足元は大きく揺れている
全身をゆっくりと揺すられる感覚に気分が悪くなり目線を上に向ければ青い空がどこまでも広がってる
視界一面の青の中に白い影が横切る
あぁ鳥はいいなぁ
なにせ船酔いとは無縁だろうから
「おう嬢ちゃん!もうすぐだぜ!」
ふと船員のおじさんから声をかけられる
「ありがとう!じゃあちょっと荷物取ってくるね」
目線を船の進行方向に向ければ港はずいぶんと近くまで迫ってきていた
この町に戻ってくるのはずいぶんと久しぶりだ
「ドニーもいいけどやっぱり暖かいほうがいいなー」
呟きながら荷物のある船室への道を戻ると部屋から出てくる大きな影が見えた
「ラニちゃんメモさんみたいなこと言ってる」
と少し笑いながら出てきたその影は
オーガのホンカウさんだ
おっきな体に目が見えないくらい長めの前髪をしている私の後輩
私たちはドニーの街で同じ酒場の店員として働いていて
でも私は実はドニーの店ではなくニシューネンという町にある店からの応援なのだ
店長のお友達が新しく酒場を開くからしばらく手伝って来いって言われて私はそちらの店に行ってたってこと
私がゆーしゅーで期待されてるってことだね
そしてドニーの店もそろそろ落ち着いてきたし私は元の店に戻ることになったんだ
ホンカウさんは私を店まで送ってくれるってことで一緒に来てくれた
ノームでちっちゃい私の代わりに荷物を持ってくれたりしている
「メモさん店から絶対出ないもんねー」
「猫人だし寒いのは苦手みたいだね」
なんて雑談しながら船を下りる準備をする
フタバ亭のみんなは元気だろうか
手紙を送ってはいたけど顔を見るのは本当に久しぶりで少しだけ緊張する
みんなに話したいことがたくさんある
向こうで起こったこと
出会った人
いろんな話をみんなにしたい
きっとみんな楽しそうに聞いてくれるだろう
「楽しみだねー」
「私はちょっと緊張するかな」
「ホンカウさんならみんな気に入ってくれるよ~」
みんないい人たちだしね!
港から大通りに出てまっすぐ進み大きな宿屋が見えてきたら右に曲がる
あとはフタバ亭までは一直線だ
「あっちに行くとおっきい銭湯とかギルドがあって、向こうに行くと
ゲートがあるんだよ」
「そうなんだ」
ホンカウさんに町のことを紹介しながら店へと向かっていく
時々私に気づいた人が声をかけてくれたりもする
「ラニちゃんは人気者なんだね」
「そんなことないよぉ~」
高々数か月では街並みも変わるはずがなく
私の知っているままの街が続く
そしてたどりつくフタバ亭
ずいぶんと懐かしく感じるその店もまた私が出て行った時のまま
ではなかった
長い黒髪
ホンカウさんほどではないけど私よりはずっと高い身長
全体的にすらっとした体系
そして見たこともないような服
全く知らない人が給仕をしていた
それも結構な美人さんだ
「嬢ちゃん追加を頼む!」
「いつものか?わかった。
店長!追加オーダーだ」
なんて常連の
ドワーフのおじいさんとも打ち解けてる様子
私がいなくなったからほかの店から応援?それにしては馴染んでるというかなんというか
新しく雇ったのかな?
てきぱきと仕事をこなす新人さんらしき人
えっ?もしかして私戻ってこなくてよかった?
もうずっと向こうでよかった?
店長とかと会ったら「あれ?なんでこっち来てんの?」って言われたりする?
もう私はドニーの店員?でも向こうの店長は私こっちに戻す気満々でしたよ?
情報がさくそう?だっけ?している!
なんて思って、とりあえず店内を見渡すとよく見知った顔が視界に入った
シィだ
シィはこの店で一緒に働いていた仲間で私より年下なのに私よりおっきい女の子だ
鬼族で力持ちで年下なのに私よりしっかりしてると評判だ
とりあえずそのシィに声をかけようとしたとき
店の中に一人の男の人が駆け込んできた
「先輩!」
なんか始まった!?
「駒ヶ埼君?」
入ってきたのは黒い髪をした私より背の高い男の人
まぁ大抵の人は私より背が高いわけだけど
種族はわかんないけどたぶん若い
彼は駆け込んでくるなりさっきの見慣れない新人さん?に声をかけた
新人さんは驚きで固まってしまっているようで動きが止まっている
ついでに店の空気も固まっている
突然の展開に誰もついていけてない
「なっなんでここに!?」
「なんでって、1年も行方不明だった人から手紙が来たらそりゃあ会いにも来ますよ」
「近いうちに帰るって書いたはずだろう!」
「先輩のそんな驚いた顔が見れたなら来た甲斐もあったってものですね」
そう言って彼は女のひとに近付いて
正面から抱きしめた
驚く表情をする彼女に彼は言う
「心配したんです」
「・・・」
「心配したんです・・・本当に」
「・・・身長、伸びたか?」
「少し」
「そうか」
何この展開
いつの間にこの酒場は劇場になったの?
たぶん二人はあとしばらくあのままだろう
えーとえーと
ふと隣のホンカウさんを見上げる
「・・・」
なんかぽけっと二人を見つめているホンカウさん
うん
完全に乙女な感じになってる
ここは、どうしよう
とりあえずシィに話しかけてみようか
あの新人さんの事とか聞けるかもだし
「シィひさしぶりー」
と、シィに話しかける
空気読めてないのはわかってるけどこのままあの二人を見つめてるのもどうかと思うのです
「ちょっと待って、今いいところだから」
流された
「おおラニ。帰ってたのか」
結構ショックを受けたために酒場のはじっこのほうでうつむいていた私に声をかけてくれたのは店長だった
とっても大きな体に特注サイズのエプロン
つるつるの頭には角
立派なお髭とまっ黒メガネ
久しぶりに見た店長は相変わらず怖い顔
あまりの恐さにこの店に初めて来た人は長居しないと評判だ
「まぁとりあえずカウンターに座れ」
そう言って店長はカウンターの向こうへとはいっていく
カウンターのイスに座った私に店長が飲み物を出してくれる
私の好きなミルク多めのお茶だ
「ありがとう、てんちょー」
「おう、久しぶりだな」
出されたお茶を少し飲む
うん、少し落ち着いた
「ねぇてんちょー、あの人について聞いていい?」
そう言って私は新人さん?に目を向ける
「ん?ああ、あいつか」
例の二人は適当なテーブルで話し合っている様子だ
「てんちょーあの二人しばらく話させてあげていいよねー」
そう言いながらシィがやってきた
「おう、別に大丈夫だろう。今日は夜になるまで客は少ないしな」
「あっラニ戻ってきてたんだ」
「さっき話しかけたよ・・・」
「そうだっけ?」
なんて3人で会話しながら
ああ戻ってきたなーなんて思う
ちなみにホンカウさんはさりげなくあの二人の傍のテーブルについて盗み聞きしている
「あいつはこの酒場の新入りだ」
と店長が話し始める
「何でも異世界から小ゲートで迷い込んだらしくてな
ゲートのあるこの町にたどりついたはいいものの無一文なもんで元の世界に戻れないってんで住み込みで働かせてるんだ」
ちょうど人手も足りなかったしな、と笑う店長。その顔怖いです
新人さんで合っいたんだ
さすがは私の洞察力
「あの人は家族か何かかな?」
「もっと深い仲に違いないわ」
ちょっとした私の疑問に即答するシィ
あんたは二人の何を知っているというのか
まぁわざわざ異世界までやってくるくらいなんだからそれなり以上の仲なんだろうけど
今は二人でいちゃいちゃとしてるご様子
と、そんな見慣れぬ二人を眺めつつ
なんだかんだで私は久しぶりのフタバ亭にほっこりとしていたわけなんだけど
「ちょっとまったああああああ!」
そんな空気をぶち破り
ドカンと入り口のドアを勢いよく開いて女の子が店内に飛び込んできた
えっ?またなの?
そしてあっけにとられる酒場の人たちも眼中になしといった感じにその女の子は例の二人の元まで歩いて行き
「駒ヶ埼先輩!好きです!結婚してください!」
と爆弾発言をぶちかました
「えっえええ!?」
慌てふためく男の人、どうやら駒ヶ埼さんというらしい
まぁ名前とかこの際どうでもいいんだけど
なんかすごいことになってきたよこれ
まさかの乱入者ですよ
二股?二股なの?
シィはこの修羅場に興味津々、あとホンカウさんも
なにこれ?どうすればいいの?
私はこういうのにとんと疎いのですよ
適齢期はまだまだなのです
「てんちょー・・・これは・・・」
「まて、今いいところだ」
見てるしかないみたいですね・・・
別視点へ続く
- 女子会話イイ… 外観が先に出ているキャラ達なので想像も捗る -- (名無しさん) 2014-08-18 01:39:51
- 流されるままのラニちゃんが面白吹いた。いてもいなくてもそれがフタバ亭の日常になっていたのかも?しかしいきなりの修羅場と意外に冷静なラニちゃん -- (名無しさん) 2014-08-19 03:22:42
- アッサリした会話が日常感アップしてる。主役になるはずだったラニちゃんのしょぼーんさが漂う -- (名無しさん) 2014-09-19 22:47:09
最終更新:2014年08月18日 01:36