ふわわ、とあくびを噛みながら階段を下りる。
寝ぼけ眼に、茸の椅子に腰掛け〈ぷわー、ぽぺー〉と笛を吹く女の人が映った。
エリーだ。その笛は、200年くらい前にもぎ取ってからずっと気に入って使っているそうだ。
「ふぁ……、おはようー。いい音だね、エリー」
「ありがとうございます。リフはお眠ですね?」
「うん、昨日は遅くまでがんばっちゃった」
「あら、素敵ですね」
そう、素敵なことなのだ。昨日も今日も明日も、神事をこなせるなんて。
むかしむかしは夏の国くんだりまでわざわざ来るお客さんなんて、さっぱりだったのだけど。
門が開いてからというもの、ひっきりなしに男の人がやってくるようになった。
「わたしね、旅が許されるまで、ずーっとひなたぼっこして暮らすんだと思ってたよ」
「それはそれで、素敵なことですよ」
「そうだけどー」
生えていたハープをもぎ取って、ころんと芝生に寝転がる。
〈ぽろぽろぽろり〉とテキトーに響かせる。もぎたての音はみずみずしいなー。
〈ぷわー、ぽぺー〉エリーの吹く笛。合わせる気がさらさらないよね、エリー。わたしもあんまりない。
それでも百年もしないうちに、メロディは完成してしまうだろう。
「恋ってなんだろうなー?」
「なあに、リフ。藪から棒に」
「きのうのお客さんが、そんなこと言って叱ってきたの」
「あらあら、それでどうしたの」
「よくわかんないけど、おちんちんは立ってたから。キスしたよ。いっぱい出た」
なにはともあれ、快楽は正義だ。お母様もきっとそう言ってる。
「エリー、そういうことは妖精ちゃんに聞いたほうがいいんじゃないかしら?」
「そうそう、その新しい妹達のことが気になったの。つまり、‘恋せよ’ってお母様が言ってるってことだよね?」
「そうですねー。でも、今年も
エルフと樹人は生まれてますし、私たちとは関係ないんじゃないかしら?」
「お母様の言葉が聞けたらいいんだけど」
「いつも響いてるじゃないですか。‘交わり、集めよ’というのが頭の中にずっと」
「誕生のお祝いの言葉、そのなごり。それだけじゃ、少しさびしかったり。ねぇ、エリー。お母様がお喋りだったらどうする?」
「くふふふっ。やだ、おかしいこと。想像したら、ちょっと気持ち悪いですよ」
どこか遠くでバキバキィと枝が折れる音が響いた。
- エリスタリアのためにも観光客のためにも接客員に性教育を早く! -- (としあき) 2013-04-19 19:46:21
- ぽよぽよした雰囲気が好き。上手くエルフ設定をまとめている -- (名無しさん) 2013-04-19 20:45:58
- 思考のアンバランスさ笑ったけど当人が幸せならそれもよしか -- (名無しさん) 2014-07-18 22:53:44
- 森でふわふわと日常を送っているようなエルフというのが逆に新鮮です。生まれ方による独特な考え方も特徴ですね -- (名無しさん) 2016-07-03 17:10:23
最終更新:2013年08月11日 10:35