ゲート祭。
1991年に地球と異界をつないだゲートの開門を祝う、世界規模の乱痴気騒ぎ。
日本のゲートのお膝元、六甲ポートアイランドの十津那学園も例にもれず
いや、学生ゆえの若さも相まって一番の混沌と化していた。
その学び舎の人気のない屋上。
不良人間、リーゼント龍人、身なりの良い
ノームの三人がいた。
そう、お馴染みの『彼ら』である。
「「カンパーイ!!」」
俺とドランは透明のプラカップを撃ち合わせ、一気に未成年が飲んではいけない金色のジュースを流し込む。
出店からスニーキングミッションでここまで持ってくるまでに泡は消えてしまっていたが
まぁ、いいか。こいつらと飲めるなら多少は我慢だ。
「くぅーッ!やっぱ隠れて飲むビールはうめぇ!」
「だよなぁ!しかもあっちのハーブだかなんだか知らねーがいいフレーバー使ってんじゃねーか、イカしてるぜ!」
「なんつーか身体が熱くなってきて!」
「腹の底から力が湧いてくる!
俺の感想にドランが続ける。寮で同室なので知っていることだがドランはザルだ。
しかも潰れるまでのスパンが長いのでこっちも楽しい。
「今なら新しい必殺技の三つや四つ、簡単に作れそうだ!」
「なにおぅ!なら俺は七つや八つ、朝飯前だゼ!」
二人で拳を構え、ニヤリと笑ったところでなんとなく違和感を覚えた。
こう、いつもならウォーチがあわてて止めに入り、クロトがけしかけるか宥めるかするのだが…
「ウォーチなら下だよ」
ニヤニヤ笑いながらスマフォを弄っているクロトに手すりの下を見ろと促され
俺とドランは言われるがままにグラウンドを見ると、その中央、リングの上で……
「あ」
「うっわー、モロに食らってら」
突如、リングに殴りこんできた猫人マスクマンにキックを見舞われダウンを取られるオチ・ムシャことウォーチ。
「かーッ!見てらんねーなウォー公!オイ丈児、助太刀にいくゾ固羅ぁ!」
「いいなそのアイディア!」
先ほどから熱くなってる俺たち二人。
こうなれば誰も止められない。一目散に階段を駆け下り、途中でどこかの貸衣装で衣装をかっぱらい、即席マスクマンとしてあの四角いジャングルになだれこんでやろうじゃないか!
そして明日の学内新聞の一面を俺たちが飾る
「こぉこはぁ!俺たちの場所だろぅがぁ!」
…はずだった。
駆け出そうとしたその先、屋上出入り口。
三人の狐人が俺たちと同じプラカップを手に立ちはだかっていた。
その顔は赤く、呂律も怪しく、俺ら以上に飲んでらっしゃるご様子。
「誰の許しを得てこの場に立ち入った?ここは我ら三兄弟のみに許された極上の場所ぞ!」
「貴様らのごとき貧弱な木っ端などそこらの屋台の影で十分だ」
しかも荒れてるよ、こいつら。
「なんか喧嘩売られてるみたいだね」
「つーか誰なんですかい」
ドランの小さな呟きに三人の狐耳がピクリと反応した。
「フッフッフ…どうやら我らを知らぬようだな!鈞、慶!アレをやるぞ!」
「おうさ!知らぬなら教えてやろう野蛮人!」
「遥か大延、南の衛り!」
「大賽王、仕えて治めて栄えさし、音に聞こえた磊令家!」
「まずは最初に構えしは!速き旋風(つむじ)を従えて、一度(ひとたび)蹴れば岩を割り!二度(ふたたび)蹴れば天駆ける!
磊令兄弟三男坊、慶・磊令(けい・らいれい)とは俺のこと!」
「続いてここに佇むは!武芸百般、エモノ千般!刀と向かいて此れを斬り、槍と向かいて此れを突き、拳と向かいて此れ砕く!
磊令兄弟次男坊、エモノ使いの鈞・磊令(きん・らいれい)!」
「そして最後に控えしは!知略謀略数知れず、拳の傷も数知れず!戦で鍛えた知と武を以って、この世の全てを統べる者!
畏れ、慄き、我が名を讃えよ!磊令兄弟長男坊、梁・磊令(やん・らいれい)と人は呼ぶ!」
ビシィッ!!
聞こえるはずのない効果音が聞こえた気がした。
「うん、何と言うかカンチガイってすごいな」
「ああ、すげえカンチガイっぷりだな。さすがの俺様もここまではできねぇや」
「二人とも、この場合はキチ○イでいいんじゃない」
相変わらずクロトは歯に絹着せない。
「聞ィこえているぞぉ、野蛮人!その言葉ぁ取り消してもらおうかぁ!」
「まぁ待て弟よ、ここで取り消されては我らの大義名分が無くなる」
「そうだぞ、慶。それに奴等はまだ名乗りも済ませておらん。王者たるもの、時に寛容になることも必要なのだ」
「た、確かに大兄者の言うとおりかもしれん…」
「さあ聞いてのとおりだ、野蛮人。名乗りを済ませるがいい。ただ弟は気が短い。早くせねば…」
「俺ら急いでるから、あとはどーぞご自由に」
「むぅ、ではこの屋上、自由に使わせて……ってなるかぁぁぁ!!」
何やら仲間内で取り込んでいるようだったので脇を通り過ぎようとした俺に慶とかいうヤツの回し蹴りが飛んできた。
物凄い速さで迫る蹴りを避けきれず、両腕でブロックするだけで精一杯だった。
しかも勢いは殺しきれず、そのまま二度三度とコンクリにバウンドしながら土煙とともに屋上のフェンスに突っ込んだ。
即座に立ち上がり、構える。残念ながら自前の木刀は寮の自室だ。しかも相手はステゴロ。ちょっと躊躇うわなそういうのは。
「丈児!」
「名乗るだけあっていい蹴りしてんじゃねーか!上等だ!その喧嘩買ってやらぁ!」
クロトの心配する声が聞こえたが、頭に血が上ってるのでスルー!
「ようやくその気になったか野蛮人!」
啖呵を切った俺の姿を見て、慶も臨戦態勢に入る。
その姿はどこか余裕があるようであり…
「クククク!躍字も精霊も使えぬ貧弱な種族!そして見たことも無い構え!」
見下されているようでもあり…
「可笑しい!可笑しいぞ!そのような貧弱な武でこの慶・磊令に挑むか!?よぉかろう!大兄者の言葉どおり王者として接してやろう!」
余計に俺の闘争本能を掻き立ててくれやがるなぁ!
「一撃だ!先ほどの俺の蹴りの分、一撃は受けてやる!」
「言ったな!後でほえ面かくんじゃねーぞ!」
猛然と駆け、相手との距離を詰める。
狙うは腹か?腕か?いや、頭だ!
身の丈は俺とほぼ同じくらい……なら!
「必殺!」
気合とともにコンクリを蹴って、宙に舞い、
「元原キィィィック!」
そのままヤツの脳天目掛けて飛び蹴りを放つ、が!
「そのようなへなちょこぉぉ!」
上段蹴りで迎え撃たれた。足の裏と足の裏とが衝突し慶の膝が曲がる。衝撃を殺された!
そして振り払われ、側方受身で勢いを逃し、立ち直る。
「やはり野蛮人は野蛮人か!折角の一撃を台無しにするとは!」
またも悠然とこちらに正対する慶。さて、どうするか…。
昔、親父に稽古をつけてもらった時はどうしたっけか。
その時の手を反芻する。
違う。さすがにありゃ対人間だ。相手は人型とはいえ、何が飛び出すかわかったもんじゃない亜人。
突拍子も無いもの、俺の身体能力、親父の教え……。
不意に僅かに視界が歪んだ。
ああ、そうだ。そういやビール飲んでたんだっけ。
視界をめぐらすと…既にドランは残った狐兄弟の片割れと戦闘を開始している。
素手格闘のドランに対し、いつの間に持ち出したのか狐人の手には木刀のようなものが見えた。
腹の底が熱くなる。いつも以上に指先あたりに何かが漲るのがわかる。
あのビール、ヤバいもんでも入ってたんじゃねえか?
必殺技勝負なんて言い出すくらいだもんな。
「…ああ、そうか!」
閃いた。
「どうしたぁ野蛮人!遺言でも思いついたかぁ!」
手にしたビールのプラカップを煽り、さらに酒気を増した慶がこちらに襲い掛かってきた。
「ンなわけねえよ!」
頭の中に出来た意味不明な数式、(俺の身体能力+親父の教え)×突拍子の無いもの!
つまり…!
「うぉぉぉぉぉ!」
再び気合を込めて、駆け、飛ぶ!
「必ィッ殺!」
勢いのまま前方宙返り!そして今度は左の飛び蹴りを見舞う!
「同じ手などとぉ!」
慶の対処もやはり変わらない!脚で向かえ撃ってくる!
靴を通して足の裏に感触が伝わる。
またも慶の膝が曲がる。
その瞬間。左足の力を最低限残して抜いて、そこを支えにして…
「元原!」
変わりざまに右足蹴りを放つ!
思惑通り、その蹴りは鈍い音とともに慶の金玉を捉えた!
「何ィ!?」
手を出さずにいた狐人、恐らく長男の方が驚愕の声を上げる。
だがな!まだ終わりじゃネーかんな!
この技には元になった技がある。
親父が稽古の合間に、と見せてくれた遥か昔の特撮ヒーロー。
赤いバイクに跨って兄弟と呼ぶ相棒ロボとともに悪に立ち向かう青年の得意とした『三段』蹴りだ!
つまり!
「飛竜!」
不意の一撃に悶絶する慶の股間を踏み台にしてまた宙へと舞い、
「三段キィィィィィィィック!!!」
ガードの崩れた頭へ今度は両足ドロップキック、トドメの一撃をお見舞いする!
これぞ新必殺技、名づけて「元原飛竜三段キック」!
即席にしちゃぁ上出来だぜ、俺!
「慶!しっかりしろ、慶!」
ドランから離れ、多分次男の方の狐人がノックアウトされた慶に駆け寄ってきた。
「貴様、よくも弟を!」
「まぁ待て鈞」
「しかし兄者!」
「慶の奴に慢心があったのだろう。気が短いからな。さて、野蛮人よ」
「ンだよ」
「まず一つ、宣戦を布告させてもらおう。血を分けた兄弟を倒されては黙って引き下がるわけにはいかんのでな」
長男も長男で輪にかけて偉そうだ。
「いいぜいいぜ、俺は買い専だからな」
「俺ぁいつだって喧嘩上等だオラァ!」
いつの間にか並び立っていたドランは鼻息荒く挑戦を受けてやる気満々だ。
「そしてもう一つ。これは詫びだ」
「はァ?いきなり何言ってやがんだヨォ?」
「我が弟、慶はまず貴様らを野蛮人と呼び、蔑んだ。慶に油断があったとはいえ我が磊令兄弟の末弟を倒したのだ。
その龍人も鈞と互角に打ち合い、端から見ればまるで神力に溢れんばかり、と言ったところか。
故に!その蔑称を取り消そうではないか!さぁ何と呼べばいい?好きなように名乗るがいい!」
芝居がかりすぎているその振る舞いに目を見合わせた俺とドラン。
もちろんお互いの目には呆れと、そしてどこかこのクソ偉そうな連中の目を明かしてやろうという魂胆が見えた。
「ケッ!名乗るたって、なぁ?丈児?」
「だよなぁ、ドラン。野蛮人で十分だっつーの!」
「な、なんと!兄者の広き王者の心を理解できんというのか!?」
「黙れや次男坊、俺たちに好きなように名乗れって言ったのはアンタの兄貴だぜ?」
「ぬぅ…!」
「ねぇ二人とも、誰か忘れてない?」
押し黙る次男、それを制する長男。
してやったりの俺たちに不意に声をかけてきたのはクロト。
ああ、そういやいたな。
「ごめんごめん、すっか忘れた」
「ほんと熱中すると周りが見えなくなるんだから」
「つーか坊ちゃん、危ないから隠れてて…」
「ストップ。名乗りの通りなら三男は蹴り技で、次男は武器使い。で、長男は?」
ドランの心配を流し、クロトが続けた。
「何っつったっけ?」
「すいやせん、覚えてねえです」
「『知略謀略数知れず、拳の傷も数知れず』だよ、ドラン。知恵比べなら…面白そうじゃないか」
「ハッ!なるほど!そいつはいいや坊ちゃん!」
俺たちの相談がまとまったちょうどその時。
「悪巧みは終わりか!」
見計らったように威嚇してくる次男の狐人、鈞。
その手には木刀、そしてメリケンサック。
「それじゃ選手交代で、俺はあの次男か」
俺は新必殺技の余韻の残る両足を軽く伸ばし
「気をつけろよ丈児、アイツまだ色々隠しもってるぜ絶対」
ドランは動きやすくなるためか、いつものスカジャンを脱ぎ捨て
「二対一はちょっと気が引けなくもないけど、ワクワクするね」
クロトは今まで口をつけなかった出店のビールを口に含み、メガネを掛けなおす。
不良たるもの、喧嘩は日常。
目の前に壁があったらブン殴る、気にいらないヤツ筋の通ってない事にウンと言ってやれるほど俺たちゃ人間出来てない。
それが不良だ、野蛮人だ。
階下、グラウンド、この学園に満ち満ちたいつもと違う、祭りの空気が背中を押す。
腹いっぱいに息を吸い、俺は天に向かって吼えた。
「さぁ!楽しい喧嘩の仕切りなおしだ!」
続く?
- ノリが男子校の仲間たちすぎて汗臭いが青春の塊。地球のアルコールは異種族にも効果あり? -- (名無しさん) 2013-06-30 19:31:01
- 男子高校生のおバカな日常って感じ。若さっていいね -- (名無しさん) 2013-06-30 21:27:37
- ネタがマニアックなのは置いといてこの面々は卒業したら燃え尽き症候群になってしまうんじゃないかってくらい毎日全力投球だな。異世界に帰るのかな -- (としあき) 2013-07-02 03:20:27
- 異種族に飲酒年齢が適用されるのかな?と一瞬考え込んだ(特に小人種)。 ミズハミシマ以外からも多種族が入っているのなら案外喧嘩や衝突は多いんじゃないか?と思ったり -- (名無しさん) 2013-09-07 12:36:57
最終更新:2013年06月29日 05:22