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【図書館事情 マセ=バズーク】

 この図書館の蔵書は、手に取ることはかなわない。

 整然と並んでぶら下がる蓄積蟻の縦穴は、蜂の巣状に配列されている。
世話係の働き蟻が時々やってきて、栄養を補給し、あるいは身づくろいをする。
蓄積蟻の腹は直径一メートルほどにも膨れ上がり、中に蓄えられたはちみつ色のジェルが透けて見える。
彼らの役割はたくわえ、そして保護することだ。

 ジェルの真価を知りたければ、その一すくいを口に含めばよい。

 ジェルの作用は麻薬に、そして寄生虫のそれに酷似している。
消化器官から浸透したジェルは神経に取り付き、ある種の腫瘍を形成する。
腫瘍は栄養を取り入れながら成長し、宿主の精神にイメージを流し込み、あるいは記憶や技能を植え付ける。
短期間で消滅するものもあり、逆に永続して宿主の一部になってしまうものもある。
ジェルとは食べる記憶媒体なのだ。

 こうしたジェルを生み出しているのは、ライブラリアントのコロニーに飼われている著述アリマキである。
彼らは生命活動のすべてを蟻に依存し、ディルカカネットに接続し続ける。
そうして得られた情報を、アリマキはジェルという形で出力するのだ。
元は幻覚性を持つ粘液を分泌する寄生者であったアリマキを今のような形に改変したのは、レナル氏族の開祖、テアであるという。

 レナル氏族は、営々とこうしたジェルを生産し、蓄えている。
必要な情報をネットから拾い出すことのできる社会でこのような事業を行う理由として、レナル氏族は二つの理由をあげる。
ディルカカネットに接続しない蟲人との間に情報格差が生じないよう橋渡しをすること、そして”抑圧者”の手から守られたバックアップを取ることだ。

 氏族の伝承によれば、かつてテアはディルカカから啓示を受けたという。
遠い未来において、異界から訪れる”抑圧者”がネットを汚染し、蟲人をネットから切り離すという。
レナル氏族は”抑圧者”の襲来に備え、ネットから切り離された場所にバックアップを保存しているのだ。

 ”抑圧者”の存在を信じているのはレナル氏族のみであるが、ネットから切り離された記憶領域には確かな需要が存在するため、多くの氏族が貸金庫として利用している。
暗号化されたデータを受け取ったアリマキはジェルを吐き出し、働き蟻が口移しで蓄積蟻に与える。
時には『蔵書』を借り出していくものもある。
ジェルのまま借り出されることは少なく、選ばれたクーリエがデータを受け取りに来ることがほとんどである。


 但し書き
 文中における誤り等は全て筆者に責任があります。
 千文字。

  • 技術を越えてもはや世界って言える仕組みだけどもジェル摂取で副作用とかない? -- (名無しさん) 2015-04-17 20:46:26
  • 素人が中に入ってもどこにどんなジェル本があるのか分からなさそうな不思議空間みたい。ところでジェルに副作用とかあるんだろうか -- (名無しさん) 2017-04-07 22:15:38
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最終更新:2014年08月30日 21:12