「
ゲートの悪魔? ……ですか?」
薄暗がりの部屋で細い優美なラインを持つ女性のシルエットが、部屋をちょろちょろと動き回る小さなシルエットに訪ねた。
「そう。ゲートの影ともいうね……。どこにあったかな?」
小さなシルエットは部屋の片隅に重ねられた箱を一つ蹴り転がし、中から飛び出した小物の漁り始めた。
「またそのような中に何をしまいこんで……。ちゃんと片付けるのですよ」
女性のシルエットは諦めたような声色で、眉間に人差し指を当てた。
「おー、あったあった。これこれ。せっかくだから上げるよ」
小さいシルエットは散らかった小物の中から一本の切り花を取り出すと、見守るように見下ろしていた女性のシルエットに手渡した。
乱雑な箱から出てきたものだが、綺麗な花を受け取って喜ばない女性はいない。
「あら、ありがとうございます……あら? これは地球の花ですね」
「そうさ。そしてそれがゲートの悪魔。そして影とも呼ばれるゲートの構築に巻き込まれ不運にも土台となった憐れで健気な花さ。そしてこれは……」
不意に小さなシルエットは花に手を伸ばし、両手でくしゃりと花を握りつぶす。
そこには一切の悪意はない。
「……な!」
せっかく貰った花を台無しにされ、驚きの後一瞬怒りに身を任せそうになった女性だが、小さなシルエットの手から現れた花を見て息を飲んだ。
「何者にも壊される事はない。ゲートを支える土台としてのゲートとの共生を運命付けられたってわけ。ゲートは無為自然に存在できるわけじゃない。アレはあれで多くのエネルギーを内包してる。それを支える土台がただの石や鉄で済むはずがない」
「では、これはいわばその場にある物を現地徴発した基礎と言ったところでしょうか?」
「キミはいつも優秀だね。その通り。ゲートの悪魔なんていうけど、ただの材料に過ぎない。いざ上にゲートが乗れば誰もその下に触れる事ができないからね。ゲートが出現すると同時にその周囲が固定化されて壊れなくなるのさ」
「では、今回確認されたという人間の……」
その言葉の意味を誰よりも理解する小さなシルエットは珍しく肩を落とした。
「レの字にも困ったものさ。唯一だよ。あれが唯一……」
滅多にない長い長い心からの溜息を一つ吐き出し
「ゲート出現時に人的被害が出たケースは北米唯一つ。人間まるまる一人を壊れないモノにしてしまった。……それがゲートの悪魔の正体。僕も後片付けが苦手と自負してるけど、レの字の無責任さは度をこしてるよ」
ついと煙のようにその場から立ち消えた。
残された女性のシルエットは不機嫌そうに散らかった床を睥睨した。何かを諦めた様子で切花をテーブルのコップに収めると、ちらかった小物を片付け始めた。
そして不意に思う。
「あら? でもこの花はゲートの影になってから切られたのかしら?」
花は何も答えない。
- 一風変わったというか面白い広げ方と思いました。よくよく考えてみるとゲートとは一体何なのかどのようなものにでもできる可能性があるんですよね -- (名無しさん) 2013-04-17 19:25:46
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最終更新:2013年08月08日 22:43