・ファイトです・・・!」
「免力君の言った通り~、葉原先輩って優しそうな人だな~」
No.6“ケロヨン2号”(
盛富士泰山。カエルに花柄のエプロンを着色させたような姿をしている“ぷよぷよヒーロー”)
「は~い!!良い子の皆さんには、私が集めたキラキラピカピカ感溢れるこの素晴らしい石をプレゼントしちゃいます!!」
No.7“ゲコっち”(
月ノ宮向日葵。カエルにキラキラピカピカが着色されたような姿をしている“キラピカヒーロー”)
「これも、良い経験になる筈!!外界を恐れていては、成長はできません!!」
No.8“ゲコゲコ”(
真珠院珊瑚。口紅が着色されたタレ目のカエルの姿をしている“お嬢様ヒーロー”)
「俺・・・何でこんなことをしてるんだ・・・?」
No.9“ゲロゲロ”(
風路形慈。カエルとフランケンシュタインが合体したような姿をしている“暴れん坊ヒーロー”)
「盛富士クンって、ボクと似たようなヒトだなぁ。うん、良い友達になれそう~」
No.10“ゴリアテ”(
仮屋冥滋。橙色のガエルの姿をしている“大食いヒーロー”。何時もお菓子片手にムシャムシャしている)
「暑い・・・蒸し暑い・・・モロ暑い・・・。ゲコ太の奴、わざと隠してやがったな。てか、俺が適当に言った“詐欺師ヒーロー”入りの名札を速攻で作ってんじゃ無ぇよ」
No.11“カワズ”(界刺得世。新時代の“ヒーローガエル”。“詐欺師ヒーロー”という名札が、胸の真ん中に付けられている。着ぐるみなのに表情がコロコロ変わる)
「「「「「「「「「「「「「「「(何、あれ!!!??)」」」」」」」」」」」」」」」
幼子達の期待と夢を背負う、“ヒーロー戦隊”『ゲコ太マンと愉快なカエル達』のメンバー。新時代の“幕開け”を飾るに相応しい“ヒーロー”達・・・なのかは甚だ疑問である。
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最終更新:2012年08月25日 23:24