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【変わりゆく日々】

「じゃあフワン君、港湾まで出ようか」
「はい。わかりました」
通りは良いがやや重低音の返事は素直。
制帽を被り立った背丈は、悔しいかな自分より10cm高い180cm余り。
一歩毎に急場で用意した少しサイズが小さいズボンに浮かび上がる、無駄の無い筋肉の脚。
黙って立っていると威圧感の滲み出る様にも拘らず、瞳は大きく丸っこい。

 ファンマス=フワン 男性
 東イストモス南部の森から妻子と共に就労渡界してきた
 狗人

「もう三ヶ月になるかー」
「そうですね。早いですね」
急遽入ってきた梱包依頼の積荷を片付け、配送先の運送会社へと向かう車中。
「もう仕事にも慣れた頃合かな? 最初はぎこちなかった作業もかなり早くなったし」
「はい。故郷では全くやった事の無い事だらけで迷惑をかけましたが、皆さんのおかげです」
「いやいや、新入社員って大概はそんなもんだよ。 教えるのも仕事だよ」
ポートアイランドの幹線道路。
昼前、慌しくすれ違う車の運転手が亜人というのも、もう珍しいものでもない。
「あっちとこっちじゃ何もかも違っているから助けてやってくれと社長は言ってたけど、
何か困っている事とかあったら気にせず言ってくれよ?」
奥ゆかしいというか彼がこちらに何か要望してくるというのが全く無いのが逆に気がかり。
最初にトイレのウォシュレットの使い方を聞いてきて以来、入念に予習でもしているのか
生活面などでの質問などは全く無い。
「妻も近所の方々に親切にしてもらっているようで、商店街などでも他の亜人も多く、
勝手で迷うという事も無いようです」
「お子さんは?」
「毎日幼稚園に行くのが楽しいみたいで。元気ですよ」
夏口に差し掛かる空は青く、半開きの窓からは潮の香混ざる風が入ってくる。
「唯…」
「唯?」
「“地球”の時間の流れにはまだ少し慣れません。
日の出から日の沈むまでを、陽と風と共に在る故郷の生活とは大きく違っているので」
「まぁそれは仕方が無い。 これは持論なんだけど
“地球を支配しているのは金でも権力でも無く時間という目に見えない鎖”
どんな人でも“時間”に従いそれから逃れる事なんて出来ないからな」
大したドヤ顔になっているのは自覚している。
「頭領でもなく、神でもなく“時間”ですか。成程、説得力はありますね」

思い返せば半年前、社長が雑誌に載っていた
“東イストモスの風景 ケンタウロスの少女と狗人の少年の戯れ”
という写真と、それに連なる風景に魅せられて旅に行ってくる!と飛び出して二ヶ月余、
帰ってきたかと思うと狗人の家族を伴っていた。
「いや~記事にあったとおりの温かい日常に感動したよ。
聞けばイストモスも統一後に歩みを模索しているとかで地球にも目を向けていてね、
狗人の村から渡界就労と言う事で、ファンマス一家さん方に来て貰った」
「来て貰ったって…社長、これまた突飛も無い事じゃないですか」
「異世界交流…良いじゃないか! 皆も面倒をみてやってくれたまえ!」
そう言った社長は先週、“星地巡礼の旅(十年十分割コース)”に行ってしまった。

「それにしても良かったよ」
「何がですか?」
「フワン君の毛並みがドーベルマンの様な短いツヤツヤでさ。
何せほら、ウチは製品梱包だからフサフサモサモサだと抜け毛とかどうやっても落ちてしまいそうじゃないか?」
「知り合いには年一回、生え替りが凄い事になるのがいますね」
そんな他愛の無い話をしている内に目的地に到着する。
降りた先で荷受をしている受付のおばちゃんも、もう黒い同僚と打ち解けている様で
すんなり手続きを済ましてヤードの誘導へと向かった。
「一体全体、ポートアイランドはどうなっていくんでしょうね、っと」


── 帰社
「すみません」
「何?どうした? 翌日の配送の伝票来てなかったか?」
「サンダバさんが早くあがって来て今日の伝票を渡してと言ってます」
先程帰ってきたばかり。 荷台を整理している最中だが仕方なく二階事務所へ。
「サンダバさん、ちょっと気が早くない?」
「何言ってるの!夕番二時間残業過ぎても待ってるだけありがたいと思いなさいな!
あと十分で退社しないとマックスGARYUの肉と魚の半額シールに間に合わないのよさ!」
「馴染み過ぎでしょ! 入って一週間でこれって」
ゴブリンの方々は私達狗人よりも適応力があると思います」
渡した伝票を即座に処理する手と端末入力の指の速さがもう往年の事務職ち肩を並べる程で賞賛の他ない。
現に一人で他二人分の仕事をこなしている。
「しかしサンダバさんの机の上、どんどん“風水グッズ”が増えてない?」
「何でも宝くじなるものに風水の加護で当選したとか何とかで」
「ハマり過ぎでしょ!」
そうこう言っている間に処理を終えたサンダバさんは軽やかに席を後にしタイムカードを押す。
「お疲れ様~お先に失礼しま~す。 鶏肉~胸肉~ササミ~♪」

 変われば世界も変わっていくもので、
 まぁ多分、“良い方”へ変わっているのだろうと
 少し変わった“いつも”の中で思う日々



間接的にですが【草原の国にて】から内容をシェアさせていただきました
異世界解放特区に“来る”という事は、そこで“生活”が始まるという事で
ポートアイランドも時が経つにつれ、どんどん彩りが増していきそう

  • 亜人の積極さに和む。ひょっとして世界に浸透するのは亜人の方が早かったり? -- (とっしー) 2013-04-11 22:29:54
  • 地球に馴染んでいく異種族がよく表現されて良質。日本は特に働くという点では地球の中の異世界かも知れないな -- (名無しさん) 2014-08-15 22:35:47
  • 異種族が地球にやってくる上に定住に生活するとなるとその驚きの大きさは異世界に行った人間以上でしょうか。やる気と誠実さは大きな原動力になるに違いませんね -- (名無しさん) 2016-06-05 19:37:44
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最終更新:2013年04月10日 22:59