【青い探し物】

まだ辺りも薄暗い早朝、一人の年老いた鳥人が井戸から水をくんでいた
その水の量は普段よりも多く、年老いたその鳥人は腰を気にしながら水を店の中に運んで行く
彼、その鳥人の店は料理屋であり、木と葉で作られたこじんまりした家屋がまばらに建つこの村の中では比較的大きい部類に入る
基本的には料理屋であるその店だが、時折訪れる旅人には部屋を貸すこともあった
とはいえ、この村の周辺には特に何もなく、旅人が訪れたとしても通り道でしかなかったのだが
現在その店には二人の旅人が泊っていた
それも珍しいことに、その二人が来てから今日で3日目である
まぁ金はもらっているし、何か企んでいたとしてもこんなところでは大したことも出来はすまい
かつて軍事国家として名をはせた国、オルニトであるが
現在は空を飛べる鳥人と飛べない鳥人の確執や、様々な種族が入り込んできた事もあって浮遊大地のほうはともかくこっちのほうではろくに統治もされていない
何かやらかすなら浮遊大地のほうへ行くだろう
老人が店の中に入ってみれば、店内には旅人の一人が起きてきていた
翼のない、自分と同じ「飛べない鳥人」だ
「ずいぶん早起きだな、まだ朝飯もできてないぞ」
「探し物があるんでな」
朝食は一人分でいい、と気の抜けたように返すと旅人は店から出て行った
若く、大きな体をもつ彼は先日この村にやってきてしばらく滞在させてほしいと告げた
そういえば、あるものを探しているとは聞いたがそれが何かは聞いていなかったと老人は思い出したが
何を探しているのか尋ねる前に彼はまだ薄暗い村を歩いて行ってしまった
聞きそびれた、と老人は思ったが旅人はもう一人いたことを思い出し
そちらから聞けばいいかと思いなおすと、朝食の用意を始めた

老人が朝食の用意を終えたころもう一人の旅人が食堂へとやってきた
まだ幼いだろう猫人の少女だった
赤い毛並みに小柄な体の彼女は眠そうな表情で、いかにも起きたばかりといった風であった
「トグザはー」
「お前さんの相方なら、まだ薄暗いうちから出かけてったよ」
薄情だなー、と呟きながら彼女はテーブルに着き朝食を食べ始める
小柄な割には健啖家なようで朝食はあっという間に彼女の胃の中におさめられてしまった
「所でお前さんよぉ」
少女が食事を終えたところで老人は声をかけた
「なぁにー?」
「お前さんがたは何か探して旅をしてるんだよな」
「そぉだよ」
少女の言葉は子供っぽく間延びしていて老人のほうも少々気が抜けてきていたが
今朝の鳥人の青年との会話から気になっていた疑問を口にする
「こんな田舎まで探しに来るようなものってのは一体何なんだ?」
この辺なんて木と草しかないぜ
そう続けた老人に少女は元気に答える
「幸せの青い鳥!」
何なのか分からず老人は顔をしかめる
「なんだいそりゃあ?」
「願いをかなえてくれるんだよ?」
「なんでもか?」
「なんでも!」
「そりゃあすげぇな」
なんとも胡散臭い話だと老人はため息をつく
そんなものを本気で探しているのか、この少女に対して分かりやすく説明するためにそう言っただけなのか
どちらにしろ話になりそうにないと考えた老人は朝食の食器を持って洗い場へと行ってしまった
その様子を後ろから見ながら、猫人の少女は
「ほんとなんだけどなー」
と呟いた

「明日ここを発つよ」
探し物から戻ってきた鳥人の青年、トグザは老人の姿を見るなりそう告げた
「探し物は見つかったのかい?」
老人の問いかけにトグザは首を振る
「ここにはいそうにない」
「青い鳥ってやつだったか?」
「アイツから聞いたのか」
「ああ」
青年の問いかけに老人はうなずき
「誰かのあだ名かなんかかい」
と、問いかけを返した
「どこまで聞いたんだ?」
「なんでも願いをかなえてくれるってところまでだ」
老人はそう言うとまたため息をついた
「胡散臭すぎて逆に気になってな」
「なるほど」
トグザはその言葉に納得がいったようにうなずいた
「それなら、あだ名かって聞いてくるわけだな」
「その言いぐさじゃわしの予想は違ってたみたいだな」
一体何なんだ?「幸せの青い鳥」ってのは
そう尋ねた老人にトグザは苦笑いを返しながら
「アイツから聞いた通りさ
 なんでも願いをかなえてくれるんだよ」
と、胡散臭い答えを返したのだった

「俺には1年以上前の記憶がない」
トグザはそう言って話を始めた
「生まれも育ちもすっかり忘れちまった
 なんで記憶がないのかもわからねぇ」
そこで一旦話を句切ったがまた気を取り直したように話を続けた
「ただ一つ覚えていたことがある」
それこそが
「青い鳥」だ
「それがアイツが言うように願いをかなえてくれるのかどうかはわからんが
 俺の記憶の手掛かりなのは間違いない
 でもってそいつを追ってたら同じものを追いかけてるらしいアイツと出会ったってわけだ」
「なるほどねぇ」
「納得したか?」
老人はもう一度ため息をつくと
「納得しといてやるよ」
と答えた
その様子はいかにも投げやりで、
自分でも察しのの悪いほうだと思っているトグザから見ても納得しているとは言い難かった
「そうしといてくれ」
そして漏れたため息は
今度はトグザからのものだった

翌日の朝食後、二人の旅人は少ない荷物をまとめてこの村を去って行った
結局よくわからないままだったなと、見送っていた老人は頭をかいた
彼らの言っていたことが本当なのかでたらめなのか、それは自分には判断のつかないことだが
おそらく今後、自分が彼らとかかわることはないだろうし、どちらでもいいか
この村にやってきた胡散臭い旅人として話のタネくらいにはなるか、と
何の気なしに空を見上げた
「・・・一足遅い、いや、あいつらが早かったのか」
彼の視界に、雲ひとつない快晴の空と、遠くに見える浮島という何時もの景色のほかに
小さくて、快晴の空よりもなお深い色をしたものが飛び去って行った

「結局今回も見つからなかったな」
そう言って軽い疲れの表情を浮かばせるトグザに
「まぁそんなに簡単にはいかないですなー」
と猫人の少女が能天気な声をかける
「お前ももうちょっと真剣に探せよビル」
「その可愛くないあだ名やめってってばー」
ヴィレッタって読んでよー
少女はそうぼやいていたが
「こっちのほうが似合ってると思うぜ」
「え?そう?ならそれでいいや」
えへへ、とすぐに顔をほころばせて青年のそばにすり寄っていく
青年はそんな彼女の頭をやや乱暴になでると
「さて、気を取り直して次に行くか」
「おー」
そういって次の目的地を考える二人のはるか頭上を小さな青い影が通り過ぎる
二人の旅はまだまだ終わりそうにないのだった


  • 自分と幸せを探すオルニトの旅いいですね。二人の旅の始まりとして完成しているだけに次の話を期待します -- (名無しさん) 2014-04-01 22:35:40
  • 童話というよりは昔話っぽい終わり方。旅が続くことが幸せなのかなーって思った -- (名無しさん) 2014-04-08 00:58:27
  • まとめ方が青空みたいで気持ちがいい。こういう気質の鳥人は飛べないからこそ出てくるもん? -- (名無しさん) 2014-08-09 03:33:10
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最終更新:2014年04月01日 22:33