2-1
ぼんやりと目が覚めて、最初に感じたのはお腹のあたりのぬくもりと
背中に感じた肌寒さだった
目を開けば、横向きに眠る僕の胸にうずくまるように眠る白い塊
あぁ、一緒に寝たんだっけと思いだして
なんとなくその白くて長い髪を撫でる
その肌触りはさらさらとしているけれどなんとなく人間の物とは違うように感じた
2,3度撫でると髪の中に埋まっている長い耳が少し動いたように見えた
なんか猫みたいだとぼんやりと思った
出会って2日なのに髪を撫でたりしているのは、いくら幼い子相手と言えどなれなれしいかと
そろそろ暖かい布団から出て食事の用意でもしようかと身を起こす
布団から出ると部屋の空気は冷たく、思わずいつものようにストーブをつけようと辺りを見回し
そういえば持ってきていなかったと思いだす
「暖房器具も姉さんに頼まないとな」
そう呟き、とりあえず服を着替える
窓の外は雨が降っている、連日の雨だ
いや、僕たちが昨日こちらに来た時は雨は降っていなかったから
昨日街にあった雲も僕らと同じようにこちらに流れてきたのだろうか
晴れていたら散歩がてら彼女にこのあたりを案内しようかと思っていたのだけど
まあいいか、と携帯を開きつつ台所へ向かい、お湯を沸かしつつメールを打つ
確か今日こっちに来ると言ってたし、メールの内容は
アパートからストーブを持ってきて
よし、とメールを送信する
1月にろくに暖房器具がないなんて地獄というものだ
「
エルフは寒いと死ぬらしいしね」
と、自分で言って
少し笑いがこぼれた
さて、朝食を作ろうかと冷蔵庫をあけ
卵を手に取る
手に取ってから「あ」と気付く
昨日は卵ばかりだった
「流石にやめとこうかな」
と、別のおかずを考えるけれど、ぱっと思い浮かばない
彼女にはああ言ったけれど、案外僕は本当は卵好きなのかもしれない
一人暮らしの時は毎朝食べていたような気もする
大体は目玉焼きとご飯、あとはインスタントのみそ汁というメニューだったように思う
卵をやめるとなると何にしようかと冷蔵庫を眺め
昨日買った納豆に目がとまった
「旦那、俺とかどうですか」そう語りかけてきている気がする
「よかろう、今日の1品目はおぬしじゃ」
流石にそれだけでは彼女に対する嫌がらせにしかならない可能性があるので他の物も用意する
魚肉ソーセージでも炒めようか
豆腐もあったのでコレも出すことにする
これでいいか
彼女は小食らしいし
結局メニューはご飯、みそ汁、冷ややっこ、魚肉ソーセージそして納豆という
何とも手抜きは物となったけれど、まぁしょうがないだろう
僕がちゃんと作れる料理なんてオムライスくらいしかないのだ
しかし、豆腐に納豆に味噌に醤油にと日本人は大豆に頼り過ぎな気もしなくもない
異世界にもそういう、色々な食べられ方をするものってあるのかな?
食事をしながらそういう話をするのもいいかもしれない
そう思いながら魚肉ソーセージを炒める僕は
きっと笑っていた
彼女を起こし朝食をとることにする
意外なことにというかなんというか、彼女の納豆に対する拒否感は少ないようだった
旅先で色々なものを食べてきたから多少匂いがキツイ程度は気にならないとのことだ
言われてみれば確かに、旅をしていればキワモノ料理の一つや二つは食べることもあるだろう
「鳥人の多い里では虫を使った料理も少なくありませんでした」
流石に握りこぶしほどもあるでっかい幼虫は食べる気が起きませんでしたがなどと言っている彼女は、
納豆は平気な様で平然とした様子で食べている
彼女から聞く異世界の話は楽しい
空中に浮く島、海賊の町、砂漠の国、彼女は意外なほどに多くの地を旅してきていた
「危険なことはなかったの?」
一人で旅をしていたんでしょ?そう尋ねると
「精霊が一緒でしたから」
そう彼女は返した
精霊については彼女も詳しくはわかっていないようで
「ずっと一緒にいるけれど、あまり詳しいことは知らないんです
何故この子が一緒にいてくれるのかは分からないけれど、もしかしたら単なる気まぐれかもしれないですね」と
彼女は言った
「気まぐれでずっと一緒にいるの?」
そう問いかけると
「長く生きていられる存在からすると、他の人にとっての長い時間も短く感じるのかもしれませんよ」
ずっと一緒にいてくれていると思っていてこの子にとっては短い暇つぶしかもしれないと
そう言いながら彼女が浮かべた笑みは、少しだけ寂しそうだった
食後しばらくすると姉からメールが来ていた
適当に服を買って、ストーブと一緒に持ってきてくれるそうだ
実のところニィアは未だに僕の貸した服を着ている
ちなみに下着はない
彼女がもともと着ていた服も洗濯はしたけれど一晩経ってもまだ生乾きだ
あれ?そういえば僕は姉に彼女の服を買ってきてくれと頼んだけれど、姉は下着も買ってきてくれるだろうか
まぁきっと姉なら下着含めて買ってきてくれることだろう
流石に「下着も忘れずにね」なんてメールを今から姉に送るのには少し抵抗がある
ここは姉を信じて任せてみよう
さて、結論から言って
姉は下着含めてニィアの服を買ってきてくれた
ただ僕は忘れていた
姉はいわゆるギャルと呼ばれるような人であり
そんな姉の選んだ服もまた
ギャルのセンスで選ばれた服であるのだ
ようするに、小学生か中学生のように見える容姿をしているニィアにはあまり似合わず
そして何より、派手だった
「選び直してこい」
姉の持ってきた紙袋の中をのぞいて僕は思わずそう口にした
姉は「えー可愛いじゃん」なんて言ってぶーたれているけれど
「えーじゃないよ」
つい溜息がもれる
何だよこれ、冬場なのに露出度高いよ
スカート短すぎない?それにセーターは肩まで見えそうなほどに首のあたり開いてるし
田舎でこんなの着たら浮きすぎて逆に田舎くさいよ
「今どきの子はこの位普通よ」
確かにこういうの着てる子はいるかもしれないけど、だからと言ってそれが普通ではないと思う
「いいからもう少し暖かそうな服を買ってきてよ」
「こんな田舎じゃろくな服ないわよ」
「いくら施設から離れたと言ってもわざわざ彼女を目立たせることもないだろ」
そう言って少々強引に姉を買い物に向かわせようとすると
「うーん、それならニィアちゃんと一緒にいくわ」
そんなことを言いだした
「えっ」
「これだけ離れてるんだからちょっとくらい出かけても大丈夫よ」
それに自分の服は自分で選びたいものでしょ?
そう続ける姉の言う事は最もではあるけれど
「まぁ何とかなるさ」
俺も居るしね、と続けるのは昨日僕らをここまで送ってくれた鈴木さんだ
彼は車を持っていない姉を送るため今日もわざわざ車を出してくれたのである
なんとも頭が下がることである
「じゃあニィアちゃんを誘ってくるわ」
そう言って姉はさっそくニィアの方へと向かっていった
はぁ、とまた溜息がもれた
「すみません木村さん今日もまた姉を送ってもらって」
玄関に木村さんと2人残されてしまった僕はとりあえず木村さんに礼をのべることにした
ありがとうございますと告げると彼はすこしはにかみながら
大したことではないから気にしなくていいよ、と答えてくれた
彼は見た限り僕よりいくらか年上に見える
身長も僕より高く、体格もいい
少し気が弱そうだけどそれも特に悪いことではないだろう
「木村さんってもしかして姉と付き合ってるんですか?」
となんとなく思った疑問を向けてみると、彼は軽く笑って
「そういうわけではないけど仕事で組むことが多くてね」
どちらかと言うと頭の上がらない先輩って感じかな
と、そう言って彼はまた笑った
そこで家の奥から
「ニィアちゃんも一緒に行くってーーー」
と姉の声が聞こえた
姉はニィアの手を引きながら戻ってきて
そのまま玄関を出て木村さんの車の方へと行ってしまった
「ほらキムちゃん車出して!」
「そのあだ名は外国人ぽいからやめてくださいよ」
そう言いながら木村さんも車の方に向かう
車が服屋へと向かって行き、残されるのは僕と姉に持ってきてもらったストーブ
とりあえずストーブを居間に運び込もうかなと持ち上げようとして
姉の買ってきた服の入った紙袋が目に入った
そして、その中に入っている服を思い出し
一回くらい着てもらってもよかったかもなんて
少しだけ後悔したのは、男ならばしょうがないことだろう
- 出会いから一人増えた日常へと順調ほっこりする展開。それだけに登場人物たちがこの後をどう考えているのかな?という一つのもやもやも感じたり -- (名無しさん) 2014-01-14 22:06:25
- このまま家族の一員になりそうだけどそうは問屋がおろさないとかなっちゃいそうなのは分かる -- (名無しさん) 2014-01-15 22:44:18
- 自然体で触れ合っているのがいい。各人物があくまで二人を前に押し出すように動いているのもいい -- (名無しさん) 2014-01-23 22:36:56
- 出会って二日でこの余裕はエロゲの主人公かい!と思わずつっこんだ。脇のキャラがいい味でてる -- (名無しさん) 2014-01-28 21:14:03
最終更新:2014年01月14日 22:03