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【同胞殺し】

「ニレ!芝苺がこんなに沢山ある場所なんて私初めて!」
「いつもより遠くに来た甲斐があったな、たくさん持って帰ろう、村の皆が喜ぶぞ」
暖かな木々の木漏れ日の中、青々と茂った葉の間に実る赤や紫の実を摘み取り編み籠に入れる一組のエルフの男女
「ネム、いつまでもつまみ食いしてないで手伝ってくれよ、さっきから食べてばっかりじゃないか」
溜息と共に実を摘み取る手を止めて、肩まで伸ばした濃い緑の髪と精悍な顔立ちの青年が隣で座り込んで摘み取った実をそのまま口へと運ぶ少女に声をかける。
「いいじゃない、こんなに沢山あるんだから」
口いっぱいに熟れた実を頬張りながらネムと呼ばれた薄緑色の髪をした少女は幸せそうな笑みを浮かべて言う。
「俺は別に食べるなって言ってるんじゃない、食べるばかりじゃなくて籠に入れるのも手伝ってくれって言ってるんだがなぁ・・・」
その様子にそれ以上何かを言う気も失せたと溜息をつき、青年は再び実を摘み取りはじめる。
「ホントにお前は芝苺に目がないな・・・これじゃ俺がいくら摘んでも、お前が全部食べちまいそうだ」
「わかりました。手伝えばいいんでしょ手伝えば」
さすがに気まずかったのか少女はそう言うと青年と同じように実を摘み取り籠の中へと入れ始める
しかし、摘み取りながらもちゃっかり熟れた実は少女の口へと運ばれ、青年もこれ以上は無駄とあきらめた様子で実を摘み取っていく。
「私、芝苺大好き、でも村の近くだとあまり採れないよね・・・」
「こいつが好きなのは俺達だけじゃないからな、森の動物の大好物だし、あいつらは俺たちより森の実りに目聡いからな」
そんな他愛もない会話をしつつ二人は 実を摘み取り籠へと移す作業を続け、やがて
「さて、これだけあれば十分だろ」
持ってきた編み籠の八割りほどが摘み取った赤や紫の色鮮やかな実で満たされると、その実が零れないよう編み籠の口を蔓で縛って閉じながらニレが言う。
「えーーー!?もう少し持って帰ろうよぉ!これだけじゃ村のみんなと分けたら一人分なんてほんの少しだよ!?」
「少し余裕を持たせないとせっかくの実が帰る間に籠の中で潰れて台無しになる、これくらいでも多いくらいだ」
その言葉を聞いたネムがすかさず反論するが、ニレはもう十分だと言わんばかりに編み籠の口を閉じる手を止めずにそう応える。
「また来ればいいさ、これだけあるんだ、森の動物たちがいくら大食漢でもすぐに食べ切れるものじゃない」
編み籠を肩に背負い辺りに視線を巡らせながら彼は言う、彼の言葉通りこの場所にはまだまだ沢山の熟れた実やこれから熟れるだろう若い実が見渡す限りに実っている。
「じゃあ明日ね!明日また来よう!」
「明日は無理だな、ターラと西の森に枝を掃いに行かなきゃならない」
「それじゃみんな食べられちゃう!」
ネムのおおげさと思えるような声があたりに響く。
「だからそんなに早く食べつくされない・・・・わかった。明後日来よう、それでいいかネム?」
うっすらと目に涙さえ浮かべ恨めしげに自分をことを見上げるムネに、さすがに根負けし、短く息を吐いてから妥協案を提案する。
「・・・・・わかった」
完全には納得できていないが渋々納得したという表情でネムは小さく頷く。
「よし、それじゃ帰ろう。ネムはつまみ食いばかりしてたから食べ過ぎて立ち上がれないんじゃないか?」
そう言ってニレは意地悪な笑みを浮かべてネムに手を差し伸べる。
「私そんなに動けなくなるほど食べてないもん!」
ニレの意地悪な顔と言葉に一瞬のうちに頬を膨らませると、ネムはそう言ってニレの手を軽く払いのけるようにして起き上がろうとし
「痛ッ!」
その瞬間、下腹部あたりに突き刺すような鋭い痛みを感じて思わず声を上げる。
「どうした大丈夫か?」
「大丈夫・・・ちょっとチクッとしただけ・・・もう痛くないから」
「虫にでも刺されたか?ちょっと見せてみろ」
「わかんない・・・チクッとした時はすごく痛かったけど今はなんともない」
そう言ってネムは身につけていた麻布の貫頭衣の裾をたくし上げ、下腹部を露にする。
「・・・・腫れてはないし蛇の噛み跡は無いな、戻ったらソヨゴさんに見てもらえば安心だろ」
屈みこんでネムのふとももの付け根などに刺し傷や噛み傷がないかを確認するニレ、傍から見れば随分と背徳さを漂わせる光景だが、裸を見られることに抵抗の薄いエルフにとっては別段恥ずかしさを感じるものではなかったりする。
「とりあえず帰る途中で気分が悪くなったりしたらすぐ言えよ?」
「うん、わかった」
ニレの言葉にたくし上げた裾を下したネムが頷く
「よし、それじゃ帰ろう」
「うん」
ニレは肩に編み籠を担ぎ直しネムの手を取って歩き出す。
「しっかしネムだけ噛まれるなんてな、俺の手伝いもせずにつまみ食いばかりしてた罰だな」
「何よ!私だってちょっとは手伝ってあげたじゃない!」
「本当にちょっとだけな」
そんな他愛もない会話をしながらその場を後にする二人、しかし二人は気が付かない、彼らが立ち去った後の芝苺の葉の下で何かが蠢いていたことを・・・


鋭い刃先が肉に食い込み、そのまま一気に引き裂き深々と内部を抉る
短い痙攣の後に今まさに掴みかかり手にした凶刃を突き立てようとしていた者の体から急速に力が抜けていく。
「これで最後か・・・」
感情の消えた声で彼女はそう言って琥珀色をした刀身を引き抜く。
「赤ちゃん・・・私の・・・赤ちゃん・・・」
刀身が引き抜かれた醜く膨れた腹をヨロヨロとふらつきながら両手で抱え、まるで熱病患者のうわ言のように同じ言葉を呟きながら、まだ幼さの残る薄緑色の髪をしたエルフの少女はその場に崩れ落ち動かなくなる。
「枝に乳母として選ばれる前の子供でも取り付かれれば自分を子を宿した母と錯覚し、幻の子を守ろうと近づく者に襲い掛かる・・・忌々しい蟲め・・・」
彼女の補佐役を務める長身のダークエルフが憎悪をたっぷりと含んだ声でそう言うと、すでに息絶えた少女の胎内から這い出しのたうつ肉色の触手を踏み潰す。
肉色の触手はまるで熟れすぎたトマトが潰れるようにプチュリと不快な音をたてて弾ける。
「村から逃げ出した者はどうなった?」
「追跡にまわした者から全員処理したとの風精での報告がありました。こちらの被害はありません」
彼女の問いに対して彼は一度は露わにした感情を再び押し込め、努めて淡々と現状を報告する。
「そうか。前に比べれば小さな村だからな・・・早く片がつくのは当然か・・・」
まるで手からそのまま生えているかのような琥珀色の刀身をスルスルと手中に収めながら、部下の報告を聞き終えた彼女は改めて村を見渡して呟く、その声には初めて感情の揺らぎのようなものが感じられた。
「静かになったな・・・」
「はい・・・」
彼女らが村に足を踏み入れた直後は、村のいたるところで上がっていた奇声や悲鳴は今はもうどこからも聞こえてこない
彼女の部下達が迅速かつ的確にこの村の住人を処理したことによる当然の結果だ。
「それと・・・」
「なんだ?」
「やはり枝も手遅れでした・・・」
鎮痛なものを含んだ声で村の中心部へ調査に行った別の部下の報告も彼女へと伝えられる。
エルフの村の中心に在り、村に様々な恩恵とエルフの新しき命を産み落とす彼ら種族にとっての生命線である、枝と呼ばれる世界樹の分身の巨木も、枝葉は全て枯れ落ち、その幹は醜く膨れ内部は無数の触手の巣となり果てていた。
「・・・・村の者がこの有様だ、枝だけ無事なんてことは最初から期待していない」
一瞬の沈黙、その沈黙にこそ彼女の偽ることのできない本当の気持ちが隠されている、しかし、その気持ちが言葉となることは決してない、もしそれが彼女の口から言葉となって溢れれば、その瞬間からその言葉は呪いとなって彼女を縛ってしまうだろう、だからこそ彼女は言葉を自分の中に封じ、感情を殺してこの場に立っている、その意味を知らぬ者は彼女の部下としてこの地に赴くこととなった者達の中には一人として居ない。
「油と火精を呼び出す準備をさせろ、手はずはいつも通り、何も残らぬように灰になるまで全て燃やせ」
「わかりました」
彼女の命令はただちに彼女の部下全員に風の精霊を介して伝えられ、部下達の手で集落の家々に油が撒かれ、火の精霊によって生まれた火によってたちどころに集落は炎に包まれる。
家々が、そしてそこに住んでいた者達が、そしてこれまで多くの者を育んできたエルフの母でありこの集落を見守ってきた世界樹の枝が、またたくまに炎に包まれ燃え落ちていく。
「この村で5つ目か・・・」
誰かがその光景を眺めながら疲労に染まった声で呟く。
「あとどれだけこんなことをすれば・・・」
精強な戦士と称えられる彼らも、同胞をその手にかけ彼らの村を焼き払うという行為の連続に隠しようのない心身の疲労に蝕まれつつあった。
心身の疲れは不安を膨らませ、ついにはそれが誰かの口から言葉となって漏れる。
「あの蟲を一匹残らず狩りつくし、同胞達の胎の中に潜りこむのを食い止めることが出来なければこの先も同じことをして回るだけだ」
燃え落ちていく集落を見送るように眺めていた彼らの長である彼女は、部下の誰かが漏らした言葉に冷淡に答えて、未だ激しく火の手を上げて燃え続ける集落に背を向け森へと歩き始める。
「いつまで眺めているつもりだ!4人この場に最後の確認のために残す!残りの者は私について来い!」
歩みをそのままに部下たちにはそれまでの感情を消した言葉ではなく強い意志の籠った声で部下たちに命令を出す彼女
自たちの長の声に顔を上げ、その後ろ姿を見つめるその顔に先ほどまでの疲れと不安の色はもう無く、代わりにあるのはに刃のように鋭い戦士の表情だけ
「カルミアはトリカ、シュロ、キオとここに残って最後の確認だ。異常がなければ明日の朝までに合流しろ」
「わかりました」
カラビアの言葉で彼らは再び精鋭としての動きを取り戻し、少数を残してカラビアの後を追って次々と森の中へと消えていく
妖精女王ユミルムの命を受け、同胞を苗床とするおぞましき魔蟲を屠るため、極寒の地より呼び寄せられた琥珀色の神剣をその身に宿すダークエルフの長カラビアと、彼女の部下であるダークエルフの精鋭は、今日もその刃を魔蟲の虜となった同胞の血で濡らす。


  • 蟲「俺達は単に生きたいだけなんですけど」とかもし会話が成立したらあっけらかんと言ってきそう -- (名無しさん) 2013-01-18 17:45:40
  • 鉄板ホラーと脅威との戦いは続く!ENDが上手くハマってる -- (名無しさん) 2013-01-18 21:49:45
  • エルフが世界樹から生まれる植物に近い種族であるとすれば虫や菌など思わぬ天敵が多くそれも近くにいるのかも知れませんね -- (名無しさん) 2015-12-06 17:49:13
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最終更新:2013年01月18日 17:32