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【妻の物語】


 連続猟奇殺人犯だと思ったね。

 鳩笛草停の客だった。
この界隈で最低の宿だ。
女将のネリンは常習犯。
気に入った客の荷物を漁る、金を抜く、宿代の支払いを要求して代替案を提示する。
そんな回りくどいことしないで素直に口説けばいいと思うんだが、まあネリンは屈折してるし守銭奴だからな。
体で払うってことに妙なロマンを抱いてるんだ。

 で、いつも通りことに及ぼうとしたら客の荷物から死体が出て来たんだと。
ワーオ。

 現場に着いたら客は昏倒してて用心棒の出る幕はなし。
ネリンが毒を盛ったんだな。
白目をむいてたがそれでもハンサムだった。
リチャード・ラーキン。
地球人。
荷物からは出るわ出るわ。
荒事には慣れてるつもりだったが、あれには正直堪えたね。
何しろ死体の加工品だ。

 今じゃもうあれが本で、無害だってことは知ってる。
だが当時はショッキングな代物だったんだ。

 起きてきたラーキンをもう一度ぶんなぐってから――誓って言うが義憤だ――尋問した。
支離滅裂だった。
英語の学校を立てて文化交流がどうとか。

 で、だんだん真相が見え始めた。
世間知らずの無害な美青年、異世界に来てタブーを犯す。
事情が分かってからは反省してたよ。
長い睫に涙をためて「そんなつもりはなかった」と来る。
思わず見惚れたね。
しょうがないから助けてやることにした。

 下心? おくびにも出さない。
まあその夜に少し飲ませはした。
「こっちの世界のことをもっとよく知りたいんです」だそうで、そんなこと言われちゃしょうがない。
まずダークエルフの体について一晩中教えてやった。
解毒薬は用意してあった。
こういうことは準備が肝心なんだ。

 翌朝、意気軒昂になった旦那様は――失礼、当時はまだ違った――こっちに留まることにした。
しばらくして、滞在期間は無期限になり、私はミセス・ラーキンになった。
プロポーズの文句? 勘弁してくれ。
ただまあ、情熱的な代物だったよ。
我らが旦那様はおとなしそうな見た目の下に熱い情熱が燃え盛ってるんだ。
それはもう熱いのが。

 例の記録保管所は旦那様のアイディアだ。
最初は残酷ショーで耳目を集め、本の魅力についてはおいおい知らせていく段取り。
まあまあうまくいってるよ。
私の方は用心棒から探偵になった。
まあやることは変わっちゃいないから本の影響だな。
この下町じゃ大した事件はない。
だから刺激的な事件のほうはもっぱら本から。
アガサ・クリスティは天才だと思うね。
お気に入りは『アクロイド殺し』さ。



 但し書き
 文中における誤り等は全て筆者に責任があります。
 千文字。

  • 金を盗られた上に竿まで要求されるという!?スラヴィア図書が面白い具合に早とちり事件になった上手い -- (名無しさん) 2014-09-19 01:33:59
  • 金抜く以外の手段なら悪評もなかったか?ぼったくりルームサービスとかでさ! -- (名無しさん) 2014-09-21 09:06:11
  • 面白い組み合わせ。これは遺伝子採取ではなくスポーツ感覚のックスな気がした -- (名無しさん) 2014-09-25 23:29:52
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最終更新:2014年09月17日 23:25