カヤからラダン平原を南へ、
ラ・ムールとの国境を目指して進む、何日も乾燥した草原を進んでいくと、ある場所から変わったものが視界に見え始める。
「あれは古い戦士の墓だよ」
そう道案内の
ケンタウロスの青年が私に教えてくれた。
緩やかな丘の上、そこにさらに土饅頭のように土を盛った簡素な墓、それが気がつけば見渡す限りに広がっている。
「この辺りは昔からずっと、ラ・ムールとの戦場になっていたからね。ここには東の戦士だけじゃなく遠い故郷に生きて帰れなかった西の騎士を弔った無数の墓があるのさ」
見渡す限りの墓、その下にどれだけのかつての戦士や騎士が眠っているのかと、そんなことを考えているとどこからか鐘の音が響いてきた。
「ヤナンの弔いの鐘の音だ。日暮れまでには着けるだろう、もうひとふんばりだ」
彼が私にそう言った通り、その日の日暮れ近くに私たちはヤナンにたどり着くことができた。
ラスティールの麓に広がる深い森と湖を背にするようにしてある高い石壁と深く広い堀に囲まれたその都市の名前はヤナン、東部では数少ない多くの人口を抱えるこの都市は苛烈な戦争を幾度となく経験した軍事拠点としての歴史をもつ、しかし戦争も過去のものとなった今はラ・ムール交易の中継地として多くの人々でにぎわっている。
イストモスと隣国であるラ・ムールは古くから様々な理由で軍事的衝突を繰り返してきた歴史を持っている。
今でこそ両国の間には通商をはじめとした多くの交流が結ばれているが、その歴史を振り返ればまさに凄惨と言うほかない戦いがいくつも行われてきた。
そして、そうした戦いの舞台に幾度となくなってきたのがこのヤナンだ。
今でこそイストモスの領土はヤナンからさらに南へと広がっているが、歴史的に見ればそうなったのは比較的最近であり、大部分の時代、このヤナンはまさに最前線にある防衛線の要として機能し、この場所に東部はもちろん西部からも多くの戦士や騎士が集いラ・ムールとの戦いへと赴いた。
そんな多くの者たちの奮戦故か、歴史上一度としてヤナンは陥落することなくイストモスの領土を死守してきた。
その激しい戦争の歴史を物語るように、ヤナンの周囲には古いものから比較的新しいものまで、様々な時代の墓が点在している。
そうした過去の戦いで死した者の魂を慰めるかのように、ヤナンでは日に三度、教会の最も高い塔に設けられた鐘が鳴らされる、そしてその鐘の音はヤナンの人々の生活の目安として定着し、彼らはその弔いの鐘の音色を耳にしながら平穏な日々の生活を営んでいる。
- 戦跡と屍が争いから交流の時代の礎となったと思うと今は眠る魂への救いとなるか -- (名無しさん) 2014-09-05 23:35:29
- しんみりする。道がつながることの意味を考えさせられた -- (名無しさん) 2014-09-30 22:58:21
- 地に眠るかつての戦士達へ今の平和をしらせるような鐘の音色…とか思っちゃった -- (名無しさん) 2015-05-20 00:37:42
最終更新:2014年09月06日 22:57