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【海戦の歴史 蛮国の嫁取り】

はるか昔の物語・・・

かつてドニー・ドニーの戦乱期の折、島ごと、艦隊ごとに独自の勢力があった。
その一角を担う艦隊勢力『ヴァイズ・ベスティア(極北の知らせ)』
常に戦争を繰り広げ続ける彼らにとって、船上こそが軍の最高司令室であり、
旗艦甲板に巨大なキャンバス地を用いて作られた天幕王宮は、言葉通りの<幕府>であった。
無論、島嶼に建造された王宮も存在するが、ヴァイズ・ベスティア総督アイスカ・ベイドは普段から天幕王宮を愛用していた。
将校の詰め所や兵站所、後宮、様々な機能を有する天幕の中には、当然、外交の場となる謁見の間も存在する。
その日の謁見の間は、王の苛立ちからか、陰惨な空気が漂っていた。

玉座にはヴァイズ・ベスティア総督こと、オーク王アイスカ・ベイドの姿があり、遠目からでも機嫌を損ねているのがわかる。
そのすぐ隣には鬼族竜騎衆頭目の赤鬼、ニアクティカの姿がある。
そこからヴァイズ・ベスティア高官がズラリと並び、末席にヒョロリとした異国の文官の姿が見える。
大延国に多くみられる獣人、狐人である。王の機嫌を損ねているのは、この人物である。
彼の側には、着ているものこそ豪奢であるが、首輪と枷で自由を奪われた10歳ほどの娘の姿がある。
その表情には生気が見られない。

「おい、これは一体何だ?」
重苦しい雰囲気の中、ようやくヴァイズ・ベスティア総督が言葉を放った。
使者はこの機を逃すまいと、たたみかけるように話し出した。
「もちろん、我が大延属国炎州国からの貢ぎ物にてございまする。
 永らくもお互いの誤解が重なりまして戦争状態でありましたが、
 このような悲しくも心苦しい歴史は幕を閉じまして、
 我が大延属国炎州国とヴァイズ・ベスティアはこの度目出度くも和睦と相成りましてござる。
 これを、我が偉大で寛大な大延属国炎州公は心より喜び申してございまする。
 これこそはその、信頼の証とも言うべき品でございまして、炎州公自らの7女、水蓮公主でございまする。
 もちろん奴隷として、処女のまま口淫愛撫の技法を徹底的に仕込んであり、
 ヴァイズ・ベスティアの王の望みを叶える事と相成りましょう!そこでぇー…」
「くぉの痴れ者がぁぁぁぁ!」
怒髪天を突くという言葉があるが、実際に怒りのあまり総毛を立たせる者もそうは居ない。
が、この日この時、ヴァイズ・ベスティアはまさに怒りのあまり髪の毛は逆立ち、
丁寧に編みこんだヒゲも引き千切れんばかりであった。
「ヒィィ!何か粗相でもございましたかぁ!?」
「この儂に対して、奴隷などとくだらんモノを!
 それも熟れた年増ならまだしも、小便臭い幼女を寄越すとはなぁ!
 フゥゥ!
 同盟の席にて喧嘩を売るとは、大延属国炎州公、見上げた男よ。
 堂々たる宣戦布告の様ではないか。のぅ使者殿?
 このアイスカ・ベイドに対して面前と喧嘩を売るとは。
 段々と楽しくなってきたぞ」
「そそそそそれはですな、ままままったくの誤解でしてぇぇ」
「喜べ使者殿。
 貴公、今晩からはドニーの海を満たす糧となれるぞ。
 さすがに夜食とするような趣味は無いから安心しろ」
「おおおお待ちを!お待ちを!」
哀れなほどに混乱している使者に助け舟を出したのは、ニアクティカであった。
オーク王の怒りが若干なれども収まるのを見て取り、言葉をかける。
「陛下、あまりにも戯れが過ぎます。
 従属の証として贈られた『品』が気に食わぬからと、その国を攻め滅ぼすおつもりですか。
 我ら鬼族が心魂かけて得た和睦です。
 鬼族自ら和睦を破棄するならともかく、王自らが道をお捨てになる事はございますまい」
その言葉で、使者は安堵の表情を浮かべる。
ヴァイズ・ベスティアにも、話のわかる人間はいるものだ。そう思った。
が、ニアクティカの真意は違った。それを見抜いたのはオーク王だけであった。
ヒゲを指先でくゆらせながら、オーク王はニアクティカに問うた。
「この『品』を貰って、儂は満足すべきか?
 鬼族の将よ、貴殿なら何とするか」
「オーク王殿の立場など夢のまた先な身分なれど、
 仮に私がこの艦隊の盟主であったのならば・・・」
「ん。遠慮するな。申せ」
「無論、7日程で贈り主の国を滅ぼしてまいりまする」
言うが早いか、ニアクティカは所持していた竜槍を使者に突き刺した。
大海竜の牙から作られた鉄をも貫く槍である。使者は一瞬にして絶命した。
周囲の高官達はザワついていたが、ニアクティカもヴァイズ・ベスティア王も身じろぎもしない。
そのうちに、ヴァイズ・ベスティア王は大声で笑い出した。
「ク・・・クククク・・・グァハハァ!
 フウゥ・・・何だ、やはり貴殿も気に食わなかったか。
 鬼族の者は言い回しがクドくていかん。
 話が長くて日が暮れてしまうかと思ったぞ。
 良いぞ良いぞ。ただちに大延属国炎州公を殺してまいれぃ!」
ガチャリと鎧の音を立てて、ニアクティカは退出の礼をとる。
既に戦場を見据えてか、眼には殺気がこもっている。
「是非も無く」
ガチャリガチャリと竜鱗の鎧から音を立てて、謁見の間から退出する。
途中、哀れな使者に突き刺さったままの竜槍を引き抜いた。
その際、チラリと『貢ぎ物』を見た瞬間、ニアクティカの眼は殺気を失った。
少女の表情に、生気が宿っている。
彼女もまた、ニアクティカの眼を見据えている。強い眼差しだ。
狐人であるが、まるで燃え盛る炎のような毛色をしている。
「いつかこの日が来るのを夢見て過ごしておりました。
 あなた様が妾の婿殿なのですね」
「公主、残念だが、私はあなたの婿殿では無いよ。
 むしろそなたの国を滅ぼすような輩だ。
 怨んでくれてもかわまんよ」
ニアクティカは、天幕のすぐ外に愛竜の『青翼』を呼び寄せ、すぐさま竜騎衆の待つ艦載竜搭載巣へと向かった。
「国などとうに見限っておりまするのに・・・」

ニアクティカが率いる手勢わずか10余騎が大延属国炎州に到着したのは、その日の夕刻であった。
飛来した瞬間から大延属国炎州全土が戦場と化し、大延属国炎州公が挙兵する間も無く、
頼みとするほとんどの戦力は竜騎衆に駆逐されていた。
彼らが揃えた武装の中には、異国から購入した魔式大砲や躍字防壁すら存在したのだが、竜騎衆の前には紙切れ同然であった。
彼らの騎乗する飛龍は、厳密に言えば竜ではない。人語を話せず、魔力も行使出来ない下等な存在だ。
だが、それはあくまでも真なる竜と比べての事。
彼らが長年をかけて育成した飛龍は、本来ワイバーンが飛翔出来る距離を遥かに凌駕し
その吐く炎は鋼鉄を溶かし、その竜鱗は矢弾も通さない。
「ふわっはぁぁ!
 ニアクティカ様ぁ!こいつらあまりに手ごたえが無さすぎですぜ。
 第弐竜団が鉄人を相手にしてたっつー話もありやすし、俺もそっちに向かってもいいですかぃ?」
「油断するな。あれを見てみろ。こちらにも鉄人が来ているようだぞ」
「おお、あれが鉄人。思っていたより、ずっと小さいモンですな。
 あれなら死都の動甲冑兵の方が、よほどデカい」
「かつて窟国で見たものよりは、ずっと良いものかもしれん。
 それともあれは、その辺りの国が造ったものかもしれんな。
 おい、矢撃が来るぞ。竜を盾にしろ」
空気を切り裂くような音がして、火矢が竜騎衆に襲い掛かる。
が、全ての火矢が槍で迎撃され、竜の炎に熔かされ、盾に弾かれ鱗に弾かれ、竜鱗の鎧に阻まれた。
「突撃体制!目標は前方の鉄人8体!ドオォォォォォニィィィィィ!」
飛龍が空を舞い、高速で鉄人へと突撃する。
その速度での攻撃を回避できるはずもなく、鈍重な鉄人は全て胴体を竜槍で破壊されて四散した。
「善し。次だ」 
戦争が始まって6日目の正午には、王宮の中庭にまで軍勢は進撃し、ニアクティカは大延属国炎州王の面前に立っていた。
彼の鎧は煤けていたが、怪我どころかかすり傷一つついてはいない。
大延属国炎州公を守る兵は、すでに一人もいない。
崩壊しかけた王宮の玉座で、公は一人で泣きそうな表情となり、ヴァイズ・ベスティア総督とニアクティカを罵倒し続けている。
「ぶ・・・無礼では無いか!無礼過ぎではないか!
 一介の武将ごときが王宮に土足で入るとは!
 そ、そもそも一体何が気に入らないと言うのか!
 ワシはそなたらと話し合い、交渉の結果として和睦したのだぞ。
 ヴァイズ・ベスティアとて、条件を飲んだではないか。
 そ、そうか。贈り物が不足であったか。そうであろ?
 ならばただちに追加の奴隷を・・・」
「ああ、大延属国炎州公よ。それが気に食わんのだ」
「な、よもや奴隷が気に入らないとでも言うのか。
 奴隷ならば、そちらの国にもおるではないか」
「年端もいかぬ我が子を、性奴隷にした上で、
 他国に贈りつける王など、我が国にはおらん」
「そ、それが理由か!そんな事が理由か!
 我が子など政略の道具にすぎんではないか。
 それこそヴァイズ・ベスティアとて一緒ではないか。
 貴様らいつから聖人君主ぶるようになったか!」
「大延属国炎州公よ、勘違いなさらないでいただきたい。
 ヴァイズ・ベスティアが崇高な精神を持った組織だという訳ではない。
 残念ながら大延属国炎州と同じく、我がヴァイズ・ベスティアという国は、どうしようもない蛮族国家なのだよ。
 気に食わなければ、戦をおこし、船を焼き払い、国を平気で滅ぼすような、な」
ニアクティカは兜を脱ぎ、素顔で大延属国炎州公と対面した。
その視線はあまりに鋭く大延属国炎州公の魂を侵食した。
「教えてくれ・・・ワシは・・・どうすべきだったのじゃ?」
ニアクティカは、戦の度、いつだってこの問いに答え続けている。
答えは単純なのだ。
「死ねばいいさ」

挙兵してから7日目の朝に、戦争は終結した。
結局、大延属国炎州公とその配下の兵のみを制圧し、大延属国炎州自体は占拠せずに全ての竜騎衆を引き上げている。
あくまでも討伐であったという姿勢だ。
次の日にはニアクティカはヴァイズ・ベスティア王に戦果を報告し、自らの船へと戻っていた。
鎧の留め金を外しながら自室の戸を開けた時、眼下に信じがたい人物が居た。
水蓮である。
「婿殿!無事のお帰り、何よりでございました!
 風呂の用意も食事の用意も、全て整っております!」
その表情には、もう曇りは見えない。
「そうでは無くてだな・・・どう説明すればいいのやら。
 いや、単純な話か。私はそなたの婿ではないのだ」
ニアクティカ自身には、彼女の国を滅ぼしたという自責の念もあり、
果たすべき責務として彼女の面倒を見るくらいはしても良いと思っている。
だが、嫁に貰うとなると話は別だ。
「婿殿ともあろうお方が、王の命令に背かれるのですか?
 これを・・・えっと・・・ちょっと待ってね。あった。
 これをご覧になってくださいませ」
水蓮が懐をゴソゴソと探しまわしたあげくに取り出したのは、一通の書であった。
よく見ると、ヴァイズ・ベスティア総督の印が押されている。
そこに書かれていた文章とは、『嫁にくれてやる』という一言であった。
「やれやれ。これでは本当に戯れが過ぎまする。
 公主、残念だがオーク王の命令とは言え、これは果たせぬ。
 私は子供を娶るような趣向を持たぬのだ」
その言葉を聞き、水蓮は何故か心底安心しきった顔になった。
不思議そうに見つめるニアクティカに向かって、彼女はこう言った。
「なるほど。安心いたしました。
 大人になれば、嫁にしていただけるのですね。
 ヴァイズ・ベスティアではどうかわかりませんが、妾の国では15で大人で御座います。
 たかがあと5年で御座います。しかと、お約束いたしましたよ
 それまではこの水蓮、一心にお側で仕えまする。
 婚約の時までは、妾を何なりとお使いくださいませ。家事だけは自信がありまする」
「やれやれ、敵わんな。そう簡単にはいかんぞ。
 くだらない話だが、鬼族の掟は色々と厳しい。
 嫁に来るのならば、覚悟する事だな。
 それでは娘々、早速だが、茶を煎れて来てくれないかな。
 喉が乾いてしまったよ」
「任せてくださいませ!
 これでも妾、王族なのに末席で、下女と変わらぬ扱いを受けておりましたゆえ。
 炊事洗濯掃除一切全て完璧にこなしてみせまする!」
バタバタと炊事所に走っていく水蓮を見ながら、ニアクティカはドウとベッドに倒れこんだ。
さすがに戦の後は疲れが溜まる。
どこか遠くで陶器の割れる音を聞きながら、ニアクティカは眠りの世界に誘われていった。


終わり


  • 覚悟済みのニアクティカかわいい -- (名無しさん) 2013-05-12 18:49:46
  • 安心の性欲クオリティだオーク軍団。高位な方々の結婚はどっちの世界でも一大事だな -- (名無しさん) 2013-05-14 23:28:42
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最終更新:2014年08月31日 02:04