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【黒鬼のタンゴ】

「あー、スーアンコリーチイッパツイメンツモタンヤオドラ12」
俺が呪文のようにそれを唱えると同時に、座卓を囲う3人が席に崩れ落ちた。
「おいぃ!少しは手ぇ抜けよぉ!」
「ディ・・・ディルカカネットの計算にバグが・・・?」
「そんな、ゴブリンの王道算術が敗れるのか」
ここは、十津那大学ボードゲーム研究会である。
世界各地、古今東西のボードゲームをかき集めて研究しようという壮大な目的を掲げ、
日夜研究に励んでいる大変志の高いサークルなのである。
俺、有馬冬祥(ありまふゆき)は、たまたま友達が研究会にいて、
俺にドニー・ドニーの『船札』について聞きたいというので、
レクチャーしがてら麻雀をついでに楽しんでいたという事なのだ。
「点1でいいんだっけ」
日本人のナントカって先輩は真っ青な顔になってブツブツと何かを繰り返していたし、
同じく日本人のカントカって先輩は、オンラインにしたPCで蟲人とケンカ腰でやり取りしていたし、
その席で唯一の亜人であったゴブリンのムニャムニャって先輩は茫然自失としていた。
カモに出来ると踏んでたんだろうなぁとか思うけど、ルールはルール。先輩一同からありがたくご祝儀をいただく。
麻雀など幼稚園の頃から爺ぃに仕込まれてたっつーの。
ド素人のフリをしてたってのは、俺も底意地が悪かったかもしれんがね。
「あのなぁ、アリマ。いくらなんでもやりすぎだ。
 お前、麻雀なんて生まれて初めてだったんじゃないのか」
数少ない友人の一人、金子夢路(かねこゆめじ)が呆れ顔で俺に話しかけてきた。
「家族以外と打つのは生まれて初めてだ。そこはウソじゃないぞ」
俺は胸を張っていったが、夢路は呆れ返ったままだ。
「だったらもうちょっと手加減も覚えた方がいいな。
 上がり役が全部役満以上とか、尋常な打ち方じゃねーよ。ここだけの話、積んだ?」
麻雀のイカサマ手として、自分が有利になるように牌を積み込むというものがある。
夢路は俺がイカサマをしたのかどうかと聞いているのだ。
「積まなきゃ勝てない相手じゃないだろ」
我ながら意地の悪い回答だとは思うが、事実だから仕方がない。
「ま、勝ちすぎたとは思うし反省はするけど後悔はしない。
 それに今日は軍資金が必要だったんでね。また遊びに来るよ」
後ろから、もう来るな疫病神!という先輩たちの悲痛な叫びが聞こえてきたが、かまわず俺は研究会をあとにした。

大学の講義をサボって、俺は商店街へと足を運んだ。午後のポカポカとした陽気が心地よい。 
CD店の前を通り過ぎたあたりで、どこからか自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
「おーい!アリマー!こっちこっち」
声の主の姿を探して明後日の方向をキョロキョロとしていた俺だったが、ようやくはるか遠くで手を振る姿を発見した。
シャコ人のヨドコ・ガレ・イージだ。かつては賭場の用心棒をしていた女の子である。
シャコ人の特徴である、驚異的な視力で俺の姿をいち早く発見したのだろう。
春休みで異世界に渡った俺は、ドニー・ドニーの賭博場を散々荒らしたあげく、あやうく彼女に殺されるところだったのだ。
まあその時は男だと信じて疑わなかったが。
何でも、用心棒の仕事をまっとうできなかった事を理由にドニーのソノスジノヒトタチに逆に追われているようで、
かえって地球ですごした方が安全だという事で、裏ワザを駆使してこっちに来たらしい。
渡航審査は厳格に行っていると聞いていたので正直驚かされたものだが、抜け道も色々あるのだろう。
彼女は今、俺のアパートの隣の部屋に住みながら、フリーターとして各種バイトを渡り歩いている。
「アリマ、今日は一日ダイガクだったんじゃなかったの」
サボリだ。
「そういう時もあるんだ。ヨドコこそ今日は神戸の亜人解放特区に行ってたんじゃなかったっけ?」
「神戸は午前でお仕事終わりだよ。
 次は21時から東埠頭開発区の警備だから、それまで部屋で休もうかなって」
「仕事するってのも大変なモンだな。俺はこれから買い物だよ」
「へぇ、あ、わかった。かづちへの誕生日プレゼントを買うんだ」
「よくわかるな」
「かづち、朝から何かソワソワしてたからね。心拍数とか『目に見えて』あがってたし。
 誕生日など関係ないとか言い張ってたけど、そういう行事があるって知ってからのアイツの期待感と言ったら。
 あ、ちなみにアタシは12月だからヨロシクね」
心拍数は目に見えねぇだろと思いつつ、シャコ人なら脈動まで見えてしまうのかもしれないとも思った。
「なあ、何をプレゼントしたら喜ばれると思う?」
ちょっと困っていた事をヨドコに尋ねた。
かづちとは、俺と同居している黒鬼のクロイカヅチこと黒井かづちの事である。
ドニー・ドニー鬼族連合艦隊最高戦力のひとりで『黒鬼の女傑』と呼ばれているようなオッカナイ女の子だ。
やはり春休みにドニー・ドニーに渡った時に出会ったのだが、護衛任務はその時で終わりだったはずなのに、
何故か地球まで追っかけてきてしまったのだ。
「花柄パンツとかどう?」
ヨドコが真顔で言った。シャコ人の表情というのもよくわからんが、真顔っぽくは見えた。
「いやいやいやいや、それは無いだろう」
さすがにランジェリーショップに男ひとりで入る勇気は無い。
いや、女性連れだとしてもちょっと勘弁願いたいものだ。
「そお?<こっち>じゃなきゃ手に入らないものだし、喜ばれると思うけどな。
 それにアイツ、今までそんなに女の子扱いされてこなかったと思うし。
 ああでも花束とかはダメかも。酒盛りをするに花を見ず、の連中だし」
酷い言われようだな、鬼。
にしても女の子っぽい贈り物か・・・アクセサリーとかも似合いそうにないしな。
いや、もしかしたら鎖とか腕輪とかピアスとかめっちゃジャラジャラさせてるのは似合うかも。
どっかの仏像っぽくなっちゃうかもしれないけど。
「あんま考えても仕方ないよー
 多分だけど、アイツなにを貰っても喜ぶと思うし。
 そんじゃあアタシは部屋で寝てますんで」
そう言うと、ヨドコはフラフラとアパートに向かって行ってしまった。
まあ、何でもいいか。


私が大学での講義を終えた時には、有馬様の姿は大学構内には無かった。
既に日も暮れかけている時刻。自室に戻ったと考えるのが妥当だが、待っていてくれても良さそうなものだ。
何とか頑張ってケータイとやらで文を送ると『悪ぃ、早めに帰ってた』との返答が来る。
どうも朝から私に隠れてコソコソとしているのが気に入らない。
これで私に誕生日の贈呈品とやらを準備してくれているのなら嬉しいのだが、有馬様にそんな気遣いがあるとも思えん。
もし贈られるなら、花柄の下着とかであろうか。ああ、いけない。ありえない。
そういうの買ったら国元に怒られるだろうか。さらしに褌で十分と言われるだろうか。
でもあれ欲しかったなぁ・・・
部屋に戻っても有馬の姿はなく、何故かヨドコがそこに居た。
「おい、シャコ女。有馬様はいずこに?」
私が声をかけたのは、本来隣の部屋の住人であるはずのシャコ人、ヨドコだ。
彼女は何故この部屋に入り浸っているのだろうか。邪魔くさい。
「ん~?コンビニに行くとか言って出かけたぞ」
ああ、またあのような騒然として不健全な雑貨屋に足を運んでいるのか。
「なぜ引き止めぬのだ」
「なんでだい」
「まったく使えないシャコ人だな。私も出かける」
「はいはい、行ってらっしゃい。アタシはもうちょっと寝てるから」
何故自分の部屋に帰らない!まったく腹立たしい。
私は即座に部屋を飛び出すと、屋根伝いに空を翔けた。
有馬様の行くコンビニはだいたい見当がつく。
イレヴンズ・イレヴンの前で、女袴のスソをおさえながら私は着地した。
さすがに有馬様以外に下着を見られるのは恥ずかしい。
店内の様子を窺うと、有馬様の姿が見えた。既に会計をしているようだ。
「んー、あと、肉まん3つください」
こちらの気も知らずにノン気なものだ。
有馬様が店から出てくるところを待ち構えて、私は話しかけた。
「有馬様、なぜ私を置き去りにして買い物に出かけるのですか!」
有馬様はドギマギされていたが、袋を掲げていった。
「いや、近所だし、かづちさんまだ帰ってなかったし。
 肉まん買ったから皆でたべよう」
「肉まんごときで買収されるような私ではない。
 そなたは私の事を何だと思っているのだ。まったく。
 そもそも、もうすぐ夕食の時刻ではありませぬか。
 今夜は肉料理でかまいませぬか?」
「今夜も、じゃないのか。かづちさんにオマカセするよ。
 毎日がハイカロリーライフな気もするけど・・・」


部屋に戻り、かづちさんと二人で肉まんを食べる。
普段は毅然としているのに、地球の文化に触れた時にそれが崩れるのを見るのが楽しい。
最初に肉まんを食べた時のあの破顔も忘れられないが、今も大差なくニコニコしながら食べてる。
が、すぐに表情が険しくなる。ようやく俺の部屋で寝ていたヨドコが目を覚まして肉まんを食べ始めたからだ。
「シャコ女、そろそろ自分の部屋に戻りなさいな」
心底イライラした様子でかづちさんが言う。
「なんで?」
ヨドコもわざとだろうといったすっとぼけた調子で言う。
「今夜は有馬様との大切な夜なのです」
「へぇ、ふぅん、大切な夜ねー
 お誕生日を二人っきりですごしたいってワケなのねー」
ニヤニヤとしながらヨドコが茶化す。
「た・・・誕生日など関係ない!」
かづちさんが怒り気味に言い返すが、完全に照れ隠しのたぐいだ。
あー、若干サプライズ感が薄れた気もするなこれ。
「多少は関係あるよ。はいこれプレゼント」
俺は懐に隠していたプレゼントをかづちさんに手渡す。
「え?本当に花柄パンツにしたの?」
「はっ・・・花柄!?そんな破廉恥なものはいけません!」
「いや、してない。かづちさんもそこまで否定しなくてもいい。とりあえず開けてみて」
かづちさんがドギマギしながら包みを開ける。
そこにあったのは、思いっきり可愛いらしいデザインをした腕時計だ。
鬼の女性は<向こう>では割と猛々しい恰好か、地味な格好をしがちだ。
かづちさんも初めて出会った時は、素性がまったくわからないほど厚着をしていた。
だから、案外とこういう『女の子っぽい』ものに憧れがあると踏んだのだ。
俺の予想は当たっていたようで、かづちさんは頬を赤くしたままフリーズしている。
(黒鬼なんで赤が目立たないが)
「命令されれば一人で1000人は軽くブチ殺すような女がプレゼント一つでこれか。
 乙女だねぇまったく」
ヨドコの皮肉も、今のかづちさんにはまったく届いていないようだ。
「はっ・・・あの、有馬様。
 こんな素晴らしいものを贈られても困ります。
 私は一体どれほどの返礼をすれば宜しいのです。
 よ、夜伽でよろしいのでしたら今夜にでもすぐ!」
「いや、そんなに高価でもないよこれ。落ち着いて」
「アリマさぁ、アンタも随分とチョロい女を見つけたもんだね。
 とりあえず誕生日パーティ始めようよ。はいこれ誕生日のケーキね。
 フォクシィゴールドって知ってるでしょ?神戸の有名スィーツ店。あそこで買ってきたの。
 ささ、皆で食べようじゃないか」
ヨドコが仕切ってテーブルの上が片づけられる。
かづちさんは不服そうだったが、ケーキを一口食べて機嫌もなおったようだった。
可愛いものだけじゃなくて甘いものも好きなのか。覚えておこう。
鬼って、そういう種族なんだろうか?
様相は恐ろしいけれど、寂しがり屋で人懐っこくて歌や踊りが大好きで、そういう事は聞いていたけれど。
「あの・・・本当に夜伽はよろしいのですか」
「鍛えてからにさせて」
これで、もうちょっと華奢だったら最高なのに。


○お題
「花束」「カロリー」「花柄パンツ」「明後日の方向・・・」


  • 微妙な三角関係になっていそうでまだなっていなさそうな三人模様が何とももどかしい。 大学生や亜人の生活感も賑やかで楽しい。 しかしこのままいくとどうあっても黒井さんと有馬は夫婦にならざるを得ない。単位だけは落とさぬように -- (名無しさん) 2013-05-26 16:58:04
  • クロイカヅチさん可愛いすぎるだろ!すっと夜伽って言葉でてくるけどそれかずちさんの願望なんじゃないの -- (とっしー) 2013-05-26 18:39:25
  • これタンゴじゃねぇしパンツだし!惚れっぽいなぁいいなぁ -- (名無しさん) 2014-08-09 03:39:50
  • 冒頭タバコくさいごみごみした部室の中で雀卓を囲む異種の面々が見えた。姿形を気にしないで付き合えるは大きな能力だなー -- (名無しさん) 2014-12-06 16:54:28
  • 種族が混ざり交じり合う日常が普通の日常として描かれるのはそれだけでも心躍るものがあります。複雑うれしい三角関係もむずがゆくなる光景。住む世界が違っていたり種族が違うことからの贈り物の選定基準というのも難しそうですね -- (名無しさん) 2016-10-23 18:08:04
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最終更新:2014年08月31日 02:05