ミズハミシマが一つの国として生まれ変わったと言っても過言ではない乙姫と龍神の出会い。
今回はミズハミシマでは誰もが知り語れる伝承を紹介したいと思います。
それはまだ、恵み豊かな地であれど島と海に住む者達が龍神の自由奔放で横柄なる破壊に畏怖と不安を抱いていた頃でございました。
そう大きくはなくのどかなる漁村に、角の無い鬼人が流れついたことが全ての始まりであります。
その女 額に角はなく身体は細く 長い黒髪を海水に浸し気を失いけり
“国起物語”ではこの時、異世界(地球)より流れついた乙姫を見つけ介抱したのは鬼人の漁師と海女の鱗人の夫婦と記されております。
意識を取り戻したものの、彼女の言葉は誰にも通じることはなく戸惑いの中で気は沈みがちでありましたが、
漁師夫婦の手厚い看護と優しさ暖かさにより次第に元気になっていきました。
僅かながらではありますが言葉も交わせるようになり、自らを“オト”と名乗りて甲斐甲斐しく夫婦を助ける気立ての良い娘として村で評判になった頃でしょうか
それは突如やって参りましたのでございます。
眼光は見るもの全てを石に変えれり 息は荒ぶりて全てを薙ぎ払い その体のうねりは雄々しく激しく地を削るものなり
空が瞬に嵐に覆われ雷が轟き叫べば海は荒れ狂う それは龍神が現われたる報なり
かつてのミズハミシマの民は、空の変わり様を以って龍神の出現を知り避難し、唯唯破壊あそばせる嵐が過ぎるのを待つのでございました。
漁から帰ってきた夫婦をオトが出迎えた頃でありましょうか。雨と風が村とその一帯を覆い、降り注ぐ無数の雷が村民を閉じ込めたのでございます。
諦めと絶望の中で逃げ惑う民にありて、夫婦はオトだけでも何とか助けようとしたのですが、オトはその意思に反して一人海へと走ったのでございます。
向かいくる風を掻き分け轟く咆哮にも負けず、オトは遂に海へと突き出す磯の岩上へと辿り着きました。
すぐ正面には海原を弾き混ぜる巨大な龍神が迫ってきます。
オトを引き戻そうとして皆から止められた夫婦共々、誰もがオトはもう助からないと村はずれの林から見ておりました。
皆の見つめる先、雨と風とが荒れ狂う中、オトは舞を歌を始めたのでございます。
海より放り投げられる岩は寸での所に落ち 空裂く雷は周囲を砕くに終わりけり 襲いくる災がオトに当たらなかったのは偶然であったとしても その眼前に龍神が降りたるは必然でありにけり
演目“乙と龍”のクライマックスで入る口上でそうある様に、嵐の中で舞うオトの前に龍神が奈落よりも深く広い大口を開けて参ったのでございます。
今にも顎を合わせ様かという龍神にそっと近寄り鼻先にオトが手を差し伸べ触れた途端、一体何がどうしたのでしょう
眩い蒼金の光が弾け空は忽ち晴れ広がり、海は全くの平穏に戻ったのでございます。
誰よりも早くオトの元に駆け付けた夫婦の目の前には、眩い光を放つオトと、その手を取る人の身になられた龍神がおりました。
二人を見上げる夫婦に優しく微笑み手を振ったオトは龍神と共に海の中へ消えて行き、それ以降は龍神による荒ぶる国崩しははたと止んだとされております。
それから程無くし、海の中に竜宮城が建てられ、乙姫はそこで何代にも転生を重ねミズハミシマを守っているのでございます。
最後に、嵐の中でオトと龍神が邂逅した岩舞台を紹介して終わりたいと思います。
── 乙姫誕生の場所とも言える岩上は、“ねんころり岩”と呼ばれる岩舞台
その名の由来はオトが舞い歌った中の一節とも言われている
特別な装飾も警護も無く、今ものどかな漁村の海先に佇むその場所は誰でも訪れることができ
訪れればその心の中に優しい風が通ると言われている。
誰もが畏怖を持ち逃げることしかしなかった龍神に対して一人、彼の生き方に手を差し伸べた乙姫
ミズハミシマを作った奇跡は、この岩舞台に収束したのである ──
ミズハミシマの国としてのはじまりである乙姫と龍神の出会いを想像しました
- 乙姫とサミュラが異世界の慈母神ツートップだと改めて認識した。別れを繰り返しても優しさを失わないオトの心の強さに竜神も一目惚れ? -- (とっしー) 2013-11-08 01:14:02
- 転生して生まれた乙姫の寿命は人間と同じくらい?どれくらい昔に異世界に転移したんだろう -- (名無しさん) 2013-11-12 20:15:09
- 大体スレで出てきたオトヒメネタをまとめるとこんな感じになるんだろうなと。龍神が自分以外の誰かに触れられたと実感したのはこの時がはじめてだったりしてね -- (としあき) 2013-11-12 22:33:00
- 龍神の一目ぼれだわこれ -- (名無しさん) 2014-04-17 23:21:30
- 異世界の国の成り立ちに人間が関係していることってひょっとして多いのか -- (名無しさん) 2014-08-09 03:21:33
- 転生を繰り返す乙姫がもし日本にいたころの記憶が残っているのならミズハミシマと日本が交流一番乗りというのも納得する -- (名無しさん) 2014-12-06 16:35:57
- 乙姫がやってきて平和になったのなら乙姫がいなくなったら逆戻りって考えたらミズハミシマの民は色んな思いがあるんだろうなって思う -- (名無しさん) 2015-01-21 01:21:30
- 地球より異世界に飛ばされて一人の気持ちを知っている乙だからこそ慈愛を越えた手を同じく世界に一人である龍神に差し伸べることができたのでしょうか。それも乙に接した優しい人たちあってのことなのかなとも思いました -- (名無しさん) 2017-10-15 18:12:59
最終更新:2013年11月06日 14:41