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【その男、もーほーにつき】

 菊池一文字は体育教師である。
 十津那学園で教鞭を持つだけあり、個性的で柔軟でリベラルな人物だ。体育教師なのに教鞭とかムチからヤバくね? とかも物の例えではあるが個性である。

 一文字は体格の日本人にしては規格外に恵まれた身体で、上背もあり胸の厚みも充分で手足の筋肉の質も高い。
 だが日本人らしく足が短いため、筋肉ダルマと生徒たちからは揶揄されていた。

 その低重心な体型と恵まれた体躯により、レスリングでは国体出場を果たすほどだ。今では十津那学園のレスリング部顧問を行っている。

「なぜ、ワシが校門を出たり入ったりしているのか?」
 筋肉ダルマに問われた男子生徒が、心底面倒くさそうに見下した目で答える。

「ホモだからじゃね?」
 舐めていた棒付き飴を下品に噛みながら、男子生徒は一文字の前を素通りしていく。

「な……っ! 確かに校門に入れたり出したりというのは……ってちゃうわ! 遅刻しそうな生徒のケツに挿……ケツを追い立てるためじゃ! とっとと教室まで走れ!」

「へいへい」
 棒付き飴を舐める男子生徒は、一文字に追い立てられ逃げるように校舎へと走っていく。
 遅刻指導は一文字の日課だ。ただ今日は特別落ち着かない。それにはわけがある。

「いつになったら登校してくるんだ、晶くん!」
 一文字は動物園でストレスを溜めたライオンのように、校門付近を撫で回すようにウロウロとし始めた。
 うろつく教師を避けて登校する生徒たちが途切れた頃、その少年は駆けてきた。

 淡い栗色のマニッシュショートカット。優しく中性的な顔立ち。無垢で華奢な身体は男らしいさがかけている。かけ方にも何処か繊細さがあり、見るものの心まで弾ませる。
 生徒の名は鵤木(いかるぎ)晶(あきら)。
 男子の制服を来ていなければ、女の子に見間違えても仕方無い。そんな少年だ。

「やっと来たか!」
 一文字は待ちわびたと両手を広げ、校門の前で立ちはだかる。軽やかに跳ねる髪を弾ませ、晶は驚いて立ち止まった。
 驚く晶を見下ろし、一文字は興奮気味な叫ぶ。

「今日! ついに! 完成したんだよ!」

「え? ……ああレスリング場とトレーニングルームですか?」
 一文字は晶をレスリング部に常々勧誘していたが、部室がないという理由であまり色よい返事を貰うことができなかった。

「そう! 完成したばかりの武道館の一角! まだ誰も入っていないその一室は、まるで少年の汚れを知らぬ……いや聖職者として少年は不味いな。そこは汚れを知らぬ少女のような……いや、これもいかんな。やっぱり少年……」
 以前は貧弱な晶を鍛え直すと言って一文字は誘っていたのだが、今は邪念が口から漏れて仕方無い。

「すみません、先生。話進めてもらえますか?」
 遅刻しかねない時間なので、晶は一文字を急き立てる。

「あ、ああすまん。とにかくキミのような生徒こそが最初に入るに相応しい。そこには真新しい設備が並び、ビニールを剥かれるのを待っている。それは少年がまだ剥いたことの……いやそれは聖職者としていかんかっ! 未だ肌を晒さぬ少女のよう……いやいや、これこそいかんな。やっぱり、少年が皮を……」

「先生怖いっ!」
 晶は小さな身をさらに縮めて、一文字から距離をおく。そのまま教師からの危ない視線から身を守るように、胸を隠すような仕草で身構える。

「い、いやすまん。とにかく今日の放課後に武道館のレスリング部室に来てくれないか……」

「……わ、わかりました。と、友達も誘っていいですか?」
 引き止められて遅刻したくない一心で、晶は一文字の要望を受け入れてレスリング部へ顔を出すことを約束した。

「待っているぞ! 晶くん!」
 校舎へと走り去る晶のお尻……背に一文字は大きな期待の声をぶつけた。


    *

「ついに……この鍵を挿し……差して挿れる……入る時が!」
 一文字は武道館の一角に作られた真新しいドアの前で、鍵を片手に感激で打ち震えていた。

「この塗装の匂いも初めての少年……いや、教師としてそれはいかんな。初めての少女の香り……いや、やっぱりいかんな。ここはやはり少年の香りの如く思えてならない。この先にはいずれ、努力の汗で染まり香り立つレスリング場が……。そこへ初めて挿……入る私は正しく少年に汗の匂いを染み込ませる初めての教師であり……いやこの表現はいかんな。やっぱ少女に……これもいかん。やっぱ少年……」
 一文字はぶつぶつと言いながら、鍵を差し込みドアノブを回す。
 開け放たれた先に、未踏のレスリング場……。があるはずだった!

 入室した一文字の視界に、突如として二つの双丘が飛び込んできた。

「おわっ!」
 咄嗟に反応したのは、レスリングを幼少から重ねてきた一文字だからこそである。
 二つの双丘を躱し、一文字はその主たる人影の筋肉質な太ももへと手を伸ばす。

 腰で持ち上げるのではなく、足で持ち上げる。腰は差し入れ、背筋で投げる。
 しかし襲いかかってきた筋肉質の影も力を抜き、しなやかに一文字に巻きついて投げの勢いを殺した。
 女だ! 筋肉質の!

「すごい! 菊池先生! リリーの不意打ちその場飛びシューティングスタープレスに対して低空から樽投げ! それをしのぐリリーもすごいけど、それを肩で払って引き離す先生もすごい! ああっと! まさか先生がボリス・ズーコフばりのロシアンクローズライン! えっ! 首固めからカニバサミに以降だなんて! たしか……あれはタイガースピン! そんな! あんなに懐かしい技を先生が何故!」
 一五歳そこそこの晶が全盛期のハ○ク・ホーガンの技を言い当てるのも何故と言いたい。
 一文字は襲いかかってきた女子生徒と間合いを取り、低く身構えつつ興奮している晶の顔を眺めみる。

「先生すごいですね。その体格でその技と動き。まるでレオン・ホワイトです」

「レオ……だれ?」

「ビックバンベイダーです」

「なにその軟質プラモがおまけについたガムみたいな名前」

「それはビックワンです」
 一文字と晶の間で会話が成り立たない。
 いや一部ツッコミとボケは成り立ってはいる。

「え? 先生ってレスリングの顧問ですよね? プロレスみませんか?」
 晶が心底不思議そうに訊ねる。

「え? レスリングとプロレスは別物だぞ。技をかけられて思わずワシも技は出たが、あんまり関係ないぞ」
 一文字が真顔で答える。

「え?」

「え?」

 唖然とする二人を交互に見遣り、エルフの女子生徒が静かに呟く。一文字に襲いかかってきた女子生徒は、驚いた事に留学生のエルフだ。
 鮮やかな金髪の美しい女性だ。肉感的な肢体。それをしたから突き上げる筋肉。世界的なアスリートが制服を来ているかのような場違いさがある。

「先生。申し訳ない。どうやらわたしたちは勘違いしていたようだ」
 エルフの女子生徒。リリー・エレンボラーは、一文字に頭を下げた。

「レスリングとはプロレスではない。つまりパンクラチオンなのだな?」

「ああ、呑む打つキメめるですね?」
 晶が何か言い間違えたように同意した。

「呑むではないだろ? その場合のキメるは薬なのか? あとパンクラチオンともレスリングは違う。流れは組んでいるがルールも技も共通していない」
 アングラなネタで一文字が突っ込む。

「いきなり襲いかかったくるとは、生徒でも……いや生徒だからこそ許せん! これは晶くんだったらチャンスだったのだが……」
 何かを言いかけ、一文字は言葉を飲み込む。
 後半の言葉を聞いていなかったのか、リリーは胸を揺らして背筋を伸ばして言い放つ。

「森のCQCとは、自分の領域に敵を引きずり込む事が上策とし、敵の領域を受け入れる事を下策とする」

「日本でもいいますよね。びーえる時空へ引き摺りこめっ~! って」
 なぜか納得している晶が深々と首肯いて見せた。

「それを言うなら土俵に引きずり込むだろ。ていうかキミは年いくつ?」
 一文字は呆れて顔で、戦隊ものネタを言う晶に突っ込む。

「というか、おのれっ! 二人ともなんだ! 不純だぞ! 若い男女が先に密室に入室……それは少女の初めて……いやそれは教師として不味いな。少年の初めてを……いやいやこれもいかんやっぱ少女の部屋で初めてのお泊りを横からかっ攫うの如く、勝手にレスリング場に入りやがって! 鍵をどうした!」

「窓から」
 リリーはレスリング場の南にある大きな窓を指差した。

「鍵空いてました」
 晶が爽やかで愛らしい笑顔で答えた。

「チクショー!! 工務店の奴らっー!! 御陰で部室の初めて寝取られたーっ!」

「寝取ってはいないぞ。待っている間、暇なので寝てたが。晶と」

「マジで寝取ってるじゃねーか! このマッチョエルフ」 
 一文字はタオルを床に叩きつけた。

「ていうか、なんで女子生徒がレスリング場にいるんだ! まさか晶くんの友達とはまさかこの……不純だぞ!」

「いや、わたしは不純な気持ちでレスリングを習おうと思っているのではない。エルフの鍛えた身体ではオークオーガにはいまいち対抗しきれない。それを地球の武術で補おうとしているのだ。もちろんオークのむせる程トレビアンな筋肉に真正面から筋肉で勝ちたいとは思うが、無謀だと考えている。だから先生、頼む」
 リリーは居住まいを正し、一文字に頭を下げた。

「わたしにレスリングを極めさせてくれ!」

「いやだー! わしは晶くんとくんずほぐれずするんだー!」
 教師にあるまじき一文字は、女子生徒の要望を突っぱねて欲望を男子生徒に叩きつけた。

「いやです」
 軽く無視する感じで、笑顔の晶が拒絶した。



  • いや本当に何でもアリだなって思うイレゲ。どんどんやって(褒 -- (とっしー) 2013-12-03 01:30:44
  • 先生楽しそうだな!リリーもあえて男でも良かったんじゃないかとも思ったり -- (としあき) 2013-12-05 22:52:51
  • よくもまぁこんなことを思いつくな!と逆に感心してしまうほど。危険な一線を越えてないあたりに理性を感じる -- (名無しさん) 2013-12-10 22:47:01
  • 楽しい三角関係だねと思っていたけど大逆転で先生と晶君がくっついてしまう可能性もないとは言えない…のか -- (名無しさん) 2014-02-02 16:28:40
  • 昨日のスレで話題に登ったのてたのはこのSSか!あまりの酷さに感心した(ホモ…褒め言葉 -- (名無しさん) 2014-02-02 17:53:49
  • 人間じゃなくて異種族の性観念のセーフアウトが気になるぞ -- (名無しさん) 2014-05-24 17:07:40
  • 種族を越えて筋肉と筋肉は分かり合えるのだろうか? -- (名無しさん) 2014-08-08 23:58:05
  • 菊池先生の見た目で髪の毛の有無が悩ましい -- (名無しさん) 2014-10-22 23:20:08
  • スポーツなら種族を越えて対話ができそうだが性別を越えるのはちょっとむずかしそう -- (名無しさん) 2014-12-12 22:14:53
  • 公認ホモであれば皆も対応と対策が取りやすいのでしょうか警戒はされても阻害はされていないのが微笑ましいですね。異種族との交流で性癖趣向付き合い関係は爆発的に広がるんでしょうね -- (名無しさん) 2018-07-08 19:41:29
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最終更新:2013年11月30日 23:59