「ったく、せっかく染め直したってのに何が不服なんだよなぁ武装風紀はさぁ」
ここは十津那学園海之上校。
さびれた校舎の屋上で俺は手摺によりかかって毒を吐く。
なけなしのバイト代をはたいて金髪に染めたってのにその日に抜き打ち頭髪検査ときたもんだ。
しかも再検査食らって染め直したら「赤くしてくるとはいい度胸だな!」と火乃センにファイヤーブレスを食らって程よくアフロなマイヘアー。
「安物に手を出すからだよ」
恐る恐るオーガスラヴィアンのウォーチが言う。
「頭から墨汁かければよかったのに」
ノームのクロトは本に目を落としたまま興味なさげに呟く。
「坊ちゃんの言う通りだぜ、ジョウジ。つーかチャラチャラしてんのがいけねぇんだよ、オトコならビシッと一発リーゼント!」
クロトの付き人で時代錯誤なツッパリ龍人、ドランの雄叫びはほっとくとして。
「他の種族はOKで人間だけNGってどう言う了見なんだよなぁ」
俺こと元原丈児は期せずして薄赤く染まった髪を指先で弄びながらボソッと愚痴を吐いた。
「そいつぁ同意するぜ。俺も火乃センによぉやれお前も龍人らしくとか、同じ龍人として情けねぇとかうるせぇのなんのって」
意外な所に同志がいた。そーいやコイツも散々言われてるもんなぁ。
……あれ?その割に確か抜き打ち検査の時、リーゼントおろしてストレートにしてたよな。
「ところでドランさんよ、お前どこから抜き打ちの情報仕入れた?」
「言えるわけねぇだろ」
「アンリさんとこの黄金水飴特別限定版柚子風味」
「タコちゃんセンセの立ち話…ハッ!ジョウジ!テメー卑怯な手を!」
「オメーが単純なんだよ…」
慌てて周りに視線を送るドランをクロトとウォーチは溜め息で出迎えた。
「卑怯なことしてんじゃねーよ人間風情がぁ!」
いつもならあーそう、と流すけど今日は機嫌が悪いのでついつい言い返してしまった。
「その人間風情につられたのはどこの誰だよ?」
「ぐ…!そういうところが卑怯なんだよォ!こンの、アフロザル!」
「んだとぉ!?テメーがこっちにも情報流しときゃ良かっただけの話じゃねーか!」
「ッルセー!俺は坊ちゃんを守るために生きてんだよォ!オメーらなんか二の次だっつーの!」
腐女子な皆様が喜びそうな台詞、ありがとうございます。でも知ったことか!
「あーあーこないだの食券偽造の時もおんなじ事言ってたよなぁー!仲良いですなー!
付き合わされる俺とウォーチの身になりやがれってんだ!」
売り言葉に買い言葉、額をにじりあわせ日頃の不平不満をぶちまけながらのガンツケ合戦を展開する俺とドラン。
腕っ節では負けるかもだがこちとら親父直伝の技術がある!やらいでか!
一触即発の殺気のなかウォーチがまた控え目につぶやいた。
「あのー…二人ともー…」
「「んだよ!」
「俺たち武装風紀の人達に囲まれてるよ…」
「「…マジかっ!!」」
見ればまぁ壮観な絵面だこと、俺たち四人を取り囲む
ケンタウロス女子生徒の大軍団。
「屋上で騒いでる生徒がいると通報を受けたのですけども…その食券偽造について詳しく聞かせてもらおうかしら?」
委員長と書かれた腕章をつけたケンタウロス女子生徒が歩み出て俺たちをにらみつける。
「き、聞かれてたみたいだね…」
「ドラン、迂闊すぎる」
「面目ねえ…坊ちゃん、どうしますかい?」
「こういう時は逃げた方が面白いって本には書いてる。ウォーチは?」
「お、俺も賛成だ。あんまり人は傷つけたくないし…」
「だそうだ。暴れてぇところだが坊ちゃんが言うからにゃ俺もトンズラに一票。ジョウジ?」
「言うまでもねえ、こういうのが楽しいんじゃねーか」
「じゃあ全員の意見が一致したところで」
「合図はいつも通りでいいかな?」
クロトは読んでいた本を閉じる。ウォーチは二度三度と屈伸する。
「問題ねーぜ!」
「行くぞぉ、一、二の…」
ドランが自慢のリーゼントをバタフライコームで整える。俺は大きく息を吸う。
「「「「散!!」」」」
さあ!楽しい愉しい追っかけっこの始まりだ!
「待ちなさい!」
ケンタウロス女子生徒の制止をシカトして、俺たちはめいめい好き勝手な方向に駆け出す。
最初に動いたのはウォーチだ。
屋上から飛び降り、豪快に地割れを作って着地する。
普通なら自殺モンだが、そこは頑丈
オーガで不死身なスラヴィアン。
土煙の中から姿を表した彼の体には傷ひとつついた様子はない。
そのままドシドシと部室長屋の方に走り去っていく、が!
「待てーぇい!」
敵もさるもの、複数の狗人風紀委員が投網を用意して待ち構えているではないか!なんと準備のいいことだろう!
しかしそんな物でプロレス研で鍛えられたウォーチの膂力を止めることなどできようか。
「えーい!止まれ!止まれぇ~!」
網ごとウォーチに引き摺られながら一人の狗人風紀委員が叫ぶ。
「ご、ごめんよぉ…!捕まったら皆に悪いし…!戦ったらプロレス研の先輩に迷惑かけちゃうし…!ほんとごめん!」
誤りながら引きずりながら逃げるウォーチ。結局このシュールな光景は三十分ほど続き、風紀委員が根を上げたことで決着した。
「しっかり掴まっててくだせぇ!」
合図とともにドランはクロトを担ぐ。担がれるクロトもわかったもので、大人しくされるがままだ。
刹那、ドランの逞しい尾が振り上げられ、屋上のコンクリートに打ちつけた。
空気が震え、コンクリートで作られた床に亀裂が走る。
その反動で天高くドランは跳躍し、隣の校舎の屋上に飛び移った!
唖然とする風紀委員たちを後目にドランはクロトを気遣う。
「お怪我は?」
「大丈夫。ていうか…心配しすぎ」
「坊ちゃんに何かあったらこのドラン・ドラット・ドラッゲンジュ、代々仕えたご先祖…」
「長くなる?」
「う…多分」
「ならやめておこう。ホラ、あっち見て」
クロトに促されドランが切れ長の目で元いた屋上に視線を向ける。
そこには丈児に翻弄される一団とは別にこちらに向かってサスマタを投げつけようとしている一団が見てとれた。
「ハッ、俺様相手に投擲かよ!いいねぇいいねぇその命知らず!坊ちゃん、『マジ本気モード』使わせていただきやす!」
「ダメだよドラン。使ったらボクらはここに居られなくなる」
「しかし!」
「ハイホーが来ても知らないからね」
「チッ…わかりやしたよ。命拾いしたなー!坊ちゃんに感謝しやがれ!」
こうしてクロトとドランはあっけなく逃げ延びたのである。
ウォーチが飛び降り、ドランとクロトが飛び移り、俺は猛然とケンタ女子集団に向かって駆け出していた。
ただの人間だからあいつらのような芸当はできない。
しかし『人間』という強みを生かす戦法があった。
ケンタウロスとは下半身が馬、上半身は人なのは周知の通り。
つまり俺よりタッパはあるわけだが、腕の長さは大して変わりない。
すなわち、身を屈めれば彼女らの腕は俺にはまったく届かないのだ!
おまけにあんなに群れちゃって回頭できるかってんだ。
怯む彼女らの下半身をすり抜けると一気に屋上出入り口まで走る。
が、どこから持ち出してきたのかサスマタを振り回す一団が俺の進路を阻む。
「行かせません!」
嗚呼、残念無念、元原丈児はこのまま掴まって取り押さえられてしまうのか!?
「ところがどっこい錦鯉!」
サスマタとは基本的に相手に向かって突き出すことによりこれを牽制、または取り押さえるものだ。
前回り受身とスライディングを駆使し、間合いの中に入ってしまえばもうただの棒も同然。
あとはさっきと同様に下半身の間をすり抜けて難無く俺は逃げおおせた。
放課後、俺たちは市街地にある「かなまるうどん」で祝杯ならぬ祝丼をあげていた。
「あー、走り回ったあとの一杯はたまんねぇな」
「ドラン、親父くさい」
「お、俺もそう思うよ」
クロトとウォーチの集中砲火にドランが言葉を詰まらせる。
「呑みなら俺の部屋でやらね?」
「オゥ固羅ジョウジ、ルームメイトの俺様の断りもねえのに勝手なこと言ってんじゃねーゾ?」
俺とドランは寮の同室同士の仲で、クロトとウォーチが同じ部屋である。
ちなみに入寮初日にどっちが上のベッドを使うかでドランとドツキあいの大喧嘩したのもいい思い出だ。
「んじゃぁ今言う。俺らの部屋で宅呑みすっぞ。それまでに机の上のエロフ本を片しとけよ」
「ジョウジ…昼間流されたケンカ、今ここで決着つけっか?」
「望むところだこのおっぱい星人」
「あのー、二人とも…」
「ンだよッ!?…ってまたこのパターンかよ」
「その通りだよドラン。そしてその後の展開も、また、だね」
店の入り口、こちらに向かって腕組み仁王立ちをしている
エルフ女子生徒がいる。
その腕には──あの腕章だ。
「あなた達、公共の場で騒いだ上になにやら良からぬことを企んでるみたいね…!」
うわぁ、青筋ってああいうのなんだな。でもまあいいや、楽しそうだし。
「だとさ。どうする皆?」
「決まってらぁ」
ああ、楽しい。本当に楽しい。こいつらといると本当に飽きないし面白い。
「追いかけっこの始まりだ!!」
- キャラ盛り沢山で種族チョイスも色取り取りで賑やか楽しい。 不良も風紀委員も生き方から日常のアクセントまでそれぞれ捉え方が変わってそうだ -- (名無しさん) 2013-03-02 21:08:05
- すっごい学生生活をエンジョイしてるけどヤンキーズは思い出は残っても学力は身についてなさそうな予感がする -- (とっしー) 2013-03-06 12:41:23
- 今でもヤンキーって言われる種族はいるんだろうか。とりあえず一つだけ言いたいのは「最低限度に赤点取らない程度に授業は受けろよ!」 -- (名無しさん) 2013-04-12 22:26:22
- 確かに異種族混合の場で人間基準の校則は難しいですね。素行はどうあれ学校にこないよりは来るのは余程ましでしょう。未来の彼らに思いが馳せます -- (名無しさん) 2016-03-13 19:27:42
最終更新:2013年02月28日 00:29