【異世界登山】

ドニー・ドニーの最北西の島にはこの世界一高い山がある。
その山は島の7割ほどの面積で標高は8000メートル峰の最高峰ヒマラヤを軽く超え星界まで届いていると言われており、未だかつて1人として登頂成功させた者がいないという素晴らしい山だ。
今、俺はその山を単独で登っている…

(もう少し、もう少し…)
自分に言い聞かせながら登る。
俺が時間をかけてちびちびと作った次の拠点まで後少しだ。
(あと少し、あと少し…)
最近になってここを登頂しようって計画しだすのろま共が現れたらしいが遅い遅い!
俺は門が開いて民間人が通れるようになってから一発でここを探し当てて、ずっと準備をしてきたんだからな…
何処にでも書かれてるアメ公のデカッ鼻ですら、やっと最近麓に現れた位だ。遅れてきた有象無象共が俺に勝てるわけねえんだよ!へへ…

拠点に着いたらちびちびとやる予定のウォトカの事を頭の隅に置きながらひたすら慎重に登る。
中腹に来てないここですら標高は軽くK2超してるんだ…ポカしたら洒落にならん。
それに今日は本格的に登るんではなく、今までの拠点よりもっと上にある現地民達が登った最高点だって言われてる広場みたいになってるらしい所に拠点を作る予定で、それ以上を登るのはもっと後なんだからな。

拠点まで後1㎞ってとこか…ここからが少し難しい所だ。
そこに着くためには垂直の氷の壁を迂回して、崖沿いの30cmあるかないかの細道を歩かなければならない。
前にも来ているしスクリューやハーケンをぶち込んで行くが、風もあるし注意するに越したことは無いだろう。

注意してそろそろと歩く、眼下は雲に覆われていて全く様子がわからないが、落ちた後にまた自力で天まで昇る労力を考えれば、落ちないように細心の注意をしながら歩く方が遙かに楽だろう事は簡単に予想がつく。

しばらく壁づたいにそろそろと歩いていくと、あと300mくらいあるというのに天候が思わしくない。
ここからでは戻ることも難しいので、途中にある上の氷壁が大きく張り出している地点で体を固定してやり過ごそうと考えた
そして、そろそろと進んでいって愕然とした。

「おい…道がねえじゃねえか」
目の前の道が大きく崩れてなくなり、数メートル下に妙な植物のような物がびっしりと生えた岩?の斜面が見える。
崩落したのか?でも何か妙だぞ…

妙なところはいくつかあるが一番目立つのは頭上のアレだろう。
「何だありゃ?…岩、なのか?」
たぶん高く突き出したソレは、前に見た時は大きく張り出した氷の塊だったのだろう。
今は、どう例えて良いのか分からないが、直角三角形の三角錐のようなでかい塊で下の方に黒々とした穴が開いてるのが見える…どっかで見たような気がするなコイツ。

とにかく道がなくなり天候が悪くなりつつあるここにいても仕方がない。
なんとか戻ってビバークするために俺は踵を返そうとした…が

ぶうおおおおおおおおおおお!!!

「うおおおおおおああああああああ!!!」
いきなり突風が吹いて吹き飛ばされて落ちる。
宙吊りで体に付けた支持具がきしみを上げる中、必死でバイルを氷壁に突き立てて止まり、アイゼンを引っかけ突風がおさまってから壁を登攀する。

(なんだ!?何が起こったんだ?今のは明らかに自然の風じゃないぞ)
どっちにしてもここにこれ以上いるわけにはいかない。
早く戻らなければ雲の上から地面までパラシュート無しのスカイダイビングをすることになってしまう。
さっきので体はガタガタだが、俺はなんとかその場から離れようとした。

しかし今度は
ずぁあああああああああああああああああ!!!!!

「おあおおおおおおおおおおおお!?」
体が浮き上がり何処かへ引き込まれるような突風が起きた。
ガキィ!

嫌な音と共についに支持具が壊れて俺はそのまま飛ばされ…というかあのでかい妙な岩の穴に吸い込まれる。
「ぎゃああああああああああ…」
暗くぬめっと温かいような穴の中に吸い込まれて、取り乱した俺はそこらにバイルを突き立てアイゼンで引っ掛けて回りながら奥に引き込まれて行く!

と、突然…
ぶぁっっっっっくしゅゅゅゅゅゅゅうううううううんんん!!!!!!!!

「けっmさおnyv7うえ、m0297yふぁと8tf!!!!!?????」
俺はいきなり生温かい突風とねばつく液体をぶっかけられて穴の外……地上8000m以上の地点から下に向かって吹き飛ばされたのだ。


次に俺が目を覚ましたのはベットの上だった。
「…どこだここ?…天国?」
「わしの村じゃ、たわけ!」
ツッコミが入ったので体中がガッチリ包帯やらで固定されているので目だけそちらを向けると、自分の横に妙に白けた肌の色に赤い目、
そして馬鹿でかい角を額に付けたガキがいて、呆れたような顔でこちらを見ていた。

「助かったのか?俺」
「まあ、峠は越したわい…わしと慈悲深い鬼神様、物好きな雪の精霊、お前を見つけて担いで来てくれたオーガの木こり、後はお前を包んでクッションになってた鼻水にでも感謝しとけ」
「はな…みず?」
なにそれ?という顔をした俺にガキは嫌そうな顔をして答えた。
「お前さんはあの山にもたれて眠ってた巨人のくしゃみでぶっ飛ばされたんじゃよ」
ぶっ!!!アレが!?鼻??
「呼吸は二百年ぐらいごとにするらしいが、くしゃみはかれこれ五百年ぶりくらいじゃな…」
面倒くさそうな顔で軽く言う。

「しかし、一体何を思ってあの高いだけで何もありゃせん山に登ったんじゃ?あそこにゃあ、欲の皮の突っ張ったお前らが欲しがるような鉱石なぞ無いぞ?」
訝しげにそう聞くババア言葉の角の生えた白い小ジャリに、俺は迷わずあの有名な言葉を答えた。…ああ、答えてやったさ!!

「そこに…山が……あるから…」
ソレを聞いた白い女の子?は、俺の前で初めて可憐にニッコリと笑って


「………アホか!!」
と、辛辣に言い放ったのだった。




蛇足:ハクテンおばあさんを勝手に使わせて頂きました。作者様には尽きせぬ感謝を!

  • 村に運ばれて助かったということはリベンジ挑戦するんだろうか。仲間とかを集めたりして -- (とっしー) 2012-12-22 21:52:55
  • 寝ている巨人と山を上手く合わせてて異世界ならではの有り得ない風景が目に浮かぶ。ハクテン様もついに登場ですか! -- (名無しさん) 2012-12-28 02:08:36
  • 海だけじゃなくて山もあるんだなドニー。と思ったら巨人だコレー -- (名無しさん) 2013-12-21 03:00:59
  • 巨人が山ってのがいかにも異世界らしくていい。異世界で人はタフになるという言葉がふと浮かんだ -- (名無しさん) 2014-04-23 05:59:59
  • 山そのものが巨人かすごいな。こんな感じで色んな人を助けてたのかな -- (名無しさん) 2014-07-18 23:01:19
  • 登るための準備も描写されてて面白い。鼻息に負けはしたけどきっとまた登るんだろう -- (名無しさん) 2014-08-22 20:14:42
  • 地形が生物か生物が地形かスケールの大きさが爽快だ -- (名無しさん) 2015-08-04 22:56:08
  • 思わず登山風景を想像してしまう異世界ならではの巨人が山でした。山の大きさと百年単位の活動にスケールの大きさを実感します。吹き飛ばす鼻息あれば拾う鬼あり -- (名無しさん) 2015-08-09 19:28:06
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最終更新:2013年08月23日 21:00