【砂漠の薔薇のトゲの店主】
太陽がそろそろ地平線の彼方に沈もうかとする少し前、昼間の猛烈な日差しと暑さがようやくおとなしくなってきた頃合いに、砂漠の都市ディセト・カリマにやってきた一隻の砂船の姿があった。
その船は静かに船着き場に到着すると、砂の海を進むための推力となった風の精霊を散らし帆を畳む、定期の連絡船ではなく有力な商会の所有であることを示すように船体のあちこちにはそれを示すサバーニャ商会の印が見える。
「さぁさぁ!急ぐニャ!日が暮れる前にこの商品は依頼人のところに持っていくニャ!」
船着き場に船が停まると船着き場に据え置かれた木製のクレーンが動き始め船の中からいくつもの木箱が運び出される。
「そっとニャ!とても繊細なものニャから慎重にニャ!」
船から運び出された木箱はそのまま船着き場にやってきた荷獣が牽く荷車にギシリと音を立てて載せられていく。
荷獣の牽く3台の荷車それぞれに木箱が積まれると、それらはゆっくりとディセト・カリマの中へと入っていった。
「それじゃ、これが今回の納品の目録ニャ」
そう言ってサバーニャは品物の名前や品数などを記した上等な羊皮紙を取引相手に手渡す
「はいはい・・・とりあえずサインは品物を確認してからでいいかな?」
「もちろん問題ないニャ」
それを受け取ったのはこのディセトではあまり見かけることのない地球人の店主、名前はリチャード・ウォンと言いサバーニャとはもう10年以上の取引相手だ。
ディセト・カリマの中心通りから一本裏に入った通りにある銃砲店「砂漠薔薇のトゲ」の経営者リチャードは倉庫スペースに運び込まれた木箱をバールのような何かでこじ開けて中身を確認する。
「イズマッシュ社製AK108が3に、5.56mm NATO弾対応のマガジンが10ね」
箱の中に防水と破損防止のために詰められた木屑の中から厳重に梱包された包みを取り出し、それを確認する。
「こっちは・・・C-4爆薬10kgに5.56mmNATO弾6000発か」
同じような大きさの木箱がいくつも積まれているが、こちらは上に置かれた箱だけ蓋をあけて中身を確認する。
「それを運ぶのは肝が冷えたニャ、いたずら好きな火や風の精霊に何かされたらそれこそ命がいくつあっても足りないニャ、精霊除けのルーンで散らして専用の荷車を使ったからどうしても値段が張るのは許してほしいニャ」
「わかってますよ。こっちもこういうのはサバーニャさんに頼むしか無いんですから必要経費として納得しています」
そう言ってリチャードは次々と箱の蓋を開けて中身を手慣れた手つきで確認していく。
リチャードが経営する銃砲店砂漠薔薇のトゲは主に砂漠を越える商隊に防衛装備として銃器を販売している店だ。
広大な砂漠を回遊して獲物を探す肉食で巨大なリザードワームを筆頭に砂漠には多数の脅威が存在している。
時にはモンスターだけではなく商隊を狙う盗賊団などもそれに加わり、砂漠を越えるということは様々なリスクを孕んでいる。
商隊は基本的には傭兵を複数雇い入れて護衛に当たらせるが、どうしてもそれでは心もとない時がある。
そうした場合にリチャードの店で特別な許可を得た物だけが必要に応じた装備を調達できるというわけだ。
「そしてこれは・・・お!やっとコレが来たかぁ!」
運び込まれた箱の中で一際大きな木箱を開け、その中に納められた明らかにこれまでとは重量感の異なる銃器に思わず声を上げる。
「それが今回の一番の大物ニャ、前から注文を受けてたニャが、ようやく持ってくることができたニャ」
「ファブリックナショナル社製ミニミ軽機関銃!心強い分隊支援火器!ようやくコイツが来たかぁ・・・」
「それはそんなにすごい物なのかニャ?」
「実際に試してみないとはっきりとは言えないけど、コイツならリザードジャイアントワームの頭部鎧殻も貫けるはずってくらい頼もしい奴ですよ」
「それはすごいニャ・・・」
リチャードの簡単な説明に思わずサバーニャが感嘆の声を漏らす。
砂漠最大の脅威であるリザードジャイアントワームの頭部には地中で得た鉱物を体内に取り込んで形成した極めて硬い鎧殻と呼ばれる外骨格が形成され、これが盾の役割を果たして前面からの攻撃はあまり効果が無いということが知られている、その外骨格を貫くことができる武器というのだから、この銃器がどれだけすごいかはそれ以上説明不要というものだろう。
「あとはスタングレネードが20に催涙発煙が10か」
「注文の品全部とは言えないニャが、
新天地とドニーで手に入る物は全部持ってきたニャ」
「ミニミを持ってきてくれるのはこっちの世界の商人でもサバーニャさんくらいなものですよ、それに弾薬も扱いがデリケートですからね」
「そう言ってもらえるとうれしいニャ」
猫人の商人は表と裏が激しいことで知られているが、この鯖柄模様の猫人商人は尻尾をユラユラと揺らして本心から喜んでいるとわかる。
羽ペンで羊皮紙の空白となっている箇所に自分の名前を記す。
次に親指の平を薄く切りつけて血の玉がうっすらと浮かんだらそれを名前の横に押し付ける。
その瞬間、羊皮紙の中からリチャードの腕に何かが湧き出し巻きつくが、それは次の瞬間まるで幻であったかのように消え失せる。
「はい、それじゃこれで契約完了ですね」
「どうもニャ」
リチャードから羊皮紙を受け取ると、サバーニャは手慣れた手つきでそれをクルクルと巻き取り金属製の筒に収める。
「サバーニャさんは今晩はディセトに?」
「そうニャ、明日の朝一でもう一件の商談を片づけてから帰るニャ」
「ほとんどトンボ帰りで大変ですね」
「休息は船の中でイヤでもたっぷり摂るから問題ないニャ」
サバーニャはニャゴニャゴと喉を鳴らして笑う。
「それじゃ、また何か必要になったらコマルクル・カ・ムールの店に手紙を出してほしいニャ」
「ええ、そう間をあけずにまた色々とお願いすると思います」
そう言ってリチャードとサバーニャは握手を交わし、サバーニャはリチャードの店を後にした。
- 亜人に軍装備が扱えるかどうかはおいといてもこういう取引は王都側に見つかるとやばいものなのでは?ディセトを狙う勢力はそんなにも強力なのかな -- (としあき) 2013-09-06 00:43:48
- しっかり使えればかなりの威力と牽制になるだろう銃火器。手元においておくのは軍人として培った能力を鈍らせないためというのもありそう -- (とっしー) 2013-09-14 21:20:20
- 異世界にも段々銃火器が入って来てるのね。精霊散らしのルーンは色んな場面で需要ありそう -- (名無しさん) 2013-10-09 01:53:15
- あとサバーニャ商会のバイタリティと品揃え凄い。異世界全土を駆け巡る -- (名無しさん) 2013-10-09 01:55:04
- 地球製品の流入ルートが気になると同時に地球にも異世界からの流入ルートがあるのではと思いました。異世界ならではの砂漠の風景と精霊などに対応した物の扱い方など交流の一歩先を見た気分になりました -- (名無しさん) 2017-04-09 18:00:51
最終更新:2013年09月06日 00:39