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【ここで終わろうと思った…ら?】

「大学は落ちたけど就職はしっかり決まったからさ、一足早く卒業旅行ってのに行ってくる」
 不安そうに見送った父母の顔は忘れたくても忘れられない。
── 嘘だ
 学校斡旋の就職面接先の全てに物腰丁寧お断りされた。 言える訳が無い。
 震災で家屋ほぼ全壊からの苦しい生活の中でも塾や道場へ通わせてくれた両親。 言える訳が無い。
 何もかも失敗続きでも 「頑張ればなんとかなるから」 と言ってくれたのに。 言える訳が無い。

植物の国と言われるエリスタリアには、ずっと行きたいと思っていた。 細々と貯金もしていた。
震災すぐに家の助けの名目で、学校の菜園を使わせてもらっていた。 野菜を育てていた。
やめるまで一度も白星の無かった空手、三級合格せずに終わった珠算、
良いとこなんて無い俺のたった一つ褒められたのが野菜作りだった。 野菜や植物が好きになった。
 接していても口五月蝿くも無ければ見たくも無い表情も見せない。

「旅行ですね。 では、翻訳加護の度合いをお選び下さい」
イギリス経由の外国格安ツアーに潜り込んでやってきたエリスタリア。
誰もがうっとりするような受付嬢だが、その笑顔がどうしても作りモノに思えてしまい直視できない。
「高度な翻訳加護の場合は、エリスタリア屈指の精霊が滞在中に貴方をサポートいたします」
「あ、あの…高度じゃない翻訳加護の場合はどうなるんですか?」
「必要最低限の翻訳加護の場合は、僅かに樹力の篭る腕輪などを身に付ける事になります」
少し不思議そうな表情でこちらを伺う美女に視線は合わせない。
「じゃあ、その必要最低限のでお願いします」
自分のためにやってきた異世界で、何故煩わしい会話が付き纏うのを好しとするのか。
 最後は好きなものに囲まれて、それだけでいたいから。

「迷った…?」
【異世界の森林を散策】という金のかかっていないツアー演目の最中だった。
ぞろぞろと進むツアーの中でもずっと 「一人になりたい」 とばかり思っていたら、
気が付けば周囲には誰もおらず、見た事も無い木々に囲まれ、聞いた事の無い獣の鳴き声が響く。
味わった事の無い五臓六腑に沈み込む緑の香りと瑞々しい空気。
静寂の中でも周囲よりちらりちらりとこちらを見つめる視線。
枝葉の天井から漏れ射す陽光が、森の闇を掻き混ぜる。
── 気が付けば、我武者羅に走っていた
ただただ恐怖していた。 求めていた場所にやってきたのにも拘らず。
大好きだった植物に囲まれているのに、心は一人ぼっちで。
 両親に何も返せずに終わってしまう事が悲しいのか。
 一体植物の何を知った気でいたのかという絶望からなのか。
 せめて最後を迎えるのなら、誰かが側にいて欲しい。

 「すみませんっ! ちょっといいですか?!」

 何故そう口走ったのか
 何故その大樹を曲がろうと思ったのか
 どうして足元の“それ”を見つける事ができたのか
眼下で蹲っている、碧に光る影に尋ねていた。
赤子程の大きさではあるものの、姿は少女であり、身体に多くの葉を纏っている。
背より伸びる羽は項垂れてはいたが、目を引く透明感がある。
目を丸くしてかがみ固まっているこちらを見上げた小さな少女の瞳には、大粒の涙が溢れていた。

 「誰? どうして私を…?」
輝く枝を抱える少女の表情は今にも崩れそうなのに、
出会えた事に嬉しいと、安らぎを感じている自分がいた。

砂塵!轟音!破壊衝撃!!
木々枝葉を折り抜いて、周囲に落下する巨大な塊一つ二つ三つ!
「~ッガ! 来て早々に発見撃墜とは想定外! ガッ!最後に笑うのはこのワタシだッ!」
咄嗟に少女を覆い庇った視線の先で、落下でできた穴より緑の巨大蟲の背に乗り現れたのは ──
「蜂? …ジガバチの…人っ?!」
全身を現したのは毛を震わせて口牙をがち鳴らす油虫の怪物と、
千切れ刺々しい白衣に身を包み、二対四本の腕を天上へ翳す、
黒光りした甲殻と爛々と輝く複眼を湛える蜂人であった。
「樹護騎士共がやって来る前に世界樹へと向かうぞッ! 立て!立て!」
妙にカン高い声を張り上げると、もう二つの穴から同じく油虫が這い出てくる。
「うわぁっ!」
隆起する地面に押し飛ばされて思わず声が出てしまったのを、蜂人は目ざとく捕捉する。
「ーーッガ!? 目撃者とは想定外! これ以上失態を重ねてはハニンム様にどんなお叱りを受けるか分からん!」
仰々しく大げさに頭を三本の腕で抱え、残った一本でこちらを指す。
その行動の意味は、彼が直後に叫んだ台詞が聞こえなくとも理解した。
三匹の内の一匹が八本の幹の様な脚を激しく上下、立ち並ぶ樹木を体で蹴散らしながら迫ってきたのだ!
「何何だってんだーっ! これーっ!?」
駆ける!駆ける!駆ける!!
胸の中の温もりと、背後から突っ込んでくる巨体。
どう考えても絶望なのに、“諦め”は微塵も無かった。
唯、只管に生きたいと思う願う走る。
今の今まで終わっても良いと思っていた人生の中で一度も湧き上がったことの無いそれは ──

  “生きている”という実感


人生の終着駅を求めてエリスタリアにやってきた青年の
思いもよらない出会いと遭遇は、一体彼にどんな人生を歩ませることになるのか?

  • 異世界自殺しなくてよかったな。しかし良い両親すぎるので親孝行はしてほしい -- (とっしー) 2013-07-11 22:20:03
  • 青年の境遇と人と接しようとしない性格に読んでて凹みかけたけど少女と出会ってどう変わるのか楽しみ -- (名無しさん) 2013-07-11 23:44:11
  • これで終わり?序章なのかな? -- (名無しさん) 2013-07-15 08:19:13
  • 地球に戻る頃にはたくましくなってそう -- (名無しさん) 2013-07-18 23:12:59
  • 終わりと始まりが一緒にやってきたような第二の人生の続きが気になる -- (名無しさん) 2014-04-23 05:50:57
  • 人生失敗したり絶望して全部かなぐり捨てて異世界で新たな人生模索する!という再出発者はそこそこ問題になってそう人口 -- (名無しさん) 2016-11-08 00:44:49
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最終更新:2013年10月19日 11:12