『戻れグラム3!帰投命令が出ている。それにお前の機の燃料はもうぎりぎりのはずだ。このまま飛べば帰投できなくなるぞ!!』
「うるせぇ!!あのトカゲ野郎は俺の仲間を叩き落としやがった上にアイツの鼻先には俺のおふくろ達がいる街があるんだよ!アメリカの空を守る天下の空軍州兵になった俺がここで尻尾巻いて逃げれるか!!!」
グラム3…ジョージ少尉はなおもがなりたてる無線を切って目の前のデカブツをしっかりと見据える。
それが本当は何なのかその時のジョージには分からなかった。
しかし、そいつはノースダコタの湖から這い出してきてそこら中で暴れ回り、撃墜のために一緒に出動した自分の仲間達を撃墜したばかりか、その汚らしい鼻っ面を故郷に向けている。
逃げるわけにはいかない。
空軍機は自分の部隊を含めて尽く落とされ一時撤退命令が出されて空に残ったのは運良く撃墜を免れた自分一人だし、地上から陸軍も対応しているが花火大会のように撃ち出されるかなりの数の対空ミサイルや砲弾が口から吐かれる炎や翼から生み出される衝撃波で撃墜されてダメージは今ひとつ…
あのまるでお伽話に出てくるドラゴンのような姿で全長100mはゆうに超えるだろう巨大なボギー(所属不明敵機、お化けの意)は初めほどの勢いは無くしているが未だジョージの故郷へ向けて飛び続けている。
「クソッタレ!なんつー硬さだよ。鱗に強化セラミックや劣化ウランでも混ぜてんのか?」
ジョージが悪態を吐きながら飛び続けるボギーを追い続ける。
燃料はギリギリ弾薬も殆ど撃ち尽くして、残るは20mm弾100発ほどとサイドワインダー2本、、おまけに最初に吐き出される炎を回避した時に壊れたらしいサイドワインダーが2本…運良く攻撃を回避し続けられているとはいえ機体のコンディションは最悪、なんとかボギーがこちらへ振り返らない限り尻を見つめたままガス欠になってしまうだろう。
『彼』は困惑していた…ここは一体どこなのか?と。
『彼』は遺跡で気分よく眠っていた所を奇妙な女型の小神共に叩き起こされ、それに報いを受けさせるために追いかけていたはずだった。
しかし、突然の衝撃の後で気づくといつの間にか奴らは消えて自分は見たこともない地に放り出されていた。
こんなおかしな場所は見たことがない。
精霊は自分の身の回り以外におらず、精霊の補助が期待できないので自重を支えて飛ぶだけで自身の力を殆ど割くはめになる上に、奇妙な石の塊達が地を這い空を飛び、元いた場所では食らったこともないような強烈な爆発の魔法や硬い礫を自分に浴びせかけてくる。
それでも初めは難なく応戦していた『彼』だが、あまりに相手の数が多く、非常に高度な戦術でこちらへ対抗して来ることから『彼』を鎧う堅固な龍鱗が次々と潰されて傷を負い始め、これはたまらんと『彼』はその一生で初めての撤退を始めた。
しかし、撤退を始めてから『彼』ははたとその事実に気がついたのだ。
一体ここはどこでどこへ行けば安全なのかと…
そして焦りと怒りと絶望と困惑と諦観をないまぜにしたまま『彼』は飛び続ける。
何度目かの地上からのミサイルの掃射がボギーの鼻っ面を叩いた時、やっと息が切れたのか奴の動きが止まった。
「グッジョブ!陸軍!俺もう泥食いなんて馬鹿にしねえ!!」
アフターバーナーをふかして口から煙を吹きながら地上の陸軍の方を睨むボギーに肉薄する。
「FOX2!くたばれトカゲ野郎!!」
ジョージが今まさに口を開け地上の陸軍へ火炎放射を行おうとしているボギーの横っ面に残りのサイドワインダーを叩きこむ!
爆発音と同時に凄まじい絶叫がジョージの機体を震わせる。
「ハハッ!ライターみたいに火を吹いてるのにお熱いのは嫌いかい?このクソッタレ!!」
開けた口の中にミサイルが飛び込んだのかボギーは口から盛大に血を吐きながら絶叫し、横をかすめて飛び去るこちらを睨みつける。
そして一瞬の後にこちらへ向かって猛然と突っ込んでくる。
「ッ!そうだ!良い子だ!こっちへ来やがれ!!!」
ジョージは街から離れた方向へ全力で飛ぶ。
自分の兵装はカラッケツ…ならば囮になって少しでも被害の少ない方向へ奴の進行方向を変えるしか無い。
ボギーは口内のダメージに苦しみながらジョージの後ろから炎を吐く、それを何とか急旋回で避ける。
掠る熱と衝撃で機体が軋む。
(まだだ…まだ落ちるわけには…どうすれば)
もっとコイツを人里から離さなければ安心できない、しかし自分の残弾も燃料も機体のコンディションもあまりにも心細く、この状態でマッハで飛ぶこちらを追撃できる奴を引き付けながら飛び続けることなど不可能だ。
(考えろジョージ、考えろ…どうすればみんな助かる?どうすれば……!)
ソレを思い出したのは奇跡か悪魔の囁きか、海軍に従軍していた彼の祖父が太平洋戦争でソレに遭遇し、彼にソレが恐ろしかったことと絶対に真似しないように言ったこと…
「…あっはっはっはっは…あるじゃねえか!今の俺におあつらえ向きのが!」
ぐちゃぐちゃと頭の中で思い出されたソレを彼は笑いながらすぐ実行に移した。
ボギーの炎を避けて逃げ続けたジョージの機体がいきなり機首を上に向けながらぐるりとターンしてボギーの方へ向き直り、アフターバーナーをふかせ猛然とその頭部に突き進む。
ボギーは今まで逃げ続けていた獲物がいきなり自分の方へ向き直り、突っ込んできた事で空中でたたらを踏んで、火炎放射で迎撃すべく口を開く。
「FOX3!」
開いた口めがけて20mmを叩き込みながらボギーの口へ突撃するジョージ。
ボギーは一瞬怯むがすぐに火炎を放射し始める。
「……そして、これがFOX4だ!トカゲ野郎!!!!」
炎が機体前面に広がる中でジョージはボギーに特攻をかけた。
キャノピーがすぐに炎で吹き飛ばされる。
炎に包まれるジョージ。機体が大きく軋む。あと少し…奴の口まであと少しなのに
(頼む神様!みんなを守る力を俺に…あと少し、あと少しでいいんだ!!!)
操縦桿を握り続けながら、彼は子供の時からまともに礼拝へも行かなかった神様へそう祈る…そして
『汝れのその願い、彼に代わって我らが引き受けた』
いきなり機体の前の炎が雲散霧消し、『彼』は驚きで目を大きく見開く。
そして、危険を感じて口を閉じる前にソレが『彼』の口内へ飛び込んできた。
大きな炸裂音と大地を震わせる程の絶叫…
異世界で空の覇者として君臨していた巨体が地に崩れ堕ちた。
「やあ、ご機嫌は如何かな?大佐殿」
「何だてめえらか…酒でも差し入れに来たのか?」
手すりにもたれかかりながらタブレットPCをいじっていた人物が、声をかけてきた者達に向き直る。
ここには似つかわしくない初老の紳士がそこに立っていた。
「それもだが、君等の虎の子がついに完成したと聞いてね」
そう言いながらどこからか取り出した琥珀色の液体が入った瓶を放る。
手すりの人物はそれを火傷で爛れたらしい痕の残る手で受け取り、反対の手でタブレットを紳士へ向けて放り投げる。
紳士はぐにゃりと手を伸ばしてそれを受け取り見入る。
「そうか、これが…」
「ああ、試験が終わってさっきグレーム・レイクから送られてきたばっかりの写真だ…
高い運動性ステルス性は言うに及ばず光学迷彩、無人機の無線操作、長距離誘導ミサイル…表の頭のおかしなドッグファイト機とは違うありとあらゆる最新技術を詰め込んだ我が国の本当の次世代戦闘機さ」
そう言って大きな火傷痕のある顔を歪ませて笑う。
「名前は決まったのかね?」
「ああ、アンタらにあやかった名前をつけようと思ったんだが人気がなくてね」
それを聞いてなんとも言えない顔をする老紳士の顔を見て、火傷痕の彼はクックックと喉の奥で笑いながら言葉を続ける。
「結局元々付いてた愛称を使うことになったよ。グレイゴーストってね…
なあ?相棒…意外といい名前だとは思わねえか?」
彼がもたれていた手すりの向こうを見上げる。
そこには、特殊鋼の杭で全身を縫いとめられ蘭蘭と光る目で20年来の宿敵であるジョージを睨みつける焼けただれた口の『彼』がいた。
蛇足:かなり前に話の筋だけ書いていたのを手直しした物です。非常に独自設定の多い話ですので劇中劇扱いでお願い致します。
また
【とある酒場の客の昔話】の設定を少しだけ勝手に使わせて頂いています。すみません作者様。
- 龍の対物防御力が単に頑丈な体からなのか異世界の力が作用しているのかは興味のある処。 新兵器も単に科学の粋を集めたのか異世界の何かが加味されたのかも気になる処。 ファーストコンタクトは災悪の結果だったが、この先に合衆国の向かう未来の色は? -- (名無しさん) 2013-07-03 03:11:59
- 恐らく人と人との戦争が起こってはいけないことになっているだろう地球で全力で戦い倒すべき敵が現れたのは幸か不幸か? -- (としあき) 2013-07-05 22:55:21
- もしまた再びアメリカの空にドラゴンが出現したら人間はどう動くか? -- (名無しさん) 2014-12-12 22:21:37
最終更新:2013年07月03日 03:09