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【とある酒場の客の昔話】

ふぅむ・・・想像以上に美味い。
メニューが無い店だなんて冗談じゃあないと思ったが、これは意外だ。
この酒もいい。バーボンのようで全く違う風味だ。
合衆国から離れて異世界に来て、こんな美味い酒を飲めるとは。
死んだ連中にも飲ませてやりたかったもんだ。
店の名前は、さて、何と言ったかな。
入る前にちゃんと看板を見ておけば良かった。

ん?なんだいお嬢さん。
ああ、私かい?そうだとも。地球からの旅行者だよ。
そうだな。あまり面白い話は持ち合わせていないなぁ
仕事ね。軍人だよ。合衆国海軍だったんだ。
いやいや、船長なんてほど遠いよ。CICで船務長をやってたんだ。
CICって言ってもわからんか。船の底にある騒がしいところさ。
その頃の話を聞きたいって?随分と妙な事を聞きたがるお嬢さんだ。
俺は若い頃から海軍の船乗りでな。
入隊した時からずっと軍艦に乗り続けていたんだ。
それもエアキャリアーばっかりだったよ。
エアキャリアーがわからない。ううむ、どう説明すればいいかな。
そもそも航空機もわからんだろうからなぁ
ワイバーン?
ほう、空を飛ぶ竜か。まあそんなところだ。金属製だがね。
そいつらを山ほど積んだ船だよ。そう、凄く大きな船だ。

あの時も私はエアキャリアーに乗っていたよ。
忘れもしない、1991年1月16日。
ニミッツ級空母ジョサイア・タットノールに乗っていたんだ。
うん?そうそう、キャッスル級と同じっくらいの大きさだ。
驚いたろう。そんなフネが地球には何十隻、何百隻もあるのだ。
でも、そのフネは沈んでしまったよ。アイツの手によってな。
ISE‐01・・・君らはナーグジャハトと呼んでいるんだったかな。
アイゼンヴァンド?まあどちらでもよろしい。
我々はあの邪悪極まる龍によってひどい目にあわされた。
その事実だけは変えようのない事だ。
それからだよ。合衆国がどんどんとおかしな方向に進んでいったのは。

今まさに開発を終え、本格的に実戦投入していくはずだったステルス技術すら捨て、
合衆国はやっきになって龍殺しの兵器開発に乗り出してしまったんだ。
オペレーション『龍殺し』ってヤツだな。
当時は混乱のさなかにあり続けたもんだ。
退役していたアイオワ級戦艦も復帰させて主砲をゲートに狙いを定めるし、
A-10すら現役に留めて龍の再来を待ち構えていたもんだ。
わかりにくい?
ああ、すまんかったね。専門用語が多すぎたようだ。
要するに、軍隊総出で龍をやっつけようとしてたって事さ。
合衆国は負けっぱなしではいられない国なのさ。
ははは、そうだな。龍と国とじゃ仲良くは出来なかっただろうな。
あの頃はみんなハラワタが煮えくり返ってたからね。
ああ、そうじゃない。そういう言い回しだ。
内臓の煮込み料理が無いわけではないがね。
ああ、別にマスターに注文しなくても・・・行ってしまった。

ん?おお、ありがとう。羊毛竜の内臓煮込み?ふむ・・・
ううむ、クセはあるが美味しいじゃあないか。
ほう、イストモスの伝統料理なのかね。
これはぜひ、イストモスにも行かなければならなそうだな。
うん?さっきの話の続きだって?たいして面白くもなかったろう。
そうかね。それならば続きを話そうか。
合衆国はその後、陸、海、空、海兵隊の全てで使える龍殺しの機体を造り始めたんだ。
F-35という名前なんだがね。
開発資金が足りなくて、他国にも協力を求めたいわくつきの機体さ。
それでもなんとか完成させたんだ。
マルチロール機『ドラゴンスレイヤー』、艦載機型『サラマンダー』
強行偵察型『ドラゴンクエスト』、迎撃型『ドラゴンバスター』・・・
思いつく限りの龍迎撃機をひたすらに開発し続けたんだ。
なにせ、そんなおっかないものはゲートを通してもらえなかったからね。
そして合衆国にとって史上最悪とも言えるあの悲劇が訪れたんだ。

ISE‐01の死亡。
そもそも合衆国では、亜神とも言える超常の者を殺せるのかどうかすら疑問視していたのにだ。
ひたすらにやっきになって追い求めていた獲物を、合衆国は失ってしまったんだ。
ちょうど1年前の事だったかな。そんな無慈悲な情報がCIAからもたらされたのは。
それからは合衆国はすっかり情熱を失ってしまって、気がついたら大半の国民が
異世界への怨念みたいなものもスッカリ無くしてしまったって顛末さ。
今でも根強く批判している者もいるがね。
でも、私みたいに目的を失って、こうして軍を除隊してこっちに遊びに来ている者もいるのさ。
来てみれば、随分といいところじゃないか。
映画で見ていたような、合衆国の開拓時代を思わせる風情が山ほどある。
銃を持ち込めなかったのは不安で仕方ないがね。

うん?おかえしに面白い話を教えてくれるのかい。どんな話だね。
まだ生きている?龍は生まれ変わる・・・のかい。
そうか。アレはそういう生き物なのか。
ふぅむ・・・いや、もうよそう。
私はもう決めたんだよ。新天地で船乗りになろうかってね。
明日、港に行こうと思うんだ。
うん。そうだね。
寄港するたびにこの店に来るよ。お土産話を山ほど持ってね。
今度はもう少し、楽しい話ができるといいな。


  • 料理美味そうだな~。地球の兵器では勝てない竜を倒すために異世界でグリフォン乗りになって竜を求める軍人とかいそうだ -- (とっしー) 2013-06-24 23:08:54
  • 話の中身をどこまで理解できているかはさておいて異世界にやってきたら脅威の竜に似たようなのがあっちこっち飛んでたらもうどうでもよくなって清々しい気持ちになれそうアメリカ人 -- (としあき) 2013-06-25 12:39:20
  • 強大な竜の出現で戦々恐々もするけど本気を出していい敵の出現で燃えてた層もいそうだわアメリカ -- (名無しさん) 2013-06-30 19:24:46
  • 軍関係の動向がいかにもアメリカっぽくてあり得そうな展開と用語で心躍った。 未知との遭遇によって始まるのが交流だけではないとその境遇や国民性など考えるところも多かった -- (名無しさん) 2013-09-07 12:21:52
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最終更新:2014年08月31日 02:08