【性態学者と准教授】

「…はい、これでおしまい」
「はぁ~…やっと終わったぁ~」
にこやかな表情で目の前の女性がそう言うと、あたしは大きく息を吐いて椅子にもたれかかった。
ここは十津那学園。地球人と異世界人が共に学ぶ、地球でも珍しい学校。
あたし達がいるのはその園内にある研究室の一角。そこであたしは、彼女の研究の協力をしていた。
協力とは言うが、実際にはあたしの身体検査や体液サンプルの採集など、実験動物的な扱いを受けただけだったが。
それでも亜人研究の一環という事で、あたしはこれを引き受けた。学園のあるポートアイランドに住んでから定期的に、である。
「もう慣れっことは言え、色々弄られるのってきついわ~」
二人っきりだからか、ぐったりと椅子に腰掛けたあたしの両足は大きく開き、フリルの付いたピンクのショーツが今にも見えそうだった。
「慣れたって、その恥ずかしい姿勢の事かしら?」
そんなあたしの痴態を見て、その女性―大和紅が口元に手を添えながら笑った。
軽い疲労感のせいか気にはならなかったが、いざ指摘されると恥ずかしくなり、赤面しながら両足を閉じる。
「うぅ…先生のえっち」
「キミが言える事かしら、それって」
「あうう…」
先生の追撃に、うめくあたし。
もっとも、学生時代に内緒で色んな女の子と交わっていたのは事実なので、反論はできなかった。
「若い子同士で盛りまくって、十津那の妖花とかエロエルフとか言われてたっけねぇ~」
「お願い…それ以上、やめて…。恥ずかしいの…」
「ふふふ。でも保健室でコッソリ致しるキミを見つけたおかげで研究は捗ったし、これでも感謝とかはしてるのよ?」
「あたしも、先生に色々庇ってもらったから弄るのは別に構わないんだけど、こう、手心というか…」
「ごめんね。サツキくんの反応ってとっても面白いから、つい、ね?」
「まぁ、いいんだけどね…」
更に疲労度が増したあたしに先生はまたクスクス笑みを浮かべると、咳払いの後に話題を変えた。
「それはそれとして、例の性態学?って言ったかしら。それの進捗はどうなの?」
「え~っと…保健の教科書にちょこっと載るかな~、的な?」
口元を引きつらせながら答えるあたしだったが、その様子を見て先生は嘆息すると
「ふぅん。まぁ、内容が内容だからそこまで進まないのは予想はついてたけど…」
椅子から身を離し、あたしの前に迫ると目線を合わせるかのようにかがみ、頭を撫でてきた。
「でも、ちゃあんと続けてるんだね。偉い偉い」
「えへへ~」
親に褒められた子供のように―と言っても、身体的にはほぼ子供だが―耳をピコピコさせて喜ぶあたし。
地球で色んな女の子達にモテようとして習得した自慢の特技で、今では無意識のうちに出せるようにまで上達している。
「やっぱり異世界の子と仲良くなるには、アレコレ知っておく必要があるからね。その為にも、辞める訳にはいかないさ」
自信たっぷりに笑みを浮かべ、先生にサムズアップして答えた。
「…仲良く、って言えば最近同棲しているあの子はどうしてるのかしら?」
「クーリエの事?うん、まぁ…仲はいい。のかなぁ…アレは」
質問の返答に困り、あたしは途端に苦笑しながら返す。
「もうちょっとデレてくれればいいんだけどねぇ~。ヤる事自体は気に入ってるんだけど…」
妙にノリが良くなってきたのか、思わず続ける。
「大体メイドの格好して様付けで呼んでくれるのに、言う事がいちいち刺々しくてたま~になんとかして欲しいっていうのはあるかな~あの冷凍マグロ」
刹那―――

「誰が冷凍マグロですか」

と、部屋の隅のカーテンが勢いよく開くと、見慣れた助手の姿が現れた。
しかも右手には、何故か体長50~60cm程はありそうな冷凍マグロを携えている。
「げっ!?」
あまりの事態に、潰れた蛙のような呻き声を上げるあたし。急に全身が冷えるのを自覚し、身震いが止まらない。
「えぇと…何時からそこに…」
「サツキ様がこの部屋に入る時には、既にここに潜んでいました」
「ぜ、全然そんな気配なかったんだけど、一体どうやって…?」
「ふぅ…」
あたしの疑問にクーリエは短くため息をつくと、少し間を置いてから答える。
「スラヴィアンメイド養成施設『屍従の館』においてステルスアクション部門最優秀賞を獲得した私の手にかかれば、気配を消して潜むなど造作もありません」
「は、はぁ…」
突拍子もない説明の内容に返す言葉が見つからず、あたしは呆ける事しかできなかった。
そんなあたしの様子を無視して、クーリエが近づいてくる。冷凍マグロを引きずりながら。
「それはそうとサツキ様。世の中には言っていい事と悪い事があるものですよ」
「えぇと、あのねクーリエ。これはその、つい口が滑って…ね?」
あたしは誤魔化すかのように無理やり笑ってアイドルじみたポーズで迎えるも、それが全くの無駄でしかないというのは当然理解している。
そう、悲しいほどに―――
「だからその…怒ってるなら謝るから!何でもしてあげるからその冷凍マグロでぶったりしないでお願い!!」
言い訳を思いつくほど絶望的な光景が目に浮かび、それに耐えられなくなったあたしは、目いっぱい涙を浮かべ土下座しながら許しを乞うた。
そんなあたしの姿を見たクーリエは、冷凍マグロを脇に投げ捨て、その場に立ちつくして口を開く。
「…では、今晩ご馳走を振舞うという事で手を打ちましょうか」
「ホントに!!!」
クーリエの言葉に安心感を覚えたあたしはすぐさま飛び上がり、クーリエに抱きついた。
その横で、先生がニヤニヤしながら見ているにも関わらず。
「ただし、その前に紅教授の実験に付き合ってもらいます」
「………えっ」
あたしは固まった。一瞬…いや、結構な時間このままの姿勢で。
「大和的には、そろそろ深く突っ込んだ事も調べてみたいなって思ってね。それでクーリエちゃんにも協力を要請してみたのよ」
「えっ………えええっ!?」
続けて先生が語りかける。あまりの事態にあたしの思考が追いつかず、ただ叫ぶ事しかできなかった。
「サツキくんってどう見ても女の子っぽいのに、根っこの部分が男の子なのがどうしても気になってね。この秘密を解明すれば、美容や老化対策に利用できると思うのよね」
「ね。って先生…」
「前からサツキくんに『えいっ』ってしてみたかったのよね。どんな反応なのか、是非観察してみたいわ」
「おめでとうございます、サツキ様。サツキ様の尊い犠牲とそれによって得られた成果は、きっと世の女性達に後世まで語り継がれる事となるでしょう」
先生の話に混じって、追い討ちをかけるかのようにクーリエは呟いた。
気のせいか、やたら嬉しそうな声音で。
「いやあああああ!!!」
あたしは恐怖のあまり悲鳴を上げたが、もはやそれでどうにかなるような事はなかった。

その日の晩は、凄惨だった。
寝ずに行われた数々の実験と、その後のクーリエのご馳走タイムによって、あたしは心身共に大きく疲弊した。
気がつけば翌日の真昼までベッドで寝ていたが、昨晩何をされたのか、思い出す気にはなれなかった…。


  • 初登場から精力的に活動しているサツキ君。最終的にナニを目指すのか?というのは気になるところですが今はまだ旺盛な変化球ちゅっちゅとwiki記載範囲を飛び出さないのを見守りたい -- (名無しさん) 2014-01-03 11:44:11
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最終更新:2014年01月03日 00:49