2.
顔に冷たい空気を感じて目が覚めた
いつもと視点が違っていて、あぁそうだったと思い出す
昨日は彼女にベットを譲ったのだった
彼女、自分を異世界から来たと
エルフという種族だと言った女の子
昨日の内に名前は聞いたけれど聞いたけれど、
「"#$%#%&'(です」
「ぇにぃあぃr…」
たぶんこちらの住人に発音できる人はいないと思う
なのでかろうじて聞きとれた音であるところのニィアと呼ぶことにした
彼女はどうもしっくりとこない様子だったけれど我慢してもらうしかないだろう
とりあえず横になっていた身体を起こす
ベッドに目を向ければ彼女はまだ眠っている様子だった
疲れてもいただろうし仕方のないことだろう
時計を見ればもうすぐ朝の9時だ
今日はバイトもないしゆっくりとしていてもいいだろう
まずは朝食を作るべく立ち上がるが、体が重いことに気付いた
「あぁそっか、コート着て寝てたんだっけ」
彼女にベットを貸して僕は夏用の掛け布団を引っ張り出してそれをかぶって寝ていたのだけれど
流石に1月に夏用の布団だけでは寒かった
ストーブをつけっぱなしで寝るわけにもいかないしね
あの子の服だけでなく毛布ももう1枚買った方がいいかもしれない
窓の外はまだ雨のようで、雨粒が窓に当たる音が聞こえる
とりあえず布団をたたみストーブをつける
そして昨日と同じくまずはヤカンでお湯を沸かす
そしてインスタントみそ汁を1食分とりだし、もう一袋必要だと気付く
そういえば彼女は食べれないものとかあるのだろうか
別の国どころか異世界の住人である
食文化も大分違うかもしれない
エジプトだかの人と結婚したという叔母も大変だったと聞いたことがある
やれあれが食えないだ絶食しないといけないだの違う宗教の人間と結婚なんかしない方がいいだのと五月蠅く言っていた
そうなことを聞きながら僕は叔母のような人とは付き合いたくないなと思っていたものだ
とりあえず、おかずは卵にしよう
朝はやっぱり卵だ。それに卵は昨日食べたカップ麺にも入っていたし多分彼女も食べられるだろう
調理法はどうしよう
彼女の外見は白い肌に銀色っぽい髪で、こちらで言うところの西洋っぽい感じだった
とりあえず卵はオムレツにしようか
卵焼きはめんどくさいし
なら主食は…パンは切らしてたな。しょうがないからご飯にしよう
後はハムでも焼いておこうか
何とも和洋折衷な朝食だが、まぁ日本らしくていいよね
卵とハムを焼き、ご飯のパックをレンジで解凍する
さて、そろそろ起こそうか
「朝だよ、ご飯も作ったから起きて食べよう」
「ぅあ!」
声をかけると彼女は驚いたように身を起こした
「こっちの食べ物で口に合わないかもしれないけど」
彼女は用意された食事を物珍しげに見ている
「昨日のと、ずいぶん違いますね」
と声をかけられた
昨日彼女と食べたものはカップ麺だったけれど、もしかしたら彼女はこっちは麺類が主食と思っていたのかもしれない
「この国ではこのお米っていう穀物が主食だよ。他の国の食べ物もいろいろ広まってるから、こればっかりってわけでもないけど」
そう返すがどうも彼女は食が進まない様子で
「あの、私は食べ物はこんなになくても大丈夫です」
と言った
しかし正直に言って今日の朝食はお世辞に言っても多いものではなく
この食事に「こんなに」なんてつけるのはよほど小食か、遠慮しているかのどちらかだろう
そう思い僕は、
「遠慮だったらしなくても大丈夫だよ?」
と、言ってみた
すると彼女は
いいえ、そうではなくて、と否定し
「エルフは食事は多くなくていいのです」
と答えた
エルフと言う種族は樹から産まれるらしい
驚きの事実である
僕はそれを聞かされたとき、それはもしかして単純にこの子の親が
「どういうふうに子供は産まれるの?」なんて聞かれて苦し紛れに、こちらの人間がコウノトリがどうのこうのと言うように
「子供はね、樹から産まれて来るんだよ」
なんて答えただけなんじゃないかと思ったけれどもどうやら本当に樹から産まれてくるらしい
なんだそれは
樹から産まれるのにこんなにプ二プニしてるのか、とつい彼女の頬をつついてしまった
大分嫌がられた
ともあれ、彼女は日光さえあれば食事は少なめでいいらしい
何とも便利なものである
まぁそのおかげで僕もバイトを増やさなくても何とかなりそうだ
よかったよかった
で、終わらないのが人生だ
「ファッションにまったく興味のないあんたが服を買いに行こうなんて言うから
てっきり彼女でも出来て、そのプレゼント選びに付き合ってくれってことかと思ったら
何?あんた、子供押し付けられたの?」
肩にかかるくらいの茶髪に長い爪、コートの下は冬なのに短めのスカート
今僕の目の前で、避妊はしなきゃだめよ?なんて言ってるいかにもギャルって感じの女性は何をかくそう僕の姉である
女物の、しかも下着を含めた子供服を買いに行かなくてはならないという苦行を前に、せめて女性の付き添いが欲しいと思った僕だったが
僕がこういう時に頼れる女性なんてこの人くらいしかいなかったのである
しかし、久しぶりに会った弟が子供服選ぶのを手伝ってくれなんて言ってきたらそりゃあ詳しいこと聞くよね
「まぁ服選び手伝うにしろ詳しい話を聞いてからよ」
と言う姉の言葉はもっともである
まぁ姉はこう見えて口は堅い方だったはずだし、あの子を紹介しても大丈夫だろう
あの子にしても異種族とは言え女性の協力者がいるといないでは大違いだろうし
そういうわけで姉を僕の部屋へ連れてきたわけだが
「悪い女に子供押し付けられたのかと思ったら、
え?何?さらって来たの?」
明らかに日本人じゃないじゃない、この子
そう言いながら姉は既に携帯電話を取り出し11まで入力している
あとは0をおせば即座にポリスメンがこの部屋にやってくるという寸法だ
正直に言ってそれは僕が困る
そんなわけで
「待ってくださいお願いします」
その言葉は、これまで生きてきた中で最も心のこもった一言であった
「ふーん」
一通りの話を姉に話した僕と彼女の前で姉はひとしきり考えた後
「それ、もう警察に任せた方がいいんじゃない?」
と言った
たしかに、今まで僕は見つかったら僕が誘拐犯と思われるかも、
なんて思っていたけれど、実際、彼女は騙されてこちらの世界に連れてこられたのだ
ならばこれから先は警察にまかせても
そう、思った時、
「待って下さい」
と、彼女が止めた
「私が連れて行かれた先、それは」
続けて発された言葉は
「実験施設だったのです」
なかなかに、重い単語だった
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最終更新:2014年01月13日 23:50