「丈児、お客さまだよ」
放課後、屋上でゴロ寝に勤しんでいたら不良仲間のクロトに起こされた。
「ンだよぉ、せっかくいい気分で寝てたってのに」
「そういうこと来客の面前で言わないの」
「へいへい。で、どちらさん？」
「新聞部だってさ」
「守屋てゐよ、ヨロシク」
メガネをかけたそのお客様は元気に握手を求めてきた。
「元原丈児ッス」
聞けば先輩らしいので極力失礼のないように振舞っとこう。
そして卒業しているらしいのにまだ高等部にいるのかは触れないでおこう。
差し出された手を握り返すとブンブンと元気よく振り回してきた。
意外に力あるな、この人。
「んで、何用スか？」
「人を探してるの」
「へぇ、一体誰を？」
「ズバリこの人物よ！」
俺とクロトの前に勢いよく突き出された一枚の紙切れ。
そこにピントがズレてぼやけていたが、一人の
オーガらしき生徒の姿が映っていた。
「これはね半月ぐらい前に撮影されたものなの。入学式の前に起きた『辻斬りラリアット事件』は知ってる？」
「ええ、新聞部の記事で読ませてもらいました。当初はただの暴行事件だったけど
その後、現場に居合わせた女生徒の証言と加害者の身元から『女生徒が変態四十七士に絡まれていたのを通りすがりのオーガがラリアットで助けた』
ってやつですよね」
丁寧にクロトが答える。
俺は俺で写メをプリントアウトしたであろう画像に見入っていた。
……この背格好……ウォーチじゃね？
「そう、その事件なんだけど我が新聞部の優秀な記者によってこの画像と、『オーガがムラマサラリアットと叫んでいた』という証言を手に入れたのよ！
つまりここに映っているのは半年前に突然現れた悪役レスラー『オチ・ムシャ』にまちがいないわ！」
思わず俺たちは顔を見合わせた。
ウォーチは言わずと知れた不良仲間のオーガなスラヴィアンだ。
温厚で大人しい彼だが、世間には秘密になっていることが一つだけある。
それは彼がプロレス部の覆面レスラー『オチ・ムシャ』であるということだ。
もちろんマスクマンなので正体を世間にバラすわけにもいかない。
守屋先輩の真意は図りかねるが
新聞部・覆面レスラー・人探し・人傷沙汰
となればウォーチにとってまず良い方向には動くまい。
クロトも同じ考えのようだ。
「で、あなたたちの知り合いに……」
「「いませんね、こんなヤツ」」
「ちょ、ちょっといきなり声をそろえないでビックリしたじゃない」
「そういうわけで」
「ボクらは行きます！」
「力になれずスンマセンっしたジュドー・アーシタ！」
「あ、え？ちょっとー！」
「騒がしい人だったね」
先輩を撒いたのを確認してその場に座り込む。
「ああ、ドランがいなくて幸いだったぜ。そーいやさっきから姿見えないけど何してんだあの野郎」
「お料理研の公開講習を受けてくるって」
「料理ぃ？あいつが？」
「なんでも今回のメニューが
クルスベルグ風マッシュルームカルボナーラだから張り切っちゃってさ」
一瞬、多種多様な女生徒のエプロン姿の中で異彩を放つリーゼント龍人のエプロン姿を想像してしまった。
うわぁ違和感あるけどなんか馴染んでそうだ。
「さて、ボクもちょっと大学部の先輩の所に顔を出してくるよ。丈児は？」
「テキトーにブラブラして帰るわ」
「ふーん…あのさ」
「んー？」
「丈児は、いいの？」
「何の話よ？」
「部活……というかその辺の、さ」
いつもの冷静なクロトらしからぬ淀んだ物言いだった。
「勘弁してくれ。さっき新聞部でも肝が冷えたってのに。それに今更戻れねぇよ。永進さんも卒業しちまったしな」
「だったら演劇部……はダメだったって言ってたっけ」
「そーそー、なんか反りが合わなかったんだよ。あの親父の子だからかな」
「考えすぎじゃない？」
「でも事実だ。結局それはついてまわるのヨ」
これからも、そして今までも。
人には秘密がある。
ウォーチにも、クロトとドランにも。もちろん俺にも。
まぁいいか。
そんな重い話はどっかにおいておこう。おいておけるその時まで。
- それぞれの銘々センスが学生の領分や生活という色にあって光るものを感じるな。学生キャラは校内や登下校でシェアしやすくて楽しい -- (としあき) 2013-04-25 17:53:37
- シェア広がってるなー。これは良い -- (名無しさん) 2013-04-28 11:03:50
- キャラが増えてくると相関図とか欲しくなってくる -- (名無しさん) 2013-04-28 12:04:11
- 強面二人のオフがちゃんとあるのが微笑ましいですね。デキる女のように見えてどこかズレているてゐさんの卒業後の生活がちょっと心配になりました -- (名無しさん) 2016-07-03 18:22:46
最終更新：2013年04月25日 12:13
