【赤い手荷物80kg以上不可】

                                come sopra.【赤い手荷物21kg以上有料】

 飯店石山。
 大延国首都の南にそびえる岩山は、夜の街に禍々しく煌々と光を放つ。
 岩肌には螺旋状に貼りついた酒店や飯店が軒を並べ、中国と大延国の膨大な人々を呑みこんでよりいっそうの喧騒と光彩を強めていた。
 山頂にはさらに極彩色に輝く賓館塔を頂き、摩天楼を無理やり一つの山に押し込んだような様相をしていた。
 飯店石山中腹の豚人が店を構える白蓮飯店で、ヤマダは宿を決めて食事を取っていた。
 なぜかその隣にはイスティがいる。彼女にはどうしてもヤマダに付き添わなくてはならない理由があるのだが……。
(豚人が作るチャーハンに入ったチャーシューっていったい……)
 美味しいので食は進むが、材料が気になって仕方ない。

「お、店主さん。この器すごいね。呉須手? 見込みの繊細さと高台に残る獣人独特の手跡の荒々しさがたまんないね、これ」
 ヤマダは食事そのものではなく、器を褒め出した
「あんた、記者さんなんだろ? わしんところの飯に感想はないんか?」
「いや、店主さんの旨い料理が収まるのに、この呉須手がぴったりってことですよ。一歩間違えば、器が勝りすぎるところなのに、料理が旨いからびったし収まってる。たまんないなぁ、料理と器の祭典」
 こいつあんまり信用ならんな、とイスティは思った。やけに調子がいい。
 機嫌を直した豚人も惚れ込むような食いっぷりを披露し、ヤマダは膨れた腹を満足げに叩く。
 ちなみに大延国では、食い散らかしたほうが旨い食事だったという意味になるので店主には喜ばれる。お上品に食べたイスティの方が、マナー違反だ。

「さて……。ロックスターが滞在してるとなると、間違いなくこの飯店石山のどこかなんだろうけど、
いったいどこの酒店から探したらいいものかうー吐く……」
 この調子ではロックスターを探すなどできそうに無い。
 イスティはいっこうに構わないが、彼の社に対する貢献度はあからさまに下がっていく事だろう。 
 そんな風にヤマダが堕落していると、店外の螺旋通路が騒がしくなり始めた。
 何事だろう? と店内に入ってきた騒ぎに無関心そうな虎人客に尋ねると、「なんでも賓館塔の天辺に誰かが上っているそうだ」と答えた。
 ヤマダの頭に電撃が走る。
「こ、これはもしかしたら、あ、あの天才ロックシンガーがぅげふ……。ななんとしてもカメラに収めねば」
 支払いを済まし、荷物からS○NY製3Dカメラを取り出して店外に飛び出そうとするヤマダだが、腹の内容物が胸を押し上げ息も絶え絶えである。
 店外に出るのもやっと様相だ。しかし、かりに元気であったとしても、石山をぐるりと巻く螺旋通路には人が犇めきあい、とてもではないが賓館塔まで辿り着くことは出来そうにない。
 それでもヤマダは3Dカムを手に、人込みを掻き分けて突き進む。
 イスティは、螺旋通路の手すりの上をちょこちょこと軽やかに進む。
「おい、あいつ飛び降りたぞ?」
 螺旋通路から飛び出すケバケバしい看板に跨って、賓館塔を見上げていた虎人が指を指して叫んだ。
 これは大事だとヤマダは手すりから身を乗り出し、頭上へと3Dカムを向けた。
 青い燐光を振りまきながら、何者かが螺旋通路を駆け下りてくる。まるで、飯店石山が流星を纏ったかのようだ。
「イィイイイイィイイイヤッホーォオォ! 今はイレヴンだ! 今はイレヴンだ! もうザ・ワンじゃない! もうオンリーじゃない! ワン、バンバンバン! ワンバンバンバン!」
 流星はアコースティックギターを掻き鳴らしながら、手すりの上を滑り降りてくる。その歌は意味がわからない。勢いだけのシャウトに聴こえるが、滑り降りながらの演奏は驚嘆に値する。
 そろそろ彼がヤマダのいる地点を通過するはずだ。ヤマダは手すりから身を下ろそうとするが、腹がきつくてままならない。
 跨いだ足を引き戻すともたもたしてるときに、ロックスターはヤマダの眼前へと迫った。

 ぶつかる。
 誰もがそう思ったとき、ロックスターは手すりを蹴りはなって宙を舞い、螺旋通路から突き出した看板裏をバキュンを蹴りつけ走り、危険地帯を一気に走りぬけた。
「わお! ワンバンワンバンバン!」
 そんなイレギュラーがあっても、彼の歌声は止まらない。
 彼の足から青い燐光を放つ不思議な靴は、自在に床や壁を滑りぬけることができるようだ。
「すげーの撮れた。始めたかもしんない……。ボクの撮影テクに乾杯」
 自画自賛するヤマダ。
「しかし、彼はもう街の彼方さ」
 イスティはそんなヤマダに冷たく言い放つ。
 ロックスターは青い燐光を躍らせながら、街の看板や街灯を蹴りつけながら走り去ってしまった。
「あの青い靴なに?」
「おそらく、エリスタリアにある妖精の踊り靴だな。トレリロレロンと言ったかな? アレを追うのは普通の手では無理だ」
「そうか、残念だ」
 意気消沈するヤマダ。

「ヤマダよ。付き合おう。奴はきっとあらゆる世界を巡るつもりだ。私はお前に付き合わねばならぬ理由がある。協力も辞さない」
「……結婚してください」
 ラップ芯で水月を突くと、ヤマダシャワーが炸裂しそうなのでイスティは自重した。

 ヤマダは異世界をロックスターを追い掛け旅する。
 赤い赤いとっても小さな軽い手荷物と共に……。


駄文
 yes! じぇっとせっとれぃでぃお!

 元ネタいろんなところから拾ってるので、単語をぐぐってみるとなんか出てきたりします。出てこなかったりします。

 つづくというより、ヤマダとイスティはたまにどっかに出てくることでしょう。ロックスターを捕まえた後の話しはプロットできてるんですけどね。
 引っ張ります


  • 賑やかな風景がとても楽しいです。冒頭の豚人チャーハンから香港映画みたいなのを想像しました。この様子だとヤマダとイスティの旅は当分終わりそうにないですか? -- (ROM) 2013-03-10 12:33:17
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最終更新:2011年10月17日 12:31