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「いつまでにするの」
とあの子が問いかける
「見送るの?」
問いかけは続く
「どうだろう」
私はしっかりとした答えを返せなかった
「あっという間のことだよ」
あの子の言うその言葉の意味は
「うん」
私もよくわかってるつもりだった
朝、目が覚めると私は頭まで布団にもぐっていた
昨日も思ったけれどこちらの世界は寒い
背中に寒さを感じて目の前のぬくもりに身を寄せる
目の前のぬくもり?
と、そこで思い出した
昨日は彼と寝たのだった
ただの添い寝だけれど
正直なところ、別に添い寝ですまなくてもあまり気にはしなかっただろう
エルフは性に解放的だ
私はそこまで積極的ではないけど
というのも、私の身体が何故かあまり成長しないがゆえだ
正直痛いのだ
抵抗感は薄いがあまりやりたいものではない
とはいえ、容姿が幼いがゆえに求められることも少なかったけれど
おそらくは今目の前にいる彼もこういった容姿の物に興奮する性質ではないのだろう
ここまでしといて手を出されないのもどうかとも思うけど
決して私に魅力がないわけではないはずだ
などと割とどうでもいいことを考えていると彼が動き出した
目が覚めたのだろうか
挨拶でもするべきだろうか、驚かせてしまうかもしれないけれど
と迷っていると彼はおもむろに私の頭を撫でてきた
暖かい手が私の頭と髪を撫でる
その手の感触を感じながら
あぁこの人は
私を子供扱いしてるだけなんだ、と思った
不服だ
朝食には臭い豆が並んでいた
こっちの世界にも有ったんですね、こういうの
向こうの世界でも旅をしていれば、時折見かけるものだ
しかしこれはなかなか強い匂いね
食べれない、というほどでもないけれど
あまり好きな感じではないかも
とはいえ、違う国の人の食文化に口を出すようなことはしない
面倒なことになるのは目に見えているから
鳥人に伝統的な食べ物とか言われて差し出されたものは酷かった
思い出すのも嫌になるような見た目だったけれど、拒否した後もすごかった
半ば追い出されるように村を出たのだから
その一件以来、食べ物については多少苦手なものでも食べるようにしてきた
でもあの村の伝統料理は一生食べないけど
「今日も姉さんが顔を出しに来るよ」
と、食事をしつつ彼が知らせてくる
彼の姉というと昨日も会った女性のことだろう
金の髪と派手な服に香水をつけたあの女性は、今目の前で食事をとっている彼とはあまり似ていない
彼はどちらかというと大人しそうな雰囲気だけれど、あの女性は活発そうな印象だった
そして何より、と考えたところで
「ストーブを持ってきてもらえるように頼んだから今日からは昨日よりは暖かく過ごせると思うよ」
少し笑いながらそういう彼と目が合い、私の思考は中断された
そういえば昨日は一緒に寝るときに「寒いと死ぬ」なんて言ったのだった
いまさらながらに少し恥ずかしさを感じる
頬が軽く火照るのを感じながら
食器を洗おうと立ち上がる彼に、赤くなった顔は見られまいと
こっそりと胸を撫でおろした
お昼過ぎのお姉さんの来訪はあわただしいものとなった
玄関で彼とお姉さんと、あとお姉さんの同僚という男性とでしばらく話していたと思っていたら
「にーあちゃん!お買い物行こう!」
と、突然に彼女は駆け寄ってきたのだった
あまりに唐突なことに私は戸惑うしかできなかった
なんなのこの人
「あなた服持ってないでしょ?アイツのお古だけじゃなんだし一緒に買いに行こうよ」
お金は出すし、と彼女は言うけれど
居候させてもらっておきながら何もできない私なのに
服まで買ってもらうのは何とも申し訳ない
「私、子のままでも大丈夫ですよ?」
彼に貸してもらった服は向こうの世界にはない生地で出来ていてとても動きやすい
シワがつき難いのも借りている身としてはありがたい
借りた服にシワがつくのは心苦しいから
だからわざわざ買ってもらわなくても、と言おうとしたところで
「それにね」
そう切り出す彼女の顔は今までに見たものとは、いや
「ちょっと話があるんだよね」
彼の前では見せない顔だろう、と思わせるものだった
彼女の同僚、木村のジドウシャで服を売っているという店へと向かう
私と彼女は後ろの座席に2人で座っている
「それで、お話ってなんですか?」
切りだしたのは私
というのも、私にはある予感があったのだ
「あなたが『あの施設』の関係者、という話ですか?」
私がそう言うと、彼女は感心したようにうなずいてから
「エルフは勘が鋭い人が多いけど、あなたは特に鋭いみたいだね」
そう、私は勘はいい方だ
そして彼女からは『あの施設』と同じ感じがする
これも、私がエルフという種族であるからこその、
いわば植物的な勘とでもいうものなのかもしれないけど
私はこの勘に従って長い時を生きてきた
「まぁ確かに関係者といえば関係者だけど」
とはいえ、私のそれはあくまで勘であって物事を見通せるわけでは決してない
「でも関係者というよりは」
だから
「親会社って感じかな?」
そう言いながらこちらに向かって笑いかける彼女の姿は
流石に予想外だった
- 結構生々しい独白と冷静な状況判断にドキっとした。姉さんから意外な方へ話が進んで次が気になる -- (名無しさん) 2014-02-03 22:46:25
- 不服だ というのが印象深いな。しっかり人並みの感情があるってのがよく分かる -- (名無しさん) 2014-02-14 22:24:57
- ときどき語る過去と今をつなげる「私が」の世界と世界のシリアスと「エルフを」のほんわかした空気が陰と陽だ -- (名無しさん) 2014-02-18 22:48:23
最終更新:2014年02月03日 22:44