【名所案内 ゴブリンの財窟】

  “宝島の奥 金色に輝く蔵門
   その中は宝物で埋まりて常に昼の様である
   そして今日もまた 何かが蔵へ運び込まれる”

 ドニー・ドニー群島の一つ“宝島”。
 人気も無く見るべき物も無い捨てられた港街。 小さな取るに足らない島。
 その様な島を“宝島”足らしめているのは、ゴブリン海賊団の“財窟”があるからだ。
 寂れた港からそう遠くない、蔵が建ち並ぶ中に“財窟”への入り口がある。
 金銀で作られ、彩取り取りの宝石が散りばめられた蔵門はすぐにでも見つかるだろう。
 重厚な門から中に入るとがらんとした何も無い空間が広がる。
 だが、その中に在りて目を引くのは空間の中央に広がる穴と、そこから突き出る柱。
 近づく。近づく度に胸の奥が踊りだす。
 穴より放たれる宝が生み出す光と、咽返る様な欲望の空気。
 穴の底へと伸びる大杉の太さ程ある柱には溝が刻まれており、柱にしがみつく様に“鋼の檻”が在る。
 鉄格子を開くと握り締められた跡が掘り込まれた手回し棒。
 それを回す事により、檻は歯車機構により柱に沿って昇降する。
 蔵へ運んだ宝を地下へと降ろすために幾度と無く往復したであろう檻。
 囲む格子と床に飛散しこびり付くのは、これまた彩取り取りの血。

 蔵門まで辿り着いた者は、まず不思議に思うだろう、
 “何故、鍵が無いのだろう” “入り放題ではないか”
 財窟まで辿り着くのはそう難しい事ではなく、実際のこれまで多くの盗人がやってきている。
 門を開き、警戒しながら檻へと入る。
 が、彼らの命はそこで終わり、階下に伸び広がる宝の並ぶ棚を拝む事も無く終る。
 檻に入り降りる事が出来るのは、ゴブリン海賊団の頭領に許された者のみである。
 それ以外の者は尽く、何処からともなく現れる“番人”によって始末されるのだ。
 影も見せずに音も無く、宝への期待で満ちる胸を貫く異形の針尾。
 “宝は影の番人により固く堅く硬く護られている”
 宝島の存在と同じ位広まっているその噂であるが、それでも尚、侵入者は絶えないという。

 しかし、年に一度だけ財窟にやってくる者がいる。
 許しも持たず、何年も何度もやってくる。
 宝を持ち去る訳でもなく、その者は唯、番人との闘いを求めてやってくる。
 年を追う毎に技と力を練り研ぐ番人ではあるが、未だその者に勝利した事は“無い”。
 最初にやってきて番人を倒した後に、その者が残していった言葉は、
 唯延々と宝を護る番人にとっての生き甲斐の一つになっているのかも知れない。
 “俺の名はウルサ。 面白かったぞ。来年も来るからな。楽しませてくれ”


 <立ち去れ>
「~ってな具合でどないや?」
「自分はそれで良いと思うにゃ。 観光の謳い文句として十分にゃ」
蔵門の前で何やら冊子を持って話込む人間と猫人。
『ミソラ、さっきからずっと“声”が止まないんだけど…』
 <…立ち去れ>
「ほな次は中の様子やな~」
「しかし誰もいないから寂しい港街だにゃ。 景気もへったくれも無いにゃ。出店、土産屋はすぐにでも建てる様にするにゃ」
『ミソラ、僕の話聞いてるよね?』
「えぇいなんやずっと五月蝿いな風坊、腕輪から直接響くんやから聞こえてるに決まっとるやん」
 <立ぁちぃ去ぁれぇ>
「海空、早く中へ行くにゃ。時間が勿体無いにゃ。 商人にとって時間は ──
「何にもまして大事なモン、やろ?」
両手で押してもずずずとしか動かぬ門を、二人して肩で押すとじわりじわり扉が開く。
『あぁ…開けちゃった… もうどうなっても知らないからね』
一瞬、ひんやりした空気が押し寄せるも、二人はずかずかと柱へと進んで行く。
「うっわ、ホンマに檻やん」
「でも雰囲気はあるにゃ。 こういう“それっぽい雰囲気”が観光地には大切なのだにゃ」
海空が檻の扉へ手をかけると同時に背後に現れる気配。 音は何も無い。
「何度も警告したというのに、今日の盗人はえらくふてぶてしい様だ。 が、それもここで終る」
また音も無く、時も感じさせずに海空の喉に甲殻の尾先が逼迫する。
が、ぴたりと皮の前で静止する。
「!? 何故お前の様な者が“印”を持っているのだ?!」
「ふふん。 やっと気が付いたんか」
「この紋所が目に入らぬかにゃ~。 我こそはサバーニャ=カン=カッツォであるにゃ~」
「サバやん、それやりたかったんやろ。楽しそうやな」
二人が所持するは、ドニー杉で掘られたメダル。
ゴブリン海賊団の旗印が刻まれ、北海蛸の中々落ちない墨で押された頭領印。
紛れも無くそれは、財窟への立ち入りを許可するものであった。
「背ぇたっかいな!身体も何かゴツゴツしてるし一つ目やし」
「番人としてはこれくらいの威圧感が無いと様にならないにゃ」
ぺたぺたと触られ、まじまじと見つめられ震える番人。
「宝島の話を聞いたんやけどな、ボスゴブに“観光地にしたらいくらでも客きそうやん?”と言ったらポンと渡してくれよったで?
じゃあそれっぽくなるように下調べでも何でもしてくれってなもんで」
「では隣の猫人は何なのだ」
「居酒屋でたまたま飲んどった商人さんや。 ごっつカネの匂いがしたから今回の件の協力を頼んだんや」
「面白そうな話だったので即了承したにゃ」
『ミソラは唯単に財窟が見たいだけなのに。 変に話が広がっちゃったよ』
がっくりと肩を落とし呆然とする目の前で檻へと入る二人。
昇降ハンドルをしげしげと見つめ、
「じゃ番やん、ハンドルお願いしまっさ」
「私が回すのか!」
「番人が自ら財窟を案内…これはいけるにゃ」
がくんと揺れた後にぐるりぐるりと柱に沿って回り降りて行く檻。
蔵の床が天井になった辺りで眼下から迫る金色の山。
「うっわ!想像以上やな!」
「よくこれほど貯め込んだにゃ」
はしゃぐ二人を他所に只管無言でハンドルを回す番人に、海空が一枚の指示書を渡す。
「これ、ボスゴブから番人にって預かってきたんやけど」
「なになに… “当たり障りの無い三層までの観覧を許可する。 原則、宝は見るだけで触れるのは禁止と注意しておくように” 、成程」
檻は黄金の層、宝石の層、芸術品の層と降りて行く。
「頭領が許可したのはここまでだ。 十分に堪能しただろう、上がるぞ」
「悪い気が漂っとるな」
その声を聞いて番人がやっと気付いた“三人目”。
ハンドルを回す番人のすぐ横にいたのは赤い目の鬼の子供。
「儀礼を済ませておらん鬼具の類も混ざっておるんじゃろうが、とてつもない呪詛が渦巻いておるぞ」
子供では無い。 甲殻の肌を圧す彼の者より放たれる気は歴戦の戦士にも劣らぬものである。
「この者は ──
「あれ?説明せんかったっけ? アドバイザーできてもろたハクテンさんやけど」
『ミソラ、説明は無かったよ』
「でもこの下からはもっと凄い匂いがするにゃ。 見てみたいけど仕方が無いにゃ」
程無くして檻は帰り昇っていく。
「番人よ、時々体が重くなるとかありゃせんか?」
「言われてみれば尾の動きが時々鈍い様な気が…」
「一度それなりの解呪が出来る者を用意して隊を組み、本腰を入れて対策せんと…えらい事になるじゃろな」
御土産や装飾など既に観光改装の話で盛り上がる海空とサバーニャを眺めつつ、ピンと前髪を弾いたハクテン。
「どれ、観光地にする前の大仕事としてわしの村でも依頼を出しておいてやろう。
このまま放っておくと精神の弱い者は憑き込まれるくらいになってしまうじゃろうからな」
「なんやおもろそうな話してるやん? 探検やったら番やんも一緒にどないや?」
「自分は遠慮するにゃ」
既に探索支度の話に入り盛り上がる海空。猫式計算具を弾くサバーニャ。
今まで財窟で感じた事の無い空気。
「ほぅ、戦うのが生業になっているぬしの様なスラヴィアンでも笑う事があるんじゃな」
番人の口端は、本人の自覚無しに緩み上がっていた。


異世界名所めぐりにちょっと色をつけてみました
地球と繋がった事で異世界の名所にも色んな変化が?

  • 大きくて一つ目で甲殻の肌で尾?スラヴィアンの改造人間度は相変わらず高い -- (とっしー) 2013-03-06 12:40:00
  • 恐怖の宝物庫も商人と冒険者にかかればレジャー施設に?ウルサはじめキャラの登場も面白い -- (名無しさん) 2013-12-10 22:42:21
  • 財窟のレジャー化はネモチーから番人への配慮なのかなとも思えました。一見無謀に見える商人ですが不確定な危険には近づかないようで -- (名無しさん) 2016-03-13 19:35:56
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

f
+ タグ編集
  • タグ:
  • f
最終更新:2013年03月25日 23:55