※SS内に登場する妖怪とは、『生物として
ミズハミシマに存在する河童や天狗のような妖怪種』ではなく『自然現象の延長線上において、姿形を形成するに至った高位の精霊たち』のことです。
季節を左右するほどの力をもった高位精霊たちの姿は、ミズハミシマの人々から良く知られており、天気や明日の運勢を占う指標の一つとなっています。
これらの高位存在は大妖怪と呼ばれ、彼らと対話を行う祀族を陰陽師とよんだりするかも知れません。
青鷺火
火はしばしば鳥となる。
永遠の象徴と言われる。
生まれ変わりの瞬間だと言う。
青炎は、冷たく印象を与える。
しかし、裏腹、熱く熱く燃えている。
真夏。
なるべく木陰を隠れるようにして、勾配の高い砂利道を行く。
暑さで、おぼろげな視界。
遠くに見える蜃気楼も相まって、世界の輪郭が溶けている。
道向坂道の上、着物姿の女が立っていた。
こちらに微笑みかけた後で、
やっと会えたね、だとか、また会えるといいね、というようなことを呟いた。
小声だったので、はっきりと聞き取れなかった。
夏の蜃気楼で曖昧だ。
知り合いかなと思い、目の前の女性を凝視しようとする
びゅうっと
強風に吹かれ、一瞬目をつぶってしまった。
その間に、女は蜃気楼の中に溶けていた。
幻、だったのか。
顔はよく見えなかったが、きれいな声だった。
ざあぁ、と風が吹き、私の汗を冷やした。
大きな鳥の影が、地面を横切った。
気になって空を見上げたが、鳥の姿はない。
青鷺火かな。
火の精霊である彼は、影を落とすことがあっても姿を見られることはない。
その晩、今日見た青鷺火の話を異世界の知り合いに話す。
美人な女が、鳥となって飛び立ったのだ、と。
すると知り合いは、神妙な顔で言った。
それは、青鷺火じゃない。飛縁魔だ。
「飛縁魔?」
青鷺火が飛ぶと、時折産み落とされるのだという。
目を合わせずに、話しかけられても無視すれば、何も害のない妖怪だという。
しかし、一度見つめれば蜃気楼となり、見たものは七日の内に火の災いに会うのだ。
木造建築の並ぶミズハミシマにおいて、火災は一大事である。
知り合いは、私に問いた。
顔は見たか。
「いや、残念だが、顔は覗けなかった」
きれいな声であったから、きっと美人なことだろう、と付け加えていった。
すると、知り合いは徐々に平静を取り戻していった。
顔さえ見ていなければ大丈夫なのだ、という。
そして知り合いが、とりあえず七日間は海の中で過ごせばよいというので、呆れた。
「そんな簡単なものなのか」
お前は運が良い、と言われた。
なんでも、顔を見ているとかなり不味かったらしい。
飛縁魔の顔を見れば魔性に憑かれ、海に逃げ込んでも、逢瀬の欲で陸に上がってしまうのだと。
危なかった。
あのとき強風が吹かなければ、今頃は魔性に憑かれていたかも知れない、と思い
異世界の風に感謝した。
- 異世界の精霊も姿や見ようによっては…みたいな? -- (名無しさん) 2014-08-31 01:11:08
- 近いようで遠く触れることができない白昼夢のようなちょっと注意が必要なふしぎなはなし -- (名無しさん) 2014-09-04 23:47:59
- ふと思ったけど異世界に住む異世界の人々も珍しいものあまり見かけないものとかは特別なものとして扱うんだろうか -- (名無しさん) 2014-09-12 02:45:21
- 七日の内に訪れる妖火や影だけが告げる青鷹火など真夏の白昼夢のような幻想的だがどこかそぞろ怖いのがいいですね -- (名無しさん) 2014-12-05 10:43:36
- 人口がそんなに多くなくて精霊が豊富に住んでいる国ミズハミシマって雰囲気を受けた -- (名無しさん) 2016-10-22 20:04:42
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最終更新:2014年08月30日 11:59